Monday, July 31, 2017

夏山の混雑はコントロールできないリスク

私はグロービスという社会人大学院でマーケティングを学んだ。そこで分かったこと…。

マーケティングとは、ビジネスに都合のいいことを拡大し、都合の悪いことは伝えない、という首尾一貫した姿勢を戦略と呼び、取ることが多いということだ。

実際、マーケティング戦略を立案するのだが、優劣というのは、整合性、主張が首尾一貫しているかどうか?で決まる。

しかし、実際の世界は、長所は欠点の裏返しであり、山においても同じことだ。山は美しいが、それは人の手が入っていない、ありのままの自然だから、という訳であり、それは、反面、お天気が変わりやすいとか、救急車を呼んでもすぐ来ないとか、登山道は無舗装路であるとか、石ころが滑りやすいとか、空気が薄いとか、坂が急だ、とか、すべて、自然が自然のありのまま、だからである。

で、私が思うのは、山の雑誌は、マーケティングが良すぎて、山のいいところしか、雑誌の中で取り扱っていない、ということだ。

私が持っている古い岳人などは、今の雑誌のつくりと全然違う…。おとぎ話みたいな耳触りの良いことだけを雑誌やFBでアップしている雑誌を見ると、マーケティング的には合っているけど、山の神様は、きっとうれしくないよなぁと思う。

山小屋も同じことだ。ヘリで石油を大量に荷揚げして、発電機で電気を作って、安い冷凍食材を提供するから、結果としては食材は多国籍、大量の糞尿は標高が高いため、なかなか分解されず、地層を形成中みたいな状況、山の神様がうれしいと思うだろうか…?

結局、”山の神様”に仕えているのではなく、”カネ儲けの神様”に仕えている、ということが、そもそもの問題なのだろう。

こうした傾向は、私が思うには、ここ20~30年で強化された傾向だ。バブルを経験し、バブル崩壊を経験し、小泉改革で、弱肉強食、競争がより激化して、カネ儲けになれば、黒いカネも白いカネも同じだという風潮が強くなり、例えば、銀行でさえ、サラ金業に手を出しても、罪悪感もなければ、社会的にも問題視されない、という世界になった。

”山の神様”が喜んでいないだろう、と思われることをするのは、”自分の中の良心”も喜んでいないことをしているのと同じだ。

なぜなら、両者は同じだからだ。

したがって、遭難が増えるのは、当然のことでしかない。登山者に山の真実の姿を伝えていないからだ。

山に登るにはリスクを起点にプランニングしなくてはならない。そんなことは、山岳会にいる山ヤだったら、誰でも知っている。

リスクを起点にプランニングする、という点がありきたりのことであるのに、その作法も伝えられず、プランニングのイロハや安全で確実なステップアップ法も語られない。

リスクが語られるときは遭難数や事例で、そんなのは特殊事例として、一般登山者の頭の中ではスルーされるのが落ちである。大事なのは、ただ楽しいだけの山をしたい人(=リスク意識が低い人)にも届く書き方なのだから。

雑誌で語られるのは、なんだかポエティックで、メルヘンな、お花畑なセリフ。”かわいい”とか、”きれい”とか、”楽しい”とか、”やったー”とかで、三歳児みたいな語彙である。

そんな風にして山をただの空想上のメルヘンにしてしまうから、まさか、アイゼンがいるんですか?みたいな登山者が来てしまう。その人に悪気があったわけではなくて、知らされて当然のことが、登山者数を増やしたいと言うマーケティング上の、つまり、カネ儲け以上の都合のために、知らされていないのではないか?

そんなことをいつも思う夏山の遭難…

大体、夏山をプロモーションすること自体が良くない。山岳会に所属しているような人は夏山の縦走路にいること自体が、実はとっても珍しい…。

山では、混雑自体がリスクで、そのリスクは、コントロールできないものだから、である。

しかも、その混雑の主体を成す登山者像は、ほとんど、山初心者、つまり巻き込まれ遭難の可能性も高い。

上からおじさんがふってくる、など。

そうしたリスクはコントロールできないため、大体、事情を良く知っている人はそのようなリスクを回避して、そもそも行かない(笑)。

そして、そういう人は雑誌を読まない。役立つことは書いていないからだ。

私の周りで山の雑誌を読んで、山に行っている人は一人もいないような気がする。






Friday, July 28, 2017

Rock Climbing 002

 なかなかお目にかかれない最近創刊されたクライミング雑誌を発見したので、購入☆

Rock Climbing

雑誌名がわざわざ Rock Climbing ってことは、やっぱり、クライミングってのは、

岩を登ること

と言いたいわけですよねぇ(笑)、たぶん。

岩を登らないクライマーが多い昨今…

やっぱり岩登りは、

岩とお友達になる会

とでも言った方が、一体何を習得しなくてはならないのか?ということが明確化して良いのではないでしょうか?

大事なことは、岩の歌を聴けることかと…。


Saturday, July 15, 2017

アウトドアクライマーのためのインドアジム利用について考察

小さいジムだった
 ■ クライミングジムのアウェー感

正直、クライミングジムや人工壁は苦手です(><)。

たぶん、アウトドアから、クライミングに入った人は、男子も含め、みんな苦手だと思う。

そもそも、人工壁もジムも、インドアであるからにして。

何が苦手って、クライマーたちの

 男のナルシシズム… (すいませんっ!)

もちろん、そうでない人もいるけど。

したがって、女性や子供にとって、ジムが居づらい場所である、ってのはよく分かる。

で、新しい友達も同じ気持ちみたいだった。

私も苦労しましたとも!! ホント!!!

■ ジムで登れなくても気にしない♪

でもね~ 私は今ジムでは(ピラニアでは)5級が登れるくらいなんですけど(こっちのジムでは4級が登れた)、同じグレードを登っている人を外岩に連れていったら、私が楽勝で登れるところ、登れませんからね~!!

沢とかいってる男子大学生を人工壁へ連れていったらへっぴり腰。アイスも私が登れるところ登れないです。 

要するに!! 外の岩とインドアのクライミングでは、だいぶ違います。

パワーや度胸だけでは比較できないクライミング能力!登れなくても気にせず、マイペースで頑張るのが良いのです。

まぁ、そういう訳なんで、ジム壁でドヤ顔されても…アウトドア女子にはドン引きです…。ゴメン!

 ただ…、2点支持を身に着けるのに、インドアジムが手っ取り早い

というのは本当です。したがって、次のような使い方が良いかと思います。

≪とりあえず、アウトドアクライマーのためのインドアジム利用法≫

1)全くのゼロの初心者の頃は、10級9級が確実に登れるように、夏山縦走で出てくるような岩場のためにボルジムに10回くらい行く

2)アルパインの岩場に興味があるなら、良きビレイヤーとなるため、週2日半年通う

3)岩場に連れて行ってもらい、足で登るクライミングにどのような能力が必要なのか理解する

4)さらに登りたい!と思ったら、2点支持を身に着けるため、ジムに半年くらい月会員で通う。思わなければ、万年外岩講習に通ったっていい。

5)優しい課題を楽しんで登る。オンサイトを取貯める。

6)体が勝手に2点支持(ツイスト)と正対を使い分けるようになる

7)パワーをアップすればグレードが勝手に上がって行くようになると理解した頃合いで、再度ジムに通う 続けられる環境で。

”現代の”アルパインでは、登山靴ではなくて、クライミングシューズでアルパインルートも登ります。なぜなら…そのほうが快適だから!!

ここからは余談になりますが…、”俺のハーケンがなくぜ~”みたいだったルートも、今ではしっかり支点整備されて、どちらかというと、「ああ~楽し~!快適~!!」みたいな感想を持つべきルートとなっています。もし、そうじゃないなら、むしろ問題です。

さて、クライミングですが、快適ジムクライミング♪には、シューズが大事。マイシューズを持っていないと、初心者扱いから逃れ得ません… まぁ人目のために登らなくてもいいんですけど。でも、MYシューズのほうが快適ですから。

■ 最初の一足

最初に一足は…

 山道具屋さんで合せてもらうと、緩すぎる失敗が多い
 クライミングジムで合わせてもらうと、きつすぎる失敗が多い

です。

 山道具屋さんで合わせてもらう靴 = 8時間履いて痛くない靴
 クライミングジムで合わせてもらう靴 = 30分履いて痛くない靴

です。

買うべきは、

 1~3時間履いて痛くない靴

です。それ以上履いたら痛くなってもいいです。

形状としては
 
 ・フラットソール (ダウントゥしていない)
 ・ターンインしていない

が無難ですが、足の形にあっている靴なら何でも! 

■ シンデレラの靴!

靴を買うという友達と買い物に行ったら、
なんと!

