私は、山は危険だと思うので、仲間づくりの重要性を認識している。となると、
仲間を育てる必要
が出てくる。つまり
初歩のロープワークを教えないといけない。
初心者が初心者を教えるなど、もってのほかと思う人もいるかもしれない。実は私自身もそう考えていた。しかし、山の世界には
教えてもらったら、教え返すという掟
があり、教えないというのは、つまり
もらいっぱなしで返礼無し
という、ずうずうしい話なのだ。
余談になるが、”地図を持たないでナビ替わり”、”荷物をもたないでシェルパ代わり”、”車を出さないでタクシー代わり”というような、ずうずうしい話は、山の世界では一般的で広がっており、一度それが自分の当然の権利だと思いこんでしまった人を、
助け合いとギブ&テイクの正しい関係に戻すのは、至難の業
だ。
■ 教えるには?
問題の9割は
教わる人が、教えても教わらない
点だ。これは、私だけの問題かと思いきや、見たところ、普遍的問題だ。問題なのは、きちんと教わって、きちんと理解してくれないと 教える側にも教わる側にも
死の危険が迫る
という点。
新規入会者を岩場に連れて行き、初歩のロープワークを簡単マルチで教える。それ自体は、まっとうなアルパイン入門で、まったく何も間違っていない。ところが、この後が続かない。これまでに、私が見かけた失敗事例。
≪失敗例≫
・トップロープで登るゲレンデが、岩登りのすべてだと思ってしまっている
・登れればザイルは要らないと思っている
・先輩は落ちないから、ビレイは持っているだけでいい
・スポーツクライミングがクライミングのすべてだと思ってしまっている
・岩は手で登るものだ
・スタンディングアックスビレー中に手離し
・ボルトに掛けたヌンチャクをひっぱりながら登ってリードする
・登ってから、ロープを投げる
・ビレイで制動手を離す
・リードのビレイでクライマーを引っ張り落とす
・トップロープのビレイでクライマーを引っ張り上げる
・セルフを取る前に落ちる
・1ピン目で落ちる
・先輩と行くのだから、地図はもっていかない
・フリーで登るから、アックステンションは知らなくてもいい
■ 『「教える技術」の鍛え方』 樋口裕一
何が悪かったのか? という視点で、この本を読んだ。もう1点に尽きると思う。
教わる人が教える人を舐めている
これは 先生の性別によらない。なぜなら上記の失敗事例は男性の先輩たちが作った失敗事例だからだ。そこで、
一体どういう教え方をしたらよいのか?
ということを調べた。以下は、上記の本からの抜粋と要約。
1)教える側の心構え
・過大な期待をしない
・なめられてはいけない
・モチベーションを持たせる
・相手のタイプに合わせる
・ポイントを絞る
・自分の好き嫌いを持ちこまない
・予習復習は期待しない
・自分のミスは素直に認める
・実績をきちんと自慢する
2) 舐められてはいけない
・レベルの違いを見せつける
・面倒見の良さで信頼を得る
・教えることが自分も初心者である場合は、そう口に出すほうが良い
・はじめのうちにしっかり叱る
叱るとは、相手の態度に満足していないこと
一層の向上を期待していること
3)3回目の原則
・2度目まで大目に見て
「そのうちちゃんとやってくれるだろうと思って大目に見ていたが、ちょっとひど過ぎる」
と叱る。
■ モチベーションを持続させるには?
