Wednesday, January 7, 2015

奥穂の遭難 

■ 冬のデポ食料

奥穂で遭難があり、その際の報道に誤解を招く表現があったらしく、奥穂高山荘から、指摘が上がっていました。
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【奥穂高岳での遭難に関する報道につきまして】
穂高岳山荘の冬季避難小屋に避難していた方々4名が、本日、岐阜県警により無事に救助されました。
この件について、一部マスコミ報道にて「穂高岳山荘には食料や燃料がある」旨報道がなされています。
穂高岳山荘は現在営業期間外であり、山荘従業員および山岳カメラマンの方が私的に冬期登山用として置いていた荷物を、警察からの要請を受け、避難している方々へ無償提供しているという状況でした。
冬季避難小屋では、通常、提供できる食料・燃料はございません。
営業期間外に登山される方は燃料・食糧共に十分準備して登山されるようお願いいたします。
救助された皆様の一日も早いご快復をお祈りいたします
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4人は山荘にデポされていた食料で食いつなぎ、それは他人の食料、だそうです(^^;) 報道では提供を受けたように誤解を招く書き方がされているそうです。

■ 記事
ニュース記事はすぐネットから消えてしまうので、こちらが詳細です。

北ア遭難、5日ぶり救助 奥穂高 4人、山荘でしのぐ
2015年01月06日09:28
写真:北ア遭難、5日ぶり救助 奥穂高 4人、山荘でしのぐ
救急隊員に付き添われ救急車から降りる遭難者=5日午後2時43分、高山市天満町、高山赤十字病院
 高山市の北アルプス・奥穂高岳(3190メートル)で昨年12月31日に遭難し、付近の山荘に避難していた高知、徳島両県の男女4人は5日、県警山岳警備隊と県警ヘリに救助された。
 4人は昨年12月27日に新穂高から入山。31日午後に山頂付近で1人が滑落し、背中を痛め歩行が困難になりビバーク(野営)。1日午前から穂高岳山荘に避難していた。
 県警ヘリはこれまで悪天候のため救助活動ができなかった。
◆登山歴長く「過信」 4人所属の山岳会会長
 奥穂高岳で遭難し救助された4人が所属する高知市の山岳会「土佐アルパインクラブ」の乃一広志会長(47)は5日、高山署で取材に応じ「生きて帰ってきたことはうれしく思う」と喜びつつも、天候の悪化が予想されていただけに「過信があった」「力不足」と反省の言葉を述べた。
 乃一会長によると、リーダーの男性は登山歴50年を超えるベテラン。厳冬期に今回と同じルートを登った経験があり、他の3人も冬山登山の経験がある。
 4人は昨年12月27日に入山。30日に下山する予定で、天候が悪化する前に安全圏まで進む計画だった。予備日を1日設け、食料も余分に2日分を用意していた。
 だが、入山2日目の28日から吹雪で行程が遅れた。強風で身動きが取れず、雪洞も掘れない。29日朝には2人が体調を崩し、半日動けなかったという。31日は道に迷った末、山頂付近で1人が滑落した。
 乃一会長は「入念に計画し、トレーニングを積んだつもり。過信というか、力不足だった。皆さんに多大な迷惑と心配を掛けたことを深く反省している」と語った


≪Plan どう計画したか?≫
  • リーダーの男性は登山歴50年を超えるベテラン
  • 厳冬期に今回と同じルートを登った経験
  • 他の3人も冬山登山の経験があり
  • 予備日を1日
  • 食料も余分に2日分
↓ 
≪Do 何が起こったか?≫
  • 強風で身動きが取れず
  • 雪洞も掘れず
  • 29日朝には2人が体調悪化
  • 半日 行動不能
  • 31日 道迷い  ← 致命傷 間違い尾根
  • 1人が滑落
≪Check 結果どうなったか?≫
  • 遭難
  • 31日山荘へ避難
  • デポ食料 食べた
  • 5日救助  27日入山から8日ぶり

