Monday, April 20, 2015

山における過信

■山における過信

登山の難しいところは、

過信

が いとも簡単に容易に起ることではないか?と思う。

その過信は、取り立ててて自信過剰な人ではなくても、ごく普通に謙虚な人にも、登山のベテランにも起こる。

それどころか、勉強熱心で、無理や無茶はしない、と思っている人さえ、もしかしたら無縁ではいられないものではないか?と思う。

今日はその例として、登山歴40年のベテランガイドと登山歴5年目の私の考え方の差を紹介したい。

≪当時の山行記録≫

■ 判断は前提が課題 

以前、残雪期のマイナールートに行ったら、大変なラッセルで、2時間半の登りに5時間かかった。

例によって、【・・・ということはどういうことか?】という思考ツールを使おう。

 問い) 2時間半に5時間かかったということは、どういうことか?

本当に行きたかったのは、下りに使う予定だった尾根だったのだが、2時間半が5時間かかりつつある時点で、もうその尾根を下るという選択肢はないな…と分かる。

そのような”先読み”思考が登山者には重要だ。

現実の状況は、そのことを分かって、焦ってラッセルしているのは、私一人だった。同行者は3人、みな、

 今のままのペースで進むと、この先どうなるか?

については、考えないようだった…。この時はガイド登山で行っているので、いわゆる”ガイド登山客”としては、それが当然かもしれない。

私は、下山で使う尾根に行くことを目的としてガイド依頼していたので、そこに到達できない計画を組んだガイドはガイド失格であると思った。またラッセルの遅さにも文句を言った。

一番重い荷物を背負った80ℓザックのガイドは遅く、荷の軽い私のほうがラッセルが早かった。

・・・ということはどういうことか? つまり、背負える荷に過信があったのである。全員が全荷を背負ってのラッセルは遅くて当然で、焚火山行に備えて大きな鍋まで持ってきており、そもそも、当初の目的地に行くためには荷物が重すぎる可能性があった。荷が重くなったのは、山行への期待が目的地への到達ではなく、宴会だったからだ。だから私はお客として、当然、腹を立て、計画の合理的でない点を指摘した。

山行は、私が6~7割は先頭でラッセルした。ところが、夫は一番弱いのに、なぜかセカンドで、ラッセル負担はセカンドまで大変なので、オーダーについても、ガイドの指示には不満だった。夫よりも強い、山慣れた女性がサードに入っていたからだった。

・・・ということはどういうことか? お客の体力見積もりが大きすぎたと言うことだ。

オーダーも、いつも思うのだが、男性だからと言って強いとは限らない。私と夫では私の方が絶対強い。夫はもちろん男性だから、瞬発的な部分では強い。私が躊躇するような岩場はあまり躊躇しないで行ってしまうが、それは体力とはまた違うので、結局ラッセルだったり、長い時間を歩くことだったり、長い時間ある程度の重さを背負うことだったりすると、慣れのほうが、そもそも性差による優位さをいとも簡単に乗り越えてしまう。

そのことは、男性自身の”男の方が強い”という平素の生活での感覚を塗り替えなければならないのかもしれない。つまり平素の生活は男女差が10:6であるとすると、山ではその差は、10:8くらいになるわけだ。それは高齢者も同じだ。平素での生活での差のほうが山での生活の差より大きい。それだけ”慣れ”ということが大きく関係してくるのが山で、年に数回行くレベルの人と毎週のように山に行く人では、大違い。だから山行数や慣れを途切れさせないこと、が重要なのだ。

結局

・計画が実力に比して大きすぎた
・ザックが重すぎた 
・オーダーが実力順ではなく、合理的ではない
・目的が統一されていなかった 宴会なのか?目的地到達なのか?

つまり、計画自体に、読み違い、過信があった。

この山行では、山頂に着いたら、12時だった。みな予想以上に疲労していて、特に山慣れしていない夫は座り込むほどぐったりだった。

目的の尾根は不可能だと言うことは、いわずとも理解できたが、過信について問題は、

  ガイド提案がピストン下山だったこと、

だ。登り5時間かかった尾根に、下山3時間で済んでも、12時スタートなら15時になる。元いたところは前日に一日かけてアプローチした場所で、さらに前日歩いた分を歩かないといけない。なだらかな5時間分の登りは下りでは3時間としても、15時に3時間足せば、18時になってしまう。それも休憩を含んでいない。ヘッデン下山の上、アプローチも山深いところだったので、下山完了し登山口に着いたとしても、まだ電線も来ておらず、自販機すらなく、安全圏とはほど遠かった。そこから運転も待っているのだから。見積もり8~9時間。帰宅は夜9時だ。

