■ どこから下山遅れか?
山岳会のもっとも重要な機能は、
山行管理
だと言われている。 どういう意味か?と言うと、
帰ってこなかったら遭難と認知してくれる、
と言う意味だ。
ところが困るのが、
下山連絡がめんどくさい、
こと。 これが嫌で、山岳会に入らない若い人は多い。山で怖い目に遭ったことがないと、たぶん、探しに来てもらえないかも?という不安は一生分からないに違いない。ちなみに私もビバーク経験はない。
■ 下山遅れと遭難の切り分け
それはともかく、待たされる側になると、困るのは、下山遅れだ。
下山が遅れているだけなのか?それとも、本当の遭難なのか?
そこが分からないと、捜索開始すべきなのか?そうでないのか?分からない。
■ 夫の心配
先日は、15時下山完了のところ、下山連絡を夫に入れたのが、21時過ぎ。
普段 (夕方、遅くとも19時ごろには連絡) → 先日 (21時)
これには、彼もびっくりしたようだ。
実は下山した尾根の末端(17時)でも携帯電話はつながらず、2時間の林道歩き中もつながらず(19時)、車回収の2時間の待ち時間でもつながらなかった(21時)ので、車に乗ってすぐ下山連絡したら、そうなってしまった・・・。
したがって、夫は、「ただいま!」と帰ってくると思っている時間に「今、下山した!」と言われ、面食らっていた。
そりゃそうだよな~ 夫を責めるわけには行かない。
■ 下山遅れ通知を何時に設定すべきか?
そこで、安全登山にとって最大の課題となるのは、
下山遅れ通知を何時に設定すべきか?
ということだ。
ヤマレコでは、下山遅れ通知システムを使うことができる。
この時間を過ぎたら、下山遅れという下山遅れの時間を設定することができる。
しかし、問題は、何時間の遅れを下山遅れ通知の時間と設定すべきか?ということだ。
■ 山の掟
最低限明らかな所から、出発すると・・・
「日没前に下山を終える計画を立てる」
が、山の掟、だ。 ここで足並みがそろわない山ヤはいない。
ところが、どの地点を”下山”と解釈するか?の解釈は大いに違うことが起りうる。
≪下山の解釈≫
あ) 尾根の末端
い) 林道歩きが終わった地点
う) 携帯電話の電波が入る安全圏
他にも、小屋がアタック基地になっているようなロケーションでは、小屋も下山地点とみなされるかもしれない。小屋まではアプローチ、という認識になるからだ。暗くなる前に小屋に入りましょう、と小屋も言っている。
例えば、上高地から、涸沢へ入り、北穂に登るとする。 どこが下山ポイントだろうか?
A) ベースの涸沢
B) 横尾からは車道なので、横尾
C) 上高地バスターミナル
の3パターンくらいは、容易に考え付く。意見は様々だろう。
ここで、何が安全か?の議論は難しい。
しかし、安全な順に並べなさい、と指示されたら、100人が同じ順番になる。つまり、
安全 → より一層安全
A)<B)<C)
の順で、より安全だ。これは間違えようがない。同じことが、あ)い)う)にも言える。
安全 → より一層安全
あ)<い)<う)
■ 歩行終了、という観点で切り分ける案
登山者の率直な気持ちとして、電車に乗れば一安心、とか、車に着いたら一安心、ということがある。もう歩かないからだ。
歩く=登山、という認識だ。つまり
・車を降りて歩き出し=登山、
・車に乗っている区間=アプローチ
この案で行くと、車を使う訳でない林道歩きは、非アプローチであり、登山の中に含まれる。
下山口を林道ゲートとしていれば、日没前に、林道歩きを終わり、車の前に着いていなくてはならない。
車が置いてあるポイントを下山口とするのは、非常に明快な分け方に思える。車というポイントに固定されるから、誰にとっても分かりやすい。
■ 駅
一方、電車派の人は、街灯がある街中の道でも、歩かねばならず、昨今は、山間部は過疎化が進み、下界と言えども、SOSが聞き届けられる環境か?つまり携帯が入るか?というと怪しい。
SOSが聞き届けられる環境か?どうか?ということは、単純な1点にかかっている。
携帯電話が通じるかどうか?だ。
しかし、携帯電話が通じる地点で下山完了とするのは、あまり現実的でない。携帯電波が入る場所が事前に特定できないし、キャリアによっても違うからだ。
