ノット(ロープの結び目)の選択は、たとえば、有名な事例で、アンザイレンのノットがブーリンからエイトノットに変わったことがあり、古い新しい、で、一刀両断されがちです。が、私は古いか新しいかで議論するのは、本質的でないと思います。
■ 本質的な議論を
私は本質的な議論のポイントは何か?ということを考えると、ラッペル(懸垂下降)時のロープ連結なのですから、優先順位No1は、ほどけないこと、だと思います。
≪ノット選択時の優先順位≫
1)ほどけないこと
2)岩角に引っかからないこと(ノットが上を向くこと&小さいこと)
3)結びやすいこと
4)ほどきやすいこと
ロープ連結ですから、ほどけてしまっては、まったく意味がありません。
2)を ”岩角に引っかからないこと”としたのは、引っかかると、また登り返しになるからです。そして、また違う結びでやり直しになれば、まったく意味がありませんね。登り返しもできなくて、結局、ロープを置いていかなければならなくなり下降できなくなれば、即遭難状態・・・(汗)。
3)を結びやすいこと、としたのは、間違いが怖いからです。
4)をほどきやすいこととしたのは、スピードです。エイトノットは私はほどくのが結構大変です。
でも一番最後なのは、クリティカルな問題ではなく、終わった後のことだからです。
■ エイトノットはほどけるのか?
現在、日本のクライミング界で主流のエイトノットは、ほどけて事故死した事故事例があるため海外では非主流化しており、現在はオーバーハンドノットが主流である、と聞いていましたので、それはどの事故かしら?と調べているんですが、単純なネット検索では見つからないですね。
ここにエイトノットの懸垂で墜落死した例がありますが、パートナーは連結したところを見ていませんのでノットがエイトノットだったのかどうか分かりません。
追記: エイトノットが反転してほどけた事故はUIAAなど権威ある山岳団体で共通に認識されていることが書かれたNET情報があります(出典先がリンク切れにより確認できず)。エイトノットはほどけた事故が過去にあることを認識して使いましょう!!!
この事例は2003年5月21日の事例で、ユタ州の国立公園で8年のキャリアがあるクライマー35歳が墜死しています。
この事例では、
・末端がどれだけ長かったのか?
・きちんと締めたのか?
・末端処理(バックアップ)はあったのか?
の2つは検証できていません。
ロープの基本として、
・結び目をきちんと締め上げること
・力がかかる方向に引っ張ってみて、結び目を確認すること
・十分に末端が長いこと
・末端処理(バックアップ)を取ること
が、ほどけない結び目を作る際の基本のキです。 締め上げもしないで、結び目の種類の優劣を言っても仕方ありません。締め上げなければ、どんなノットだってほどけます。
これが末端を束ねたエイトノット。
末端は短すぎます、写真の都合です。
ロープ径の7~10倍くらい残すことになっています。
このロープは8ミリですので、
8cm残すべきですが、もっとあっても良いと思います。
映らないので、短くしています。
要は、インラインにしたとき(つまりロープを上下に引っ張った時)
に 結び目が移動しても、ほどけ切らない末端の長さが必要です。
ロープが引かれる方向に引っ張ってみる。
エイトノットはこんなに丸まって小さなノットになってしまいました。
これはオーバーハンドバイトです。
普通の一重結びなので、
カンタンすぎて拍子抜けです。
もしかすると、それが人気がない理由かもしれません(笑)。
ペツルのテクニカル情報もこれです。
インラインにして、結び目を割ると、こんな感じです。
ノットのサイズとしてそんなにエイトノットと変わるか?というと、変わらないかもしれません。
オーバーハンドバイト 2個 |
オーバーハンドバイト 2個
で習いました。
これです。
2個目は、バックアップです。
同じようにインラインにしてみると、
結び目、デカい!
