5月30日の過ごし方については紆余曲折があった。
飯田山岳会の友達とはアルパイン2年生で同じ段階であることだし、本チャン向けの三つ峠の練習会を…、と思っていた。・・・が、私と彼だけで行っても仕方なかった。
というのも、彼の一番のボトルネックは、パートナーをまだ自分で作れないことのようだったから、私は、それを解消してあげたいと思っていた。
そういうことは先輩が私に何をしてくれたかを観察して学んだことだ。三つ峠は、彼が連れてくる初心者を含めて3人とするのが良かった。初心者に安全に岩デビューしてもらうには、二人分の監視の目が要る。私はクライミング力は今からだけれども、安全のための観察眼には優れているのだ。
しかし、三つ峠は飯田からは遠く、日帰りゲレンデとして使うのは、交通費がもったいない。それは良く分かる。私も飯田まで日帰りで行くのは嫌だからだ。
それで、セットにしようと考えたのが、ロープワーク講習会だった。飯田の友達も私も、ロープワークは、単なる復習だが、山梨のクライマーが一同に集まるので、パートナー発見の良い機会だし、連れてくる初心者の人は、リーダー講習を受講中なので、コソ錬になる。
夜は我が家に泊まってもらって、ReelRock上映会か確保理論を読み合わせすれば、とても充実すると思った。ところが、肝心の、その初心者の人が三つ峠にビビッてしまい、参加を取りやめた。まぁ仕方ない。
でも、日は開けてある、ということで、友達の希望する山行に、私が付き合ってあげるのが良いと思った。これも先輩がいつもしてくれること。ケツを歩いてくれる。
それで、沢が良いということになったのだけれど、今度は、問題は、彼は、初心者だけで遡行できる沢を知らないことだった。
沢歴を聞くと、登山大系でも難しいとされている沢にチャレンジして敗退続きだった。そりゃ無理だよ~!というのは、沢を知らない私でも分かった。私自身も沢歴は浅い。が、それでも私の方がまだましで、自分の力で完全遡行できる沢を知っていた。
■ 勘弁
それで、1泊2日の沢の選択となった。どうするか?
東沢釜の沢が妥当なレベルだったが、多少の登攀要素もあるので、つるべを組んだことのない彼とだといきなり本番となり、レスキューの面で不安があった。あと一人欲しい。方々に声を掛けたが参加者がいない。
それで、二人だけなら、もう少し易しくして、安全マージンを多く取ろうと思い、伝丈沢にした。ここは私が退路をしっかり知っているから。どの尾根もほとんど全部歩ける尾根と分かっていた。
二人で未知の部分にチャレンジすることもできる。会の先輩のアドバイスも得られたし、沢泊だけで帰ってきても、”損”がない、美しい場所だと分かっていた。
コースタイムがどれくらいかかるか?が未知数で、問題だったが、それについては、行動に3つのパターンを用意することで、対応することにした。現地相談。彼も現地を見なくては判断できまい。
ところが、同行者が「どのルートにするのか、印をつけておくんですか」と言う。
このセリフで、私はすっかりシラケてしまった。
地図も渡したし、先輩とのやり取りも全部見せている。私の遡行記録もすでにある。
何も読んでいないのか?というか、何も分かっていないのか?
おおよそ、どのような内容の山行か、地図を見れば、普通は分かるはずだ。連れて行ってもらう山でも、どんな山か自分でチェックする、普通、それくらいはするものだ。
しかも、今回は親睦と言ってあるのに、一体どんなすごいバリエーションルートに行くつもりなんだ?
