漫画『岳』には、アリエナイ方向に体が折れ曲がってしまった墜落した登山者や、数年たってから発見された右手など出てきます。
そうした絵はどこに着想を得ていたのだろうか?
というとこの本なのではないか?という写真が多数出てくる本です。
しかし、一般登山者にとっても、”本格的な”がつく登山をこれから始めようという登山者にとっても、非常に重要な知識が入っていると思われますので、学んだことをまとめておきたいと思います。
ちなみに、この本は図書館では閉架に置かれていました。このような良書が日陰の扱い?(笑)を受けること自体が、世の中の後退を表しているような気がする。
(と言ってしまえば…私も年を取ったな~年よりくさい!ってことなのかもしれません(^^;))
良い子の登山者の皆さんはぜひ一読をおススメします。
■ アンザイレン
アンザイレンとは、”ロープを結び合うこと”です。 ザイルはロープのドイツ語。でアンザイレンはドイツ語ですが、相当する英語が普及していないので、そのまま登山用語でアンザイレンと言われています。
アンザイレンによる事故がこの本では報告されています。
1)1930年代までは胴体に直にアンザイレン → 今ではハーネス
2)シットハーネスによる腰椎骨折死 → 未解決 (チェストハーネス併用すればよいがまだ慣例的でない)
3)チェストハーネスで垂直静荷重ショック死 → シットハーネスに移行
4)アンザイレンの環を間違える → 未解決 間違ってギアラックにつないでしまう
5)結び目がほどけてしまう → ブーリンからエイトノットへ
6)カラビナが開いてしまった → 2枚使う
■ 各項目の詳細
1)その昔は誰も落ちなかった
胴体に直接ロープを結んでいた頃は、トップを登る人で落ちる人が誰もいなかったのだそうです。
落ちる=死を意味するからですね。
墜ちなければ、胴体に結ぼうが首に結ぼうが、使わないのですから問題なし。
2)腰椎骨折…重心がどこかが問題です
シットハーネスとは腰のハーネスのことです。この用語があるのは、胸のチェストハーネスという存在もあるからです。
しかし、チェストハーネスは、頭が下にならないという利点があっても、チェストハーネス単体でぶら下がった場合、ほぼ死を意味します。胸周辺の血管が圧迫されると血流が阻害され、人は激烈な苦痛にさらされるのだそうです。2000年くらい前は、罪人に出来るだけ死の苦しみを長く味あわせるための処刑法の一つだったのだそうです。というわけで、シットハーネスの登場自体が、このチェストハーネスの反省に基づくものです。
しかしシットハーネスにも問題がないわけではなく、腰が支点になってロープにぶら下がることになってしまいます。腹筋が抜けると後屈になり、腰に支点が来た結果、脊椎から骨折してしまいます。
私も何度かすでにロープにハーネスでぶら下がっていますが、それはトップロープ(頭上にロープがある場合)でのこと。リードでの墜落は、状況的にロープが下にありますから、墜ちれば、頭が下になる可能性もあります。また、腰椎が折れ曲がってしまったり、頭を岩にぶつける可能性が大いにあります。
自由落下で、腰に結んだハーネスに人間がぶら下がれば、腰が支点になります。したがって、脊椎損傷で死ぬリスクはシットハーネスだけでは消えていません。
本当に落ちそうでヤバい場所ではチェストハーネスと併用しなくてはなりません。
カンプの取説 ザックを背負っているときはチェストハーネスと併用するよう記述がある |
この問題点を知っていれば、できるだけザックを軽くし、頭より上に重い荷物を持たないようになると思います。
が、実は、重いザックを背負っているとき、荷重は上のほうが楽なのです。なので、この辺りの事情は良く知っておいて、ロープを結び合うような山に行く場合には、ザック込みの自分のカラダの重心がどこにあるか?を意識しておくのが良いかもしれません。
4)ヒューマンエラー → パートナーチェックで防ぐ
ハーネスは今でもタイインループとビレイループがあり、間違えやすいです。
正確な結び方はここに書いてあります。http://www.lostarrow.co.jp/support/ti_143.html
これも事故を知っていれば重要さが分かりますが、知らなければ、神経質だなぁくらいで終わってしまうかもしれません。
私は先日、トップロープですがカラビナを使ったアンザイレンをしてしまいましたが…どうもよろしくないようですね(汗)
さらに今は パートナーチェック(互いにチェックし合う)が標準手順です。
≪チェック項目≫
・きちんとハーネスを装着しているか? 最近のはレッグループが裏返りやすいです。
・タイインループにエイトノットを結んでいるか? ビレイループではない。
・エイトノットは正しく結べているか? 遊びがないこと。一握り分の長さの末端が残っていること。
思ったのですが、(ビレイループ)と(タイインループ)名称が分かりづらいですよね?とくに英語に不慣れで英単語の意味をあまり考えないとそうかも?
