Monday, February 2, 2015

リスクの要素を掘り下げる必要性

今日は、なんだかちょっと複雑な気分でいます。

先週は色々なことが起りました。

■ 値踏は必要なこと

先週、アイス金石沢では、プチ・リードフォロー。私はセカンドの確保をしました。

後から「ロープ操作が遅いよ」と指摘を受けました。それはその通りでした。何がまずかったか自分でも分かっていたのです。

セルフを取ってから、セカンドの準備をし、ロープアップをしたものの、ロープアップ途中で、手袋の紐がロープに絡んだので、絡まりを取るのにロープアップを一時中断しました。

そして、セカンドの確保用にロープを入れたら、確保器の位置関係が悪く、ロープアップしたロープの背後に入りそうだったので、確保しづらく、位置を変えました。

そういうので、通常より1.3割増しくらいの時間がかかりましたので、遅いというのは、そういうことです。

でも、私は指摘されて嫌な気持ちにはなりませんでした。私もそういう目で相手を見ているからです。

ルートは、そうしたロープワークが、”あうん”の呼吸になる相手と行くべき場所です。何も言葉を交わさなくても相手が何をしているか予想できる相手ということです。

■ 1-1=0の関係

先週の今日、一緒に人工壁でリードフォローの練習をした人は、ギアがないとセカンドの確保を作れませんでした。スリングは無くても、メインロープで代用できます。ビナはないと、どうにもならないときもありますが、最低限の道具で、なんとかできるよう常日頃考えておくのが大事です。

それで、こうしたら?ああしたら?と私が提案しました。ということは、その人と私のコンビネーションだと、1-1=0ということです。

その人の方が、クライミング力が上だったので、相手がリードすることが確実となると、確保が確実でないと、1+1=2になりません。 1-1=0になってしまいます。

つまりお互いに足を引っ張り合う関係です。私はクライミング力の不足で足を引っ張り、相手はプロテクション構築能力で足を引っ張ってしまいます。

で、あーあ、一緒になれないな~と明らかでした。早くも破局。

あるいは、別の人ですが一般縦走であっても、風が強い予報の日に「防風対策してきてください」と言うと、「防寒対策していきます」と返事が来て、ちょっと分かっていないかもな~と不安がもたげたこともありました。

そういうときは、あらかじめ分かっていないだろうから、という想定でこちらも用意して行きます。

■ 冬山の最大のリスクは風

冬山の最大のリスクは、”風”です。寒いのは着こめば対策できます。

なので防寒対策と防風対策はちょっぴり違います。まぁ大体一緒ですが。

防風対策、ウィンドストッパーなどの、稜線上でも風を通さない対策が必要ですし、稜線に出るころに、進退を判断しないといけない。行けるとおもったばっかりに突風に飛ばされたら、後で後悔しても挽回はかなり難しいです。風のリスクはなかなか取りにくいリスクです。

-30℃になると命の危険を感じる、と誰かが言っていましたが、風もどうように自分の感覚で危険を察知するのが大事かもしれません。

そうした肌感覚で危険を察知する感性を磨くために、普通は小屋があるような天狗岳などで八ッ岳の寒さや強風のリスクを経験するわけです。

私はまだ、足の指しか凍傷になったことがありませんが、鼻やほおが凍傷になっている人は結構います。稜線を歩く長さも凍傷のリスクを高めます。

■ 易から難へ じっくり相互理解を深める

ちょっと話がずれましたが、相手の様子や返事の仕方から、登山者同志は色々なサインを読み取っていて、それが普通だ、という話です。 

師匠が、私の様子から、成長の度合いを読み取ってくれているのは、わたしだってそうするので、まったく意外なことではありませんし、値踏みされるということはイコール観察されているということです。

また守ってもらっているということです。私がリーダーの時は、分かっていない人には分かっていない人のための指示を出します。

分かっていない人は、分かっている人から見ると”分かっていないんだな”と分かります。しかし、その逆はありません。

ということが、だんだんわかってきました。

■ 自分を疑うことができる人が信頼できる人

昨日は、節刀ヶ岳にいたのですが、一度ルートを見失ったように感じたときがありました。

先輩が先を歩いていて、明瞭な尾根を、登りにつけたトレースを辿って下山中でした。実際は、その道で合っていたのですが、先輩はあっているとは考えずに上に確かめに行きました。

それは、信頼できる行動だったと思います。私が持っていたGPSでは軌跡は正しく、歩いている場所は正しい場所でした。

ただほんの数時間の気温上昇でトレースが薄くなっていただけのようでした。

でも私がその人の立場だった時に同じ行動ができるか?というと、自分は合っているという自信の方が勝ちそうです。

 先輩 合っていても合っていないかもと考える
 私   合っていないのに合っているだろうと考える

どちらが安全性が高いか?は一目瞭然ですね。だから、常に自分を疑っているのが大事です。

■ ルートファインディングは心理戦

一般縦走でルートファインディングをミスることは稀と思いますが、夏山のルートでは、踏み跡が濃いとはいえ、ルートファインディングのミスは起りうるリスクです。

踏み跡は、冬になれば雪で隠れます。たとえば、北八つでは一般道もトレースがないとどこが道か分からなくなります。樹林帯は、360度森林で、日も見えず、平坦で、どちらを見ても同じような森、方向が分からなくなったら、コンパスを出すしかありません。