私は初心者のころから、「赤テープ頼りに歩かないように」と教わったし、「鎖は念のため」でやってきた。
このルートは、3つとも、同じ伝丈沢を起点にするし、沢だから起点は明瞭だ。下りも、尾根を下るか、沢を下るかだけで、地形的にルートに不明瞭な点がない。
遭難さわぎになったとしても、探すべき場所は明瞭。しかも、そもそも道迷い遭難になりそうな可能性が著しく低い。片方は踏み跡明瞭、片方は一般ルート。
そんなことも、確認しないで、一緒に行こうと言っていたのか、ということが一瞬で理解できた。
・・・というわけで、面倒みきれない、と思った。相手に対して同レベルを期待していたからだ。
■ ちぐはぐさ
このチグハグさ…大きな沢へのチャレンジと、理解できて当然のことの無理解…が、わたしに警戒心を起こさせた。
(やりたいことの困難さ)と(欲しがっている安全の保障)にアンバランスを感じたのだ。
それは、なんだかフリークライミングに似ている。難しいのに登りたい。でも、落ちても安全確実なボルトは欲しい。
それは沢の本質に反する。それだけでなく、登山の本質に反する。
山も沢も本質的にそのようなものではない。100%の安全を求める人は、沢へ行くべきでないし、テープを付けるという発想自体が、登山全般に適した資質とは思えない。クライミング要素が出るならなおさらだ。山に100%安全はない。だからと言って印はつけない。
伝丈沢は、沢としてはウォーターウォーキングレベルだと言ってある。つまり、100%の安全に限りなく近い。こけない限り、墜落はない。私のモットーは、”易しくても自分の力で登れる山”だからだ。
それで、テープを付けるだと。
というわけで、一生懸命手助けしようとしている自分がバカバカしくなり、山行はキャンセルさせてもらった。
■ 番狂わせ
それで、2か月近く、念入りに計画してきた週末の予定が狂ったのだが、どちらかと言うと、この伝丈沢山行がキャンセルになったのは、私のために良いことのように結果としては感じられた。
キャンセルした途端に31日の予定が埋まったからだ。それも沢だった。
伝丈沢は、どうも「一人で行ってきなさい」という啓示のようだった。
何しろここ、別に一人で行けるな~と思っていたところだったから。一人になって、今後の身の振り方を考えたい、という思いも、数か月前から持っていた。
それで一人で行くなら、と、平日登山に変更。念のため、沢に行きたいと言っていた女性に声を掛けた。登山自体も初心者の方だ。そしたら、二つ返事で行くと言う。
それで急遽、一緒に行くことになったが、最初から沢靴持っているはずもないので、もう一足沢靴が必要になり、ワークマンで水にぬれる環境で使う用の運動靴を用意した。ただこれサイズが女性用がなく、一番小さいのでも私にはぶかぶかだった。おまけに滑で滑って最悪の靴だった(笑)。
ギアはヘルメットとハーネスを彼女のために用意。ロープは8.5㎜×30mのいつもの。シュラフは貸出し、要らないがシュラフカバーは、今後沢をするならおなじみのギアなので、紹介がてら貸出。宿泊はツエルトとした。
食料は好みがあるので、一回目の山だし、高価で不本意ではあるがコンビニ調達。易しい沢なので、けっこうたくさん担いで行った。
・・・という紆余曲折で、平日の沢泊山行が実現し、焚火で楽しく過ごした。これはホントに行って良かったと思った。
いっしょに来てくれた女性は、初めて入渓した、その一歩に感動していたので、それだけで連れてきて良かったな~と思った。
焚火も楽勝で、延焼が怖いくらい燃えたし、沢は新緑が美しく、水は澄んでいて、夜は寒くはなかった。夜中は動物におびえ、彼女にとっては、初めてのお泊り&沢歩き&初めての地図読みによる下山で、不安や困難があったと思うが、山は、不安を乗り越えるという要素がないと、ツマラナイものになる。
■ ベテランと
沢から帰ったら、声を掛けたベテランの方が、岩に付き合ってあげるよ、という返事が来ていた。それはうれしい!と思った。
大ベテランから学ぶことは多く、決してチャンスを逃してはいけないと思っているからだ。例え、背伸びでもだ。
その方とは一度ぜひ話をしたいとも思っていた。それで小川山一泊二日になった。
翌日は、沢の大ベテランが、沢山行を二つ打診してくれていた。これも願ってもいないことだった。実は私はその方に会いたくて、わざわざある山行に会いに行ったのだったから…。
■ 常に同行者を探す
常に同行者を探す努力をしなさい、というのは、師匠から言われていることだ。
特に沢や岩は同行者がいないと、手も足も出ない。縦走や一般登山とは違うのだ。単独はない。
もちろん、沢だけでなく一緒に山を歩く相手は、いつでも募集中なのだが。
それで、その山行に混ぜてもらった時に、一本隣の尾根を降りる提案をした。地図読みの山をやると、何を楽しいと思う人かとか、自立した人かとか、カンタンに分かるからだ。
