懸垂下降も針ノ木雪渓でやったんですが、これについては、視野が狭い体験しかしていないので、なかなか記事にしづらいものがありました。
カンタンですが懸垂下降の手順を書いておきます。
①セルフビレイ
②ロープセット
③下降器セット
④ロープが体重をきちんと保持し、支点が壊れないか体重をかけて確認 (この時セルフより短くないと確認にならない)
⑤バックアップ設定 (プルージック)
⑥セルフビレイ解除
⑦下降
⑧終了点到着
⑨セルフビレイ
⑩下降器を解除
■ 事故が多い
クライミングによる事故のうち、懸垂下降による事故が25%で最も多いと『生と死の…』には書いてあります。
私も乾徳山で初めて懸垂下降したときに先輩にそれを言われました。
が、”事故が多い”と言われても、その情報は、”ではどうしたら事故を防げるか?”という情報とセットでなければ、タダの脅しでしかなく、慎重さ以上の知恵は引き出せません。
というわけで、事故の内容を調べてみると…
・支点が壊れる
・支点を間違う
・2本のロープが正しく結ばれておらず、抜け落ちた
・長さが足りなかった
・すっぽぬけ
・衣類などを巻き込んだ
・支点に掛けたセルフビレイのカラビナに懸垂下降用のロープを通してしまった
・カラビナのゲートオープン
・下降器を落とす
でした。また、懸垂下降での事故が多い理由の一つに、落下距離の問題があります。
登るときの墜落は、たとえリードであっても登った分だけですが、懸垂下降での墜落は、際限なく下まで落ちていくことができます…。落下距離が最大になるのが懸垂下降での墜落。
ここんところは誰かに教えてほしかったな・・・そんな話とはつゆ知らず気楽に降りちゃったよ(^^;)
さて、次にそれぞれの項目を見ていきます。
支点が壊れるのは、強度の問題ですが…支点については支点についてだけで一つの技術分野と思うので別途とします。
■ ロープ連結ミス
普通の結び目がオーバーハンドノット |
『生と死の…』によるとフィッシャーマンで連結した場合のミスが載っています。
通常フィッシャーマンは結び目を両端に引けば引くほど固く閉まる結び目なので、ロープ連結には適した結び目のようですが・・・
実はどことも結ばないでフィッシャーマンができているように見える。【緑結び】というようです。
見てみれば当然のこと…フィッシャーマンノットの末端を重ね合わせただけです。 わざと作らないと作れないような気もしますが…でも…事故があったということは人間はそんなことをやらかすわけですね。ああ、怖い。
つまり、こうゆうことです
ロープの端の二つの環・・
それぞれに、末端を通すと・・・
あーら、この通り!
これはもちろん正しいフィッシャーマン。
見分けがつきます?つくはずないよなぁ・・・
というか、こういう事実を教わっていないことが怖いのですが…ロープワーク… なんか私の性格が慎重すぎるのでしょうか?
そして こういうシビアな用途の場合は必ず、結び目はバックアップ用1個を足して2個です。
それにたとえ2個作っても離れて作ったら意味がありません。 なぜなら、結び目の基本知識ですが、結び目(ノット)は基本的に摩擦力を増すことで締めるものですから。
ですから、2個結び目を作った場合、近くに作らないと意味がありません。これも本には書いてあったけど、誰からも教わっていないですが(汗)
・ロープの連結ではくれぐれもロープがほどけてしまわないように
・結び目は2個。末端は長めに。
・二つの結び目はきっちり近づけて作る。
末端は長く!結び目は近く! |
≪ロープ連結≫
・オーバーハンドノット2個
・エイトノット
・ダブルフィッシャーマン
■ 長さが足りなかった
マヌケなように思われますが…実際の山では頻繁にあるようです。確かに後何メートルかっていうのはロープが畳まれた状態では、とくに初心者には分かりません…
このマヌケ状態を脱するには、・用心深さ ・経験 の2点が必要なようです。
■ 安全地帯でロープを取ろう!
というか、前回の針ノ木でも、懸垂下降の終了点からは、ロープが届かない点に自己確保点がありました。もちろん雪上ですから、懸垂下降終了点ではピッケルで自己確保すればいいんですが…でも懸垂下降してロープが届いたところが、安全地帯とは限らないわけですよね?