スカルパフォースが、11200円のお値打ち価格!!

しかもサイズもピッタシ。あら~!

呼ばれたのでしょうか?

ついでに、インスティンクトも履いてみたのですが、これも踵以外は合っていたようで…

このお店、クライミングシューズ激安でした。


私のブースターSなんて、2万円したのに… 1.5万円くらいで売ってた(汗)

しかし、今、買い物のゆとり無し… ああ~ ホント山梨ってお買い物は高かったですよねー!

早くバイトを見つけなければ!お買い物天国が味わえない!! 

・・・とは思うのですが、いかんせん、クライミングツアーの予定が入っており、入社早々、来週1週間いません、みたいなのって、どうなんだろうと…

でも、マジ安いです!クライミングシューズ!!!



お店にあった木靴。絶対、履けませんケド。

おうちにインテリアとして欲しい感じ。
店員さんがいい人で、

「野球のチケット余ってるから、あげる~」

とくれました。

ありがとうございました!

行こ行こ~!と、なったのですが…

お腹がすきすぎていて…夕飯へ。ハンバーグ定食 880円!安くてうまい店!

食べてたら、野球、行き損ねた(笑)!

野球はまた次回、として、楽しく女子会して帰りました♪

男性にはお友達要らないのかもしれませんけど、女性にとって、お友達は大変重要アイテム! 何しろ、ジムって女子には、結構アウェーなんですから。

ま、いいんですけどね、一人で登るもんだから、黙々と登っていても…

夫が一緒に登ってくれたらなぁ~ 強くなりそうなのになー 

こっちでアウトドアのクライミングに行ってくれる人、誰か居ませんか?


ハイコンテキスト文化、ローコンテキスト文化

■ 異文化理解力

コンテキストという言葉は、日本語では訳しづらい。文脈という意味だ。

日本語で文脈と言っても、意味が通じづらい。要するに話の流れで、言葉の意味が変わるということ。

いわゆる行間を読む、という文化は、ハイコンテキスト文化。言葉の意味を文面通り採用するという文化はローコンテキスト文化。

日本語は、典型的なハイコンテキスト文化であり、言葉少なに、その間に隠された意味を読む。

一方、アメリカ文化は世界でもっともローコンテキストであり、物事をはっきり言う。これは移民が多く、多文化社会の中では誤解を最小限にするには、そうする必要があるためだ。

これらの知識は、最近友人に贈られた『異文化理解力』という本にあった。まだ読みだしたところだ。

■ ハイコンテキストなクライミングの世界

さて、なぜクライミングのブログに、このような文化論を登場させたのか?というと、アルパイン・クライミングの世界と言うのは、典型的なハイコンテキストの文化だろうと思うからだ。

だから新人は戸惑う。 ”なにか聞いてもいないこと”が、分かっていて当然になっている。

よく「新人は分かっていないことが分かっていない」と表現される。

■ ハイコンテキスト事例

ハイコンテキストということの事例は、「この人のロープワークは安心できない」と内心思えば、そっと別の支点にセルフをもう一点取る。 私もそうする。が、「そうしろ」と教えられたわけではない。

ビレイを見て、ダメビレイだと思えば、次回から誘わない。後進として育てたいと希望している場合だけ、改善するように指摘する。逆に言えば、間違いを指摘してくれる、ということは、パートナーとして目されているということだ。

後進を岩場に連れて行く。その子が再度、自分の力で復習山行しているか、どうか見る。言動一致をみるのだ。もちろん、連れて行く場所は一人でも裏から回って、トップロープが張れるような場所にしてあげる。それは先輩の親心であり、熱意を見るための試験だ。

が、そこまでしても、当人が復習山行しない場合は、クライマー向きではないと判断する。依存心が強い人にはクライミングは向かないからだ。

例えば、ビレイをマスターしないと岩場に連れてもいけない、とか、読図はマスターしてきてくれないと何かが起こった時に、伝令程度でも走れないとか、アプローチまでどう歩くのか、予習して来るかどうかとか、そういうことは、誰も言わないが、やってきて当然のマナーとなっている。

ハイコンテキスト文化の際たるものとして、

「あいつはアブナイクライマーだ」
「一緒に行くと殺されるかもしれないぞ」
「彼は、ビレイが信用できず、人が落とされて大けがした実績がある」

など誰も指摘しない。単に、悪いことは言わない文化、ということがある。

そうしたことは、すべて、察知しなくてはならない。

■ ローコンテキストな人々

一方、私が思うには、年輩者より若い人の方が西洋化の度合いが著しく、西洋化しているということは、ローコンテキスト化しているということだ。

年輩者にとっては、言われなくても分かったことが、若い人に言われなくては分からない。

これは、田舎生活者と都会生活者にも当てはまる。文化的多様性の低い場所に長年住む人々は、一般に、”言わなくても分かる”ということを前提としてコミュニケーションする。わざわざ言葉にしなくても、自分も、父も、祖父も、そのまたおじいさんも、事情がほぼ同じだからだ。皆の人生が似たり寄ったりということもある。

都会生活者からすると、様々な生活スタイルがあり、様々な価値観、人生、従って人によって事情が色々だと言うことは、当然のことなので、都会で生活することが長い人は、ステレオタイプによる決めつけ、をしなくなるだろう。

これくらいの年齢なら子供がいて当然とか、働いていて当然とか、お金を持っていて当然とか、そういう思い込みが当てはまらないほうが多いからだ。

そういうわけで、都会のクライマーなら基本的には、ローコンテキストであり、バディを組み始めた最初に、「クラミング歴は何年か」「今どれくらいのグレードを登るのか」「どこの岩場が好きか」「ビレイをするときはクリップ時に声を掛けるね」「もう少し壁に寄ってくれないかな」など、互いの事情のすり合わせが自然とはじまる。

一方、均質文化にいた人たちには、それが始まらない。

間違いを指摘される=関係の終わり、となることが多い。

したがって、古い体質の山岳会では、根回しや文脈を読む人間関係力が必要になる。特に、非都会エリアでの、古い体質の山岳会なら、なおさらだろう…

私がいた会では、先輩は、私を初めてのバリエーション前穂北尾根に連れて行ってくれるために、色々と政治的な根回しをしなくてはならなかったようである。

そういう苦労は、都会生活者には、想像もよらない。若い人にも想像もよらない。

それは、ハイコンテキスト文化とローコンテキスト文化の文化差なのだ。

そう言う風に思うことで、だいぶ色々なことが、説明をつけやすくなる。

説明できると言うことは、明るみに出るということであり、透明性が増すということだ。

この差が私がラオスで伸び伸びとクライミングできた理由だろう。日本のハイコンテキスト文化に、アメリカ慣れしている私は単に合わないのだ。

北杜市の太陽光発電乱立による環境破壊について

昨日は、大平牧場の話題が回ってきた。

北杜市は、言わずも知れたアルパインクライマーの町である。登山の人は知らない人が多いが、山登りには、世界的に知られる賞があり、登山界のノーベル賞に値するのが、ピオレドール賞。そのピオレドール賞を受賞した人が4人も住んでいるのが、北杜市であり、みな移住者。しかも4人も住んでいる。去年亡くなった谷口ケイさんもお住まいは北杜市だった。登山ガイドで北杜市に住んでいる人も多い。

つまり、北杜市というのは、日本中から優れた登山家が引っ越してくる土地柄なのである。地元の人は、そんなことは知らないが。

理由は、瑞牆、小川山、八ヶ岳が近いからである。

以下がその内容。



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みずがき湖よりもっと奥、北杜市須玉町の最も深部にある大平(オオビラ)牧場跡に行ってきました。ただのハイキングのようですが、そうではありません。ここに14.7メガという山梨県では最大となるソーラー発電施設の計画が進められているということで、現地見学会が今日あり、参加しました。


行ってみると想像を超える素晴らしい場所でした。瑞牆山に繋がる横尾山の稜線直下に広がる広大な草地で、北杜市にはいろいろな素晴らしい景観はあるけれど、どの場所とも違った解放感に溢れています。


まず、高圧線の鉄塔や道路、人家などの人工的な建築物が何も見えません。驚きました。こんな場所が北杜市に残されていたんだと。ここに何万枚ものパネルが並べられるのか!そんなことが許されることではないはずです。これこそ北杜市の貴重な自然の遺産として守るべきものだ、というのがまず感じたことです。


また、ここは一時は牧場として使われていたけれど、北杜市、韮崎市、甲斐市の水源・みずがき湖の涵養地でもあるということもあって、水源を汚染する牧畜には適さない場所だということです。水の安全という視点から見ても、パネルに含まれる有害物質の危険性が否定できないわけですから、この場所は太陽光発電にも適さない、絶対に避けるべき場所だということなるはずでは。


