Wednesday, November 5, 2014

ルートの選択にみる実力

■ 山ヤの実力は、連れて行くルート選択に現れる

昨日は、地図読みで兜山に行っていたのですが、このルートはとても優れたルートで、「さすがだよなぁ」と思っています。

優れたリーダーの”優秀さ”というのは、ルートの選択にそもそも現れます。

たとえば、このルートは、

  1. 国土地理院の2万5千の地図には掲載の無い登山道がある 
  2. 2万5千の地図には掲載があるが、現在は現地に道がない 
  3. エスケープルートが多い 
  4. 間違ったとしても、一般道にぶつかってしまう 
  5. 樹林帯で危険個所がない

という点で、地図読みの初心者というだけでなく、登山の初心者でもある、と想定される参加者たちに「地図読みも重要なスキルだな」と理解させると言う目的に、非常に合致しています。

■ 連れて行ってくれた人の実力を実感する山

これまでにも、連れて行ってくれた人の実力を実感する山を経験しています。

ルートは性格が色々あります。

 ・ストレニュアス系   危険が大きく神経を使う   北ア的
 ・エンデュアランス系 危険は少ないが長くて持久力を要する  南ア的
 ・テクニカル系     技術が必要。急な下りなど。 
 ・パワー系       肺活量や瞬発力が必要。急な登り、ラッセルなど。

■ 北穂池と前穂北尾根の性格

私はアルパイン一年生です。


  • 本チャンとはどのようなことが核心になりうるのか?
  • ルーファイ核心の本チャンとはどのような山か?


が、分からない。 技術的にはロープワークがつたない、などの問題がありましたが、これは慣れが解決する問題なので、時間の経過が訪れれば、解消されます。(もちろん、内容のある過ごし方をすればですが)

そこで、アルパイン1年生の新人に向けて、会の先輩が連れて行ってくれたのが、北穂池と前穂北尾根でした。

  • 北穂池 → 地図読みで解決できるルートファインディングの山 
  • 前穂北尾根 → 地図読み力では、解決できないルートファインディングの山 

でした。

岩登りにおけるルートファインディング核心とはどういう意味か?も良く分かりました。また本チャンで、長いルートではなくても、前後のアプローチや下山でエンデュアランスで、長くて持久力を要すると体力の貯金が尽きてしまう、ということも分かりました。

このルートを提案してくれた先輩は、山ヤの勘で、北穂池と前穂北尾根を提案してくれたのだと思います。

このコントラストが際立つ2つのルートを同時に選択したとは、素晴らしい!しかも、前穂北尾根の足慣らしにもなります。

さらには、北穂池は通好み、前穂北尾根は日本の代表的なクラシックアルパインですので、ある意味対極。その対比がスゴイです。

私はこの山域では、奥又白池からA沢経由の前穂、明神東稜、北穂東稜など今の実力でも行けそうです。

余談ですが、一つ連れて行ってもらえば、2つ3つ自分で行けるルートを持ち帰ることが重要だと思います。いつまでも連れて行ってもらう気でいるのは良くないことです。

■ 残雪期登山とは何かを教える、西穂高沢

これはゴールデンウィーク前半に行ったのですが、わたしの力にピッタリのルートでした。知る人が少ないルートであることも快適登山につながりました。

また、この時期の雪山登山のタクティックスを教えるのに、最適の山でした。つまり、雪が解けない間に登り切り、柔らかくなった雪をキックステッ
プしながら雪崩れる前に駆け降りる、という山です。

