北岳バットレスについては、相方と”行けるOR行けない”の、意見を一致させるのに苦労しました。
私 → 無理だな
相方 → 行けるな
つまり、私は相方とマルチをしてみて、「今年は無理だな~」と思い、相方は「行けるな~」と思ったのです。ある意味、とても光栄なことです。
しかし、結論は ”今年は時期尚早” でした。 太刀岡山左岩稜で、先輩と一緒に登って、相方も自覚してくれました。私としてはホッとしました。このままでは痛い目を見そうだったからです。
易しいピッチでも時間がかかりすぎるのです。
単純に、登攀力だけでは登れないのが山です。
■ では、何がいるのか?
北岳バットレスは、ルートのグレードで3級です。
何度も引き合いに出しているグレードですが、下記を参照にしてください。
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1級 前穂高北尾根
2級 剣岳八ツ峰六峰Cフェイス 剣稜会ルート
3級下 八ヶ岳・大同心 南稜
3級 北岳バットレス
3級上 谷川岳一ノ倉沢
4級 穂高岳屏風岩
5級 唐沢岳幕岩
6級 奥鐘山
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なぜ前穂北尾根が1級で、バットレスが3級なのか?
そこを理解するのが大事です。 どちらも同じように高山帯にある岩稜です。前穂北尾根は遭難者も良く出しています。バットレスは近年ルートが変わり、過去の記録が参考にしづらいです。
歩いて登る山は一般に
・標高差が大きければ大きいほど難しい
・コースが長ければ長いほど難しい
とされています。 が、クライミングになった途端に、グレードだけで難易度を考えてしまうもの。それがクライミングの弊害かもしれません。
端的に言えば、クライミング力があっても、パッキングが遅い人は、ゲレンデには行っていいが、山には行ってはいけない。
今はグレードがどのような意味合いでつけられているのか?という情報がないため、ただ、各ピッチが易しいから、というだけで、たくさんの人が登る資格がないことを自覚できないまま、バットレスに挑んでしまい、渋滞を作り出してしまっています。
なぜ登れる人が渋滞を作ってしまうのか?
それに答える本が、第二次RCCによる、この『日本の岩場』 です。
私の相方は、私より登攀力がありますが、左岩稜では、5.6の易しいピッチでも、長いことかかりました。一緒に行っていた先輩が、「これじゃ渋滞を作り出しちゃうな」と言ったくらいです。
その原因は、登攀力ではなく、慣れと経験なのです。彼は登攀力は十分以上あるのです。私くらいの登攀力でも、十分なくらいですから・・・。でも、無いのは、スピードです。つまり、慣れと不測の事態に対する経験です。
スピードがないと、どうなるか?
ふたりで岩稜でビバークかもしれません(^^;)
それはそれで良い経験、お互いのパートナーシップを強化する経験になる、という見方もあるかもしれません。
しかし、それは10代の若者の話。
大人は、フォーストビバークになると分かっているビバークは、しません(笑)。
■ 慣れって言われても・・・
でも、馴れろって言っても、初めてダブルで登ったのがついこないだなんですから、誰だって無理な話ですよね。
ちなみに、ロープワークは、セカンドやフォローで登っている時とリードで登っている時では、全く違います。リードの人がロープワークの9割を担当するからです。つるべなので、当然遅い事情の半分の責任は私にあります、念のため。私だって経験不足なのです。
というわけで、私と相方に必要なのは、慣れです。
しかし、楽しんで登っている間に慣れるのが、ベストプラクティスだと思います。
なにしろ、山は趣味で行くものですから、楽しくないと、心が満たされません。
■ 外野の意見も時期尚早でした
私は自分たちの実力はまだ四尾根には足りない、と思ったのですが、私の判断には、経験という裏付けがないのを分かっているので、セカンドオピニオンを求めました。それも複数ソースに。
- 三つ峠マルチでの判断でも、相方と私二人では、バットレスは時間切れになりそうだった
- 山梨アルパインの代表に意見を聞いてみたが、時期尚早という意見だった
- 師匠に聞いても、実力不足と言う意見だった
- 実際に北岳で梨大生に会ったが、16時に御池小屋でヘロヘロだった。大学生の男子なのに
- 御坂山岳会の先輩に聞いたら、バットレスなどは、まずは先輩に連れて行ってもらい、その後、自分たちだけでチャレンジするものだ、と言われた
と複数のソースからの情報収集、それで出した結論が、NOでした。
昔の山岳会は、自分が行けると思った山でも、先輩がダメだというと行くことができなかったのだそうです。私はそういう考え方を歓迎しています。というのは、私が連れて行く側だったので、保守的に判断するのが王道だと私自身思っているからです。
私は複数の相談相手がいて、とてもラッキーで、感謝しています。
それでも、相方がとても行きたそうにしているので、これは、私自身が相方を連れて行けるようになった方が早いかもしれない・・・と、ガイド登山さえ考えたくらいです(笑)。
実は、花谷さんというピオレドール賞を受賞されたガイドさんが急な欠員でスケジュールがあいた、という連絡が回ってきたので、思わず、問い合わせをしたのです(笑)。
結局、私はガイド登山を選びませんでしたが、ガイド登山だったら、まったく問題なく、挑める場所です、北岳バットレスは。
■ で、何がどう難しいの?