■ 世評

私はこのニュース、FBで知ったのですが、結構コメントが出ていて、そんなにいい加減な遭難なのかな?ちがうんじゃないかな?と思いました。

中でも マシなコメントかな?っていうのを抜粋してあります。

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冬山の厳しさを十分に意識する事が必要ですね。
一番大切なのは、十分に用意された装備、危険を感じる経験、ダメだと思ったら無理をしない勇気だと思います。山はどこまで熟練しても怖い場所って事は忘れてはいけませんね。

報道もしっかり事実を伝えて欲しいですね。

無事で何よりです。 冬季小屋やその付近に冬期登山用のデポ(行動予定前置食料や燃料)が置いてあることがありますが、通常使うことの出来ないものですし、これを予定して登山しますので現地で無くなっていると大惨事を起こしますので、こういった報道は訂正と本来の事を周知して欲しいものです。

冬季小屋についてはきちんと伝えて頂かないと、誤った報道が次の災難を呼び込みかねません。もちろん、冬季に3000m級を目指す方は常識としてご存知と思いますが、それでなくても魅力を安易に触れるアウトドア系の雑誌が増えていますので、報道・掲載する際は手を抜かずに伝える必要があると思います。

遭難者のインタビューで『冬山を舐めていた、怖かった』と言ってましたがその通りだと思います。
登山計画ありき、予備日ありき、気象の変化予測ありき、最善の策と思っても足ることはありません。
長い休みは悲劇を生む事になりますね。
自分の力を知る事をお勧めしたい。

毎年、年末年始には冬山遭難のニュースが多く報道されますね。しかし、遭難事故は年中起きてます。とういより、起こしています。昔に比べ、アプローチも良くなり、ウェア、ブーツなど軽量で優れた物が多くあります。ただ、山の自然は変わらない。
新年の御来光見たい。新雪を歩きたい。スキーで滑ってみたい。お山が好きな人は、みんな思ってるのでは?
ただ、自己責任で済まされない事を忘れずに。自然には謙虚でありたい。
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≪まとめ≫
  • 山は熟練しても怖い
  • 安易な山雑誌(手抜き)
  • 最善の策でも足らない
  • 自分の力を知る
  • 装備が良くなっても、山の厳しさは変わらない
  • 自己責任では済まされない
肝に銘じておかないといけませんね。大体、遭難しないこと=ラッキーの結果でもあります。

私たちの冬山合宿も、29日の朝の悪天候をあまり重視していませんでした。
 

■ 間違い尾根

この遭難が気になったのは、また間違い尾根だからです。 去年のGWも、剣沢大滝に登ったほどの(有段者が何時間も唸るような難しい滝)ベテランが、奥穂で遭難死しています。

奥穂ブログ ぼちぼちいこか

このブログにもありますが、この時期に奥穂~西穂の縦走をするくらいの人たちですから、相当の技術的裏付けがあってのことなのでしょう・・・

■ 50歳以上は体力の減衰に注意

加齢には勝てないということでもあるかもしれません。というのは、山歴40年、50年という人は、たとえ10歳から登っても、50歳、60歳だからです。想定は60~70歳とすると、その年齢で奥穂というのは、さすがに苦しいのではないでしょうか?

体力は50歳を境目にガクッと落ちることが体育の分野で知られており、そして、50代~60代の男性と言えば、職業的なキャリア面で、成熟期を迎え、一般的には忙しい。つまり、普段のトレーニングに掛けられる時間がそうないはずです。

体力の自然減衰について

先日合宿に連れて行ってくれた先輩も、10月から、全然山に登れていないそうでした・・・そうか~それは仕方ないことなので、与えられた条件と思って聞いておく方が良い、と思いました。 山って私の感覚では、2週間空くと、だいぶ体が下界モードになってしまいます。

中高年登山の最も大きなリスクは、”年齢に対する過信” にあることは良く知られています。

そして、ベテランだろうが、ベテランでなかろうが、体力減衰は同じです。減衰しないのは、知識だけ。




こちらに会の資料があります。

正月山行は、槍、北鎌尾根、明神~前穂~奥穂・・・(^^;) もちろん、出している資料は、新人勧誘の狙いもあると思いますから、良く知られているような山を出していると思いますが・・・。

