Tuesday, November 10, 2015

その山に行くために、今の自分に何が必要か?

■ 嫁入り支度

山岳会に入会する前、師匠は私を、今後アルパインクライミングにつながっていくような、それでいて、一般登山に毛が生えた程度の技術と体力でいけるような、初級以前、いわば、アルパイン0.5というようなルートに連れて行ってくれた。

嫁入り支度、というわけだ。

阿弥陀中央稜、甲斐駒黒戸尾根、河原木場沢醤油樽の滝、などだ。いずれも、ロープを出すのは、一瞬であり、体力が一般登山者の上級クラスであれば、誰でも行ける。しかし、山岳会の山行記録に記載しても恥ずかしくない、れっきとしたバリエーションルートだ。

ところが、困ったのは、山岳会に入会したら、そうしたルートに連れて行こう!と思っても、連れて行ける人材がいないことだった。

■ 例えば・・・

去年は11月に、アルパインクライマーの天野和明さんの地図読み講習が、格安でICIで開催された。

たったの4000円。もうこれは地元への恩返し山行としか思えない山行だったが、山梨県の山岳会の人は、せっかく優秀な人から学べる機会なのに、誰も来ていないようだった。リーダークラスの人も皆無。

私は、こんなお得な講習、見逃したらもったいないと思って、出たので、会には、伝達講習を行った。

ところが、困ったのは、まだ地図読みが身についていないIさんのための伝達講習なのに、そのIさんの学習チャンスを、すでに身についているFさんが、これ見よがしに奪ってしまうことだった。

山行では、一番弱い人を中心に行動を立てるという、山の行動規範が身についていないのだった。

そのため、肝心のIさんには、地図読みの基本については、何も身に付かず、その山行は、Fさんが「ちゃんと分かっていてすごいね~」と言われるためにある山行になってしまった。でも、登山歴30年なのだから、分かっているのは当然で、それよりIさんに分かってもらう方を中心にすべきだった。

その数か月後、月例山行担当が私の番になった。

私はアイスクライミングの初級ルート、広河原沢左俣に行きたかった。そこは初級で、まったくアイスが初めての初年度でも、フリーソロで抜けた滝があるくらい易しい。入門ルートだ。リードは一回しかさせてもらえなかったが、2年目であれば、難しい滝は、先輩にお任せするとしても、つるべで行くか所を一か所くらいは増やせそうだった。

ところが、募集メンバーを想起してみると・・・これが実現が難しい。

過去に行った時は、一日目は、もっとカンタンなゲレンデで、マルチピッチの手順のおさらいと、ショートピッチの登攀をトップロープで繰り返して、クライミング慣れしてから、出かけた。

つまり、本番に行く前に

 1)マルチピッチのシステムが完全にきちんと分かっているかおさらい
 2)登攀力が十分か練習
 3)冬向けのウエアリングなど基本ができているか確認
 4)装備不備がないか確認

と、ゲレンデで、安全を確認しないといけないのだ。 1)~4)が出来ていることが前提でないと、外的危険が大きいため、ルート(=本番)には、連れて行けない。

想定していたメンバーは、SさんとRさんだった。

Sさんは、マルチピッチのシステムがわかっているかどうか不明。
Rさんは、全く分かっていないようだから、たぶんセカンドしか無理。

となると、お目付け役の先輩を入れて、4人となる。すると、通常のように、2パーティでのつるべにすると危険だ。

トップによく分かっている先輩に行ってもらい、しんがりは、次によく分かっている私が勤める。間に二人には入ってもらうとなると、4人のロープワークは、通常のマルチピッチよりも、うんと複雑なものとなってしまう。(3人ならカンタンなのだが・・・)

いろいろと、ベテランに相談した結果、このメンバーでは、広河原沢左俣へいくのは、まだ時期尚早、無理だろうという結論になった。

つまり、先輩と私の2人だけだったら行けたのだが、他のメンバーを入れると、行くことができないのだった。

単純な理解不足のためだ。体力なんて二人の方が男性だから私よりよほどあるのだ。まぁその時点で行くという参加表明は出ていなかったので、先輩と二人で行けば良かったのだが、それでは個人山行で会山行ではなくなってしまう。

それで、仕方なく、場所を河原木場沢の方に変更した。

ここは、アイスクライミングのスキルは、行くだけなら不必要で、2~3時間歩いた先に、見事な滝があり、それが登れる。ここなら、アイスをしたい人だけが、ちょこっとして、他の人は滝見見物でちょうど良い。

しかし、真っ先に参加表明してくれたIさん・・・ 最初に浮かんだのは、”Iさんが履いている名門靴屋の革靴は、どのくらい防水性能があるのだろうか?”という事だった・・・(--;)

Iさんは、靴がいつも無雪期と同じ革靴なのだ。いわゆる冬靴ではない。

河原木場沢は、無雪期は遊歩道が整備されている場所で、積雪期は入る人が、ほとんどおらず静かで良い場所だが、いくら遊歩道と言っても、多少のラッセルが必要で、ワカンがいる。

踏み外したら、・・・そして、踏み外すことなど冬の河原歩きでは良くあることだが・・・ 水の中に足をドボンしてしまう・・・。一般的な冬靴なら、多少ドボンしても浸透しない。

