Saturday, December 12, 2015

登山業界の将来を考える

今日はちょっと登山市場の未来について考えてみようと思います。

■ 登山市場概要

こちらのニュース記事を簡単にまとめてみた。以下要約。

1)登山人口
2003年~2008年まで 600万人前後
2009年 1,230万人 (倍増)
2010年 1,000万人越え
2014年 840万人

近年  800万人前後

・顕著なのは高齢者層 = 60代の10人に1人以上が登山を行っている

2)問題点
・増え続ける遭難件数・遭難死者数
・登山者の高齢化
・中高年者の体力への過信
・スマートフォンの地図だけで登るような初級登山者の存在
・一部の山域に登山者が集中するオーバーユース
・登山者のマナー低下

3)対策
・Webサイトで手軽に登山届を提出できるサービス
・山のグレーディング表(長野・岐阜・山梨・静岡)

4)市場 =安定型 1800~1900億円規模
・2014年の登山用品市場(キャンプ用品を含む)は1,950億円(アウトドア用品市場は1,812億1,000万円と推計)
・前年比103.2%
・伸び幅は大きくないものの、安定した需要
・釣り用品(2004年 2,060億円 → 2014年 1,600億円 減)
・スキーやスノボード用品(同1,910億円 → 同1,410億円 減)
・近代登山はたかだが150年の歴史しかない

5)特徴
・店舗のショールーミング化はおきにくい
・ライフタイムバリューの高い顧客

6)課題
・新たに登山を始める人を増やすこと
・環境や生活スタイルの変化をうまく取り込んでいくこと

7)新たな動き
・ネット登山パーティー
・互いの体力や登山技術・経験、性格などもわからないままにパーティーとして山にのぼること
・パーティーでの責任者(いわゆるリーダー)が明確ではないこと
・「trippiece

まぁここまではよく聞く話です。都会にいた頃は、登山は高齢者の遊びだと思っていましたが、やはり、それは的確な観察のようです。山は山で、登山活動は登山活動であり、オーソドックスな登山活動をする限り、年齢は関係ないと理論上はなりますが、実際はオーソドックスな登山から離れて、中高年登山という一つのジャンルが確立している、と考えるのがスムースです。

■ 釣り業界との比較

1)釣り人口
1990年代後半 2,000万人 (90年代、空前のアウトドアブーム)
2011年 940万人
2012年 810万人
2013年 770万人 

2)釣り市場 おおよそ1300億円市場

・釣りブーム全盛期には3,000~3,500億円 (1/3ほどまで縮小)

2011年 1,124億円
2012年 1,161億円
2013年 1,219億円
2014年 1,251億円(見込み)
2015年 1,293億円(予測)   

・大震災のあとに徐々に回復基調

3) 減少の原因
・市場飽和
・イメージ悪化 バス釣り離れ=ダークなイメージ
・2001年に同時多発テロによる釣り場が減少
・撒き餌による水質汚染&ゴミの不法投棄によるイメージダウン

4)回復要因
インバウンド市場 (2兆305億円)の取り込み
・普及価格帯の釣り用品
・海外展開
・釣り人に対する啓蒙
ライフスタイルとしての釣りの提案
釣り人そのものを育てるような取り組み
・釣り場のゴミ拾い活動を通しての啓蒙
若年層向けの釣りクラブ活動
・旅行・運輸産業とコラボして釣りツアーを実施(異業種との連携) 
・“島ガール”
新たな釣りジャンルの創生

5)動向
・余暇をもつ高齢者の増加
・多摩川に代表されるように良質な釣り場環境の回復

■ スキー業界

1)スキー人口
1993年 1,770万人
1998年 1,800万人(ウィンタースポーツ客全体としてのピーク)
2013年 770万人

2)衰退の原因
・バブル崩壊による経済の衰退
殿様商売
複合施設化 “滑る”というスキー本来の魅力を希薄化させた → スキーよりミッキー
・スキーを楽しんでいた層の呼び戻しに失敗
・若者層のライフスタイルの変化により将来の優良顧客を取り込み損ねた

3)動向
・インバウンド消費の取り込み (北海道ニセコ地区、長野県・白馬地区や野沢温泉地区)
・レンタル事業

観光省資料

http://www.mlit.go.jp/common/001083645.pdf

■ 登山の位置づけ 大局を把握

登山は基本的に ”レジャー”です。

  レジャー=余暇の過ごし方 

レジャーには、国内旅行、外食、音楽鑑賞、劇場、映画、パチンコ、スポーツ、などが含まれます。

外に出かけないで家で余暇を過ごすイエナカ消費(巣篭り消費)という言葉も一時でました。

押さえたいポイントは、登山は国内旅行のカテゴリーに入り、クライミングはスポーツのカテゴリーに入る、ことです。

アルパインクライミング? どっちに入るのでしょうか?良く分かりませんが、やっぱり”国内旅行カテゴリー”かなぁ?