電車はの人は、おそらく遅くとも、駅に着いたら、家に電話を入れるであろう。
■ 携帯が通じる時刻を想定する案
通常は、車に乗るのであれば、車で走り始めて、1時間以内程度には、携帯電波が届く範囲にいるだろう・・・
下山完了時刻 + 1時間 = 推定 下山連絡時刻
つまり、林道ゲート15時であれば、
15時 + 1時間 = 16時ごろ 下山連絡
となる。 大体、私の場合は、このような下山連絡時間で、今まで来ている。会に属していたときも、うっかり忘れたりしても、遅くとも19時くらいには、下山連絡をしていた。
■ 緊迫性の検討
雪山で遭難した場合、一泊のビバークは、生死を左右する。
学習院大学の阿弥陀岳での遭難では、ワンビバーク後、パーティが分かれ、1日遅れの阿弥陀山頂から、下山したメンバーが残りのメンバーが下山してこないのを通報した。
メンバーが業者小屋テントに帰還した時刻 18:00
他のメンバーの下山遅れが心配になった時刻 19:45
外部と連絡が取れた時間 21:40
救助要請 23:06
実に救助要請まで、5時間かかっている。今回の下山遅れ時間と同じくらいの時間だ。
日本では夜間救助はないので、例え18:00に救助要請したとしても、もうワンビバークは避けられない。
ということは、雪の山では、当日に救助開始される下山遅れは、何時になるのだろうか?
山小屋では14時には小屋に入ってしまうんだが、テント泊では14時行動終了では、寒くて、ちょっとしんどいかもしれない。
もちろん、夏山や秋山では、雪山と同じ緊迫性はない。真夏なら一晩ビバークしても、死に至ることはめったにない。
しかし、下山連絡の緊迫性が
緊迫性 低い → 高い
夏山 <春山 < 秋山 <冬山
の順であることに、異議を唱える人は、珍しいであろう。
つまり、夏山より春山が春山より秋山が秋山より冬山がより切迫している、ということだ。
■ 予備体力
予備体力と言うのは、普通に歩く体力とは違う、ピンチの時の体力のことだ。
予備体力は、20代で通常の4倍、40代で2倍、60代になると1倍と言われている。これも絶対的な体力の予備は、各個人によって異なるが、
予備体力 高い → 低い
20代 > 40代 > 60代
であることに異議を唱える人は少ないだろう・・・。
■ 山のスタイル
どこを下山と解釈するか?ということは、実は山のスタイルと密接に結びついているかもしれない。
アルパインスタイルは、山頂にちょっとタッチして、さっさと山を下りてしまうので、せわしない登山として、よく山旅派の人から非難を浴びている。もっと山を味わったら?という訳だ。
たしかに、その指摘も良く分かる。しかし、それは、アルパインの人が目指している山が、山旅派の人が目指している山とは、まったく危険の度合いが異なるからだ。
山の隔絶度 (安全圏から遠い山・携帯電話が入らない山)
山の困難度 (転滑落リスクがある山、バリエーション)
が高い山がアルパインの山で、
山の隔絶度が低い = ゲレンデ
山の困難度が低い = 一般ルート
となっている。
登山の初心者は、転滑落リスクを取ることができないので、勢い、転滑落リスクがない、バリエーションルートを目指すことになると、山の隔絶度が高いところが必然的に残る。
高齢者も同じで、転滑落リスクを最小化したバリエーションルートを目指すことになり、それは、山の隔絶度が高い、ということになる。
山の隔絶度が高い場合、万が一がより許されないのは、予備体力がより少ない、とされるほうだ。
■ まとめ
鉄則: 日没までに下山完了
要素:
(安全) → (より安全)
尾根末端 < 林道ゲート < 携帯の電波圏
涸沢 < 横尾 < 上高地
(緊迫性 低い) → (高い)
夏山 <春山 < 秋山 <冬山
(予備体力 高い) → (低い)
20代 > 40代 > 60代
(下山連絡時間) = (下山時間) + (1時間)
これらを組み合わせると、落としどころが見えてくるのではないだろうか?
≪参考≫
下山遅れ事例 三嶺下山遅れ
教訓が書かれている
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