気持ちの良い草地を歩きながら考えたこと。この場所が太陽光発電ビジネスによってスポットライトが当たったことで、この場所の正しい活用の道を考える機会が私たちに与えられたのだと考えてみてはどうだろう。

起伏が思いの外あり平らな場所が少ないけれど、ハイキングや横尾山トレッキングのコースとしてははもちろん、子どもたちにとっても安全で思いきりアウトドアの遊びが楽しめる場所ではないか。北杜市にはそいういう場所が案外少ない。ここを人の手があまり入らない「観光地にしない」市民の北杜市立自然公園として借り上げる(買い上げる?)。これは地権者にとってもマイナスとはならないだろうし、これが一番の解決法ではないか‥等々。これからの観光は観光地にはないものに観光的価値が出る、というのが流れだろうから。


原発に代わる未来のエネルギーという美名のもとに、この国に残された貴重な自然の破壊と、地域の破壊が深く進行している、ということはもっと知られて良いことです。北杜市の太陽光パネルの乱立をなんとか止めようと、条例化に立ち上がった議員9人のうち6人が今日の現地見学に参加していました。この条例案は6月議会では残念ながら廃案となってしまったのですが、北杜市のあり方に深く関わる太陽光発電問題は解決すべき大問題として残されたまま。この大平牧場の活用を考えていく中で、何か道筋が見えてくるような気がしています。


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■ 奥秩父全山縦走の終点

大平牧場は、横尾山の麓にあり、もし奥秩父の全山縦走をしようと言う人がいたとしたら、八ヶ岳側の最終の山である。横尾山には、登山道があるが、瑞牆と横尾山の間は、稜線ではあるが、登山道はない。大平牧場は私有地だったためか、通れないようにしてあり、比較的自然が残されている。

大平牧場を知っているなんて、登山者でも稀だろう・・・ 横尾山は、登山者の入門者に良いような小さな山で、上級レベルの人が行くところではない。一般にクライマーはハイキングをしないので、瑞牆、小川山に流れて行ってしまう。

ただ、奥秩父全山縦走の終着点であり、八ヶ岳の展望台である。冬でも少しも危なくない。ちょっとしたドライブのついでにも登れる、良き山である。

このような山に行っても、いつもスカスカで誰もいないが・・・だからこそ、自分と山だけで対話できる。

人がいないことが価値になっている山である。(もちろん、無雪期は人が多い)

山に登っていると、自然は単純に美しいと思う。そういう自然をどう次世代に残していくのか?

目先の利益にとらわれず、人類、と言う視点でとらえたい。

Friday, July 14, 2017

クライミングの色々

■ クライミングと一口に言っても…

昨今、クライミングブームらしいのですが…

アルパインクライミング
フリークライミング
スポーツクライミング
ボルダリング
インドアクライミング
アウトドアクライミング

…とぜーんぶ違います。で、新人さんには、それを説明するのは大変なので、勝手に理解してほしいのです。たぶん、クライミングが楽しくなると、勝手に本を読みたくなってくるというか、そういう知識の渇望期みたいなものに入るはずなのですが…

それも周囲に先輩が居ない状況だと難しいカモ?と思わないでもない…

ので、ちょっと努力してみます。

フリークライミングがすべての基礎にありますが、フリークライミングという言葉における、”フリー”の意味とは、道具を使わないで登る、という意味です。反対を考えると分かりやすく、エイドクライミングというクライミングは、エイド=人工の道具を使います。

要するに、自分の力だけで登るということです。でも、実際は、ロープとクイックドローは使いますし、ハーネスやヘルメットも、チョーク、クライミングシューズも必要です。

それでも、建前上は、登るのに道具を使わないで、登ることになっています。(チョークのフリクションがエイドじゃないか?ということは言わないって意味です。でも、ホントにすごい粘着力で登る時代も来るのかもしれません…)

スポーツクライミングは、安全性を重視した、クライミングのムーブそのものを楽しむためのルートです。主に人工壁と支点がきっちりと整備され、支点の間隔が近い岩場。

ボルダリングは、ボルダ―(河原の石っころ)に意味を発します。石っころを登るわけで、ロープが要らない程度の高さしか登らないです。どんどん難しくなっています…(汗)。

インドアクライミングは、そのままで、インドア=室内壁と言う意味です。アルパインの人は山が好き、アウトドアが好き、なわけですから、アルパインの人にとっては室内壁は、今の時期のように雨で外で遊べない日用です。が、気軽に山に行けない都会の人にとっては日常のようです。

アウトドアクライミングは、あまり使われない言葉ですが…そもそも、岩って、アウトドアにしかないのですから!!アウトドアが当然の前提ですので…。

でも、インドアクライミングしか知らない人口が増えた結果、”外岩”という言葉が使われるようになり、定着した言葉なのだそうです。

外岩ってのも、正直、変な言葉で…だって岩って外にしかありませんしね?

でも、世の中が本末転倒化してしまった現状から、そう呼ばれるようになったという経緯があります。本来主流、オーソドックスだったものが、少数化、マイノリティー化して、特殊な分野に貶められてしまったということですね。

ジムのお兄さんで、5.13が登れる、すごい人がいましたが、小川山で会って挨拶した時、「最近前穂北尾根行ったんですよ」と言ったら、「僕、山は行かないんです」と言っていて、思わず、私はきょとん?としてしまいました。小川山は山ではない? 確かに麓であり、アルパインの岩場とは異なります。そういうことを彼は言っていたわけですね。

今からクライミングを始める、ということになると、登攀とロープワークをセットで覚えないといけないのですが… 登攀と言う意味では、どの種類のクライミングでも、クライミングなので、どれでもいいので、一冊買って、読んでみることをお薦めします。

私が一番好きだったのは、

1)ヤマケイ アルパインクライミング 保科雅則
2)インドアクライミング 東秀樹
3)かんたんフリークライミング 中根穂高
4)フリークライミング上達法 ギュリッヒ
5)インドアボルダリング練習帳 ロクスノ

です。余り役立つと思えなかったのは、アウトドアクライミングでしたが、チータースティックの作り方とか書いてあり、参考になりますが…

もしクライミングの技術書で一冊だけ、というのなら、

最近東さんが新しく上梓した、

スポーツクライミング教則本

が良いと思います。

全体像は分かりませんが、クライミングムーブの解説は非常に詳しく解説されていますので、これ一冊で他にはいらないんじゃないかと。

私もこれで、5級の壁を乗り越えて、3級が登れるくらいにならないかなぁ~などと夢想していますが…でも、しばらく5級でもいいかなぁ。

■ ボルダリング

ボルダリングのグレードは、フリーのデシマルグレードとは全然違います。大体、初心者向けの10~9級は、初日に10人いたら10人登れる設定になっています。8~7級でも、数日、通えば登れるような気がします。私がそうだったので。

ただ登れだけなのと、キレイなムーブで登っているというのは違っていて、キレイなムーブが出てくるようになったのは、ジムに一か月の定期券を買って通うようになってからです。

一般的には、デシマルで5.10a以上は、フリークライミングのムーブを使って登る必要があると言われています。が、腕力で登ってしまえる人も中にはいます。

前傾壁となった場合、側体というムーブを使わないで正対で登ると、すぐに腕がパンプして登れなくなります。側対を使えば、私のように虚弱な女性でも、相当長い時間、パンプしないで登ることができます。

要するに、前傾壁と言うのは、ムーブを無理強いする効果、があるのです。それが薄被りが初心者のムーブ習得に最適、と言われるわけです。

■ クライミングは足で登るものです

たとえ前傾壁にせよ、クライミングは足で登るものです。

しかし、私の場合ですが、足で登ることを覚えられたのは、スラブです。

そして、インドアクライミングに、スラブはないです。

インドアで登っていると手を使う登りばかりしてしまいます。でも、本来の岩場で、いつも探しているのは、ハンドホールドではなくて、フットホールド…

特に今回インスボンに行き、フットフォールドを探すように知らない間に意識改革してしまっていました。

相変わらず、インドアでは、手数で色々と考えていますが…。

■ 5.9アンダーとアバブ

大体、山岳会に入ると新人さんは、3年くらいは5.9アンダーです。それくらいの時間がかかるもの、と考えた方が良いと思います。私は初めて5.9をオンサイトするまで、1年半かかりました。

5.9がオンサイトできたとき、先輩に「フリーはこれからだね」と言われました。まさにフリークライミングの入り口が、5.9から上なんです。

たとえ、一つだけ5.9がオンサイト出来ても、それで十分という訳ではなく、クラックでは、まだ5.8しかオンサイトしていません。それも一本だけです。城ケ崎ではオンサイトとは言えないと思いますので…。

