■ どこに行くべきか?
新人の時期、どこに行くべきか?どこなら行っていいのか?というのは、ちょっとした難題だ。
気持ちだけいっぱしの、アルパイン1年生にとって、難しい。心はアルパインクライマーでも、実力はまだ、一般登山者と同じ程度だからだ。
分かるとできるは違う。
とはいえ、せっかく山岳会に入ったのに、行くところが個人で行っていたときと同じ所ばかりでは悲しくなるのも、理解できる。 …が、だからと言って
・しっかり技術が身についているわけでも
・超人的体力があるわけでも
・山を見る目が一般登山者よりも肥えているわけでもない
のは事実であろう。ならば、それを踏まえた安全マージンのある、ルート選びが重要だ。
■ 実感ベースで次の目標を
昔は新人と言えば、10代20代の若者が主流だ。そのような人たちは、通常の体力といざピンチになった時に発揮できる非常時の体力の差が大きい。
大きなルートに突然行っても、単純に痛い目を見るだけで帰ってこれたのだろうと思う。そして、それが経験になり、より賢い登山者になった。
しかし、現代の新人は、30代ならまだ良い方だ。体力が過去の新人とは違う。したがって、一度のピンチが即遭難につながってしまう。
例えば北岳バットレス四尾根は、同じアルパイン1年生スキルでも大学生の男子二人でヘロヘロになりながら、チャレンジするには良いのかもしれない。彼らは将来のアルピニスト候補生たちだ。
しかし、同じことを趣味で始めた大人がやるべきか?
違うだろう。
もっとじわじわと細かく、前の段階を踏んで、下積みと実績を積み上げ、ステップアップして行くべきだ。急ぐわけでもなし。昔の人の育ち方と同じに考える必要はどこにもないということだ。
≪ルート選択上の注意点≫
・山の総合力は昔の方が上
・したがって見積もりは、自分自身の体験による実感をベースにしないといけない
・体力は余裕を持って見積もれ
・必要な時間は余裕を持って見積もれ
例えば、私が前穂北尾根を考えていたときは、後立のテント泊縦走の体験を根拠となる体験にした。
■ 縁のあるルート選び
レストランのメニューを選ぶようにルートを選ぶのは、ガイドツアーのパンフレットの影響かもしれないし、ルートガイド集の影響かもしれない。
ルートコレクションに陥らないためには、どうしたらよいのだろうか?
それは、やはりアンテナを広げて、心に残ったルート、憧れを温める、と言うことだろう。
全く見も知らない山域ではなく、行けるのでは?という感触があるルート、知人などが行っていて、身近に感じられたり、参考意見が得られるなど、勘のあるルート、縁があるルートだ。
それは必然的に同じ山に頻繁に通うと出来てくるはずだ。縁もゆかりもないルートでは、行ったことがある先輩もいなかったりして、てんで想像もつかず、アドバイスも出来ないので、空を掴むような話になりかねない。
縁のあるルートなら、一般道は、すでに歩き尽くしているハズで、主稜線がどこか、沢が何と言うのか?安全圏の小屋はどこにあるのか?などの山域の概要が分かっているもの。
つまり、安全面で安心だ。地図を持っていなくても、全体像を把握しているだろう。
そういうホームグランドから、じわじわにじりあがるのが、おそらく大事だ。
例によって、逆に言うと、一般登山者時代に、ちゃんとルートを見て、地図を持って歩く登山者でないと、さらなる高みを目指す下地ができ上がっていないと言うことになります。
≪一般登山者時代にやっておくこと≫
・山域の概要の把握
・安全圏の把握
・体力的な感触を得る
・天気の傾向を知る
・季節的特徴を知る
■ 初級者-のひとつ下のルート
私が思うには、例えば
・鹿島槍鎌尾根
・真砂岳真砂尾根
は、いわゆる初級の有名ルートの一つ前段階のルートだ。それぞれ、日本のアルパインの原点である、鹿島槍や剣の紹介となるルートで、よく考えてもらっていると思った。それぞれ鹿島槍、剣の憧れを温めることができる渋いルートだ。
無雪期には、前穂北尾根に行き、それで、
・北穂東稜
・明神東稜
・奥白叉池~前穂
などのルートを知ることになり、魅力を感じた。どれも前穂北尾根で実感した体験をベースに、今の力で行けるのではないか?と感じられた場所であり、個人的な登山史において、飛躍がない。その飛躍がないと言うことは重要なことだと思う。
新人さんの計画を聞いていると
・長大で超人的体力が必要
・転滑落の危険が大きく遭難多発の山
・夏道や残置がなく、未知の要素が強すぎる山
・安全圏から遠く、保険がない山
・有名で山を知らない人でも知っているような山
を選びがちだ。しかも、自分自身がその山域の特徴すら良く知らなかったりもする。
鹿島槍は、山好きなら誰でも知っているような山で、当然、東尾根や天狗尾根、北壁など私も耳にしたことがあったが、鎌尾根なんて聞いたこともなく、後で研究して知った。先輩はさすがだなと思った。となりにダイレクト尾根があるが、鎌尾根を経験していると、ダイレクト尾根が見えてくると思う。
つまり、段階を踏むとはそのようなことだ、ということだ。だから一つの尾根を終わっただけで、別の山に行きたくなるのは、まるで百名山行脚の精神を思わせられる。
■ 初級者-のルート
上記の注意点を踏まえた上で、ネット上に、このような指南を見つけた。原文より抜粋。