■ 多様化の時代

会報に会長の挨拶があったのですが、世代間ギャップを少し感じました。

ーーーーーー引用ーー
とどまるところを知らない成長  → 今の時代は、低成長、または下り坂成長
より高き、より困難を目指す    → 今の時代は、多様化
大変な努力を続け、又実践    → 今の時代は、努力は楽しみながら行うもの
ネパールヒマラヤへの遠征で成功を収めた → 今の時代はネパールヒマラヤのような分かりやすい成功はない
山に挑戦し続ける → 今の時代は、山というより、自分に挑戦しつづける時代
昔の挑戦的な登攀 → 今の時代は、挑戦は登山の一部であって、全部ではない
ーーーーーーーー

登山というと挑戦の象徴ですが、今の時代は、挑戦の対象が非常に分かりづらくなっています。

それで”分かりやすい成功”に誰もが群がります。

また、山に挑戦があるか?というと、夏山にはすでに確実に存在しないです。一般ルートは整備され尽くしてしまい、山を大人になって始めた山ガールでさえ、4~5年もたつと、北鎌尾根と剣に登って”上がり”になり、それ以上行くところがなくなるそうです。

冬山だって夏山と同じヒエラルヒーですから、高尾山から始まって、槍穂です。そうなると、何十年先か?は人によりけりだと思いますが、行きつく先は、こうした山になってしまいます。

悪天候や自然の驚異には勝てませんから、基本的には ロシアンルーレットと同じです。いつかは当たる。

つまり、分かりやすい ”どうだ!”とか”えっへん!”を突き詰めると、遭難に行きつく。 

山を取り巻く人の価値観の変遷は、戦後70年の日本経済の歩みと相似形のような感じかもしれません。

一億総中流と言うように、誰もが求める幸せ(山では成功)が画一的であった時代から、何が幸せか?人それぞれの時代へ。山に求める充実感、その内容も人それぞれの時代へ。

■ ”成功”の”新しいものさし” が求められている

最後に、今日同じくFBで、良い言葉が回ってきたので、掲載しておきます。

”ヨガの成功は、ポーズをとる能力にあるのではなく、ヨガがいかに我々の人生や人との関係をポジティブな方向に変えたか?による”

私は 登山は趣味なので、趣味の成功は、自分の普段の生活が向上したかどうか?で計っています。


ヨガの世界も、

アーサナができるほうがエライ、

という価値観が支配的なこともありますが、

ヨガ自体が、そう教えているわけではありません。

山も同じで、山は時に挑戦を人に要求しますが(頑張らないと登れない)、だからと言って、

挑戦だけが山ではありません。

頑張ること以外の要素も山です。

2 comments:

  1. 私は、新聞記事に山の「ベテラン」とあったときは、いつもウソ臭さを感じています。

    「会の資料」を見ましたが、今回滑落負傷した64歳の女性の記録はなんと20年も前の明神~前穂~奥穂の記録でした。
    最近の1~2年の冬穂高記録なら、その内容・内実がはっきりしてなくても、少しはうなづきますが、こんな昔の記録を引き合いに出して「ベテラン」と呼び呼ばれるのなら、全く話しにならないと思います。

    私も還暦すぎで、持続力・瞬発力・集中力・気力・注意力、どれをとっても衰退してます。 
    昔取った杵柄だけでベテランと呼ぶのは全く適切を欠いていて、実近に同レベルの登山活動ができてないのならば、ただの社交辞令にすぎません。 
    そんな状態の「ベテラン」が、通常の天気でも体力厳しい3000mの冬山で悪天に遭遇した場合は、生き抜くことが難しい状態になる確率が高いと思います。
     
    三浦雄一郎は当然、イモトのように若くて体力があっても、経験と力量のある複数のガイドに囲まれていろいろなサポートを受けて、客観的にウォッチされて守られてるくらいでなければ、荒れた冬穂高は危ういところです。

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    1. 本当にその通りですね! その通りだと思います。年配者には敬意を示すべき=ベテランの呼称、となるのでしょう。

      ベテランであっても体力が下がるのは当然。

      どのような山に誰と行くのか?から、山の遭難(または安全)はスタートするのだと思います。

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