スラブ、クラック、フェイス、ワイドクラック、前傾壁、と異なるスタイルの登攀が必要になります。

とくクラックは、カムといわれる特殊なプロテクションの設置技術の習得も必要になります。

というわけで、グレードだけを見ると、ちっとも進捗しません。

例えば、ボルダリングジムだけに通い続けると、ジムでのグレードはどんどんと上がるようになり、上達が楽しい、と感じるようになるのかもしれません。

ただ登攀の世界はこんな感じに、なかなか色々と細分化され、でも、そこには一種の常識的な理解のライン、というものもあり、それを記事で伝えるのは少々難しいと言うことです。

私は、アイスクライミングに行っていて、若い男性と知り合い、一緒に登るようになりましたが、ロープも私が出し、支点作成ギアやアイススクリューも私の方が出し、行く場所に案内するのも私であり、車を出すのも私でした。この時点で初心者だなぁということが分かるわけです。


彼が「ボルダ―ジムに行ってきました」と報告してくれた時に、これは全くのクライミング初心者だったんだな~と理解しました。

正しくはボルジム、か、ボルダリングだからです。そう言う風に様子が分かると、どちらが先輩役で意思決定をしないといけない立場か?ということも明らかになりますし、ビレイの習得がまだ未習得であろう、ということも、大体、伺えます。

習得にはインドアジムに通う必要があるからです。少なくとも、そのような用語使いが変だということが分かる程度の期間は…。

なので、ここら辺の解説を聞かないでも、ある程度話が通じるようになる、というのが、クライミングを始めてすぐの新人さんの、最初の目標となるのかもしれません。




Thursday, July 13, 2017

フリーの二点支持 vs 不安定な2点支持

■ グレード

私はいつも山の指導者を得ることが出来てあり難いことだなぁと感じています。

グレードの間違いについてご指摘いただきました!

以下は指導いただいた方の文面のコピーです。少しだけ手直ししています。

★RCCⅡグレード(≒UIAAグレード)
1級・・・1~2点支持で十分な、遊歩道や登山道
2級・・・一部3点支持が必要となってくる岩稜帯(一般登山道の岩場の難所など)
3級・・・3点支持を必要とし、かつロープを必要とする岩場
4級~6級 ・・・ 難易度が上がっていく

※すでに3級でロープが必要となり、3級からクライミングと表現します。4~6級は岩の難度が増すだけの基準。(6級より難しいのは暫定で7級と表現されたりもします。ちなみに『第七級』というメスナーの本があります。)
★デシマルグレード
1級・・・1点支持で十分な遊歩道や登山道
2級・・・2点支持が必要な岩稜帯(一般登山道の岩場の難所など)
3級・・・3点支持が必要な易しい岩場
3~5級は岩の難度が増すだけの基準で、明確にフリークライミングを対象としたもの
6級・・・人工登攀


※高難度の岩場をフリーでグレーディングする際、6級は人工という別のカテゴリー(デシマルという意味から、狭義には5級(5.○○)の少数部分のみを指すのでしょうが、広義には1~6級すべてを指すと認識しています。)

■ ハードフリー

「昔はフリークライミングのことをハードフリーって言っていたんだよ~」 

なんて山岳会の先輩たちが教えてくれました。昔は11クライマーであれば、皆から尊敬されたのだそうです。今では、イレブン、つまり、5.11が登れると言うことですが、それくらいの人は、掃いて捨てるくらいいます(笑)。

登山における登山道が、どんどんと傾斜を増し、これは手を使わないと登ること自体が不可能、というような傾斜になって行った時、一般的には、三点支持が必要になります。2点だと、1点が壊れたとき、残りの1点で体重を支持することは不可能だからです。これで体感的には4級くらいかと思います。

■アルパインの岩登りとフリーの岩登り

岩登りの”基礎”を知らない初心者に岩登りさせると、登るプロセスで、四肢のうち、一瞬2点のみとなったりすることがよくあります。これはアブナイ。

これは無駄な動きをしない感覚で考えれば初心者ならば自然の動作と言えますが、その2点となった瞬間、例えば手1、足1の時、足1がスリップしたとしたら、手1だけでは身体は支えられず、殆どはフォールします。

その時に注意・指導するのが、3点支持(3点確保)の概念で、その初心者は初めて四肢のうち何点という、支持に対する意識が生まれます。
(3点支持の3点は、『手2・足1』でも『手1・足2』でもOKです。)

ちなみに、支持に対する意識は、支点の作成でも同じです。かならず2点以上。カムの場合は、3点が確実です。
それと同時に指導するのが、静荷重静移動正対です。

≪まとめ アルパインのクライミング指導≫
・3点支持
・静荷重
・正対

これらは、フリークライミングのムーブ指導とは正反対の指導です。

なぜか?

目標とするのが、基本的にフォールを許さない、ためです。つまりは、支点の脆弱性が顕著なアルパインクライミング、を安全に行うことを目指すため、です。

■ クライミングでなくても、バランス維持はしている

バランスを何点でサポートしているか?ということに着眼すると、一般に

0点・・・ランニング(マラソン競技)
1点・・・通常の歩行(競歩)
2点・・・バランスを要する箇所、梯子等
3点以上・・・クライミング行為など

この0点~2点は日常どこにでもあるシーンと言えます。

ある人が山をやりだして、次第に岩場に行きだし、3点支持を教わります。しかし、スタティックに、かつ正対ではハングした難しいルートは登れない。

何をするか?

傾斜を殺すためにフリやダイヤゴナルを覚えると同時に、フリークライミングの課題では支点やホールドの信頼度がアップしているために、2点・1点、場合によってはランジで0点などが、クライミング行為においても可能になってきます。足を切るなど2点中心のムーヴが極めて有効になってくるわけです。
これがフリークライミングの2点支持と、絶滅しそうなアルパインクライミングとの差なです。

あるアルパインルートがフリー化されたとなると、2点支持やダイナミックムーヴが
ある程度可能になったのだろう、と考えたりします。

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■ アルパインに必要なフリークライミング能力 

・・・ということなのです。いわゆるアルパインクライマーは、アルパインのルートで出てくる被り以上の、高難易度なフリークライミング能力が必要なわけではありません。

ですから、アルパインクライマーに必要なフリークライミング能力は、フリークライミングのカテゴリーからすると、非常に基本的な、初級の能力です。

私の場合ですが、ボルダリングジムで、8級くらいの課題を、正対、ダイアゴナル、アウトサイドフラッギング、インサイドフラッギング、の4つのムーブで登ることができます。同じ課題です。

これ以上登攀力を上げようと思うと、デッド、ランジ、それから、保持力UP、となります。

そんなの、アルパインでは要らない。ただし、これは、アルパインでもクラシックルート限定です。前穂北尾根とか。

そうではなくて、世界のピオレドール賞を取っているようなアルパインクライマーを目指す若い男性に必要な能力・・・たとえば、今現在大学生の山ヤですが・・・は

最低でも、5.12を登る能力 が、セカンドであっても必要 だそうです。(ピオレドール賞取った人に聞きましたから、本当です)

どれだけ高難度アルパインが高難度化していることか・・・ 昔は、5.11ですごいと言われていたのに、今では、5.12を5本オンサイトしていることが、フリークライミングのインストラクターの最低限の要求試験です。

5.12をボルダリンググレードにすると、どれくらいなのでしょうか?2級くらいかなぁ。私はそこまで行こうと言う意思がないので、見てみたことがないですが、楽しくアルパインをするには、昔の基準、5.11で十分な安全マージンがあると思います。

アルパインクライミングには、フリークライミングと違って、長いアプローチを重たいザックを背負ってこなす体力が必要です。

例えば、前穂北尾根は、テントサイトにたどり着くだけで6時間かかります。その間ロープや登攀具、テント装備一式、寝具などが入った重たいザック・・・18~20kgくらいを背負って歩けなくてはなりません。

その後は、岩場の基部までのルートファインディングが大変です。踏み跡はないのが普通なので、読図力はもとより、たぶんここだろうと言う虫の知らせ的なものをかぎ分ける嗅覚が必要になります。人間の記憶はあいまいで、前に行っていても、間違うこともあるからです。

やっと登攀が始まったら、あっという間に終わってしまいます。普段、アプローチが10分で、岩場に付くクライミングに慣れていると、こんなに長い時間、苦労してアプローチしたのに、たったこれだけのご褒美?!と思いたくなるかもしれません(笑)。

しかも・・・まだ下山が待っていて、下山の方が、大変だったりします。登ったら、下りなきゃいけないんですよね~。

と、フリークライミングに慣れると、ご褒美が少なくてつらいクライミング、が、アルパインだったりもします。

山が当然の人にとっては、「6時間?短いね」って感覚ですが・・・だって、6時スタートで歩き出したら、12時には着いちゃうんですよ?もっと歩きたいですよね(笑)。

重さも、普段、重さにゆとりがあるので、瓶でお酒を持って行ったり、冷凍のカニを丸ごと持って行ったりしているような人たちなら、「18kgかぁ、もうちょっと大丈夫」とか感じると思います。

