Thursday, April 23, 2015

山岳会の新人の主たる悩み

2015年 4/23日の記事です。

■ 山行許可が下りない!

このブログの使命(?)は、終った、と思っていたのですが、ちょっと気になることがあるので、役立つ人もいると思うので書いておきます。

新人の主たる悩みは、先輩(会)から、山行許可が下りない、というものだと思います。

新人の側としては、なんでダメ?!となります…。

企業経営の神様ドラッガーによると、企業の成長には、育成するか、時間を買うか、の2つの方法があるそうです。 登山者も同じのようです。自ら育つか、その時間を買うか、です。

 1)育成優先 ・・・自ら育つ  
 2)スピード優先・・・時間を買う=連れて行ってもらう 

1)の欠点は、時間がかかること、その代り、メリットは、密度が濃くなり、精通できることです。

2)の欠点は、過信です。と言っても、過信は何が過信なのかワカラナイ、というのが、トリッキーなのではないかと思います。たいていの場合の新人さんの過信項目は、危険回避に対する認識の甘さ、です。

危険回避にも、二つの方向性があります。

 1)事後の技: 防御技術や用具を考えること  例: 雪崩れリスクに対してビーコンを持つ
 2)事前の技: 無理をしない            例: 雪崩れリスクに対して天候判断する、地形判断する

です。

初心者が手薄なのは、ズバリ、2)無理をしないという判断、です。

無理をしないで敗退するという選択肢、平たく言うと”引き際”を持っていないため、目の前にある選択肢から選ぶ場合、ぜんぶ”頑張る”一辺倒、になってしまいます。そうして、自ら、窮地に追い込んでしまいます。

問題解決の手段に ”Yes!I Can!”以外ない人は要注意です。世の中は頑張って済むことばかりではありません。ある意味、山という母なる大自然には頑張っても勝てないということを学びに行くのが山、とも言えます。

亡くなった方には大変申し訳ありませんが、学習院大学の阿弥陀北稜の遭難は、 2)無理をしない ができなかった例です。ビーコンも持ち、ツエルトもレスキューシートを持って1)防御技術や用具を考えること、は完璧です。くどいようですが、それでも死んでしまいます。 

阿弥陀山頂でのルートファインディングミスは良く知られたリスクだそうです。それを知っていたらホワイトアウト時は動かないという選択肢を取れたでしょう。このとき選ばれた選択肢は?”頑張って降りる”、です。

無理をして降りるという選択肢を取り、ミスの影響を拡大させ、それはビバークにつながっています。その後、船山十字路に降りると言う選択肢があるにもかかわらず、阿弥陀南稜を登り返すと言う、また頑張る選択肢を取っています。つまり無理を選択しています。

問題解決に対して、”無理をする”という方向性しかありません。

”無理をする”というのは、言葉を変えると”頑張る”という意味です。

とってもポジティブですね? 登山は、もちろん頑張ることを前提にした活動ですが、頑張るべき時、無理をしてはいけないときの見極めが重要です。

すべてのターニングポイントで、”頑張る”という選択肢かしないのであれば、何の判断もしていないのと同じです。

よく無理と無茶は違う、などと言われますが、それだと、1)があれば無理をして良い、と聞こえます。実際は阿弥陀北稜の事例に分かるように、どのような時も無茶はダメです。合理的思考が必要ですが、ギリギリの山を求める気持ちがあるのは、登山をする人には普通のことです。

チャレンジがないところ、モチベーションもあるはずはありません。

■ 遠くのチャレンジのために、今の初級ルートを取る

では、無理をしてはいけない場合を見極める判断力を高めるにはどうしたらいいのでしょうか?

それは、結局、2)スピード優先、連れて行ってもらう山では判断は磨かれない、ということなのです。

成長を自らする、と決意し、時間がかかっても良いとあきらめて、1)育成優先を取るしかありません。

つまり易しいルートで、失敗込で、経験を積んでいくということです。

失敗込ですから、失敗した時に挽回が可能な場である必要があります。つまり、自分が行ける力が10とすれば、8の力で行けるところしか行けません。

自ら築く山に、ギリギリはありません。

実際、自分が先輩に連れて行ってもらった山に、自分の妻、自分の子供を連れて行くと想像してください。(この場合体力には問題がないことを前提にする)

どうでしょうか?相手の生命に保証ができるほど、自分は自信満々に、そこに連れていけるでしょうか?