伸びを意識させる
・発表の場を持つ
・学ぶ前の記録を残しておく
・具体的な点を褒める
■ 叱り方
「これくらいなら、君にはできるはずだ」
「慌てないで良く考えれば、分からないはずがない」
・一つの結果について叱る。
・努力不足、考えの甘さを叱る。
・大人には、逃げ道を用意する。 「忙しくて勉強する時間が取れないのは分かるが・・・」
・自分で考えるように突き放す。 「もう出来るはずだから、一人でやってごらん」
・壁になる。 「俺を乗り越えたら一人前だ」
■ 理屈人間&実践人間
・実践人間には、体系立って教える必要はない
・理屈人間は全体像を与えないと前進できない
■ 面白さを作り出すコツ
・〇〇すると得になる
・〇まるしないと損になる
・裏ワザであると言う
・思い出を離す
・目からウロコ、と思わせる
・個人的体験を語る
・誇張する
・質問して、参加型にする
・モテると言う
■分かりやすさのコツ
・絞る
・単純化
・教える順序を工夫
・具体と抽象
・大きな図を与えてから詳細へ
・グループ分け
・二項対立
・初心者には専門用語を避ける
・なぜか?を説明
・質問する
・たとえ話
■相手のモチベーションを上げるコツ
・自分で発見するよう導く
・実践させる
・手本を見せる
・短期目標を与える
・ゲーム感覚で繰り返す
・その場で暗記させる
・小テスト
・宿題
■ 振り返り
例えば、私の場合だが、クライミングシステムの理解は、きちんと文登研の確保理論を読んでからしか、納得感が出ず、実践していても、原則を理解していなかったので、これで良いのか、不安で確信が持てず、不安なまま岩に行きつづけることが嫌でした。自分のミスで相手を死なせたらと思うからです。
一気に理解が進んだ経験は、ほぼ初めての岩のぼりで、リードしたことです。ザイルを伸ばすってこういう意味か~、と分かりました。それ以来、リード練習しか興味がなくなりました。
一般に、何をできるようにならなければならないのか?ハッキリ言われたほうが、分かりやすかった。
≪良かった事例≫
1) 座右の銘: 「何はなくともセルフビレイ」 (ポイントを絞った例)
2) 「リードのビレイが確実にできるようになってくれないと、岩場に連れて行けない」と言う
3) 迷うようならザイルを出せ (ポイントを絞った例)
4) 敗退ができないとルートには行けない
5) 「Ⅴ級マスター」 (目標を与える)
6) 懸垂下降は失敗が許されない (ポイントを絞った例)
7) ビレイヤーのセルフビレイは、パーティの最後の砦
岩場では、結局は、口頭で教えることになるので、ポイントを絞ったこと、1点か2点しか身につかない。したがって、何を学んでもらうのか
ポイントを絞り切れるか?が最重要
だ。
■ 分かったこと
舐められないこととセットで大事なことは、
過大な期待をしない
ことだ。これまでの経験を踏まえると、一般的に、ほとんどの人が
経験の量に即した理解を持っていない
つまり、経験を聞くと、もっと理解があって当然のように感じる。つまり、
経験の量で相手の理解度を推し量るだけでなく
具体的に何ができて、何ができないか聞く
必要があります。 実際、聞いたら、全然分かっていないことが多い。
私は師匠がいるので、気楽に質問でき、その点で助かっているのかもしれません。男性は一般に、人に聞く、ということを嫌がる傾向があるように思う。
■ するべき質問
以前、会の人で、三つ峠マルチに行きたいと言ってきた人がいたので、私もちょうど初心者で練習相手が欲しいし、連れて行けるかもしれないと、その人が何が分かっていて、何が分かっていないのか?聞いたことがある。
「今の課題を教えてください」
これは良い質問だったと思う。
・自分でセットしての流動分散
・自分でセットして、トップで降りての懸垂下降
・懸垂での途中停止(バックアップつきの懸垂下降)
・ビレイヤーの自己脱出
・宙吊りからの登り返し
・自分でセットしての流動分散
・自分でセットして、トップで降りての懸垂下降
・懸垂での途中停止(バックアップつきの懸垂下降)
・ビレイヤーの自己脱出
・宙吊りからの登り返し
ができないそうだった。またダブルロープも持っていなかった。これでは外岩に行く段階ではない。
■ 分かっていない事が分かるには?
教えられる相手の理解度は重要だ。 それを知る方法だが、
■ 分かっていない事が分かるには?
教えられる相手の理解度は重要だ。 それを知る方法だが、
自分が行けると考えているルートを聞く、
という方法がある。聞いてみて、例えば
・超人的体力が必要
・山行に連続性がない
・その山行に必要な技術要素をブレークダウンした時、必要な技術が身に付く前座の山行がない
・超人的体力が必要
・山行に連続性がない
・その山行に必要な技術要素をブレークダウンした時、必要な技術が身に付く前座の山行がない
一言で言うと、”いきなりすごいルート”という特徴があると、おそらく分かっていないことが分かる。また、失敗事例を送ることも有効だ。
間違ったビレイの写真を見せて、その写真の何がいけないかを指摘させる
これで、相手の理解度を計ることができるし、命の危険はもちろんなく、しかも相手も理解が深まり、敬意を深まる。
■ 実戦で確認する方法
連れて行く場合、相手は最低ビレイはできてくれないと、セカンドでさえなく、困る。聞くべきは、
「リードのビレイが確実にできるか?」
「リードのビレイで墜落を止めた経験があるか?」
も入るかもしれない。ちなみに、先輩たちがどうやってこの最低ラインを確認しているかと言うと、いきなり、岩場に行って、墜ちても死なないような高さで、さりげなく墜ちて見せるのである。
私はこのやり方は確実ではあるが、教える側のリスクが大きすぎだと思う。少なくとも、私は制動手が上になっている人のビレイでは、1mくらいしか地面までないとしても、墜ちたくない。
このように、ほとんど命がけで後輩を育てている先輩らが、舐められている、というのは、世の中、何かがおかしくないだろうか???
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