しかし、登攀しながら、18kgは絶対にありえません。ほとんど、歩きでしかない4級程度でも、重いと本当に大変です。

その大変さ度合いが分かりにくさの元凶にあります。

フリークライミングは困難ですが、安全度が高いのです。フリーしか日ごろ触っていないと、浮石を掴んで登るような登りに意図せず、なってしまったりして、アルパインでの危険認知力が落ちます。

歩きも弱くなるし・・・でも誰でも一時期はフリーへの傾倒が必要です。クライミングの基礎はフリークライミングにあるからです。

しかし、初歩の初歩で、用語的な部分でも混乱がある、というのは、このような理由からです。











Thursday, July 6, 2017

メンターを持ちましょう

■ メンターを持ちましょう

最近、ビジネス界でもよく聞くメンターと言う言葉ですが、日本語に訳すと、師匠が最も近いと思われます。

師弟制度というのは、英語ではアパレンティスシップと言います。

登山というのは、伝統的に師弟制度で技術継承されてきた世界のようです。ただ、日本はいわゆる行間を読むという、ハイコンテキスト文化の為、”師弟関係”とハッキリと断わることなく、なんとなく、「〇〇さんに憧れて山をやっています」とか、「〇〇さんみたいな山ヤになりたい」とか、そう言う感じです。

登山の成否は、師匠が得られるかどうか?に大きく依存します。また山はとても危険が大きいので、一緒に行く、仲間が得られるかどうか?ということにも、依存します。

■ メンターをどこで見つけるか?

メンターの筆頭は、先輩です。先輩は山岳会で見つけます。一般にジムクライミングなどでは、見つけづらいです。たまに、ジムのオーナーなどが、才能があるクライマーを発掘する、ということはありますが、かなり例外中の例外でしょう。

私はアイスクライミングをしていて、後輩の側が私を見つけてくれたことがあります。

■ 師匠が弟子を選ぶ

一般的には、先輩の側、師匠の側が、弟子となる人を選びます。教える側の負担の方が大きく、将来のパートナーとして成立してもらうために時間的投資が必要だからです。

知識の大小、経験値の大小、で、年齢にかかわらず、どちらが先輩で、どちらが後輩かということは、しばらく一緒にいれば、自然と決定されるものです。

この認識に差がある場合、意思決定において、問題の根を残すことになります。

例えば、先輩が悪天候で敗退を決めたとき、悪天候の怖さを知らない後輩であれば、もっと行けるのにと不満を残す可能性があります。

あるいは、いっしょにクライミングに行っても、登りたい課題が違ったりしても、たのしくないかもしれません。

その場合は、一対一では行かず、グループでの行動が無難です。山では、リーダーシップに乱れがないことや統率に統一性があることが、安全管理の第一の条件だからです。

■ 心・技・体・知・経のバランス

一般的に言って、心・技・体・知・経の総和が、その登山者の実力となりますが、体力に優れる人は、体力一点主義と登山界で呼ばれる自信過剰に陥っている可能性が高く、そうした場合、例えば事前の計画書作成スキルやロープワークなどの出来て当然の技術を軽視している場合があります。

体力があれば、多少の悪天候でも乗り切れると言う思いが、脇の甘さにつながるからです。そのような志向がある場合、山への奢りとなって、例えばレインウェアを着るタイミングを逃す、などの判断の失敗へつながる可能性があります。

レインウェアを出すタイミング同様、ロープを出すタイミング、アイゼンを出すタイミングも、同じような失敗につながりやすいです。

そうしたタイミング系の事柄は、個人差によるばらつきも大きく、単純に単独で登っていても学べないかもしれません。つまり、個人では自分と自然との対話は出来ても、他の人がどのようなタイミングで弱くなるか、寒く感じるか?などという知識は増えないのです。

このような他者への配慮ということも、山岳会に入り優れたリーダーと山行することで、そのリーダーの行いから学ぶことができます。

優れたリーダーは、メンバーに対する配慮が行き届き、メンバー本人が自覚していなくても、唇が真っ青であれば、ウエアを調整するように指示したりします。

■ 登っていい山と行けない山 リスク回避行動がとれるかどうか?

山のリスクを認識して、そのリスクに備えられるのであれば、どんな山に登っても良いのです。

が、リスクに備えられないのであれば、それは実力以上の山です。

ゴールデンウィークの仙丈ヶ岳へ登りました。GWの仙丈と言えば、まだ当然ながら雪山です。が、歩きやすい時期ではあります。

が、GWの気象遭難も多く、GWの雪山登山の主たるリスクと言えば、お天気が突然真冬に逆戻りすること、です。

仙丈ヶ岳はのっぺりしたなだらかな山容ですから、リスクは登攀の困難さではなく、ホワイトアウトによるルートロスです。見えなくなると、のっぺりした山はそうでない山よりルートファインディングが難しいのです。

私が数年前に夫と仙丈ヶ岳に登った時、夫はこれらのリスクを理解していなかったため、ホワイトアウトが予想されるガスが小仙丈あたりで、出てきたとき、リスク回避行動がとれませんでした。

この場合、リスク回避行動と言うのは、走って尾根を降りれると言うことです。ガスに巻かれて道が分からなくなるより先に、道迷いせず降りれなくてはなりません。間に合わずダメだったら、そこにガスが晴れるまでビバークしなくてはならなくなります。ビバークする技術がなければ、ひどい目に遭うことになります。

山では時に、不作為にも、夜になってしまったり、怪我のために下山が遅くなったり、と色々なアクシデントに見舞われます。霧に巻かれてルートロスもそうでしょう。

そのような場合に備えがあり、リスク回避行動がとれるかどうか?それが、その山に行って良いかどうか、ということの判断を分けるのではないか、と私自身は単独行の経験から考えています。



地図読みの完成とは?

「ピッケルより読図でしょ」と三上浩文ガイドに指摘されたのが登山2年目の頃。登山に必要なスキルの中でも、読図は独学で取り組むことができ、なおかつ、時間さえかければ、誰しもに習得可能なスキルである。

読図力の完成とは何だろうか?

それは、間違いを内包しながら進むことが身についているかどうか?である。

読図力が完成していない人は、同じGPSを使うにしても、そのGPSの赤線なり、地形図上の破線が正解であることを前提にして進む。

読図力が完成している人は、地形図上の線もGPSの軌跡も間違っているかもしれないことを前提にして進む。いくつかの証拠を集めながら、進むのである。

■ たとえば…

間違いを内包しながら進む、ということは、どういうことか?

今一つの尾根を歩いているとしよう。今歩んでいる道が正解だとすると、右手には、遠くにP1234のピークが見えるはずだ(証拠1)。 大体、標高差300m降りたくらいで、傾斜が緩むはずだ(証拠2)。その後に左手には植林地があるはずだ(証拠3)。

と、このように、地形図を読図することで、情報を読み取り、先に出てくるハズの景色が出てくることを予想しながら進むことで、早めに間違いを見つける。道迷いはこのようにして避けるものである。

見えているはずの、P1234が見えなければ、今いると思っている尾根の、隣の尾根に実は、いるのかもしれない。

正解を見出す手段として、わざと間違うこともある。たとえば、尾根の下り始めは、分かりづらいことが多い。とりあえず、少し降りて見れば、尾根が顕著に見えて正解が見える。

尾根の下り始めというのは、何年登山をしていても、正確に降りるのは、とても難しいもの、なのだ。

読図力の完成を、”全く間違わないこと”、”常に正確な場所しか歩かないこと”ということだ、と定義してしまうと…、読図力の完成は一生来ないだろう。

■ 一生続く楽しみ

まぁ、それもまた良し、なのである。正解を割り出すことなど一生できないから、山が面白い、とも言える。一生、勉強続きなのだ。

例えば、私が一時師事していた沢ヤの師匠は、当時69歳で登山歴は40年を超えていたが、その人でさえ、「ここ、P〇〇と思うんだけど、どうかな」と私に意見を求めていた。
私自身も、「P〇〇だったら、すぐに凹地があるはずですよね」などと返答していた。