大雑把に

 登山 = 国内旅行
 ロッククライミング = スポーツ

のようです。

■ 国内旅行という視点でみた登山

国内旅行の市場は縮小傾向にある。国内宿泊旅行延べ人数は2013年で 1.76 億人

http://www.mlit.go.jp/pri/kikanshi/pdf/55-1.pdf

もっとも頻度が多いのが、時間とカネに余裕があり元気な60代とされている。これは、登山者人口が60代が多い点と合致する。

■ 余暇増大

ここ10年で余暇が1割増えているというデータが国土交通省から出されています。


これは、本当なのか?!と言う感じですが・・・もしかして2極化ではないか?と思ったりもします。

というのは、都会暮らしの頃は実感として、夜8~10時まで仕事をしているのが普通だったからですが・・・。

少子高齢化が進んで、単純に余暇というより、余暇を持つ”退職者”が増えているだけかも?その指摘は国が出している資料にもあります。

http://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/bunseki/pdf/h17/h4a0506j3.pdf
http://www.nrc.co.jp/report/pdf/130430.pdf

余暇の動向としては、”歩く”活動が好まれているようです。
http://activity.jpc-net.jp/detail/srv/activity001444/attached.pdf

■ 考察

・登山人口、釣り人口、スキー人口は、すべて 800万人前後規模的に変わりがない

・登山市場規模1800~1900億円、釣り市場1300億円

・市場特徴は、釣りやスキーと比べて、安定型

で、既に大きな規模の浮き沈みを経験した釣りやスキー市場と比べ、登山市場は比較的ぬるま湯と言えます。

他のアウトドア市場の失敗から学べることをまとめますと・・・

・環境汚染などのダークなイメージは市場を冷え込ませる

・ライフスタイルの変化に合わせるべき

・複合施設化は避けるべき

・インバウンド市場にも目を向けるべき

・殿様商売にならないように注意する

となります。

これらの点を登山市場に当てはめると・・・

 1)遭難などのダークなイメージを回避する

 2)環境問題へ積極的に取り組み、クリーン&グリーンなイメージをキープすべし

 3)スマートフォンやネット利用などのライフスタイルの変化は追随すべし

 4)複合施設化は避ける

 5)外国人客(インバウンド)の取り込みを積極的に行う

 6)他業界と連携する

 7)登山用品業界として、登山者そのものを育てる取り組みを行う

 8)ライフスタイルとしての登山を提案する

 9)新たなジャンルを作り出す

■ 施策

すでに登山業界では取り組まれています。

1)遭難者を減らすための活動に取り組む

2)インターネットやスマートフォンで登山計画書を提出できる

その際に留意する点・・・

・山域を分散してオーバーユースを避ける = 環境に対する配慮でイメージダウンを避ける

・登山初心者へきちんと登山の知識を与える(地図携帯、遭難対策、マナーアップ)こと

・新規登山者の機会提供

■ 考えてみた施策のあれこれ

地図不携帯への対策(遭難対策)

・一般ルートの山の場合、登山口で地図を販売する(100円程度や2万5千の地図そのもの)

 たとえば南アルプスの広河原沢インフォメーションセンターや芦安で、バス内、タクシーで2万5千の地図を販売したら、地図携帯者数は上がりそうな気がします。その際、市場より高めの価格設定でもよいかと思われます。コーラだって下界より高いのだし。

・安価で小グループのガイド(ツアー)登山 

現在は初心者向けの安価で小グループのツアーが品薄です。大規模=オーバーユース、ですし、今の時代に大人数で出かけるツアーは、国内旅行業界としても閑古鳥ですから、流行るとは思えませんが、少人数の場合の価格の高さがネックになっていると思われます。

ガイドレシオ(1:8程度)を守るためには、3万円÷8=3750円ですので、4000円~8000円以下の価格帯での初心者向けツアーがもっと増加して良い気がします。

現在は、交通費込みでの初心者ツアーとなっていますが、現地ツアー型で、それくらいの価格帯のツアーが定期的に開催されていれば、新規登山者への機会提供となるのではないでしょうか。

その際の窓口は、おそらくツアー会社ではなく、登山用品店、ガイド、講習会またはネット窓口とならざるを得ないような気がします。

ネット登山の弊害が指摘されていますが、

 ・互いの力量不明のメンバー
 ・誰がリーダーか(責任の所在)不明
 ・登山を教える人がいない

は、実は山岳会に所属しても同じです。

この点はガイド登山の場合(は、登山者同士が力量不明である、という点以外はクリアしています。
ガイド登山では、メンバー同士の結束が計れないというのは、エベレスト登山でも一緒のようです。

ガイド登山の参加者同士が、定期的・継続的に仲間として成立するような方向へ向かうのが良いのではないでしょうか。

ガイドさん自体は、顧客同士が一緒に行ってしまうと自分の儲けが無くなると危惧しているかもしれませんが、実際はそうはならないのではないか?と思います。登山の場合、かならず指導者が必要な側面が出てくるし、高額な出費で続けられる人口が減ることよりも、ライフタイムで、一生登山を継続するほうがトータルとしては長期の優良顧客となるハズだからです。

スキー業界と比べて、登山はインバウンドの取り込みはまだのようですが、瑞垣や小川山など国内の有数の岩場は、可能性があるのではないでしょうか。外国人を時々みます。

インバウンドとは?
http://diamond.jp/articles/-/65852












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