Sunday, November 8, 2015

鎌崩

■ 「ないな・・・」

懸垂で下りてみないと開けてこない景色がある・・・ 懸垂で降りて、その次のピッチを見た瞬間、「ないな」と思った。

この”ないな”には、

 ・”このメンバーでは、ないな” と、
 ・”この時間からでは、ないな” が、

含まれていた。ついでに言うと、”行きたいか”と聞かれたら、”行きたくない”、の”ないな”も含まれている。(判断の条件: メンバー構成、時間、意思)

■ ガレ場の底巻き

上部のガレ
http://gooday.exblog.jp/6085152より引用
笹が覆う樹林の尾根を下へ下へ下ると、上部で大きくガレていたガレ場は、だんだん先細りになる。

ガレの末端で、隣の尾根に移れば、ガレをトラバースする必要はなくなる。しかし、隣の尾根に移動しても、その次のガレ末端へ届いていて、そこでトラバースできなければ、同じことだ。

鎌ナギの底巻き・・・トラバース地点と思える場所に着いたときには、時間は既に11:30だった。

8時に稜線上のガレ開始点にいたから、取り付きまでに、すでに3時間半を要していたことになる。

■ 一瞬の合意

「リーダーが降りてこないと、話にならないから、降りてきて」

「でも、半マストを教えないといけないから、降りていけない」

敗退濃厚なのに、リーダーが降りてこない。降りても、次のピッチは明らかに ”ない”。

今、半マストを習っている、一番弱いメンバーにとっては、特に絶対にない。 

そのピッチから下は、ザレと灌木がところどころにあるガレ場の末端だった。

ロープは、細引きとのコンビネーションで、20mの下りが精いっぱい。50m降りるにも、2ピッチだ。しかも、メンバーはクライミングには不慣れでロープワークは全くの初心者が含まれている。

クライミングをするメンバーも、ロープワークはセカンドだから慣れてはいない。ロープワークをならっている人も、ほとんどクライミングをしないから、復習をしないと思いだせないだろう。

メンバーの一人が降りてきた。

私がセルフを取っている場所は不安定で、一人分の足場が精いっぱいなので、別の立てる位置で、立派な立木があるところに、行ってもらう。

もう一人のメンバーが降りてきた。ロープが出る山はしないが、経験の長いベテランだ。下を見た瞬間、何も言わずに分かってくれた。 

「ない」

状況は、見れば、明らかだった。

リーダーは、あと数ピッチ降りて、二つ隣の尾根を上がろう!という。すでに150m降りているから、300m降りることになる。二つ隣の尾根から稜線まで登り返すとなると、山ひとつ登るのと同じことになる。2~3時間は登りにかかるだろう。

現在 12時近く・・・・

メンバーは7人と多く、しかも、ロープワークは、前述のように初心者揃いだ。

セカンド専門の人はいるが、つるべ程度でも、自分がロープワークの主導権を持って行動できる人は、3名だけだ。1名は完全に半マストから教えないといけない。

ここから下に行くって言うのは、絶対”ない”と確信した。

行ったら、確実にビバークになる。運が悪ければ、落ちて怪我をする人が出るだろう。クライマーでも行かないような場所なのだから。

すでに駅ビバークを含み、3番目の山の夜を過ごしており、食料はほとんど消費済み。水も消費が激しい。

「ここは敗退して、稜線に上がり、エスケープルートで山を下りる」と上に叫ぶ。

「それはあなたの意見でしょう!二つ向こうの尾根を登る!」

明らかに気分を害した声が返ってきた。

でも、気分を害しようが何だろうが、それはできない相談だ。いくらリーダーが行くと言っても、歩くのは自分だ。

できないことはできないし、したくないことはしたくない。メンバーの構成を見ても、どう欲目に見ても、不可能、だった。

■ 実績と想定している実力のかい離

そもそも、危険個所のない、アップダウンの緩やかな、初級の地図読みルートも満足には歩けていない。

そこのところの現実認識が、そもそも違うようだった。

ただし、リーダーの正義のために一言、言っておくと、計画自体は、大変弱気だった。非常に適切に配慮された弱気の計画だと思った。

しかも、ここまでの縦走路は、危険個所は一切なく、地図読みさえできれば、たのしく笹をかき分けて歩くだけだった。

笹の中には、鹿道が出来ており、笹なので転んだところで、ふんわり転ぶだけ。だから危険はほとんどない。

基本的に、ピークとコルをつなぎ、稜線伝いに行くだけでよく、読図山行としては、いたって初級のルートだった。

アップダウンも少なく、距離、標高差から見ても、弱気の計画が立ててあった。

問題点は、計画ではなく、その弱気の計画にも遅れているという実績のほうだ。判断の根拠は実績ベースにしないといけない。

■ 弱気の計画

一日の行動距離が、6.3km、標高差750の山は、小さい山だ。

一日の行動が、12kmであっても、標高差1350を下るだけなら、やっぱり体力度としては小さい山だ。

一般に標高差300を1時間で登る、が山の常識だ。だから、標高差750mは、2時間ちょっと、という話になる。

もちろん、標高差の内容も色々あり、激藪だと標高差100に一時間かかったりする。障害物の有無が大きな分かれ目だ。

しかし、ポイントは、易しい山かどうかと言うことではなく、十分弱気に作られたルートも、標準的だろうと思われるコースタイムでは歩けていない、という現実のほうだ。

つまり、実力は、以下を一日8時間という普通のコースタイムでは歩けない、ということだ。

1日目: 距離 6.3km  標高差 750m
2日目: 距離 7.2km  標高差 800m 下400登400
3日目: 距離 12km   標高差 1350m ほぼ下

つまり、計画が想定しているよりも、”パーティ全体の実力”は下ということだ。

その実力で行くには、眼下に広がる景色は、一切無理、だった。

鎌ナギは、健脚者のうちでも、本チャンに通い、その本チャンの中でも、支点がプアである、という悪場を数こなしているような人が行くべきルートだ。

■ 危険で脆い場所へわざわざ行かなくても・・・

しかし、なぜ人はこの鎌ナギのようなところに行きたいのだろう???