正解は何か?皆で、色々と知恵を出して、探すから、楽しいのである。

地形図から、情報を取り出す力を読図力というが、読図力は、同じ一枚の地形図から読みだせる情報量が多ければ多いほど強い。

読図力がない人というのは、地形図から情報を取り出すことができない人のことである。

たとえば、尾根と谷が分かる、というのは基本中の基本だ。読図とは、とにもかくも、最初のうちは、尾根と谷を切り分け、距離と標高差を計算していくことだ。

もし、これから山登りをしたい!始めたい!と言う人がいた場合、一般的と考えられる成長プロセスは、

1)ピークハントで、基礎的な山登りのイロハを身に着ける(早出早着など)
2)テント泊縦走
3)積雪期登山
4)沢登り
5)岩登り
6)フリークライミング

というのが一般的な流れである。尾根三年、岩三年、沢三年、雪三年、と言われたそうだ。尾根三年の間に、読図力の完成は含まれている。

もちろん、それぞれはオーバーラップしつつ、成長していくものである。尾根の途中で、花を楽しみ、山のご飯を楽しみ、夕陽や朝日に心を現れる経験をすることで、基本的には肉体的な重労働である山登りに、彩りを添えるのである。

昨今、たぶん、忘れ去られているのは、山登りが単なるレジャーではないということだろう。

自然を学ぶこと、自然から学ばせて頂くこと、それが登山ということだ。

間違いを内包しながら進むという知恵は、山だけでなく、人生にも言えることなのである。








海外遡行同人の総会

■今年の仙人集会

仙人集会と言うのは、海外遡行同人の集会のことである。毎年、山閑散期の6月にある。

この時期梅雨で岩に登れないし、沢適期。山岳会の総会が多い時期でもある。

海外遡行同人という名のごとく、海外の沢を遡行する人たちの同人組織だ。同人と言うのは、山岳会とは違い、何も教わる必要がない人たちの集まり。

で、なぜか、通称、仙人集会で通用しているんだが… ベテランの集まりっていう意味でもある。例えば、『剣沢幻視行』の和田城士さんなど。強烈なお方揃い。

私は、なぜかご縁で、この集会のお知らせを毎年もらっている。

私以外の参加者は、みんなビッグネーム。

一回目の参加は伊那だったので楽だったが、去年も今年も関西での開催で(関西在住の山ヤが多いため)、今年は、たまたまガイド試験の試験日と近かったので、行こうか、ということになった。

■ ロクスノ

今現在、日本のアルパインクライミング界はあんまり元気が良くないが、例外的と言えるのが仙人集会で、強烈な個性の集まりとなっている。

今年は、ニュージーランドの沢の報告がある予定で、私の主たる目的は、それだったのだが、講演者だった『おれは沢ヤだ!』の成瀬陽一さんが欠席で残念であった…というのは、私は去年マウントアスパイアを検討し、検討ついでに、ニュージーでも沢を歩こうかなぁ~などと考えたことがあったからだ。

沢もいろいろあり、ウォーターウォーキングな所を選べば問題なし。

ニュージーランドは、少しバックパッキングの旅をしたことがあるのだが(もちろん一人で)、とても旅しやすかったし、自然が残っていて美しかったのだ。

気に入った国の一つ。

今年の集会での報告内容。

ニュージーランド南島・カスケードクリーク
台湾・豊坪渓左俣 
ソロモン群島・ガタルカナル縦断 
台湾 恰堪渓キャニオニング
台湾 湾横断・鹿野渓~宝来渓下降

結局私は一泊せず、帰ったので、台湾の報告ばかりを聞くことになった。若い人の報告で、楽しかった。こういう報告を聞いている年輩の人は、若い連中の無茶ぶりを聞くと、目を細めて喜んでいたりして、おじいちゃんが孫の話を聞く姿を思い起こさせる(笑)。いや、すいません…

おと年は沢にご縁があり、ひと夏で23山行も行ったのに、去年は沢は台風とことごとくバッティングし、わずかに1、2山行。ほぼフリーに捧げたのだが、フリーとて思う存分登れたわけではなく、結局、夏は雨で登れないことが多く、ジム通いに終始した、欲求不満なひと夏でもあったんだよなぁ…ということを思い起こし、急に沢に行きたくなった。

一般に沢ヤとフリークライマーは、完全に別業種というか、縄張り全然違う。フリーのクライマーは基本的に沢を嫌う。濡れた岩は怖い派の人が多い。

が、今回立ち寄った小川山で買ってきたロクスノ076号のクロニクル欄には、けんじり君とか、大部君とか、仙人集会で常連の発表者の名前を見ることができる。

ので、毎年、周囲の若い衆を誘っているが、全然来ないので、いつも残念に思っている。

今年は私にとってはトシゾーさんと会えるのがうれしい再会だったが、一泊せず帰ったので、九州での沢仲間を得たいという魂胆は貫徹できず、少し残念だった。

発表は、全部見ていないのだが、けんじり君のがおもしろかった。

こちらは彼のブログサイト 辺クラ同人

トシゾーさんのサイト  の集会報告



最近、三瀬のほうに偵察に行ったんだが、九州では低山は、ヒルでもいそうな具合に真っ暗で、沢もあまり快適そうに見えなかった。いいところは遠くにありそう。

まぁ、ぼちぼちです。

Tuesday, July 4, 2017

ガイド試験で思ったこと

大阪でガイド試験を受けてきた。実は、ガイド試験の前日も夜に難波観光に出てしまい、豚足などを味わっていたため、非常にコンディションの悪い中、受験。

知人の勧めにより、ガイド試験は、一番下の職能の登山ガイドステージⅠではなく、登山ガイドステージⅡを受けた。

私はすでに積雪期の経験が豊富だからである。

■ 解説

登山におけるガイドは、海外ではステータスが高く高度な仕事と認知されているが、日本では、交通公社等の団体旅行の添乗員程度の認識しか、一般大衆は持っていない。

が、山岳におけるガイドがカバーする責任範囲は広く、いきおい資格は厳しくならざるを得ない。それは、責任範囲が広いからである。

どういうことか?というと、私は私自身が個人で、単独行で、つまり、全部自分の責任で行くとしたら、と言う意味だが、厳冬期の甲斐駒、厳冬期の阿弥陀北稜(初級バリエーション)まで単独行で済ませている。私と夫は、登山の初年度から、雪の山に行っている。
それらは、自己責任において可能になる山である。それらに連れて行くことは、登山ガイドステージⅡでは不可能。

ガイド資格は、

自然ガイド
登山ガイド 
山岳ガイド
国際山岳ガイド

とランクがあるが、この職能の違いは、一般的には全く理解されていない。自然ガイドはもとより、登山ガイドも森林限界を超える山をガイドすることができない。

山岳ガイドの資格取得は非常に敷居が高く、国際山岳ガイドとなると一握りしかいない。

例えば、私は山岳会にいれば、先輩として、簡単な登攀が含まれる三つ峠などに自分の後輩を指導して連れて行くことができるスキルを既に持っているが、登山ガイドという職能では、後輩君を連れて蹴る場所に有料で誰かを連れて行くことはできない。

連れて行けるのは、ただの歩きであり、歩きと言う言葉が山ヤ用語であるのであれば、一般用語ではハイキング。

標高1700mの里山のハイキングに一体だれが、ガイドが必要だろうか?答えは、誰もいない…のである。能力と言う面で見ると。歩行能力だけしか必要でないのだから。

本来、山、登山という活動が、山との対峙、であることを考えると、登山者はこのような程度の山には、ガイドレスで行くべきであり、ガイドをつけるニーズなどどこにもない。

今回、私が受験した登山ガイドのステージ2にしても、その資格で連れて行ける山は、ハイキングの山でしかないため、最初から、雪山を歩いている私は、だるい以外何物でもない資格試験であり、この感覚は私だけのものではない。

ほとんどの受験者が、こんな資格があったところで…と思っている程度のものなのだ。実のところ。

その思いを裏付けさえしているのは、平たく言えばだれでも取れる資格の体制…。高度な職業教育は必要とされていない。というか、提供されていないのだから、そんなものを要求したら、日本にガイドはゼロになってしまう。だからと言って、経験値を測定できるものもないわけで、知識だけを問わざるを得ず、山ではあまり意味をなさない。

知識の中身についても、こう言ってははばかられるかもしれないが、昨今のガイド(添乗員?)不足?を反映してか、大学受験などとは比較にならない。例えるなら、小学校の試験のようですらあった。

■ 山岳会の勉強会に使うべし

ただ、私が思うには、今の山岳会は、入会者全員に登山ガイドレベルの知識の習得を独学でやるように依頼すべきである。

登山者として知っておかなくてならない最低限の知識が、登山ガイド試験の教科書には、コンパクトに網羅されている。これ以上コンパクトにならないのではないか?というくらいにコンパクトに。