初めて先輩と行った燕岩岩脈も地図読みだったし、会を先導した川俣尾根や、友達を連れて行った御神楽尾根もそうで、打診したいときは、ごく簡単な地図読みの山をすると、山で仲間になれる人かどうか分かる。 体力は全然関係ない。大事なのは考え方だ。
■ 基本はすっ飛ばして良いものではない
地図読みは、登山の基本だ。
今の段階で地図読みが出来てもいなくても、基本を否定しないで受け入れることができる人なら、登山をステップアップして行ける人だと思う。
現代の遭難原因のNo1が道迷いだ。私は登山道を100%把握して、相手の道迷い遭難を100%防いであげる保証をしてあげるスキルはない。
ガイドのようなことを期待されても出来ない。ただ本質的なことを言うと、そもそもガイドレベルの熟達者だって、誰も他者の命なんて保障できない。ガイドだって全部分かっているわけではないのだ。
だから、誰と出かけても、何の差もないわけだが、問題はそれを理解していないことだ。
問題は、山がそういうものだと理解していない人が多いという点なのだ。人生が保障されたものではないように、山も保障されたものではない。100%の安全などないのだ。
そこを理解していない人と歩くと、自己責任の原則から外れ、最初から取れっこない責任を取らされる羽目になる。
昨今、毎年、毎年、前年を上回る数で、遭難者が増えているのは、そのように、”地図読み”=山をよく見る、という山の基本をないがしろしたまま、ただ山のサイズと難易度を大きくしていくからだ。
ところが、誰もその危険を指摘しない。指摘は他者批判と言われる。そうだろうか?
危険なことをしている人に、「それは危険ですよ!」と教えないのが、愛なのだろうか?親切なのだろうか?
本当にその人のためを考えるなら、その人に嫌われてもいいから、指摘するだろう。
■ 多様性?
地図を読まない山は多様性なんだろうか?
山の基本をないがしろにしていても、それは”登山の多様性”の一部として、許容される時代だ。
その証拠に私が地図読みをしない人を批判すると、「そういう山もある」とベテランからでさえ、諭される。
でも、その結果が、中高年登山者の道迷い遭難多発だというのはデータが示す事実だ。
彼らの最大の問題は、山そのものを見ていないこと、だ。目の前に道があっても道迷いするし、対抗者が来ていても2m近くになるまで気が付かない。前を見ていないからだ。
ま、そういうわけで、一本隣の尾根を降りてみる程度の、ごく簡単な地図読みは、いつの間にか私独特の、パートナーの見極め方、になっている。
■ いきなり難しいのに行ったりしない
大ベテランは、山行に対する、安全と冒険のバランスが非常に良いのが特徴だ。
いきなり難しいのに行ったりしない。本人が行けても、連れて行かない。相手のためにならないことはしない。
小川山クラックに連れて行ってくれたベテランは、クラックとしては初級の初級のに連れて行ってくれた。
沢に連れて行ってくれたベテランも、沢の要素としては登攀要素が大きい沢だったが、レベルとしては初級の沢を選んであった。
沢も山も岩も同じで、初心者が行くなら、ベテランと行ったって初級のに行くのだ。
■ 強みを生かす
こうして、運よく先週末はなぜか大ベテランに囲まれて、勉強する機会が与えられた。
私に機会が与えられ、ベテランから学ぶことができるのは、なぜだろう?と私自身、自分を振り返ることがある。
私の最も優れた強みは、ストラテジック、戦略性というものだ。
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Strategic 戦略性
ごちゃごちゃした中からもっとも良い道筋を見つけ出す力。教えられるスキルではない。際立った世界の捉え方であり、世界を見通す特別な洞察力。大きく物事を見る力のため、ただの複雑系にしかほかの人には見えないことにもパターンを見出す。こうしたパターンを外れたシナリオを自問して楽しむこともあり、こうなったらどうかああなったらどうかと考えるのに常に忙しい。このため次に起こることを予測することに長ける。考えられる障害を上手に避けることもできる。様々な予測パターンに基づいて、最も良いと考えられる選択肢を選ぶ。どうどうめぐりの選択肢は選ばない。抵抗に直結する道はすぐ捨てる。混乱しやすい道も選ばない。選びに選んだ選択眼で、とるべき道を選ぶ。それがあなたの戦略となる。戦略により前進する。これが職場でのあなたの戦略の立て方だ:まず仮説をいくつか立てる。そして選ぶ。そして実行する。
