■滑落と登山
滑落は防げることなのだろうか?
そもそも、登山は
わざわざ滑落しそうなところに出かけて行く活動
とも言える。
少なくとも中高年の槍穂自慢の半分は、死んでもおかしくないところで、死ななかったという強運自慢に見える。いかに無謀な登高を自分が成し遂げたか?という自慢だ。それは技術がある、と言いたいのだろうか??? 残り半分は体力自慢。
登山には色々な死がついて回る。
うっかり転ぶのは、誰にでもある普通のことだ。 私は梅田(大阪の新宿みたいなところ)を歩いても、コケたし、普通の登山道でも転んだことは何度もある。
■ 平和ボケ滑落
ボールを追って車道に出てしまう子供と同じで、前後の状況についての思慮がない、という人も実際に山にたくさんいると思う。時々ニュースになっていて、例えば、山で、カメラのシャッターを切ろうとして後ずさり、後ろの崖に落ちたりしている。
そういうのは、平和ボケだ。
ある意味、登山はそうした下界の平和ボケ、緊張感なく、たるみきった感性を野生に戻すと言うか、シャープに研ぎ澄ますために行くものだ。
■ 緊張弛緩型滑落
だが、そういう子供っぽさの為でない滑落死もある。
でも、登山で核心部、難しいところで落ちてしまうと言うのは、あんまり聞かない。
転滑落で一番言われることは、
下山中に最も注意せよ
ということだ。しかも、難しいところを抜けた後が、緊張感が緩み、もっとも起りやすい。
私が知っている例では、下山後の温泉でつるりと滑って、救急車に乗った、という例を知っている。
■ トラバースでのバランス崩し
今回の春山合宿でも、一部ちょっとどうかなと思ったトラバースで、滑落した。
その時の状況は、雪渓の割れ目を避けての高巻き
・高巻くトラバースのところ
・5mほどの高巻き
・50度くらいの傾斜
・4mくらいのトラバース
・緩い雪
・緩傾斜から急傾斜に乗り上げ、そこをトラバース。
それで、「落ちてもここで止まるね」とあらかじめ言った。私としては嫌だな、と思ったところだった。高さがあればロープを出してと言ったと思う。落ちても平気な高さだったから言わなかったのだ。
ザックが重いときはトラバースには特に気を付けることにしている。
というのは、一度ザックに身体を取られて滑落したからだ。
飛び石と同じで、重いザックを背負っていると、胴体が軽い女性は振られやすい。トラバースは特にちょっとしたことでバランスを崩しやすい。ただ斜面を直上するのとちょっと違う。
ピッケルも長さが短すぎて、うまく杖にならなかったり、杖にしようとして逆にバランスが悪くなったりする。トラバースの場合、ストックの方が有効だったりもするが、ストックだと滑落停止ができないので、やっぱりピッケルになる。
この時は、案の定、滑り落ちて、すぐ下の「ここで止まるね」と言ったところで、案の定止まった。予想できることだったので、斜面に正対していたので、そのまま素直に落ちて、でっかい穴が開いてしまった。
登り返して渡ったが、次は滑らず歩いた。
転ぶときは、ザックを下に転ばないようにしている。一度、何でもないトラバースで、重いザックに体が持って行かれて、2回転半して、頭を打って止まった経験からだ。それで、ちょっと怖いなというトラバースの時は、斜面に正対する形で、渡るようにしている。
■ ロープとトラバース
ここはロープを出すべきだったのだろうか?
トラバースって、ロープを出しても、フィックスでない限り、大した保険にはならない。
ふらつき防止と言う意味で、以前師匠が、八ヶ岳広河原沢のきわどいトラバース(フィックスロープがある)で、スリングを出し、腰を引っ張ってくれたとき、「え?そこまでするの?」と手厚いガイド並み対応だ、と思ったが、実際、自分が滑落してみて、普通に直上で歩くときと、バランス感覚が必要な時では、ザックの重荷の意味が違うことが分かったので、今では納得している。
前にも書いたが、クライミングの帰りは、いつも駐車場までヘルメットをかぶっていることにしている。下りは怪我が多いのはクライミングでなくても登山の常識だ。
■ 雪の状態をよく見る
雪渓の下りなど雪の状況次第で転滑落のリスクは違う。
みんなピッケルを持つのはカッコいいと思っているけれど、ピッケルを持つと言うこと自体が、滑落リスクを受け入れています、と言う意味だ。
ピッケルを持って降りるようなときは転滑落リスクがある、ということだ。
だから、次に考えるべきことは、落ちたときのことだ。
つまり、人を巻き込まない位置で歩くとか、逆に上から人が降ってくるラインには立たない、など。考えのない人は、縦走路と同じようにピッタリくっついて歩いてくるので怖い。
雪は腐っていれば、滑落しても摩擦ですぐ止まるし、逆に滑り降りると言う手もある。もちろんウエアがびしょびしょに濡れてしまうので、やりたい技でないかもしれないが・・・。
雪が締って固くアイゼンの爪が良く効く、気温の低い時間帯に上がり、緩んだときには降りている、という時間配分にするのが、雪上での滑落防止には重要だ。雪面をよく見て、アイゼンが効くか、腐った雪か、そういう目を肥やさないといけない。
■ へっぴり腰
雪であれば滑落停止できることも多い。やみくもに恐れて、へっぴり腰になると余計危ない。へっぴり腰による滑落は心理的な恐怖感を背景にしているので、技術を磨くこと、講習会の練習などで克服できることだ。講習会ではそれで、雪の急斜面を走る練習があった。
去年は西穂高沢と富士山が走って降りるような斜面だった。
■ 得意不得意を知る
私が思うには、何をして大丈夫で、何をしたらダメか?は体格にもよるし、運動能力にもよる。
自分で何がよく、何がダメかを分かっていることが大事なのではないだろうか?