革ぐつ・・・。もしドボンしたら? 場所はいくら簡単な所とはいえ、八ヶ岳。凍傷の危険は常にある。ラッセルも沢筋だから、当然、尾根よりは深い。参加表明している女性は60代で鼻からラッセルを自分でする気はなさそうだったし・・・となるとラッセル機関車は私一人だ。

先輩は河原木場沢なら来ないというし・・・万が一になった時、彼女を背負えるか?自分より重い人は背負えないのが人間のセオリーなので、無理・・・だった。

・・・という思考回路を経て、河原木場沢は没にした。 

では、何をすべきか?と考えると、山行は、一番弱いメンバーに合わせる、という大原則から考えると、一番すべきことは、やっぱり地図読みだった。

なので、雪の里山の地図読み山行をすることになった。

これには、雪山得意の先輩が、場所の提案をしてくれた。私は低山の地図読みができるような里山の雪山のネタがなかったからだ。

せっかく先輩が協力してくれることとなったので、地図をもってくるという最低限のことを身に着けてもらうために、地図を持ってこない人が一人でもいた時点で、駐車場解散にする、と最初に宣言しておいた。それはIさん以外は誰もいないのは明白だったので、必然的にIさんのことだった。

そこまでして、地図を持ってこないなら、もう救いようがない。

この山行は不安だったので、地図読み大得意で雪道運転もお願いできる夫に助っ人をお願いした。サブリーダーが私にだって必要だ。(ところが、夫は当日、体調が悪く、熱を出してしまって、むしろ戦力外だった・・・)

これはベテラン先輩が介添えしてくれたこともあり、無事、成功。

この山行は、山行する以前に、単純にIさんが地図を持ってきただけで99%成功だった。その一つさえ身に着けてくれれば、目的の99%は達成で、後のことはどうでもよかったのだ。

それほど、地図を持ってくる、ということは山の基本だ。

・・・という山が、私の月例山行だった。このとき介添えしてくれた先輩には、とても感謝している。

また、私が会にしてもらった恩の一つは、これで返せたと考えている。

なにしろ、会に3年以上いて、2万5千の地図の入手先も知らない人を一人底上げしたのだから!

■ 連れて行きたくても連れて行けないんです

地図を持ってこない人が一人参加者にいると、地図を持ってこなくてもいける山(=一般ルート)にしか、その人が参加する限り、永遠に行けない。

マルチピッチを分かっていない人が、参加者にいると、マルチピッチが分かっていなくてもいける山(=ゲレンデのトップロープクライミング)にしか、その人が参加する限り、永遠に行けない。

講習的な山行を嫌う人は多い。

しかし、地図読み山行や、岩トレ的な易しい岩場でのマルチピッチのおさらいを拒んでいると、楽しい本番の山には、いつまでたっても、連れて行きたくても連れて行けない。

いつまでたっても、その本番に必要なスキルが身に付かず、その人が考えるような、凄い山、楽しい山、には、連れて行きたくても、未来永劫、永遠に連れていけない。

それは、雪上訓練でも、岩トレでも、夜間歩行でも、歩荷負担でも、テント泊技術でも、パッキングでも、あるくだけの歩行技術でも、あるいは基本的な装備の不備でも、同じことで、マスターしてくれないと、連れて行く側が、どんなに連れて行きたくても、連れて行けないのだ。

読図ができないと、沢には行けない。
冬靴がないと、八ヶ岳には行けない。
読図ができないと、深南部には行けない。
ビレイができないと、岩には連れて行けない。
懸垂下降ができないと、ルートには行けない。
人工壁でリードフォローの練習をしてくれないと、マルチには連れて行けない。
ダブルのロープを1本はもっていないと、つるべでルートに行くことはできない。
最低12kg10時間は歩けないと山岳会が行く山には行けない。
雪の赤岳に自力登山ができないとバリエーションには初級でも連れて行けない。

だから、山に行きたいなら、観念して、マスターすべきことはマスターしなくてはいけない。

何ができたら、どこにいって良いのか?教えてくれる人が良い先輩だ。

例えば、私はこのブログを通じて、だが、北岳バットレス第四尾根に行ける自分になるには、最低三つ峠のマルチピッチが12~3ピッチは余裕でこなせるようにならなければならない、と教わった。

そうすることで、山、という活動に、目標、が与えられる。

目標不在の山は、何も楽しくない。小さくても、自分なりの目標をもって、それを到達することが、山の楽しみなのだから。

木漏れ日に囲まれて、のんびりお弁当を食べる喜びは、山がその労苦のご褒美、として与えてくれるものだ。

藪山に行きたいなら、本番の藪山に行く前に、10個は地図読み山行をしないと、その山には行けない。

マルチピッチのルートに出たいなら、本番に行く前に、10回は十二ヶ岳の岩場や三つ峠で練習用のマルチピッチをつるべでこなしておかなくてはいけない。

小川山でフリーのマルチをしたいなら、本番に行く前に、毎週2回は人工壁に通って、クライミング力をあげておかなくてはいけない。

それは、登山歴ん十年のベテランだって、久しぶりに一緒マルチにいくか、というときは、事前にジムに行ってカラダ慣らしをし、家でロープワークの手順の確認をするものなのだ。

連れて行かれる専門の人に欠けているのは、

 その山に行くために、今の自分に何が必要か?

という視点ではないだろうか?

No comments:

Post a Comment