このあたりの知識がないことが、昨今の山岳会のレベル低下を招いている原因であり、そのレベル低下が山岳遭難の引き金である。

さらにいえば、そうした、登山者のレベル低下への対策は、ガイドを増やす、ではなく、登山者本人たちの知識レベルの向上、であるべきだろう。

山岳会において、指導者層の高齢化から、指導が得られない、という悩みがあるにしても、登山ガイドの教科書を取り寄せて、全員で勉強会をすることはできるはずだ。

ヤマレコにでも、これらの教科書の内容を乗せてしまってもいい、というくらい、抜本的に知識の普及活動をすべきだ、と強く感じた登山ガイド試験だった。

PS 一夜漬け予定だったのに、前夜飲んでしまったが、合格しました。まぁ、当然か。













Sunday, July 2, 2017

アルパインクライミングへつなげる、ボルダリングジム通い

■ ボルジム 500件突破

現在日本では、ボルダリングジムブームです。今年500件を突破し、雨後のタケノコのようにジムが増えています。

実はボルダリングは、クライミングの一分野にすぎませんが、今ではクライミングそのものの代名詞のような扱いになっています。

そこを詳しく語ってしまうと、一記事で終らなくなるので、他にどういうクライミングがあるのか?は、割愛しますが…。

■ 山ヤはすべからく、2点支持とビレイを身に着けましょう

結論から先に言いますと、山が嵩じて、アルパインクライミングに行きたい!ということになった新人山ヤさんにとって、最初の課題となるのは…

1)2点支持を身に着ける
2)ビレイを身に着ける

の2点です。いくら登攀力がない山ヤでも、2点支持が身についている、& ビレイが身についている、というところまでは、最低行かなくては、山のバリエーションでは、沢も岩も、アイスも、雪稜もありません。

身についていない段階での同行は、お荷物になるばかりでガイド登山と一緒だからです。
注.これ以前に、体力、読図、一般縦走テント泊、単独でのリスク管理、レスキュー基礎知識、くらいはマスターしている前提です。

■ 以下のような質問が来ました…
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こんにちは。
自分は今月、二回ほどボルダリングの体験をしてきました。 クライミングジムは都心部にも多いのですが、トップロープ壁を備える施設はわずかな様です。 アルパインクライミングのジム練習は、ロープを使った人工壁練習を想定していると思います。 

ここで、ご意見をと思うのは、私が取りえる今後の方針についてです。 当面は、通勤路上のジムでボルダリングに慣れ、段階的にトップロープ壁施設への遠征を混ぜてゆくという考えで良い物でしょうか? また、アルパインのための人工壁練習では、ロープを使う課題に挑戦する割合、頻度はどの程度なものでしょうか? ここまでが質問です。 

 ・・・ 以下、報告的な感想と雑感です。 

ジムのボルダリングを二回ほど体験して思うのは、山とは別個の活動として、ボルダリングを楽しめないとおそらく継続は難しいだろうということです。 今の自分の時間価値につりあう満足があるかどうかは、もう少し続けてみないと分からないかもしれません。 課題の難易度は10段階程度になっているようですが、最も易しい方から数えて三つ目は苦しいです(7級なのかな)。  

二回目の訪問時は一つの課題に絞り込んで、8回中4回成功というところでした。 あんまり登れたぞという気分にもならないので、同じ課題ばかり続けてしまいました。 どこか悔しさが残り、店員さんに意見を求めたところ、足の力だけで登れる課題だと教えてもらいました。 

あと足の親指先端の痛みも気になります。(シューズの適正サイズがわからないです) シューズとチョークバッグは購入しても良いと思っていますが、自分で選択する経験をする為に、もうしばらくレンタルしようと思います。(↑製品のアドバイスも頂ければ嬉しいです)

 自分は課題を山の岩に変換して眺めるせいか、難しい課題に挑戦するガッツはあまり湧きません。 (そんな所には行かないからと思ってしまいます) あとこれも体験してみて分かったのですが、ジムはまるで山の話をするような雰囲気ではないのですね。 こんな様子です。 

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■ 当方の回答
ボルダリングジムについてですが、  

ムーブ(=2点支持) を身に着ける、

という意味で、山でのクライミングにつながって行きます。 その意味では、ボルダリング壁であっても、リード壁であっても、同じことを身に着けることができます。

普通の山登りで出てくるのは、3点支持で、2点支持の体の使い方は、まったく違うのです。 いわゆる岩稜帯では、3点支持で歩いていますが、手1点、足1点の二点支持が身に付くと同じところを非常に素早く安全に抜けることができるようになります。ちょっとした鎖場などがが、ぜんぜん危なくない、ということですね。  

まったく縦走しか知らない場合、ほとんどの登山者が、20代の若い男性であっても、鎖場の鎖に全体重を預けて、引っ張るような登りをしていると思います。(例:後立の不帰やキレット)

この段階の登山者だと、10回程度ジムへ行き、7級程度の課題を2点支持で登れれば、鎖は一切手をつけずに15~20kg程度の重いザックを背負った状態でも、不帰やキレットが安全に通れるようになるように思います。40代でスタートした女性の私の場合がそうだったので、男性なら、10回も要らないかもです。

これをしておけば、山おばちゃんたちのような、つたない歩きは克服できます。難所で時間がかかることもないです。

アルパインクライミング、となると、これでは不足です。初級のルートでも、もう少し難しいです。  

ロープが出る山は、5級から上です。1級は遊歩道、2級は登山道、3級は3点支持の岩場、4級は念のためロープがいる程度の岩場、5級はデシマルグレードのスタート地点、6級は、人工登攀の岩場(つまり、かぶりがあります。昔は人工登攀、現代ではフリークライミングの課題となる場合もある、その場合、再登でフリー化と呼ばれる)です。デシマルグレードは、5級が細分化されたものです。(参考:RCCⅡグレードその他のグレード

ので、最低でも、5.10Aを2点支持で登れるようでなくては、アルパインの初級ルートに出た場合、ロープワークもセットで、支点作成も覚えなくてはならなくなるので、実力が不足すると思われます。 この段階になってから、リード壁があるジムに通われてもよいですし、一般的に公共の施設は、ジム代が格安です。小瀬の人工壁は、なんと390円だったんですよ。私は初期にひと夏捧げましたが、毎週二日、半年通って、2万円程度でした。営業ジムの一か月分です。 

リード壁に通う別の意味は、ビレイの習得です。言うまでもないことですが、ビレイができない人は、岩場に連れて行くことすら、できません。ビレイをいきなり本番で習得することはできないですから、リハーサルの場としてのインドアウォールが必要になります。

落ちる役をする人は、支点が確実でないと墜ちれないです。普通にしていて、ビレイの習得に、週2、半年程度かかると思います。立ち位置、墜落係数、体重差、だらりんビレイ、パツパツビレイ、手繰り墜ち、逆クリップ、ゼット、などなど一通り、やってはいけない失敗を、安全な環境で体験して、本番で致命的なヘマをしない状態に仕上げておく必要があります。  

最近のリード壁は、5.9くらいからですので、ボルダリングの5級くらいなれば、リード壁も楽しくできるように思います。 ただ、実際の外の岩は、アルパインの岩場で、いわゆるゲレンデと言われるような日和田、広沢寺レベルだと、5.9よりうんとカンタンです。4級の岩場だからです。 

逆にフリーの岩場、小川山だと、5.7でもインドアのリード壁とは比べられない難しさです。なので、インドアのグレードをいきなり外に岩場に適用するのは、危険です。

いわゆる山岳エリアのアルパインクライミングで、必要になるのは、ゲレンデレベルであり、典型的な事例は、夏前の三つ峠です。多くの山岳会、大学山岳部が、夏山のアルパインクライミングのリハーサルとして、三つ峠に集結しています。

さらに言えば、クライミングにおける足遣いは一般に、外岩でないと習得できないようです。 ですので、クライミングムーブに慣れるために、一般的なボルジムでムーブを意識した練習をしつつ、日和田レベルで、外の岩にデビューし、週二日は平日夜にジム、月に1日か2日の週末は、チャンスがあれば、日和田レベルの岩に連れて行ってもらい、ロープワークを習得、リードに慣れる、など、ゆっくり1年くらいかけて習得するのが良いかなと経験上は思います。

この時期の課題は、上記2点はもとより、

・岩場慣れして、岩場でのリスク管理に慣れる (例:セルフの習慣)
・リード慣れ

です。

ちなみに、多くの山岳会は、このような段階の人には場を提供しています。

習得にかかる時間的な感覚は、40代スタートの女性の私の体験で、男性だと、ジムであっという間に上達する人もいます。 が、ロープワークの習得は、誰でも同じだけの時間がかかるようで、クライミングジムで登攀が上達しただけの状態で、守りの業であるロープワークが未熟なまま、クライミング力の自信だけで、岩場に行き始めると危険がマックスであることは、予想の範囲でしょう。

この時期の登山者に、一番死亡例が多いです。とんでもない支点やとんでもない確保を見るのも、この時期の人です。本来は、ルートに出るのは、まだもっと先が良いと思います。  

ただ、山の人は温かいですから、こういう人たちがいると、周囲が見守ってくれ、技術的な不足は指摘してくれることが多いです。ですから、その教えを得るためだけでも、岩場に行く価値があります。 (例はこちら

ボルダリングが楽しめないのは、山でスタートした人共通です。なので、ごく普通です。心配ないですよ! 

