Wednesday, October 14, 2015

学習院大学、阿弥陀岳遭難事故報告書を読んで ・・・山岳会を考える その14

■ 深謝

まずこの事故報告書の入手について、謝辞を述べたいと思います。ありがとうございました。包み隠さぬ勇気、また誠実さに心より尊敬の念を表明したいと思います。

逃げも隠れもせず、事故報告書を一介の個人登山者にまで配布する姿勢は得難いものです。強い正義感と使命感を感じました。誠実さとは、このような態度を指すのではないでしょうか。

昨今、山岳遭難は、原因の究明がうやむやになりがちです。事故を起こした山岳会は、うわべだけの報告書とうわべだけの対策を出して終わり、というところがほとんどです。

事後対策が何であるのか、分からないことが多く、それどころか、山岳会のHPそのものが閉鎖されることも多いです。

遭難へつながるような、軽微な”ヒヤリハット事件”は、反省を受ける機会がないと、ハインリヒの法則によって、、そのまま、遭難確率を高めるだけの、”ロシアンルーレットの空砲が一つ減っただけの状態”を作り出し、遭難確率はますます高くなります。まさに天国への階段を一つ上がった状態、となります。

このような時勢の中、学習院大学の誠実で、かつ公明正大な姿勢は、模範とすべきで、尊敬に値する素晴らしい行いだと思います。

このように遭難に至った経緯、対策のまとめが、世の中で共有されることこそ、遭難を減らす唯一の手段であると、確信しています。

私は、1年半ほど社会人山岳会に在籍しましたが、大学山岳部で起っている状況は、社会人山岳部と同じである、と思いました。

以下、報告書より、問題点の指摘と対策の抜粋と、当方が社会人にも生かせる学ぶべき点と考えた感想です。

■ 内在していたリスク

問題点1)  知識、経験が秀でている者に判断を任せていた

リスク                             対策
1)自発的に行動することをだんだん疎かに   → 自ら考え・意見を発信する
2)組織としての役割分担ができていなかった  → 役割分担をし、上級生が下級生を指導する

基本的に、社会人山岳会も同じ構図です。依存者が増え、自立した登山者は、むしろ歓迎されない風潮があります。

役割分担も担おうとすると、むしろ煙たがれる傾向があります。特に女性に対してはそうです。

山の良さは、合理性だけで判断して行くことがもっとも安全だという点です。下界の上下や性別は関係ありません。合理的でない場合、その判断には、かならず、影が付きまといます。

山のひとつの良さは、性別・年齢にかかわらず、安全だけを判断の拠り所とすれば、正解が導き出される、ということです。誰が言うかで判断を変えれば、安全が遠のきます。

無理のある山行の指摘をするのは、仲間としての義務ですが、逆に煙たがられた上、参加してもいないのに食当費を請求される経験もあります。

こうしたことは、事実よりむしろ、それを受容する文化が問題です。山は山の合理性だけで判断すべきです。

そもそも、リーダーには盲従し、自立しないことを求める社会的風潮が日本社会自体にあります。意見は歓迎されません。これは、日本社会に特有な文化的な問題があります。

大事なことは、メンバーには、リーダーをサポートしよう、という姿勢が必要、ということです。リーダーだって間違えます。

問題は、誰もサポートしたがらず、サポートされる一方通行を期待する人がほとんどであることです。

問題点2) 山岳部として安全を担保するための考え方を教わっていなかった

1)軽量化を重視し、装備を削った
2)安全性を重視せず、最低限守らなくてはならないルールを軽視していた

これは計画書にある装備を削ったことの反省です。予備の靴下やマット、水を作るための入れ物、満タンのガスカートリッジを持っていなかったことなどが、ビバーク時の不手際へつながり、体力消耗→凍傷のシビア化へつながっています。

最低限、守らなくてはならないルールとは、後述される”目標達成より安全第一”ということです。

個人的には、(何かが起こった時の装備を持っているという事後対策の充実)より、(そのような目に遭わないための予防的対策)により力点をおいて欲しいと思いました。

例をあげれば、ビーコン携帯より、頻繁に雪山に行き、雪崩の知識を持つことです。

問題点3) 上級生の積極的参加意識の低下

リスク                             対策
1)部としての年間目標が腑に落ちていなかった   → 年間目標等の議論徹底
2)山行を漠然とこなしていた               → 毎回の山行の目的を各人が持つ

これは、社会人山岳会では、より一層顕著ではないかと思われます。多忙を背景に、議論する時間がありません。また大学生と違い、議論の土台となる、基礎知識が個人でマチマチで揃っていないため、まともな議論が成り立たず、議論すること、そのものが非常に困難です。そのため、分かっている人の負担が大きすぎ、背負えないかもしれません。