実際は場所によってはそれほど自信満々で無くても連れて行ける場所もあります。人が多い山、小屋がある山です。衆人環視状態は、ある程度リスク補てんになるからです。

とはいえ、相手の生命に責任を持たないといけない、という場合の責任の重さと、連れて行ってもらっている時のただ遅れず歩けばいいと言う脳天気さの差は、分かるのではないでしょうか?

セカンドの人の命を預かると言うのは、結構な重責です。

■ 積み上げ型

そういうわけで、独り立ちしたい!と思ったら、まず手放さないといけないのは

 すごいルート&有名ルート

です。 そして、次に手に入れないといけないのは

 敗退可能なルート

です。登れないときに巻ける、と書いていある、初心者同志でも可能、などです。とにかく眼を皿のようにして、そのようなルートを探してください。「経験者がいれば初心者可」と書いてあるルートは、その意味するところは、”適正な判断力がないと遭難する”という意味です。

そのような易しいルートはロープは念のため必要、と書いてある程度のグレードのはずです。

何を持ってもまずは、退路を断たれることだけは避けなくてなりません。

こちらにまつど山岳会

もし新人に戻れたら、というコラムがあります。是非一読を

【もしも新人に戻れたなら】第1回
【もしも新人に戻れたなら】第2回
沢だったら、いきなり2級にはいけません。1級の沢からです。

本当の初心者の人(一回も沢に行ったことがない、青空トイレも分からない)を連れて行くときは、1級にさえ行けません。ウォーターウォーキングのひざ下まで濡れる程度の沢からです。一回怖い思いをして、また行ってくれる人は稀です。

余談ですが、いきなり2級+に連れて行かれた芦川横沢は、私が二度と沢に行きたいなどと言い出さないように、ぎゃふんと言わせる目的であったに違いない!と今では確信しています(笑)。

岩でも、アイスでも、沢でも、アルパインであれば、つまり人里から隔絶した場所で行う活動であれば、山特有のリスクがあります。難しい登攀へのチャレンジは、登攀力があったとしても、最初は避けなくてはなりません。

登攀力にはゆとりがあるところからスタートです。つまり3級4級からです。5級にはゲレンデ以外では行けません。

■ メンバー数は3以上4以下

また、レスキューの関係から、二人だけでの登攀的な場所も問題です。何かあった時、一人を残して救援に向かわないと行けなくなります。これはベテランでもよくそのような目に合って、慢心がある点です。もちろんルートによってはビレイポイントが狭くて、二人パーティでないと立つ場所がないなどの時もあります。

クライミングは、最低3人です。二人なら衆人監視の山が良いです。とはいえメンバーが揃うことはほとんどなく、二人そろえば行ってしまうことが多いですが、その場合のリスクについて認識を持って行くことが大事です。

5.8しかリードできない私が、スポーツクライミングも知る前に、これに登ったんですよ~

普通ないでしょ、これ。

これが私の二つ目の沢です。



































2 comments:

  1. 昨日、「登山教室TimTam」というところで「本番ルートへの条件」というのを見つけました。

    本番ルートへの条件 青山一丁目山岳会 2008.10/2 改訂2009.9/11
    谷川岳の岩場、北岳バットレスなどいわゆる本番ルートに向かう個人山行を青山一丁目山岳会が許可する条件は以下のとおりです。
    ①表丹沢の沢8本程度、西丹沢の沢8本程度の沢登りのリーダー経験があること。
    ②当該山行前一年以内に外岩5.10b(テンビー)ルート(男女共通)をレッドポイントしていること。
    ③北岳バットレス・第四尾根→同・中央稜→同・ピラミッドフェース→同・○○○というようなグレードアップを狙う行き方の場合は、外岩で男性は5.11b(イレブンビー),女性は5.10d(テンディー)ルートをレッドポイントしていること。
    ④当該山行前一ヶ月以内に三ッ峠の岩場でトレーニングしていること。
    ⑤連れて行く、連れて行かれるの関係になっていないこと。
    ⑥一ヶ月前までには登山の内容概略を会に連絡していること。
    ⑦谷川岳の場合は谷川岳登山指導センター所長(〒379-1728 群馬県利根郡水上町大字湯檜曽 ℡ 0278-72-3688)に届を出して受理されていること。
    ⑧冬の剣岳の場合は富山県庁生活環境文化部自然保護課(〒930-8501 富山市新総曲輪1-7 ℡ 076-444-3398))に届けを出して受理されていること。
    ⑨参加メンバー全員の家族が「その山行には遭難事故の可能性があり、自己責任の元に参加メンバーになっている。」と承知していること。