じゃ、何がどう難しいの?
それを客観的に分類しているのが第二次RCCのグレーディングです。師匠に教えてもらいました。
岩場の特徴を、
- スケール
- 所要時間
- 高度差
- 傾斜
- 岩
- 確保状態
- 岩の脆さ
- ルート
- ルートファインディング
- 自然条件
- 技術
という合計8つのアスペクトをA、B、C、D の四段階で評価しています。
こちらが三つ峠一般ルート。 三つ峠は、こうしたクラシックルートの練習ゲレンデという位置づけです。
こちらが北岳バットレス四尾根
見づらいと思うので、こちらに分かりやすくまとめました。引用元は『日本の岩場 グレードとルート図集』です。
≪三つ峠一般ルート≫
≪北岳バットレス第四尾根≫
違いは、
所要時間
高度さ
確保条件
自然条件
技術
です。要するに規模がでっかくなったもの。それだけ、自然界からのストレスに晒されるもの、ということです。
私が思うには、相方とは普通の山でチャレンジ山行をやってみないといけないのかもしれません。というのは、相方とはハイキングレベルの山以外は、ゲレンデか準ゲレンデしか経験がありません。
大学山岳部の若人は、いくつもの合宿で仲間意識を醸造していたからこそ、予想以上に時間がかかり、ヘロヘロになって降りてきて、もうくたびれているのに、林道歩き5時間を甘受して帰宅しても、懲りずに済むのでしょう・・・
一方私と相棒は一泊の山行さえまだ経験がありません。長い時間、山で一緒に過ごした経験が、不足しているのです。
山って一緒に行くだけで、色々なことが分かるものです。
登れなければ人じゃないというような、神経の磨り減るクライミング山行もあれば、同じ場所に行っても、和気あいあい、楽しいクライミング山行もあります。
相手の強みや弱みを知っておくことが山ではリスクヘッジになります。そういう意味でも相方と私でのバットレス挑戦は、いきなり感があるもの・・・そうしたリスクに対するヘッジは、やはり、会が行う月例山行などで、失敗や衝突を繰り返しながら、醸造して行くものかもしれません。
そういう意味では、同人的な組織では、個人間の仲の良さだけしか頼るものがなく、一泊二日の山行でさえ、予定を合わせるのが難しいこの時代、結構大変です。
こちらが北岳バットレス四尾根
見づらいと思うので、こちらに分かりやすくまとめました。引用元は『日本の岩場 グレードとルート図集』です。
≪三つ峠一般ルート≫
- 所要時間 B (2時間以内)
- 高度差 B (150m以内)
- 傾斜 C (やや急)
- 確保状態 A (安定)
- 岩の脆さ B (やや悪い)
- ルートファインディング A (良い)
- 自然条件 A (良い)
- 技術 D (3.0)
合計 8(2級) ルートグレード2級、ピッチグレードⅣ級
≪北岳バットレス第四尾根≫
- 所要時間 C (2~4時間)
- 高度差 C (151~200m)
- 傾斜 C
- 確保状態 B (やや不安定)
- 岩の脆さ B (やや悪い)
- ルートファインディング A
- 自然条件 B (やや悪い)
- 技術 E (3.2)
合計 13(3級) ルートグレード3級、ピッチグレードⅣ級
違いは、
所要時間
高度さ
確保条件
自然条件
技術
です。要するに規模がでっかくなったもの。それだけ、自然界からのストレスに晒されるもの、ということです。
私が思うには、相方とは普通の山でチャレンジ山行をやってみないといけないのかもしれません。というのは、相方とはハイキングレベルの山以外は、ゲレンデか準ゲレンデしか経験がありません。
大学山岳部の若人は、いくつもの合宿で仲間意識を醸造していたからこそ、予想以上に時間がかかり、ヘロヘロになって降りてきて、もうくたびれているのに、林道歩き5時間を甘受して帰宅しても、懲りずに済むのでしょう・・・
一方私と相棒は一泊の山行さえまだ経験がありません。長い時間、山で一緒に過ごした経験が、不足しているのです。
山って一緒に行くだけで、色々なことが分かるものです。
登れなければ人じゃないというような、神経の磨り減るクライミング山行もあれば、同じ場所に行っても、和気あいあい、楽しいクライミング山行もあります。
相手の強みや弱みを知っておくことが山ではリスクヘッジになります。そういう意味でも相方と私でのバットレス挑戦は、いきなり感があるもの・・・そうしたリスクに対するヘッジは、やはり、会が行う月例山行などで、失敗や衝突を繰り返しながら、醸造して行くものかもしれません。
そういう意味では、同人的な組織では、個人間の仲の良さだけしか頼るものがなく、一泊二日の山行でさえ、予定を合わせるのが難しいこの時代、結構大変です。
「北岳バットレス第4尾根は時期尚早」と結論を出せて良かったですね。
ReplyDelete中級クライマー(ルートグレード4級下以上の岩ルートを5本以上は自力で登ったことがあるレベル)に付き従ってセコンドで登るのなら、岩登り初年度でも、事前に三ツ峠のようなマルチピッチ・ゲレンデで3回位訓練しておけば、登れるでしょう。
