■ 実力を正確に表現するのは難しい
登山者の実力、というのは、本当に表現が難しいものだ、それが様々な遭難や挫折、葛藤の原因になるんだなぁ…と最近、気づかされました。
山行履歴は、登山の内容までは語れません。
内容が語れないということは、ガイド登山で穂高に行っても、個人山行で穂高に行っても、同じ穂高と書かれるということです。しかし、ガイド登山の穂高と自主山行の穂高では4ランクくらい実力に差があります。
A.連れて行ってもらった山 ≠ 自分の実力ではない 120%の山
B.自分で行った山 = 実力 100%の山
C.連れて行った山 = ラクラクの山 60%の山
です。
そこで、私は自分の山行履歴に、自主山行、ガイド山行、連れて行った山、と記述を増やしました。
今の私は
A.120%の山: ツルネ東稜~旭岳~権現~川俣尾根 (残雪期初級バリエーション)
B.100%の山: 厳冬期鳳凰三山、夏の後立縦走 単独テント泊4泊5日
C.60%の山: 瑞牆山、厳冬期北横岳
です。
つまり連れて行ける山はC.の山ってことです。実際山行履歴でもC.レベルの山にしか人を連れては歩いていません。
もし、付け加えるとするなら、80%の山もあるかもしれません。自分には楽に行けるけれども、リーダーとして連れて行くとなるとチャレンジの山です。
たとえば、私なら、冬の北八つ天狗岳はもう6回も行っていますし、全部のルート、季節も全部知っています。一人で厳冬期(つまり一番厳しいとき)にも、出かけるのは無理がないレベルですから、連れていけますが、もちろん、ロープウェーで行く北横岳に連れて行くより、うんと心してかからねばならない山です。
リーダーとして行くのと、自分で行くのではそれくらい差があるのです。
■ 自分の実力を過不足なく表現するのは難しい
ガイド登山は実力の範疇に入らないので、私は自分で自己紹介するとき、
夏: 後立山連峰 4泊5日 テント泊単独縦走
冬: 厳冬期 悪天候下の鳳凰三山 1泊2日
岩: 外岩はまだ行ったことがありません。インドアレベル
沢: 東沢釜ノ沢
としています。
理由は、これなら、たぶん山をよく知っている人なら「ああ、脱初心者くらいのレベルだな」とすぐわかってくれると思うからです。体力も普通レベル。
知らない人のために解説すると、後立の縦走路は、岩稜帯としては槍穂の縦走路に次ぐ難易度です。とりあえず一般登山道としては険路。つまり技術レベルが分かります。
さらに、テント泊ということは、テント泊の装備を背負えるという意味で、おおよその歩荷力が分かります。もちろん、最近は私みたいにウルトラライトな人が多いので、結構軽かったりするんですけどね(^^)。
また、縦走は長いですから、行動体力がわかります。4泊5日という中では、ずっと晴天、は、ありえないのは、分かり切っていますから、ある程度の生活技術が分かります。
ソロ、つまり単独行動、ということから、読図力(まぁ夏は要りませんけど・・)や判断力が分かります。
冬は、鳳凰三山。これはガイド登山なら5、6万出さないといけない冬山です(笑)。自主山行でこの山が行けるということが意味するのは、雪の中7時間程度の連続行動が出来る、という意味です。日の短い冬山で7時間の連続行動はけっこう目一杯です。途中休憩なども挟まないといけませんから。ただし、この山は誰もが知るとおり、アップダウンが少ないロングルートです。技術ではなく体力の山です。
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余談ですが、雪山3年目の去年、私たちは赤岳に挑戦する時期でしたが、私は初心者は体力を先に付けるべきだと思ったので、体力がイラナイ赤岳ではなく、ロングルートで体力が必要な鳳凰三山を先にしたのです。赤岳は去年は意図的に繰り延べました。
実は冬の鳳凰三山は、私たちが経験している一番難しい山ではありません。一番難しいのは、ツルネ東稜で、旭岳~権現のところは赤岳と同じくらいの難易度です。まだ雪山2年目だったのでザイルを出してもらいました。
「初心者にはザイルが必要」と山の教科書に書いてある場合、その意味するところは、「アイゼンワークができていない初心者は転ぶはずがないところで転ぶことがあるので、念のためにザイルを出せ」という意味ですので、私たちは今年、この道はノーザイルでも歩けると思います。しかし、自分たちで自主山行しない限り、この道はガイド登山で先輩に連れられて行った山ですから、実力とすることはできません。