念のために付け加えるが用意もせず、近所の一般登山のノリで行かないこと。これらは目指すべきルートを発見する一助とするためのもの。そこから憧れを温め、研鑽を経て、赴くべし。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
無雪期の北鎌尾根は、難易度としては、
・天候が良く
・ある程度の体力さえあれば
・付け焼き刃の知識
・おぼつかない技術
・足りない経験
でも、なんとか歩けてしまうだろう。次に目指すべき岩稜を提示しておきたい。
こんなところを経験したら、もう少し登攀要素の強い岩場へステップアップしたら良いだろう。
≪初心者向け-ルートの要件≫
・ピークへと続く明瞭なリッジ
・長すぎないアプローチ
・比較的容易なクライミング技術
・ルートファインディングが難しすぎないこと
剱岳エリア
・源次郎尾根
・八ツ峰主稜
穂高岳エリア
・北穂高岳東稜
・前穂高岳北尾根
・奥穂高岳南稜
・明神岳主稜
南アルプスエリア
・鋸岳縦走
八ヶ岳エリア
・赤岳東稜
・赤岳天狗尾根
・阿弥陀岳南稜
谷川岳エリア
・東尾根
南東北エリア
・那須朝日岳東南稜
ーーーーーーーーーーーーーhttp://note.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/n212642 より引用
■ 初級者+のルート
ーーーーーーーーーーーーー原文から抜粋ーーーーーーーーーー
岩稜歩きにあきたらず、無雪期にもう少し難度の高いクライミングをしたい人にオススメのルートをあげておく。ここにあげたルートは、初級から中級へのステップになるものだ。だから、見よう見まねで登ることも可能だろう。しかし、本来なら経験者に教えを請いながら、技術と経験を習得した方が良いのはもちろんである。これよりレベルの高いところは、決して見よう見まねで踏み込むべきではない。
≪初心者向け+ルートの要件≫
・フェースが少なく、リッジが多い
・1本しかないライン
・主峰に突き上げる主稜線
・他ルートの偵察に都合が良い
・ルンゼは限定された範囲内でルートを見出す=リッジと似ている
・ルンゼの場合、ピークに突き上げる本谷あるいは準本谷
剱岳エリア
・本峰南壁(平蔵谷側)
・本峰北壁(長次郎谷側)
・チンネ左稜線
槍ヶ岳・穂高岳エリア
・槍ヶ岳西稜
・北穂高岳滝谷クラック尾根
・北穂高岳滝谷第二尾根
・北穂高岳滝谷第四尾根
・奥穂高岳北東稜
・ジャンダルム飛騨尾根
・明神岳東稜
南アルプスエリア
・北岳バットレス第四尾根
・尾白川黄蓮谷右俣
八ヶ岳エリア
・赤岳東壁(大門沢奥壁)
谷川岳エリア
・マチガ沢東南稜
・一ノ倉沢二ルンゼ~Aルンゼ
・一ノ倉沢四ルンゼ
・一ノ倉沢烏帽子沢奥壁南稜
・一ノ倉沢衝立岩中央稜
ーーーーーーーーーーーーーーーhttp://note.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/n212644より引用
■ これらのルートを味わい深くするためのルートを探す
上記リストは、たまたまネットに先人がヒントとして残してくれたもの。
つまり、これらをつぶして行くような登り方をするのが目的では、もちろんない。
ルートコレクターに陥らぬよう注意してください。
なぜなら、ルート収集癖は、アルパインの原点とは、程遠く、むしろ高度経済成長期の遺産とでもいうべき態度であり、謙虚に山に向き合うという姿勢からは程遠い。
多くのベテランにとって、ルート経験の豊富さは、山への憧れの結果に過ぎないはずだ。
さて、これらの候補の中から、ピン!とくるルートを見つけたら、どうしたらよいか?
その方策はすでに示されている。
たとえば一つの憧れのルートを見出したら、そこに登るために何をしたらよいのだろうか?と考えるべきだ。難しいことは、要素に分解して、一つ一つ問題点をクリアして行けばよい。
例えば、以前の記事にもあるが、
北岳バットレス四尾根を目指す → 三つ峠6~7回、9ピッチがラクラクできるようになるまで通う
だ。
そして、ひとつ前の段階のルートに一緒に行く人と共通の認識を得るために行くべきだ。
例:
目標ルート 前座ルート1 さらに前座ルート0.1 その前座0.01
阿弥陀南陵 阿弥陀中央稜 御小屋尾根 編笠山・赤岳
ダイレクト尾根 東尾根 鎌尾根 鹿島槍~爺縦走
天狗尾根 ツルネ東稜 川俣尾根 権現岳・赤岳
そのような手続きをめんどくさいと思うなら、実はあまり山が好きではないのかもしれない。
おそらく昔の山岳会は、すべての会員が好むと好まざるとにかかわらず、前座0.1あたりから共通の体験を詰めたのだろう。なぜそこに登るのか意味は分からなくても、一体感だとか、色々な良く分からない説明で丸め込まれて、結果としては、良い流れが会として作れたのかもしれない。
今は、名も知らぬ山には一緒に行ってくれない新人も多い。
そうなると色々不味いのだが、その辺の説明能力や余力はないかもしれない。
勢いステップアップがなく、いきなり互いの実力や欠点を知らないままに本番の山に突入しないといけなくなる。
それでは、セルフレスキューの点で不安を搔きたてられるものだ。安全な登山をするには時間がかかる。
でも、そうした道中も楽しむ工夫をすれば良いのだから、時間がかかっても良いではないか。
山を歩くときと同じで、歩幅が大きいとしんどいのだ。
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