バルキーな結び目は、引っかかりやすい。
ただ、オーバーハンドバイトの2個目のノットはバックアップ、です。
なので、バックアップはこのようにするのが正しいそうです。
一本の末端に もう一回バックアップノットを取る。
これも、インラインにしてみると、こうなります。
■ ノットの小ささ
ほどけない次に重要なのは、
・ノットが上を向くこと
・小さいこと
です。それはロープを使う状況が、基本的に山の中で、岩の間に引っかかって困った事態に陥らないためです。
ノットが上を向く、と岩角にひっかからないワケです。 なので上を向かない、ダブルフィッシャーマンや対面のエイトノットは失格になります。 ロープが結び目で擦れて、とても痛むのだそうです。
が、ノット選択肢の優先順位が異なるケース、たとえば3人分の荷重がかかる、などのケースでは今でもダブルフィッシャーマンだそうです。
強固で外れないほうが結び目が引っかからなかったり、ほどきやすかったりする必要より、格段に大きいからですね。
このおじさんのビデオが分かりやすいです。
このおじさんはどうも、アメリカ版の泥臭い山ヤらしく、そもそも論として、懸垂下降は出来るだけ避けるように、と言っているのが好感です。懸垂しなくて済むなら、しないで、歩けるときは歩いて降りろだそうです。こういう発言が、リアルな山屋らしくて好感♪ アメリカ版KamoGさんって感じです。
Climbing Tools: Rappel safety-Part 1-What Knot to Tye
私は実験では同じ系のロープの末端を結んでいます。これはバルキーか、どうかを比較するため。
この例では、
エイトノットとオーバーハンドバイトはバックアップなし、なら、どちらも同じくらいの大きさ。
それにオーバーハンド2個にしてしまったら、結び目が小さいというメリットは帳消し。
■ 系の違うロープで
ほとんどの懸垂下降では、径の違うロープを束ねます。
なので違う径でやってみました。
違う径のオーバーハンドバイト。
これもさらに径の差が大きい場合。
バックアップを細いほうに作った場合。
径が違う場合は、オーバーハンドバイトはダメ、
とする海外の記事もあります。
細いほうに取ったのは、径が細いほうが太いほうに締るのは、プルージックでよく分かるからです。
ほどけると困るので、細いほうにほどけ止めでバックアップを取ったところ。
細いほうが閉まりやすいので、締って固くなり、太いほうが抜けるということは考えにくいかと思います。
ただ締れば、解除はしづらくなります。
■ 結びやすく、ほどきやすい
やっとほどけないノットということで、エイトノットとオーバーハンドバイト、オーバーハンドでもほどけないという確信がそろそろ持ててきたところで、やっと、ほどきやすさと結びやすさの問題になります。
結びやすさは、慣れていることが大前提です。
エイトノットの良いのは結びの間違いのチェックがしやすいこと。「2本、2本、2本」とチェックします。
オーバーハンドノットの良いのは、間違いようのない単純なノットだと言うことです。
ほどけやすさについては、どっちもどっちなのかな? 確実にほどけないことを目指すなら、ノットが大きくても、ダブルかトリプルのフィッシャーマンズノットとなるでしょう。
■ ベストプラクティスを自分なりに模索しましょう
やっとここまで来たところで、海外のメーカーが出しているビデオを紹介します。
ニューイングランドロープ、ワイルドカントリー、レッドチリ、バーティカルガールズ、という企業名がみえますので、企業として推奨するやり方だと思うので、ある程度、責任を持ってくれているやり方だと思います。
これでは、
1)末端(Tail)を長く伸ばし
2)よく締め上げた (Well dressed)
オーバーハンドバイト
で、 さらに、すっぽ抜け防止は、末端それぞれに、3重のオーバーハンド(トリプルベイルノット)です。
私は末端のすっぽ抜け防止はシングルのオーバーハンドで習いました。
■ 余談
オーバーハンドノットは、European Death Knot (ヨーロッパ人の死の結び目)と言われるそうです。(※エイトノットではないか?という指摘がありましたが、ビデオではやっぱり2つともオーバーハンドノットをデスノットと言っています・・・)
というのは、結び目が、動いて終に末端まで行ってしまった、という事故があったから、とビデオでは言っています。
末端(Tail)を長く伸ばすことで、不安は解消できるそうです。 オーバーハンドのメリットは、やはり引っかかりにくいことです。
ただよく締めて丸めたエイトなら、余り変わらないかも?
■ ポイント
個人で自分がどうしようか、と言う場合ですが
1)よくよく自分で考えて選択し
2)選択したら、その結び目に習熟する
ということが大事だと思います。
くれぐれも、
・テイルを長く残す
・よく締め上げる
・インラインに引っ張ってみて、結び目が動かないことを確認する
などの、より重要で基礎的ポイントを見逃さないことが大事です。 それと
基礎を習慣化すること。
ただしバックアップを3つも取ったりすると、それが岩のクラックに引っかかったりして、用心深さが仇になることも考えられますので、
安心を増加させているつもりで、危険を増加させていないか?
と常に自分に問いかけることも重要ですね。
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