残雪期登山の要諦を教えられる。

一つ経験すれば、この辺のルンゼは、どれも同じパターンで登れそうです。

■ バテないさじ加減絶妙の鳳凰三山

マイナールートを使った鳳凰三山。

登りルートを、ドンドコ沢ではなく、中道にしたもの。この山行は体力的な敷居が高く、距離を短くして正解だった。

またテント泊を小屋泊にしたのも、作戦上、有意義な点だった。体力温存になるからだ。

3人それぞれの得意・不得意が生かされた、チームワークバッチリの山でもあった。

最後は地図読み。

■ 段階を踏んでステップアップの、金ヶ窪沢&広河原沢左俣

これは初心者のルートデビュー向けの考案です。

易しいゲレンデと本番の組み合わせ。無理がない成長を狙っているのが分かります。左俣は、大滝手前まで。

懸垂下降で帰るのは、敗退の練習にもなり、重要な技術を学べます。

■ ツルネ東稜~権現~川俣尾根

これも、冬山初心者向けの本格的な冬山登山を経験させるのに適した選択。

エンデュアランスで体力が必要だが、危険個所はあるも、少ない。また、出合小屋利用で、寒さなどの敷居が低く、冬山登山とはこのようなものか、と入門的に体験させられる。

その上、当時はバリエーションを知らなかったので、『八ヶ岳研究』を読むきっかけにもなった。

■ リスク回避とは何かを教える、タカマタギ

八海山の転進で、タカマタギになったもの。

この日は、豪雪の日で、核心は最後の車の脱出だった。下山したら車の上に1mくらい雪が積もっていた。

この転進は、悪天候での判断を教えるもの。 稜線の山から樹林帯の山への転進で、リスク回避した。このリーダーの判断力の的確さがうかがえる転進先の選択だ。

この転進で、こんなリーダーならついて行きたい!と思った。

リーダーは、仲間を危険にさらす山を選んではいけないのだ。

■ ダメ山行事例

逆に、場所の選択を誤ったのでは?という山行もある。

その1) 昼寝宴会山行?北岳レインジャー

2泊3日もしているのに、ただ大樺雪渓から山頂をぐるっと回って降りただけという…なんとも、もったいない山行。白峰御池小屋に昼寝しに行ったとしか思えない。

私にとっては、たまたま両隣のテントがバットレス挑戦中の知り合いで、人の失敗から学ぶ経験になったので、行ったことは無駄ではない。

ただ山行そのものの質で見ると、良いとは言えなかった。

その2) ぎゃふんと言わせるための沢?!芦川横沢

これは初心者を連れて行く沢でない。・・・ということが、私自身が沢登りを始めて実感中。

ロープワークも知らない初心者を2級の沢に連れて行ったということなんだが、まぁ仕方なかったんだろう。これ、沢登りではなく、敗退の練習に行ったんだしね。

いきなり2級だったのは、ぎゃふんと言わせて、「もう沢なんか行かない!」って言わせる目的だったのだろうか(笑)なんて、振り返って思う。

連れて行ってもらう側の実力から、あまりにかけ離れた山に連れて行くのは、連れて行くリーダーの実力自慢にはなるかもしれないけど、連れて行ってもらう側の人にとっては、あまり良いことのようには思えない。

ただ私には、この山行は岩デビューとして非常にためになった。その上、意外に登れたので自信になった。

その3) ヘッデン下山と依存の、南沢大滝アイスクライミング

初心者同士の顔合わせ的アイスの、ゲレンデだったが、ヘッデン下山になって、ダメ登山の見本になってしまった。

しかも、その後、依存的な登山者を作り出してしまった・・・。単純な厚意で、連れて行ったのだが、連れて行く場合も、人選を間違えないようにしないと、依存者を作り出してしまうということを理解。

ま、失敗は誰にでもあるので、転んでも、ただで起きないのが重要だ。


■ 山に主体的に取り組むべし!

山は、装備を用意することから自己責任。ただし、一回目は除外だ。誰もしも初めての時は、右も左も、意味が分からないのが当然なので・・・。

しかし、そこから自ら何かを得て、何かをつかんでくれる人でないと、継続ができない。

自立という面でも、主体性という意味でも、連れて行く側&行かれる側の、役割固定だと難しい。

山は残念だが人を選ぶ。

主体的な取り組みができない人だと、山を愉しむこと自体が難しくなってくるだろう。

主体的に山に取り組めないような人でも知っているような、有名な山、凄い山は、数年で行き尽くしてしまうからだ。

主体性と言う意味では、後ろを歩くのが好き、と自ら発言することは、山ヤ失格ということを自己宣伝しているにも等しくなってしまう。

■ どこへ行くか?から山は始まっている

「今の自分の実力なら、どこに行くべきか?」

という主体的な思考を欠いた百名山登山は、優れた岳人、山ヤとは対極にある。もちろん、百名山をしていても、目安として使い、主体性のある山をしている人は別だ。

しかし、多くの人は、百名山のスタンプラリーになっている。つまり、収集癖を山に応用しただけということだ。日本の行動経済成長の時代は、まさに積み上げる時代、収集の時代だった。だから、スタンプラリーの人たちの価値観は、できるだけ楽にスタンプラリー(収集)した方が勝ち!みたいになっている…