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岩は、こう書いて置けば、ロープワークを知らないはずがないな、と分かるでしょうし、沢も、初心者向けの沢で超有名ですから、初心者だと分かります。岩も沢も、登山と違って一人では決して行けませんから、この二つの場合は、テント泊、とか ソロとか書く必要はありません。
夏山は、登山者の実力を正確に表現するのは難しいです。 同じ後立縦走でも、小屋泊縦走だと体力レベルは2ランクくらい下になりますし、生活力も要りません。さらにグループでの縦走でリーダーでない場合、判断力も要りません。さらにガイド登山となると、2ランク下がります。その人のレベルを示すのは、単純に体力だけです。技術力はガイドさんのカバーになってしまうのです。人の後を歩くのってそれくらい楽なことなのです。
単独テント泊縦走 を 10とすると、
小屋泊縦走で 8、
小屋泊&グループ登山で 6、
小屋泊&ガイド登山やツアーで 4、
になってしまうのです。
冬山も大体同じです。小屋泊よりテント泊がもちろん2ランクエライ(笑)のです。
■ 人の実力の判断の仕方・・・(試考)
人の行動を詮索するのは私の趣味ではまったくありませんし、好きな山に好きなように行けばいいので、行動を分析する必要は全くありませんが、初心者がよく分からないで陥りがちな疑問が解消できると思いますので、最近知り合った初心者の方の山行をちょっと題材として拝借します。(拝借された方、ゴメンナサイ!単純に例として出させてください m_ _m)
最近の山行は、3つ。
・日向山
・瑞牆山(ツアー登山)
・鳳凰山(自主登山、敗退)
これだけしか知りません。たまたま小耳にはさんだくらいなので、たとえばどのルートを通ったのか、誰かと一緒だったのか?という情報も全く知りません。
この乏しい情報からでも、推し量ることができるという試考です。
たとえば鳳凰山なら、鳳凰三山を通る夜叉神峠からのルートは長いけれど、アップダウンも緩やかで、難所がなく入門者向けの道です。鳳凰山の単体ピークハントによく使われる御座石や青木鉱泉からのルートや中道は★3つと同じでも、とても険しいので心肺機能に自信がある人向けです。
サクッと手持ちのガイドブック『アタック山梨百名山』と『ヤマケイアルペンガイド』を見てみましょう。
≪基本情報≫
日向山 ★1つ 標高差540m 行程6.3km 日帰り
瑞牆山 ★2つ 標高差715m 行程6.5km 日帰り
鳳凰三山 ★3つ 標高差1460m 行程25km 一泊二日 (夜叉神ルート) 以上『アタック』より
鳳凰山 ★3つ コースタイム12時間50分 一泊二日(御座石ルート) ヤマケイ
鳳凰三山 ★3つ コースタイム13時間20分 一泊二日(夜叉神In御座石Out) 『ヤマケイ』より
この方は、残念ながら、鳳凰山は敗退してしまいました。でも、それは、もしかしたら、残念がることでも、驚くべきことでもないのかもしれません。これから説明します。
日向山は、山梨県民が愛するハイキングの山です。甲斐駒の前衛で、まるで燕岳のような山頂が
一時間程度の散策で味わえる、穴場的な場所です。体力は不要。お年寄りから、子供まで楽しめる山です。運動靴でも行けますので、このレベルで躓く人はまずいません。このレベルだと他には、西沢渓谷や横尾山、三つ峠などがあります。
瑞牆山はそこから1ステップ上がります。登山道は岩ゴロゴロで、ルートファインディング力がないと、よっこらしょが多くなり、ちょっと大変です。道が日向山と比べると格段に登山道らしくなります。
距離は日向山も瑞牆山もほとんど同じなのに標高差は200mもあります。単純に1kmあたりで割ってみると、
日向山 1km当たり標高差 85.7m
瑞牆山 113.4m
です。 だいぶ急になりますね。 瑞牆山はツアーで登ったとすると、前述のように判断力や工程管理などの負担が無くなり、単純に歩くだけになりますから、登山の総合力というレベルでは少し楽になっています。つまり、瑞牆山は自分で登れる山かどうかはまだ分からないレベルです。★ならマイナス1。
余談ですが、一度ツアーに行ったら、同じレベルの山に自主山行で行ってみるというのはひとつのコツかもしれません。たとえば、瑞牆に行ったら、三つ峠(北口登山道から)や大菩薩、入笠山などに自分で行ってみる、などです。