タイインループは、文字通り結ぶ=タイインするためのループでしょう。ビレイループは、ビレイするためのループですが、アンザイレンそのものがビレイともいえるワケなのだし、ビレイするにも結びません?なので分かりづらいといえば分かりづらい。
タイインループ → アンザイレン用
ビレイループ → セルフビレイ用
と言いたいのでしょうね。ここは素直に。
アンザイレンで結ぶ場所を間違ってはいけない理由は、当然、ビレイループに結び、ほどけてしまったらアウトだからでしょう。
あるいは耐荷重が違うのかもしれません。耐荷重が違うのだろうか?と思ったので、持っているカンプのハーネスの取説を見てみましたが、ビレイループとタイインループの耐荷重は記載されていませんでした。
取説。3つもあるがこれは各国語のため。
白い環がビレイループ。
ビレイループが通っている二つの環がタイインループ。
アンザイレン=衝撃荷重がかかる可能性あり
セルフビレイ=静荷重
まぁ見ただけでも、一つの環に通すより、複数の環に通したほうがより確実そうですね。
こちらのハーネスは、各部分の耐荷重が分かりやすく書かれています。
まぁ最近のクライミング用品は規格により守られていて、正しい使い方をすれば、耐荷重を気にする必要はないのだと思いますが、それでも、自分のハーネスの、タイインループとビレイループくらいの耐荷重くらいは知っていても損はないような気がしないでもないです。
結ぶ箇所の間違いを防ぐ目的で、ビレイループは色を変えてあるハーネスもあります。これも変えてありますね。
5) エイトノットをきれいに結べと言われるワケ
エイトノットはただ結べるだけでなく、小さく美しくと言われます。でもこの教え方キケン。
美しいだけなら審美の問題。でも、美しくないと安全な結び目でないなら、見た目の問題ではなく、安全性の問題です。先生方にはぜひ美しさの問題としてではなく、安全性の問題として、教えて欲しいものです。
あらゆるノットが美しくないといけないわけは、摩擦です。結び目の最後の砦は摩擦なんです。きっちり摩擦がかかった結び目=美しい結び目。
エイトノットは結び方にコツがあります。これは別途記事を作ります。
アンザイレンの結び目がほどけて死んだ事例はいっぱいあるようです。
余談ですが、不完全なアンザイレンの結び目を【リン・ヒル・ヒッチ】と言うそうです。(リン・ヒルはアメリカの女性クライマー。最強のコンペクライマーと言われた人なのだそうです。)
6)ツイストロックのカラビナに掛けた半マスト(ムンター)は開くことがある
良く知られているようです。雪山でのアンザイレンでカラビナを使う方法はまだ教わっていませんが、もしそうなら、ツイストロックではなく、ネジ式の安全環を使うか、ネジ式では締めるのを忘れてしまうのであれば、カラビナを2枚使うしかありませんね。
■ 結論
アンザイレンでは
・きっちり美しいエイトノットを結ぶ
・タイインループに結ぶ
・重心位置がどこかが重要
でした。
先生たちが教えてくれることには、ちゃんと意味があるんですよね。ただそれらの意味は自分で発掘しないと出てこないです。
最後ですが、ビビりすぎもあまりよくないことは付け加えておきます。
すでに安全性が高まり、進化したクライミングの世界に入っていけること、は後発者のメリットです。
ハーネスしかり…。しかし、そこに来るまでの経緯を知らないということはデメリットです。
デメリットは減らすべし。
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