Thursday, February 26, 2015

学習院大学の遭難 推測

■ 遭難について憶測について

今日は、2月初旬の、学習院大学山岳部の遭難について、またしても山のベテランから、コメントをいただきました。Yosemiteさん、どうもありがとうございます。 

遭難の考察については、少々尻切れトンボである面は否めないと思っていましたが、ニュースで手に入る情報には限りがあり、議論を進展させても、憶測以上にはなりえないと思い、これ以上の追跡は敢えてしないでいました。

また、私の弟は24歳でなくなりました。当時色々死因を憶測されましたが、死因は不明です。死んだということ以上に原因を追究しても、元には戻らないのです。

そういう意味で、死の原因が何か?ということの追及は、遺族にとっては残酷にすらなりえます。

ご遺族の方には、山岳遭難の原因追及が好奇心本位の物ではなく、登山界全体で遭難を減らすための努力の一つとして、お許しいただけたら、と思います。

■ 概念図を書くべし

私がこの遭難で学んだことは、これまでの遭難に関する記事に書いた通り、風速から凍傷への警戒、リーダーシップ、と多岐に渡ります。さらに、付け加えるとするならば、

 入門コースの阿弥陀中央稜に連れて行ってもらった時点で、この山域の概念図を理解すべし

というものです。もっと真面目に予習をして山に登っていた昔の山岳部の人であれば、

 赤岳に行った時点で、この山域の概念図を書く

でしょう。

ニュースで”2ルンゼで遺体発見”と言われたとき、この山域を知っている人なら、「えっ?なんで2ルンゼ?」と思ったでしょう。(言葉も聞いたことがない人は一般登山者ですから、蚊帳の外です)

私も、2ルンゼの確実な場所は分かっていませんでしたが、知ってはいましたし、手元の山岳書で確認しました。また、初めて広河原沢左俣に行くときに、山口輝久さんの本などで、しばらく広河原沢中尾根の岩小屋に泊まって、登攀三昧で遊ぶ話を読んだりしたので、この辺に上級者も楽しめる登攀ルートがあることくらいは、良く知っていました。

それで、行者小屋側に降りる正規ルートとは、正反対の方角で発見されたことに少々驚きを禁じ得ませんでした。

そうした読書をしなくても、異常に気付くことはできます。

手を動かすのが楽しい
オーソドックな山登りでは、山域の概念図を書いて、尾根と谷くらいは把握して登ります。

そういう王道的、オーソドックスな登り方をしていれば、阿弥陀中央稜を登るための予習で、2ルンゼの位置はおのずと知ることになるでしょう。別に北陵の予習でもいいですが。

概念図を書く、そういう時間はとても楽しい時間です。夢が膨らみます。

そのためには、いわゆる地図読みの山をしていないと、山の概念図を書いて、山域全体の尾根と谷の様子を知る必要がある、と思い至らないでしょう。隣の沢はなんて沢?っていう具合になってしまうのです。

というわけで、地図読みの山は、改めて登山の基礎だな~と思い至っています。

みんな地味だと言いますが、派手な山のどの部分がみな好きなのでしょう?どれも同じ山なのに。

■ Yosemiteさんのコメント

このコメントは往信に返信ですので、前のやり取りのご興味がる方は、下のリンクをクリックしてください。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
匿名 さんが投稿「阿弥陀岳 遭難事故から学ぶ ベテランとの対話」にコメントを書き込みました。

返信ありがとうございます。

「2ルンゼだと、中央稜から広河原沢側に落ちた、・・・と思います」
そうですね。 ただし、中央稜の場合は摩利支天に近い最上部付近からでしょう。
中央稜を下降したことがないので詳しくは分かりませんが、地形図で見ると、御小屋尾根分岐から100mくらい降りると、左側は奥壁と1ルンゼの領域になりますので、2ルンゼには落ちないと思います。

「降ろすというのは経験がなく分かりませんが」
Kinny2010 さんのVariation Route記録を読むと、一昨年の1月に広河原沢左股でアイスクライミングしてますね。 谷のスケールと急峻さは2ルンゼに劣りますが、そこを上から降り て行くことを想像して下さい。 氷瀑を登って、谷の形状や状態を見てから折り返して降りるのではなく、上から未知の左股を降りて行く、 しかも体の不自由 なひとを連れてです。 

「ルンゼ=雪崩と思っているはずで、ルンゼを降ろすというのは考えにくい」
その通りです。 雪崩のみならず、懸垂下降を必要とする氷瀑・氷崖があり、雪の吹きだまりもあります。 障害が沢山ある冬のルンゼを、弱った人間を連れて2人だけで降りるなどという愚行は絶対考えられません。

「山頂までせっかく登り返しておいて、またなんで正反対に行ってしまうのでしょう」
これが謎ですね。 そのとき一体どういう状況だったのかな?