チョークバックと靴は買いましょう。無いと話にもなりません。 私も、ジム壁では、ぜんぜん萌えません。でも、これは山に行くために、支払わなければならない代償だと割り切って、通うしかありません(笑)。

多くの山岳会では、合同クライミングデーを設けていますので、それに参加するのも一案です。

ちなみに、退屈なジム壁を面白くするコツは、友達を作り、セッションをすることです。 そして、ジムの課題やグレードにこだわらず、ジムの人が、どんどん難しいのにチャレンジするように言ってきても、無視して、自分が納得いくまで、何度も易しい課題に登り、トラバースなどで、インターバルトレーニングなどして、とにかく、自分は何のために、これをやっているのか?トレーニング内容を自分で組み立ててみることです。それには最初はデータ取りです。 何が登れれて、何が登れず、どうしてなのか?ということです。

何しろ、目標は2点支持の習得であり、5.〇〇が登れる、ボルダリングの2級が登れる、などというグレードを追いかけることではないのですから、ジム壁はあくまで、道具です。 私は、最初の頃は、パートナーもいなかったので、リード壁はやらず、長もののトラバースばかりをしていたのですが、腕力が付き、沢のへつりで役立ちました。

回数を決めて、何往復したかなど、細かく記録をつけていくことで、だんだんと自分の成長が可視化されると、追い求めるべき課題も見えてきて、面白くもなってきます。
 
例えば、最初に長ものトラバースをやってしまうと腕がすぐ上がってダメになるが、ちょっとアップしてからなら、2往復も平気、など…。これは体がムーブに慣れ、省エネの登りができるようになるためと思います。そういう風に自分を知っておくと、本番の山でも役に立つのです。

そこまで、そんなに時間がかかりませんから!コツは記録を取ることです。 こんな話でお役に立てたら幸甚です。

ーーーーーーーーーーーーーー

以上が私のコメントです。

■ 時代背景

このアドバイス依頼が来た時… 実は、私は師匠と一緒にいたので、このメールを読んでもらいました。

師匠の意見は、

「こんな奴、ほっておけ。自分で考えないやつは山にそもそも向いていない」

でした。この場合の山というのは、一般登山ではなく、アルパインクライミングという意味です。

私がいた地域山岳会でも、自ら学ばない新人は放置されていました。何年入っていても、ビレイもできない状態であったのは、当人に真剣に学ぼうと言う意思が見えないため、教える側に教え甲斐がないからです。

一方、私は、この質問をくれた方の気持ちも、よく分かるのです。それは、私自身が、高い電車代を払って、東京都の都岳連の講習会に出かけたりなどしたからです。

山岳会には、
・スポーツクライミング寄りの同人的な会
・地域山岳会
・若い人主体の会
の3つに所属していました。試行錯誤には、時間的ゆとり、経済的ゆとり、コミュニケーション能力、調査能力、危険を避ける能力、など、様々な能力が必要になります。

さらに周囲は、山岳会は高齢化していて、行っても役に立たないと言いますし、かといって、他の手段を紹介してくれるわけではありません。

ジムでは話が合わないし、そもそもジムクライミングを楽しめないし、どうやって仲間を見つけたらいいのだろうか?と途方に暮れる状況であるのは、否定できない現実があります。だから、アルパインへ進む人が激減した、というのが正しい現実認識でしょう。

つまり、昔の新人さんには、考えないでも与えられていた環境が、今の新人さんには、相当、得ることが難しいということです。

そのような状況を打開するための、以下が別のベテランからのアドバイスです。

■ 現代の困難なアルパイン入門者への状況の打開案


ーーーーーーーーーベテランからのアドバイスーーーーーー

オールラウンダーのしっかりした指導者がいて、きちんと育ててくれて、同じ年代の仲間がいる山岳会に入るべきなんでしょうが、そんな会はほぼ絶滅危惧種ですし、見極めも困難でしょう。

大昔は、山岳会と言えば、それが当たり前でした。今はツアー交通公社みたいです。
韓国でもそうらしいですが、SNSつながりで危うい関係のパートナー探しで見よう見真似で山、アルパインに行っている人も多いですが、若い人達は、うまく行っている人達もいるようです。
私なら、とりあえず、アルパインやってそうな山岳会に入って、外岩通いしてたら、その山岳会がアホアホジジババ山岳会だったとわかっても、ゲレンデで、他の会の人と繋がったりして、目的に近づくことも仲間に巡り会えることもあると思うのです。上部組織の都道府県の山岳連盟の講習会にも参加できるし、横の繋がりも期待できます。
チャレンジャーなら、リスク覚悟で、ボルジムで仲間見つけて、見よう見真似でリード、ロープワーク、アルパインに進むのもありかと思います。天才なら…
山志向なら確かにジムは萌えませんしね。ペツル完備の外岩でのフリークライミングに慣れると、アルパインでガバガバ浮き石引いて落ちたりしますので、フリークライミングに慣れると、それはそれでリスクでもあります。

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このアドバイスをまとめると、結論は・・・

1)老害のない山岳会に入ること
2)有料講習会に参加
3)「信頼できるガイド」に連れていってもらう

です。

■ 照会先

さて、そうなると、老害の無い山岳会ということになりますが、都内では、私が知る限りでは、

1)YCC
2)やまね
3)九十九
4)無名山塾
5)まつど山岳会

などがあります。 若い会は、安全志向の高まりにより、フリー化の傾向が強く、さらに安全志向が強い場合やバディを組むより、個人の都合で登りたい志向が強い場合は、ボルダリング志向が強いです。

この場合のフリーという言葉づかいは、フリークライミング志向という意味です。フリークライミングのほうがアルパインクライミングより安全性が高いです。

有料講習会では

1)公営
2)私営

があり、私のおススメは、都内であれば、都岳連の登山講習会に出ることです。

東京都や大阪府の登山学校は、抱える登山者人口が多いため、他県よりもカリキュラムが充実しています。

長野県の近隣に住んでいれば、長野県山岳総合センターのリーダー講習に一年かけて通えば、山岳会でかつて新人に教えていたことを教えてくれます。

1)公営の有料講習会
 ・都岳連 登山学校
 ・府岳連 登山学校
 ・長野県山岳総合センター リーダー講習

私が知っている限り、最も優れた登山学校は、大阪府岳連の学校です。1年では終わらないです。

2)私営の登山学校
 ・無名山塾  おススメ
 ・マウンテンゴリラ 
 ・マウントファーム登山学校(後藤真一さん主催:沢寄り)
  
実は色々探せばありますし、山小屋でパンフレットを置いていることも多いですが、ガイドさん主催のものは、数として多すぎるので、割愛。

山を営業の対象としていないものが、質が良いと一般に言えるように思います。その意味では、ガイドさんは、教えるにしても、ガイドとして教え、先輩や師匠として教えるわけではないので、教わり甲斐がなく、お客さん扱い、となってしまうリスクが多いです。

例えば、私が見ていたプロガイドは、メインのセルフを取る、ということを教えていませんでした。
 
3)沢に特化した登山学校
 ・渓友塾
 
私は行かずに初級の沢程度は歩けるようになりましたが、泳ぎまで含めた本格的な沢ヤになりたい場合は、きちんと教えてくれるようです。ですが、主催者が高齢化していることと、きちんと教えるには受講生の数を絞る関係上、高額化しています。

4)アルパイン寄りのクライマーのクライミング講習に出る
 ・菊地敏之さん
菊地さんの講習は、フリークライミングの講習ですが、アルパインのご出身であるため、理解があると思われます。が、支点作成や、支点回収のための通し八の字での、結び替えなど、理解した段階で出るべきで、まったくのゼロでは、講習内容がもったいないかもしれません。

しかし、アルパイン2年目、3年目である程度、フリークライミングとアルパインクライミングのつながり(トラッドと今では呼ばれています)が理解できるようになれば、出る価値があると思います。

以上のようなところで、やはり、

 自ら道を切り開いていく登山者

となるためには、無駄を覚悟で、業界の常識を知る、というためだけにでも、

 とりあえずは、アルパインの山行もやっている山岳会に属す

というのがおススメです。

番外ですが、最近では、登山ショップの店員さんがゲレンデに連れ出してくれる場合もあり、都内であれば、ご紹介できるショップは、

 ヨシキさん

です。