たとえば、金峰山は深田百名山だが、深田久弥は今は廃道になっている黒平から登り、大弛峠から数時間でピストンしているわけではない。

その大弛峠からのピストンであっても、自らの実力を考慮したうえでの、合理的な選択なのではなく、「近い道があるのに、わざわざ別の道から来るなんてばっかじゃないの~」という思想が、山の良さを分かっていない思想なのだ。平たく言うと。

山の良さは、山頂に至るまでのドラマにある。

何かを達成するにしろ、しないにしろ、そこへ至るプロセスがとても重要で、丁寧にプロセスを過ごすことが、達成感の大きい小さいを決める。

■ 自立、依存、主体性、自律

私は、依存的な人はあまり好きではない。でも人と人は互いに依存しながら暮らしている。それを否定することはできない。依存というのは、一時的な”プロセス”であって恒常的な”状態”ではない。

それで、最近は、依存非依存で切り分けずに、山を愉しむコツは主体性にあるのではないか?と思うようになった。

人に連れて行ってもらう山専門の人は、主体的に山に取り組んでいるとは言えない。誰かの山に便乗しているだけだ。つまり、ちゃっかりしちゃっているのである。

でも、主体的な人は、連れて行ってもらう山にも主体的に取り組んでいるので、そこに一種のずるさがない。

ずっと連れて行ってもらってばかりで、山は相互扶助という、公平性から見て、ずるい人もいる。

■ 体験 → 入門 → 初級 の流れ

私も、いくつか、ガイド登山を経験している。以下は、ツアーに参加したり、ガイドを依頼して、登った山のリストだ。

初年度秋
 西岳   一般登山  ツアー
 三方分山 里山登山 ツアー

初年度
 高川山 地図読み  ツアー
 三つ峠 ガイド顔合わせ 個人ガイド
  富士山 雪訓 個人ガイド
 天狗岳 アイゼンピッケル講習 個人ガイド
 ツルネ東稜 雪稜バリエーション入門 個人ガイド

2年目
 川乗山 地図読み 個人ガイド
 奥多摩 海沢 沢登り ツアー
 岩根山荘 アイスクライミング ツアー
 タカマタギ 冬山講習  
 金峰山 御岳新道 雪稜バリエーション 個人ガイド

3年目
 中津森 地図読み 個人ガイド
 山岳総合センターリーダー講習 
 東沢釜の沢 沢登り 講習会
 黒富士 燕岩岩脈 地図読み 個人ガイド
 富士山 雪訓 講習会
 金ヶ窪沢 アイスクライミング 個人ガイド

4年目
 兜山 地図読み  ツアー

こうしてみると、

  1. 一般登山は、一般登山と里山を一つずつ体験してすぐ離陸。(つまり自分で行く)
  2. 冬山は自分たちである程度ステップアップしてから、技術を入れる
  3. 地図読みはしつこく何度も講習参加
  4. アイスと沢は、体験入門1、初級1で離陸。

という成長のプロセスを経ており、二つの方法論があるのが分かる。


  1. 自分で行けるところまで行ってから、技術を伝授してもらう
  2. 体験→入門→初級→とステップアップしてから自立(離陸)する


外部から得られる助力を自分たちの登山に取り入れるのは必須です。

主体性を持つ、と言っても、独善に陥っては、ダメですから。

岩は、沢やアイスのように、体験→入門→初級のプロセスを経なかった。今となっては陳腐化してしまったが、岩はどこかで苦手な感じがあるのは、そのためかもしれない。

■ 地図読みはマスト

アルパインクライミングに、地図読みはいらないが、地図読みができないアルパインクライマーもいない。

やはり、基本的なステップ、地図が読める、というのは、たとえば沢をする、アイスをするなどのする、しないの好みの問題や、興味のあるなしで、選択する問題ではなく、山のリスクから身を守るために、山ヤ教育には必須の技術なのではないだろうか?

磁北線って何?っていう山ヤがいたら、怖い。

山は危険なのだから、その危険から、自分で身をまもることのできない人は、困る。

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