 2013年1月9日北八つ周回の記録

ルーファイのリスクは基本的には、技術力と言うより、心理リスクです。

セオリー通り、分かっているところまで戻る、という判断をすることは予想以上に難しい。突っ込む判断をすることは容易です。何しろ、めんどくさいからです。ルーファイのマスターは、技術と同時に心理学のマスターでもあります。

ルーファイの技術自体にも、

 ・読図で何とかなるものと
 ・読図力の向上ではどうにもならないもの

があります。岩などのバリエーションでのルーファイは後者です。

その差を知りたければ、北穂池と前穂北尾根に行けば意味が分かります。アルパインのルートは、どちらかといえば、後者の技術力が占める割合が大きいようです。

ルーファイ
 ・読図 (読図でなんとかなるもの&経験しかないもの)
 ・心理学

■ 判断

結局のところ、登山は

 ・進むか、退くか、停滞か
 ・どう進むか?

の二つの判断が重要です。 

読図だけで解決できる雪の藪山などは、安全に相手の心理を学ぶことができます。パートナーシップという側面で見れば、それを互いに学びあうための、あるいはリーダーシップとメンバーシップをすり合わせるための山なのかもしれません。

とすると、藪山を何度も一緒に行って、相手の心理的な傾向をよく知っておくことが必要です。

小さい山でルートファインディングできない人が、大きな山で出来るとは思えません。小さい山での読図山行をやっていない人には、大きな山はこなせないという実例を既に見ました。単純に取り付き敗退になります。

しかし、そのことを学べるか、学べないか?ということも、個人の資質がでるのかもしれません。

■ 気象判断

去年の今頃の岳人に、知り合いの先生の寄稿で、八ヶ岳の入門バリエーションルートの解説がありました。他の寄稿と違って、単純なクライミング力だけでなく

 ・ルートファインディング
 ・気象判断

-22度の日
など、習熟をしてから、取り付くようにとのアドバイスが、さすが遭対協をやっているだけの先生だと思いました。

八ヶ岳は、とても寒い山です。

逆に言うと雪の量は多くないし、天候の晴天率が高いので、寒さの対策だけをして行けば、初心者にも取り付きやすいため、冬山の入門とされています。

それは言うなれば、リスクのひとつ、気温の低さ、が、一般に想像される以上だということです。

気温というのは、風が加わると風速1mにつき、-1度です。

つまり、-15度の日に、風速15mだと -30℃です。

八ヶ岳ではー15度なんて普通です。 春だって夜はー17度とかです。ー22度を見たこともあります。

今週末八ヶ岳は特別寒い日でした。700hPaで-18度の寒気が入り、北北西の風が稜線で強い、という予報が出ていたのです。

850hPaは高度約1,500m、700hPaは高度約3,000mの天気図だということは、よく知られています。

それで私は少し警戒していました。私が足の指の凍傷になったのは、上空に-33度の寒気が入った時でした。週末は晴れるけれども、強風で、寒く、冬山の条件としては厳しいことが予想されました。

そういう中、信頼している先輩が凍傷になったニュースが入ってきて、少し気持ちが沈んでいます。

美しい冬山も、寒気や風から自分を守る、そういう覚悟と備えがあってこそできること。

一気に体温を奪う、鞍部での冷たい風を、読図山行の低い山で味わっておくのは、高い山ですぐ手袋が出せるということの練習のため、なのかもしれません。それでも体自体が冷えてしまうリスクはゼロにはできません。

それに、お酒は寒さにはマイナスに働きます。

これらもろもろのことを考えると、結局、学ぶべきことは、

 リスクはそれぞれの要素を掘り下げて考える必要性がある

ということなのかもしれません。 




2 comments:

  1. おっしゃるように、ルートファインディング、要所要所で疑ってかかることで、多少 確認時間がかかったとしても、トータルでのロス時間を少なく出来る可能性を高められると考えてます。
    あと、「間違ってたとしても、こっちのほうが後の危険度が低い」みたいな考え方も、場合によっては重要かもと。

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    1. 山に一か八かはない、ということですね。 ルーファイは必ず少し不確実な部分があります。
      その不確実な部分を持って、行って見て、
       A 違った、やっぱりこっちだった、
       B あってた、うれしい
      どっちも学ぶことがあります。余談ですが、GPSはその楽しみを奪いますね。まるで中間支点ありのスポーツクライミングみたいな感じです(笑) GPSがなしであっていたときの感動はひとしおです。

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