岩が好きな人は、岩登りの体感感覚が好きなのだと分かる。体重移動が結構面白い。

でも岩場には支点が整備されており、落ちたとしても、ビレイがきちんとしていれば、ロープで止まる。

本チャンの岩場は、大変危険だと言われている。ところが、本チャンの岩場には、トポがあるし、残置の支点があるから、それが目安になる。

脆くて、次から次に崩れてくるようなガレをなぜ、命の危険を冒して行くのだろうか?

Rグレードというものがある。 RはランナウトのRだ。ランナウトと言うのは落ちたら、地面に激突するよ、と言う意味だ。ロープの意味がなく、リスクが高い。

Xグレードというものがある。脆いなど条件が悪くて、プロテクションが取れないという意味だ。つまり、命がけ。

結局、支点が整備されておらず、立木もなく、、ガレガレで、脆く、頭上に落石要素を抱える場所というのは、RとXが両方あるような状態だ。

一体、どうリスク回避すればいいのか?

こんなところ、わざわざ行かなくても、十分山は楽しい、と思った。

■ 成長志向 は 強気ではない

私は、成長志向だが、自らリスクを追い求める登山はしていない。

私が追い求めているのは、自分が山に対しての対応力と理解力を広げることだ。

(成長志向であること)(自らの限界を伸ばすタイプであること) と、(強気の判断をする)ことは違う。

今この時間で、とか 今このメンバーで、という条件を抜いたとしても、そこを行く判断はないと思った。

かなりのクライミング経験と、穂高などの整備された岩場ではない、手つかずの自然の岩場という現場の数をこなした経験者のみが行くことを許される場所が鎌ナギだ。

腕に覚えのある人のみが、腕試しに行ってください。

足元の岩が崩れたり、頭上から岩が降ってきても、保障の限りではなく、支点も心細いです。



※後日談: 鎌崩へ行ったことのある人の弁

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鎌崩を300mほど巻き下がって登り返したことがありますが、かなり大 変だったそうです。 
過去、死亡事故も起きているため、鎌崩は要注意です。 
脆い鎌崩に行くにはそれなりの力量のあったパーティーで行くべきでしょう。でなけ れば滑落事故や遭難になることが予想されます。
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≪関連記事≫
鎌崩死亡事故例
静岡県警のサイト 鎌ナギの通行は遠慮するように書いてあった(汗)。

今回私は、計画書にある”念のためザイル使用”を信頼して、調べないで行きました。

その自分自身を反省中です。

いくら信頼しているリーダーでも、すべてを知っているわけではありません。

メンバー一人一人が、山行計画に対して、きっちり行けるか行けないか?の判断をしないと、知らずに、命の危険があるところにウッカリ足を踏み入れてしまいます。



※岳人2006年7月号に記載あり

≪概要≫
深南部の核心部です。この山域は笹薮歩きが好きな方におススメです。
奈良代山~黒沢山の稜線と不動岳~丸盆山の稜線を、六呂場山でつなぎます。
区間1: 奈良代山~黒沢山 ラクラク笹薮歩き ただし黒沢山は地図読み上級
区間2: 黒沢山~六ロ場山経由~鹿の平 明瞭な尾根とコルの縦走路 地図読み初級、水場へ降りると+40分
区間3:不動岳~鎌ナギ&丸盆岳経由~戸中山林道 上級者のみに許されるルート
    核心部は鎌ナギ。通過できない場合は、鎌ナギ尾根で戸中山林道へ

区間3が核心部です。鎌ナギは記録が少なく、う回路の取り付きが不明瞭。今回のGPSログは、そのう回路の核心部のみをUPしました。ここはガレたルンゼのトラバースなので、頭上に落石要素を多く抱えます。ヘルメットがあった方が良いです。

また、ロープワーク必携で、メンバーも厳選の必要があります。初めてロープワークに触れる人が行くところではありません。”稜線の両側が崩落して鎌のようにナイフリッジとなっており、しかも足場は脆い状態”です。過去に死亡事故が遭った場所ですので、命知らずな方のみ挑戦してください。

≪適期≫夏はヒル、冬は林道が雪道 晩秋がベストシーズンと思われます。
≪プランニング≫ 
1)鎌崩を通過せず見るだけにし、鎌なぎ尾根で下るプランは、ザイル不要。
2)鎌なぎ通過の場合は、底まきかリッジ通過かによって装備を変えること。底巻きの場合でも、重装備や疲労を伴った条件を避け、ロープは8mm×30mを持参、ヘルメット持参し、メンバーをバランス感覚に熟練したメンバーに厳選のこと。底巻きでも、少人数で通過しなくてはザイルが要る場所は予想以上に時間がかかる。南下より北上がルートが分かりやすいため、鎌崩を初日とすべき。登り上げには体力が必要なので体力面も考慮のこと。
3)リッジ通貨の場合は、脆く支点は取れないので、エキスパートの領域。




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