「3人がもう少し早く救助要請していれば、と思います」
その通りです。 しかし、ここも謎です。
私は報道文を疑ってます。 記者がしかるべき事実を省略して書いているのじゃないかと。

「一晩ビバークの時点で、4年程度の経験の22歳の若きリーダーの判断できる範疇を越えた事態に陥っている」
彼 は2014年(3年生)に、日本山岳会学生部のリーダーとしてマッターホルン(4487m)やモンブラン(4810m)にガイドレスで登頂し、さらに学習 院大学のインド・ヒマラヤ登山隊では隊長として6070m峰(高難度の山ではないけれど)に初登頂したアルピニストです。 また、2012年(1年生)の 日本山岳会学生部のクライミング大会では、トップロープの部ではありますが21人中2位になり、フリークライミングの能力も人並み以上だった様子が見えま す。 
冬山の山歴が分かりませんが、上記のことから現役の学生山屋としてはトップクラスであり、力量はあったと信じてます。
 
残念な結果との乖離が謎ですね。

事実と経過をまとめた山岳部としての事故報告が待たれます。

 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

早速ですが、2ルンゼの場所はこちらの概念図で分かります。


2ルンゼに滑落するのは、阿弥陀山頂付近で、南西方向に歩みを進めた場合です。北陵とは反対側。

■ 何を学ぶか?

2点目は、リーダーの資質です。私は、このリーダーが一人で助かっているのではない時点で、素晴らしいリーダーだと思います。

自分さえよければ良いという風潮が全盛の現代です。弱った仲間を見捨てて自分だけが助かっても、誰も非難しない上、自己責任が叫ばれる登山という世界です。そういう事例も実際聞かされました。

ですから、この青年の資質を疑うものではありません。

が、同時に、救助要請が後手後手に回っており、一般的な山ヤの行動としては、疑問と思える行動が続いており、さらに死という結末を避ける実力がなかった、というのは死が証明する事実です。

私はこの若きリーダーの経歴については全く知りませんでした。

が、高所登山のリーダー経験があれば、日本の冬の八ヶ岳の合宿のリーダーが務められる、と無条件で考えるのはどうなのでしょうか?結果論からするとダメと証明したことになりますね。

もちろん、私はマッターホルンモンブランもどんな山なのか知りません。

が、山岳会の先輩に高所登山経験者がいますので、その方たちの話によれば、(高所登山をしたことがある)ということと、いわゆる (山をわかっている) というのは、どうも別次元のことのようです。

山友達にアコンカグアの最年少登頂者(当時)がいますが、リスク管理は全然ダメです。地図を読む気持ちもなく、山のリスクを予想する、という発想そのものになく、あるのは山頂に対する強い気持ちだけです。(スイマセン、悪口ではありませんよ、でも、本人もリスク管理がいけていないのは分かっているそうです)

この人も別にガイド付きで登ったわけではないですし、大学山岳部で登頂です。つまり、経歴だけでは、山の力は良く分からないってことです。

特にイレギュラーな事態、普通とは異なる事態が起こった時は、特に分からないってことです。うまく行った登山から学ぶことは、すごく少ないのです。学ぶことが多いのはヒヤリハット事件からです。

さらに、初心者を連れて行く、ということは、ガイドの立場に立つ、ということで、コレはこれで全然違う経験値です。自分がカンタンにできることも、相手はできないことがあります。逆ももちろんあり、人の能力はそれぞれなんだな、と学ぶのは、自分の登山力があがるということとは、全く別の経験値です。

≪まとめ≫

・自分勝手でないリーダーが良いリーダー

・高所登山の経験があれば、良いリーダーとなれるとは言えない

・イレギュラーな事態に対する対応力は、成功体験からは学べない

・連れて行くのと自分が行くのは、経験の中身が全く違う


私の師匠の見解については、こちらをご覧ください。非常に眼力鋭い点をついていると思います。