The Strategic theme enables you to sort through the clutter and find the best route. It is not a skill that can be taught. It is a distinct way of thinking, a special perspective on the world at large. This perspective allows you to see patterns where others simply see complexity. Mindful of these patterns, you play out alternative scenarios, always asking, “What if this happened? Okay, well what if this happened?” This recurring question helps you see around the next corner. There you can evaluate accurately the potential obstacles. Guided by where you see each path leading, you start to make selections. You discard the paths that lead nowhere. You discard the paths that lead straight into resistance. You discard the paths that lead into a fog of confusion. You cull and make selections until you arrive at the chosen path―your strategy. Armed with your strategy, you strike forward. This is your Strategic theme at work: “What if?” Select. Strike.
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これはストレングスファインダーという分析ツールを使ったもので、5つの強みを発見できる。私の場合は、これが最も強い強みだ。
最近、この強みは自分の登山を前進させる点に注がれているのかもしれないと思う。いかに成長していくか?という企画力みたいなものだ。
それに、山の計画を立てるのは得意だと思う。
人生のピンチもこの力で乗り越えたような気がする。例えば進学とか渡米とか就職だ。
■ 出会いを増やす=選択肢を増やす
私は師匠とは岩場をただ追悼のために訪れている時に会った。岩に連れて行ってくれたベテランとは岩で会った。沢のベテランとは、ヤマレコつながりだ。
そういうのは登山の落石と同じで運とも言えるし、確率問題とも言える。落石は不可抗力で運が悪ければ当たってしまうと思われているが、当たる確率を低くする努力をすることはできる。指導者も同じで、実際、指導者クラスの人は少ないが、出会う確率を多くすることもできる。
その努力が、色々な方面に、自らアンテナを張り、出かけて行く、ということだ。
講習会も出会いになるし、岩場に出かけて行くのでもよい、私は岩場に行ったら、必ず誰か一人には声を掛けることにしている。
その最初の一歩は、費用がかかるけれど、これをケチってはその後はない。ただ待っていて、指導してくれる人が湧いて出る、ということは、確率としては非常に低いと思う。
(でもこのブログで指導してくれている人などは湧いて出たような人で、ありがたいと思っている)
何しろ、出かけていかなくては、自分を知ってもらわなくては、今ここに登山を教えてもらいたいと思っている初級者がいるってこと自体が分からない。
どうしたらいいのか悩んでいる、ということも、それをまずは知ってもらわなくては、分かってもらいようがない。
■ 私に何ができるか?
この週末は、山初心者の私には、非常に良い経験が積めた。経験値がまた少し上がったな、と実感する。ベテランたちに大感謝。
ただ、どうして私だけとも思う。もう一人ついて来たら良かったのに…とも思うのだ。
それはベテランがもったいないからだ。
本当にベテランと言うのは得難いものだ。
ベテランが培ってきた経験や知恵を私一人だけで独占するのはもったいない。
しかし、私に何ができるだろうか?
ベテランの知恵を伝えると言うのは、実際に会って、盗むというようなことだ。
書けるようなことは、些末な技術的にどっちでもいい、というようなことだ。例えば、ギアの渡し方とか。
そんなことより、ベテランから盗むもっと大事なことは、姿勢とか、態度とかいうものだ。
例えば、
・いきなり難しいのに行かない
とかもそうだし、
・相手を見て山を選ぶ(=選択肢を与える)
様子を見て登るのを辞めた滝 |
そういうのは、別に口に出して、こうするものなんだよ、なんて誰も言わない。 でも自分が相手の立場に立ってみたら、分かるものだ。
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