ならば、多少ロープが残っていても、安全地帯で、メインロープとはつながった状態で、自己確保をとり、それからロープを外すのが正しい手順のような気がします。 これは確認中。
■すっぽ抜け
これは想像ができる危険ですから、結び目を作らない人は珍しいと思います。最初からロープ末端には結び目を作っておきます。
・オーバーハンドノットで、2本のロープそれぞれに2個結び目を作る
・コツは、ロープ末端は”無駄に長く”残す。1mほど
・キンクについて
一説に、ロープのキンク(よじれ)を嫌う人は、末端の結び目を省くのだそうです。
しかし、(キンク)vs(末端すっぽ抜け)では、すっぽ抜けのほうが恐ろしいわけですので、特に初心者は、キンクのせいで下降に時間がかかることが命を左右するようなシビアな山行にいくことがないと思いますので…キンクは気にしないで結び目を作りましょう。
■巻き込み 顔廻り要注意
懸垂下降では、色々なものが巻き込まれているようです。特に
・長い髪
・だぼっとした衣類
・ヘルメットの紐
などなど…特に傾斜が垂直に近ければ近いほど、顔廻りのものが巻き込まれる危険が増えますね。髪の毛などは巻き込まれたら、頭皮がはがれる大けがになるそうです。
髪の毛はまとめるか、ショートカットが良いようです。山の女性はそういえばショートの人が多いですね。
冬山でも髪はまとめておけと言うのが定番です。その根拠は実は聞いたことがないので誰か教えてください。
このような巻き込みでは、下れば下るほど、巻き込みはきつくなるのは、ジッパーの巻き込みと同じです。
なので、対策としては
・プルージックで少し登り返してロープを緩める
・切りとってしまう
の2点しかありません。切り取りたいときのためにナイフがあるので、ナイフはすぐ手に取れる場所にないとダメです。間違ってもザックの中にあったら…持っていても使えない。
■支点に掛けたセルフビレイのカラビナに懸垂下降用のロープを通してしまった
これはほんとにトホホな事例ですが、実際にあったのだそうです。
懸垂下降の最初は誰もがセルフビレイを取っています。しかし、そこでカラビナで支点とつながっていることは多いです。
メインロープを支点に掛けますが、その時、うっかり、自分のセルフ用のカラビナを支点そのものだと思ってメインロープを掛けてしまい…
その後体重をかけてみて、ちゃんとメインロープが体重を支えてくれるか確認するわけですが…
このときもセルフビレイしているカラビナですから、当然体重をかけても大丈夫です。
そしておもむろにカラビナを外すと、外したカラビナもろとも…墜落です…
うそのようなホントの話があるのが、クライミングの世界のようです。
これは『生と死の…』に載っています。
■カラビナのゲートオープン ムンターでの下降
これは、ムンターヒッチ(半マスト、半固定)での下降の話です。 カラビナを使って下降する場合、ムンターを使いますが、ムンターがゲートを押し開けてしまう危険については良く知られているようです。
やってみた。 右のロープをゲートに巻きつけるようにして引くと開く。
この通り・・・
ベントゲートで安全環がないカラビナだともっと開きやすい。
これを基に、(カラビナ&ムンター)での下降を禁止にしてしまうケースもあるようですが…
私も実際試してみました。ロープの向きによって、ちゃんと(?)ゲートは開きました…(汗)アブナイ…
しかし、この問題の解決には、スクリュー式安全環を使い、きちんとゲートを閉じることで、ゲートが開く
危険は回避できそうです。
しかし…ムンター&カラビナを教わった時にこのこと教えてもらったっけな?いや教えてもらっていないなーうーん…ホントに恐ろしい!
カラビナ&ムンターは、キンクが大きいということから、使わない人もいるのだそうですが、キンクが
大きくなるロープの向きというものがあるのだそうです。
■ その他
良く言われるミスは、
・下降器をセット中に落とす
というものです。 理由は
・下降というのは、山行の後半に入っているのが普通であり、すでに疲れている
・登るより、降りるほうが油断が出やすい
・しかし、登るより降りる方が技術が難しい
■ さまざまな下降法
私は、最初にカラビナで降りるのをやって、下降器で降りるのをやったら、滑りが悪くてびっくりしました。
しかし、スーッと降りてしまうと、懸垂下降はかなりの熱を持ってしまうのだそうです。
ロープはゴム、ゴムに熱+荷重はあんまり良くなさそうです。なので初心者じゃなくても慎重にゆっくり降りてもいいと思います。 決してへたくそと言うことにはならない。
・懸垂下降はゆっくり降りよう
そして、セット中に下降器(ATC)やエイト環などを落としてしまった場合…次なる手段を考えなくてはなりません。
■ さまざまな下降法に親しむべき
確実な技術一つに習熟するべきなのは、それが応用範囲がひろいからです。
しかし、下降に関して、ATCの下降しか知らないとATCを落としたとき困ります。
そういうわけでいろいろな手段を知っているべきなのが懸垂下降です。
1)ATCによる下降
2)エイト環による下降
3)カラビナ&ムンターによる下降
4)肩がらみ
問題は下に行くほど信頼性が低いことです。
ところが…基本的には、岩登りなんてしたことがない一般登山者はATCなんて持っているはずありませんし、カラビナさえもっているかどうかは怪しいので…一般登山者の場合、難しい技術の方が身近にある、ということになります。
それでも、一般ルートを歩いている場合で、懸垂下降が必要なケースと言うのは、斜面の傾斜は
きつくないだろうし、距離も長くないはずなので、単純に”お助け紐的ロープ使い”で、ロープがあったら
楽、安心、という用途だと思います。ので、大きな問題なし!
問題になるのは、一般登山者であっても道迷いして崖に出て落ちたとか、特殊なケースです。そうピンチのとき。
■ 知ることの効用
もし、一般的な岩登りでの懸垂下降がどのようなものかを知っていれば、登山者としてたとえば道迷いして崖に出たときに、決して崖を下るという選択肢は取らないでしょう。
さらにATCなどの岩登り装備とくらべ、カラビナなどのより一般的な装備での懸垂が技術的には、
より難しいことを知っていれば、決して一般ルートでのちょっとした危険個所で無理をしなくなるでしょう。
一般ルートでは危険を回避するもっともよい方法は自分の登山スキルを高めることですね。
そのスキルができるまではそこには行かなくても良いってことかもしれません。
念のためのお助け紐はあって役立つものですが、実際の岩登り向けのロープワークと違い…プアな道具立て。
そしてプアな道具立ての方がより高度な技術が必要になる…ということが明白になるからです。
≪追記≫ 12.6.16
初心者のためのロープワーク講習会
■懸垂下降
ラッペル時(懸垂下降)のロープ連結の研究 最終回
続・ラッペルでのロープ連結 破断の可能性
ラッペル(懸垂下降)でのロープ連結
懸垂下降の復習
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