    たとえば、無雪期の剣岳本峰南壁(Ⅲ級ルート)に届けが出た場合は、
    堅くて安定したコースが多い剣岳の岩場ですが許可になりません。
    ①踏み跡がない、②支点が朽ちている、③浮き石が多い、という状況になっているからです。
    *多くの人が行かないルートは危ないです。

    たとえば、無雪期の穂高畳岩(Ⅱ級ルート)のに届けが出た場合は、
    そこはやさしい階段のように歩いて登れる岩場ですが許可になりません。
    剣岳の本峰南壁の理由に加え、支点の間隔が遠いことが上げられます。
    *本番ルートはやさしくても危ないです。

    たとえば、無雪期の谷川岳一の倉沢南稜に5.10bルートをレッドポイントしたことがないメンバーを含んで届けが出た場合は、
    多くの人が行くルートであり、Ⅳ級+程度の快適に登れる岩場ですが許可になりません。
    ①ルートを間違えた、②天候が悪化した、③行く手を超遅いパーティに阻まれその横をすり抜ける・・・などの対応に不安があります(5.10bが登れる程度の体のキレがないから)。
    *外岩5.10bレッドポイントでなくて外岩5.11aのオンサイトを本番ルートへの条件にしている会が多数あると知っていてほしいです。


    全部読んでないので推測ですが、講習会生と講師で作った山岳会のようです。
    しかし、その「山行許可条件」に驚きました。 

    「多くの人が行かないルートは危ないです」とか「本番ルートはやさしくても危ないです」
    って、一体どのルートならOKなのでしょう? 
    順番待ちの満員御礼ルートに行け、ということでしょうか?

    「外岩5.11aのオンサイトを本番ルートへの条件にしている会が多数ある」
    YDGが付けられたルート(=80年代初頭から開拓されたルート)とローマ数字のクラシックルルート(=70年代末までに開拓されたルート)のムーブと「質」が違うことが分からないのかなぁ?
    登るスタイル(=考え方と言っていい)も道具も違うのに、同じ線上に並べて判断基準にするのはバカげてると思います。

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    1. yosemiteさん、この「山行許可条件」じゃ、お金を払ってガイドに連れて行ってもらう以外、選択肢がないですね・・・。 

      登るスタイルが違うのに、同じ線上に並べて判断基準にするのはおかしい、という指摘に全面的に賛同します。

      ヨセミテデシマルグレードとクラシックルートのグレードの差が分からない人は大変多いです。

      でも・・・もしかしたら、ヨセミテグレードでのクライミンググレードの追及に走ってもらいたい・・・と山岳会の先輩たちは考えているかもしれません。というのは、連れて行く側が楽だからです。ゲレンデでのリードフォローさえしないくらいです。クライミングは、ボルトルートだけに限定したいのではないでしょうか・・・

      ただこれは新人の意向とも一致します。新人の当人でさえも、「アルパインがしたい」と言っておきながら、一緒に行って見ると「好きなのは太刀岡さ岩稜みたいなルート」と言ったりしてますので・・・。たしかにボルトはないけど、それってその辺のゲレンデ並みのご近所で、”低山クラッギング”でしょう・・・

      当の本人も自分はフリーがしたいのだと分かっていなかったのね~と言う感じです。登り屋は大抵そうです。そして、ほとんどの山が好きと言う男性はほぼ登り屋です。

      私は山は好きだけど登り屋ではないので、その点でズレがあります。

      私の前のパートナーは、赤岳西壁主稜とか北稜は経験済みです。男性は、ほっとかれるようになると、大抵は初級のルートは連れて行ってもらった後です・・・つまり先輩からのメッセージは、既に登攀力はあるんだし、技術的な部分はもういいのは分かっているのだから、自分で行けるにはどういう自分になればいいのか自分で考えて山行を組み立てろ、という意味だと思います。

      しかし、そこから大抵、みな連れて行ってもらったルートより、上のルートを提案します。だから許可が下りないんです。

      結局、登り屋のホントにしたいのはフリーでバンバン登って登りたい欲求を消化したい!っていうのが正しいのではないか思うし、それはそれで悪いことではないので、そのまま小川山通いをやってくれたらいいんではないか・・・と最近は達観しています。その後谷川岳に行けばいいだけなのでは?

      その間に本チャンとの違いも分かってくるでしょうし。

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