私は飛び石の渡りは特に今苦手で、河原歩きはとても遅い。でもそれは、雪で始めた登山者には普通だ。岩は苦手。トラバースも同じ理由で振られるため、ザックが重いと苦手。
でも、雪の斜面で怖いと思うことは少ない。雪なら多少は知っていると自分でも思うからだ。
ザックの重さで言うと、一般縦走路と違い、歩荷道は歩きやすく作られていることが多い。転んでも致命傷にならないような道も多い。
余談だが、一般道がスリルを愉しむために作られ、歩荷道が実用の為作られていることは、フリーがクライミングそのものを愉しむために難しいルート設定をされ、アルパインが頂上への最も安全と思われる道を取る関係と似ている。スリルvs安全というトレードオフ関係があるのだ。
■ ロープクライミングは安全
ロープにつながれている、という意味で、転滑落リスクに対しては、縦に登るクライミングは安全だ。
以前ボルダリングの着地で足首をねん挫した人がいて、やっぱりロープがないクライミングは危ない、と思った。
ローププライミングは、ロープがいかにクライマーの安全を確保しているのかの理解がきちんとあれば、という条件付きで、安全だ。
特に支点が整備されているフリークライミングは、墜落のリスクについてはかなり安全で、さらに安全なのは、スポーツクライミング。
ロープに振られて壁に激突しない限り、下にストンと落ちればいいだけ。
ただそれも、きちんとした確保があってのことだ。自分が落ちるとき、何が安全で何が安全でないか?は、考えて良く理解していないといけない。
■ 弱いメンタルは余計危険
山は危険だ、と言って山自体に行かない、のは、運転は危険だから運転しない、というのに似ている。言う間でもないが、登山による死の確率は交通事故死の確率より低い。
弱いメンタルを作るのは、ただの臆病者を作るだけだ。
そう思ったので、去年は、私は滑落後だったが、多少無理して、三つ峠のクライミングに出かけた。滑落を経験した後はリードするのが大変だった。自分のクライミング能力だけでなく、歩く能力自体にも、自信を喪失していたからだ。
良く言われるがやっぱり自信は練習しか作ることができない。自分で自分に嘘はつけないものだ。
■ 登山は危険を非危険に裏返していく活動
ただ運転と違うのは
自ら危険に近づいて行っている、
ということだ。
登山は、自然界の危険に対処できる能力を自ら高めていく活動、
だと思う。歩行技術もそうだし、ウエアも、テント泊生活もそうだ。その近づかんとする危険が一体何なのか?ちゃんと深く理解していないと、「こんなはずでは・・・」になってしまう。
登山と運転の比較では、運転で、ウィンカーを出さなかったり、スピード超過で行く人は、命知らずなドライバーと言うことになっているが、なぜか登山だと、命知らずは逆に賛美されたりする。命知らずを賛美してはいけないと思う。命知らず=舐めている、ということだ。
■ 危険が何かを見極める
結局のところ
大事なことは、自分の目で見て、自分で考えることだ。
誰かにとって危険でも、自分にとっては危険でないことはありうるし、自分には危険でも、誰かにとっては危険でないこともありうる。 山は下界のように平等ではない。実力主義の世界が山だ。
ただ共通に言えることもある。誰にとっても共通に危険なのは、
危険を理解しようとしない態度
だ。だから、考える習慣を持たない人は危険だ。つまり考えることを人に任せたがる人、判断を人にゆだねたがる人は危険だ。同じことで自分の判断を強要したがる人も危険だ。
←これくらいは自信を持って歩けますが、ロープは出してもらいたいですね。
これでクラストしたアイゼンサクサク雪なら、ラクラクトラバース。でも、富士山にあるようにツルツルのアイス面なら、絶対行きたくないなーとなるかも。
どちらにしても、トラバースの方が、同じ斜度でも直上より、心理的に緊張を強いられます。
≪まとめ≫
・下山時は滑落に注意する
・何でもないところでも滑落する
・ザックが重いときはトラバースは特に注意する
・落ちるときは素直に足から落ちるようにする (ザックを下にしない)
・下山ではいつもヘルメットをかぶっている
・転滑落が起りやすい場所をよく知る
・飛ばす時は落ちても大丈夫な所かどうかを考える
今回の真砂尾根ではリーダーが要らないと判断した岩場で一部懸垂で降りる判断をした人もいました。危険は人それぞれなので、それでよいと思います。
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