大学生であれば、そうした議論する時間が持てるのは、特権的でさえあるかもしれません。

問題点4) 危険と安全に対する意識が欠如

リスク                       対策
1)危険と安全に対する意識が欠如     → 全員がリスクを主体的に考える

報告書には、”危険と安全に対する意識の欠如が最大の事故原因であると部員は考えている”と書かれています。

つまり、平たく言うと、”慢心”です。「自分はなんとかなる」と山をどこか甘く見ていた、と書かれています。

このような意識の欠如した人材を、依存的登山者と言います。しかし、端的な例で行くと、3年登山をして、地図を読めないのは、完全な依存状態の表明です。危機管理ゼロです。

特にマルチピッチや本チャンなどの”本格的”という形容詞が付く登山をする人にとって、地形図が読めないことは、登山者失格と同じ意味です。

依存者が非依存者に変容するためには、何をしたら良いのでしょうか?学習院大学の学生らは、どのようにかんがえたのでしょうか?以下が対策です。

■ 対策のまとめ

1)机上講習の充実

既に行われている年間15回程度の机上講習をより充実させる。具体的には

・インプットだけでなく、アウトプットを行い、進捗度と定着を図る
遭難事故を学習する機会を設ける
登山の歴史や思想を学ぶ
自分にとって、登山とは何なのかを自主的に考え、山と真摯に向き合う

私は常日頃、個人的に、社会人山岳会に必要なのは、基本的な登山知識の共有だと思っていました。大学山岳部が、年間15回も机上講習していたとは知りませんでした。15回は、すでに非常に多いです。それでも、遭難事故を学ぶ機会がなかったのは、残念ですが、そこいらの登山者より、すでに質の高い教育を受けていると思います。

私は、例会で山行の報告と反省をするのが良いと思います。私自身も、この夏、メンバーの危ない山行計画を見抜けず、ヒヤリハットを経験しました。しかし、それを共有する場はありません。個人の勉強不足を組織でカバーする体制は、もっていないので、それ以来、慎重に参加する山行は選んでいます。

私は個人的には、登山計画は複数のベテランに相談しています。

2)合宿、個人山行のあり方を見直す

合宿では、目標達成より、安全を重視する
・コンパスの使い方や地形図の読み方など基礎的な技術を、各人が身に着け、個人レベルで安全な登山ができる体制を作る
・不足している技術は、積極的にOBに協力を仰ぐ

これは、社会人に置き換えると、合宿山行と言うのは、今ではテント泊ではなく、小屋泊になっていますし、また参加者の減少により、個人山行レベルになっています。強いリーダーがいれば、リーダーにお任せの山行になりがちです。

また地図読みなどの基礎技術をマスターした人とそうでない人、そうしようという意識を持つ人、持たない人のかい離が大きいです。一生ハイキングで良ければ、目的意識を持ちようがありません。
しかし、ハイキングの人にも同じように降りかかってくるのが山の危険です。

ハイキングの人は山を勉強したいとは思わないのが普通ですが、山のリスクをきちんと対策できていないと本来は山に行けません。が、仕方ないから・・・と連れて行く現状があるのは、本人の努力に依存するため(馬を水場に連れて行くことは出来ても、水を飲ませることはできない)、会内では、あきらめムードだからです。

つまり、最低限のリスク対策、地図読みは、教える側が、教わらない側に根負けして、自分でやった方が早い、となります。

また、逆ベクトルですが、陳腐化も起ります。つまり、ベテランには目新しいことがなくツマラナイ、ということです。

山行計画立案や、カモシカ山行、アイゼントレ、滑落停止、初級の岩やスタカットの練習など、技術的にベテランにとっては陳腐化したトレーニング山行も、ベテランにとっては、あまり実行する意味がなく、意味がある初心者は、意識が低いため、めんどくさくてやらない・・・と双方が、多忙を口実に・・・か、どうかは分からないですが、結局のところ、参加者が集まらず不催行、となります。

必要な技術を身についていない人は、山行の内容をきちんと制限する必要があります。
(例:アイゼントレを受けていない人は赤岳不可。)

3)リーダーを務める山行を積極的に行う

・下級生も年に3~4回はリーダーを務める山行を行う
・その際は、計画立案段階で、山行計画の内容を部員全員で検討する

山行は自分で行くのと、連れて行ってもらうのでは大違いですから、これは非常に良い対策だと思います。単独で行くより、簡単な所しか、初心者を連れて行く場合は行けないので、その差も分かるようになると思います。

■ OBOGからみた現状と今後

1)ルート計画時の山域概念の勉強不足
2)予備手袋・靴下等の持参不足
3)下級生の装備チェックをしていないこと

・コンパス・地図の現在地把握不足
・行動記録がない
・部員間のコミュニケーション不足
・緊急時の本部連絡の遅延
・日々のトレーニングでの目標がないこと
・合同トレーニングがない