しかし、太刀岡山左岩稜でもたもたしてる相方とでは、遭難事故志望で出かけるようなものです。
太刀岡山で5.9のあるマルチ・ピッチ・ルートが1回登れても、そこはただの低山クラッグであって、「岩遊び」の域を出ません。 本当のObjective Danger がある「本チャン」とは違います。
10月に、前穂高北尾根に行かれましたので、Kinnyさんは「本チャン」理解が深まったと思います。
昨今のフリークライミング礼賛主義の影響か、ルートグレードだけで、自分のクライミンググレードが上であれば登れると結論してしまうのが、フリーでのクラミング力を強調されて育てられて人みたいです・・・(--;) クライミング力は基礎ですが、登れる保証ではありません。
Deleteもう、私は非常に胃が痛い思いをしました。ルート研究して、どうすればバットレスに行けるようになる自分たちになれるのか?資料に埋もれて考えているのも私だけだったようですし・・・ホント遭難予備軍です。
ただこうした若い人は少なくないようです。特に ルートデビュー 一年目。
この考え方の人と一緒に山に行けば死ぬかもしれないと思って、パートナーシップは解消しました。
それ以外は、とても良い人だったので残念でした。
先にクライミング力”だけ”が上がってしまうと、それに一般ルートの山も今の若い人は体力があるので、普通は平気ですから、そういうことで、本チャンにも 行けるじゃんと思ってしまう。
教育システムの欠陥、分かりにくさ、経験のなさによる楽観主義、人工壁では登れると言う自信、派手なルートに行ったという実績欲しさ、が、結局、遭難の温床と思います。
私は実力以上のところには関心はありません。
ところで、Objective Dangerはなんと訳出したら最適でしょうか? すごく良い言葉と思います。日本語にはないですね、”落石などの自然現象による不可抗力なリスク”とすると長すぎます・・・
Dangers in mountaineering which are not the result of faults in the climber's technique. These include falling stones, avalanches, crevasses, ice-falliong, etc.
ReplyDeleteクライマー自身の技術不足によるものではない危険、つまり、落石、雪崩、クレバス、落氷。
Delete一言で表す日本語が必要ですね!”オブジェクティブデンジャー”。 うーん、”自然現象による危険”、”山そのものの危険”、・・・”山自体の危険” どれもピンときませんね。
上に書いた英文は、『Encyclopaedic Dictionary of Mountaineering』 by Peter Crew, 1968, Constable & Company Ltd., London という登山用語辞書の解説文です。
Deleteこれは、英語圏の登山者にとっては当たり前の用語・概念です。 昔、『岩と雪』で海外クロニクルや技術解説の日本語訳を手伝ったとき、編集長である池田常道さんに伺ったのですが、どうも適訳はなかった思います。 日本には邦訳された登山本は沢山ありますが、どう訳されてる(訳されてきた)のか分かりません。 「客観的な危険」とか「実在する危険」といった直訳では全くピンときません。 しかし、クライマーという人種で英語の分かる方には、このコトバの緊張感というか臨場感が脳裏に閃くと思います。
カタカナ表記して脚注をつけたように記憶します。
これはぜひ実績ある翻訳者の方に、適切な日本語の新語を創設していただきたいですね!名前がないものは認識しづらいのが普通ですから、それで山そのものの危険を軽視する傾向が助長されてしまうのかも・・・?
Delete例えばラッペル、懸垂下降も元々日本語にはなく、訳出する際に作った言葉だと聞いています。
英語ではなく、独語本を邦訳した『生と死の分岐点』にはこの用語概念がある筈ですが、
Deleteはたして黒沢さんはどう訳出してるかな?
英語圏クライマーと独語圏クライマーとで、多少の登山文化の違いはあると思いますが、おなじアングロサクソンなので、概念は共有してると思います。
今私はその邦訳本が手元にないので分かりませんが。
『生と死の分岐点』、会の若い人に貸していて、まだ戻ってきていない(きっと読んでいないと思う)・・・今度図書館で見てみます。
Delete「懸垂下降」というのは、大正時代に関西でRCCを創設し、『岩登り術』という本邦初のクライミング技術書を上梓した藤木九三氏による訳語ですね。
Deleteたしか早稲田大学英文科中退で大阪朝日新聞の記者になったという経歴だったと思いますが、昔の知識人は、その基礎として漢文の知識と素養があったので、外国語の訳出と漢字語の造語に秀でていたと思います。
でも、アイゼン>「金かんじき」、など一般化しなかったものもありますし、カタカナ表記のまま言葉と概念が定着したものもたくさんあります。