さてと、レベル判定の結論は保留にして、次に鳳凰山を考えてみましょう。便宜上、同じ物差しで比較ができる鳳凰三山で比較してみます。
”一日6.5km、標高差715m”がこの方の実力とすると、鳳凰三山は一日当たりの標高差は1460÷2で、730mですが、行程は25km÷2の12.5kmとなり、単純に言って、倍の距離歩かなければならない、という事になります。
日向山 1km当たり標高差 85.7m
瑞牆山 113.4m
鳳凰三山 58.4m
一日6km歩くのと、12km歩くのでは結構飛躍ですね。とはいえ、標高差はおなじくらいですから、のんびりした道、急ではない、ということは言えます。
つまり、この方の課題は、急な道を歩くこと(=心肺機能)ではなく、長く歩く(=持久力)ということです。
実は、山で長い時間過ごすのは、初心者にとっては、何もしなくてもいるだけで疲れます。体力を結構消耗しますから、瑞牆山にツアー登山で行ける人が鳳凰山にチャレンジして途中までしか行けなかったとしても、何も不思議ではありません。
つまり、瑞牆山から鳳凰山というのが、その人の現在地に対して、ちょっと飛躍しすぎだった、ということなのです。
間には、故郷の山茅ヶ岳や乾徳山、金峰山、甲武信岳、同じ南アだと仙丈ヶ岳などが考えられます。
■ 敗退は成長のプロセス
ちなみに、私たちも、同じようなプロセスで、登山の成長(達成)を勝ち取っています。
たとえば、積雪期の八ヶ岳、権現です。 権現には3つのピークがあります。低いほうから前三ツ頭、三ツ頭、権現、です。
私たち夫婦は、最初は初回、前三ツまでしか行けませんでした。その頃はアイゼンピッケルも持っておらず、ピッケルをもっている登山者をへぇ~という顔で観察する初心者でした。
そのうち、なんとか三ツ頭に出れたときは感動です(笑)。やっとピッケルが必要な領域(森林限界の上)です。と行っても数十メートルですが(^^;)。それも必要なのは念のためでしかないです…。
そして、チャレンジすること2年目に、権現日帰りを終に達成! 一日の標高差1500m 一日行動10時間の山です。この頃にはピッケルは持ちなれた道具になっておりました(笑)パチパチ☆
私が言いたいのは、敗退は挫折ではない、ということです。 敗退を挫折とみなすのは、人間側の心理です。実際は、それは達成するまでのひとつのプロセスにすぎません。
私たちの前三ツ、三ツ頭も このように書くこともできたのです(笑)。
私たちの書き方 世間の見方
○月×日 八ヶ岳前三ツ vs ○月×日 八ヶ岳権現(敗退)
△月○日 八ヶ岳三ツ頭 vs △月○日 八ヶ岳権現(敗退)
分かります?前三ツや三ツ頭は、一般には山頂とはみなされていないのです。
■ 標高差と距離を目安にしましょう
登山のレベルはこのようにとっても表現が難しいです。 おそらくレーダーチャートで、持久力、心肺機能、行動時間、技術力、判断力、生活力、経験などの項目が合って初めて表現できるでしょう。
ですから、体力のみの一点で山自慢をする夏山の団体ツアー登山者の自慢がいかにそこが浅いものか分かるでしょう。
ただし、自分が○○山という山に登れるか、どうか?などを判断したい時は、登山レベルは、一般道であれば、このように、おおよそ標高差と距離、あるいは行動時間の長さで大体想像することができます。 体力は登山の基本のキ、で、体力がないといくら判断力が合っても、登れません。
最初のうちは、自分に無理がない、標高差と距離、行動時間の長さを、徐々に伸ばしていくよう努力しましょう。
ちなみに、技術が必要になるのは、岩が出てきてからです。それまでは、歩くということに習熟して、歩き方の研究だと思うのも一つの手です。もちろん、山自体を愉しむということがあったうえでの話です。
そして、
連れて行ってもらった山をくれぐれも自分の実力と誤解しないことが自主山行で、実力以上の山に行って遭難しないためにとても重要
です。
≪関連記事≫
山を学ぶということ http://stps2snwmt.blogspot.jp/2013/04/blog-post_12.html
易しくても自分で4級の岩を登れるほうが、 誰かに5級を登らせてもらうよりうれしいだろ?
http://stps2snwmt.blogspot.jp/2013/07/blog-post_25.html
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