これらは、社会人山岳会も同じことです。 現在地把握は、GPSにお任せで、紙の地図ではできない → 一般道しか歩けない、となっています。

コミュニケーション不足 → 多忙を口実に例会へ出ない、例会に出ても身のある議論がされない文化

日々のトレーニング → グループ全体としての目標や全体の練習と、基本的に逆のベクトルに、つまり、属人的(個人に任せる)へ移行しようとしていました。それが私の退会の決断の決め手になりました。

・部員からOBへ意見が言いづらい環境
・意見が否定される経験の積み重ね
・OBの指導の俗人化

これはどの山岳会でも言えることではないでしょうか・・・(ため息)。

このような環境下で、属人化を促進すると、会として組織立つことの意味がなくなります。

もとより、同人という組織は、各人が既に自立した登山者であることが前提です。そうでないことが明らかである、平均的山岳会という組織で、属人化を強めると、会の内部での個人差は広がる方向に行き、全体のレベルアップは期待できなくなります。依存は、さらに強まる方向になります。

・OBとの関与の薄さ
・その結果の伝統、知識、経験の伝承がされないこと

これは昨今、社会人が多忙を極め、趣味に割く時間が取れないということは、30年前とは異なる状況であり、仕方のない面があるように思われます。時代の変化ということです。

■ 個人で引き受ける責任

この事故は、私が単独テント泊していた日に、同じ八ヶ岳で起きました。私にとって八ヶ岳は思い入れの大きい山で、雪山で山を始めたため、ステップアップも八ヶ岳です。

バリエーションルートを行くような、本格的な登山者としては、2年目の去年は、ぜひ阿弥陀北陵を登りたいと思う時期でしたが、パートナーの都合により、不参加。そのため、翌週、ソロテント泊で天狗岳に登頂しました。

その同じ日、学習院大学の阿弥陀北稜での遭難事故が発生し、ニュースなどから考察を深めていました。

余談になりますが、社会人山岳会では、予防的対策は、危ないなと思ったら、単純にその山行に行かない、ということです。

敗退を受け入れることができるような、山ヤとしての能力が高い人は、とても少ないので、敗退したくないメンバーが揃っている場合には、山行そのものへ不参加表明すると言うくらいの割り切りが必要です。

しかし、リーダーの判断を待たず、不参加表明することは、嫌われる元です。

しかしながら、嫌われることと自分の凍傷や命のリスクでは、自分で自分の命の責任を持つことの方が、おそらく万人にとって、より重みがあるかもしれません。

それには、あやうきには近寄らず、ということで、退会ということも含まれるかもしれません。

≪当ブログ内での阿弥陀北稜関係、遭難関連の記事≫
スノーバー買いました
八ヶ岳は天候核心
阿弥陀遭難を考える
阿弥陀北陵から学ぶ ベテランとの対話
学習院大学の遭難 推測
阿弥陀遭難 続報
八ヶ岳のバリエーションルート

やりきった感
感情をコントロールできる人がリスクコントロールできる人

8 comments:

  1. ご無沙汰してます。

    ブログ再開したんすね。嬉しいです。

    とか一応、前置きを書いて
    この報告書の入手方法を教えてもらえないですか?
    直接読みたいです。

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    1. そうなんです、復活しました。事故報告書ですが、検索で、すぐに出てきますが、現時点だとこのブログが最初にヒットしますね~ びっくりです。

      http://www.univ.gakushuin.ac.jp/news/2015/0908.html

      に記載があります。この山岳部の指導者の姿勢にすべての岳人は学ぶべきです。

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    2. 早速ご回答くださいまして有難うございます。リンク先のpdfにある宛先に お願いのメールを出してみました。

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    3. いいえ、こちらこそ、いつも閲覧していただき、とても役立つコメントをいただいてうれしく思っています。

      こちらのブログも良く書かれています。
      http://blog.livedoor.jp/mtbphiro/archives/44617721.html

       ・山行計画をきちんと全員で吟味していない

       ・山行中の判断が強気すぎる (他パーティが引き返したのに引き返さない)

       ・事前学習がおろそか

       ・地図が読めない

       ・遭難しているという意識がない

       ・部員が意見を発信できない

       ・全員自立した登山者を目指していない

      などが指摘されています。http://stps2snwmt.blogspot.jp/2015/10/blog-post_9.html

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    4. 別ブログの情報ありがとうございます。
      指摘事項の半分以上は私にも当てはまってる時が多々あります。

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    5. それはみなではないでしょうか・・・ 違いは、それに自覚的であるかそして、反省を込めつつやっているか、それを放置したままいいやと突っ込むか/無自覚につっこむか、その差と思います。

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    6. そうですね。例えば、リーダーは意図的にヤっている もしくは 意図的に ヤってないことで、リスクのある選択していても
      メンバーと そのリスクなどについて共有できていない、、、ということは多々あるのかもしれません。

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    7. それはすごく多いと思います。 

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