ガイドが提案したピストン下山に対して、私の答えは、最短で降りれる一般道での下山。3時間。ポピュラーな登山口なので、駐車場が整備されており、人が多く、この時期は小屋はやっていないがバス道が通る。そこまでタクシーを呼ぶお金があるかどうか?がまず心配したことだった。

この時の判断が分かれた理由は、

 ガイド = 根拠としている体力と技術が 大学山岳部レベル (山慣れした自分のレベル)
 私   = 根拠としている体力と技術が 一般市民レベル

の違いである、と思った。つまり、過信 だ。

このように、登山歴40年のベテランであっても、弱気の判断ができる、とは限らない。

■ 前提が崩れてきている

さて、昨今の社会人山岳会のメンバーが持つ体力がどちらに近いか?というと、それは非常に難しく、個人差が大きい

だから、安全を見るならば、山岳部レベルより、一般市民レベルを想定するほうがより安全と言う意味で、より良い。

このガイドさんは良い人だったが、提案のピストン下山の前提としている体力や技術が、一般市民レベルを超えているのは、当人が凄い人だからなのだろう…と思った。 

つまり、言葉を変えれば過信だ。この場合は、お客の体力の読み違い、だ。優秀な人は相手も優秀だと期待しやすい。

計画が最初から無理だったことは、2時間半の道に5時間かかったことがすでに示している。

計画が無理だったということは、言葉を変えれば過信、だ。

計画そのものに対する無理が少しでも見えた時点で、前提としている根拠の方に、修正を加え、フィードバックを追加しないといけない。

それなのに、まだピストン下山が一番安全である、と考えている時点で、連れているお客の体力を自分が読み間違っているという自覚や理解がない。

 その人自身の考え方がリスクだ、

と私は思った。 目の前の事象をすぐに行動にフィードバックしないといけない。

例えタクシー代で数万円かかったとしても、そんなものは山奥で にっちもさっちも行かなくなるコストより安い。

リーダーの資質とは、

・どちらが安全か?すぐに計算できること
・自分が作っている仮説(この場合ピストンで降りれる)に対して、本当にそうか?と疑えること、
・他の選択肢を考えてみる論理思考があること、
・目の前の事象をすぐに行動にフィードバックできること

だ。

この場合は、取れる選択肢を比較すると

≪選択肢の比較≫

          ガイド提案      私の提案
時間       8~9時間     3時間+運転1時間強
安全圏     遠い          近い
滑落リスク   1か所あり      なし

だった。 選択肢の優劣は 単純な論理比較で、できる

≪より良いルート選択≫
 ・どれくらい時間がかかるか? → 短いほうがより良い
 ・安全圏への近さ         → 里に近いほうがより良い
 ・危険度               → リスクがないほうが良い

の3点だ。

≪まとめ≫
・”このままのペースでいくとどうなるか?”を常に問うこと
・前提となっている技術体力を白紙にすること
・選択肢をならべ、合理的により安全なほうを選択すること
・目の前の事象をすぐにフィードバックすること

■ 退路を常に意識する

山は危険な場所だ、

ということは、危険という言葉のイメージに左右されて、正しく理解されづらいのかもしれない。

山が危険な場所だ、というときの、キケンの具体的中身は

・電話がない
・水がない
・食べ物がない
・電力がない
・寒い

だ。だから、それらが、今すぐ必要となるような、緊急事態に最初からできるだけ近づかないようにしないといけない。例えば 発病したら、どこであってもすぐにも緊急事態だ。

逼迫すること自体がリスクだ。となると、逼迫した時のことを常に予想して、計画内に入れておかないといけない。

安全圏と言うのは、それらがすべて揃っている場所のことで、逼迫した場合と、安全圏にいかに早くもどれるか?が大事なことだ。

■ ここから学べること

・・・ということはどういうことか?をもう一度考えてみると、初心者が行くような、最短で易しいルートでのピークハントは、それより難しいルートでの

 退路の確認 

という重要な作業であることが分かる。 だから、易しいルートから順繰りにステップアップすることが、安全性につながっていくのだ。

同じことで、縦走は山域のおおよその概念把握(特に安全圏の近さの把握)のためにある、と言っても過言ではない。

≪まとめ≫
・安全圏とは、電話、水、食料、電気、シェルターがある場所のことである。
・登山のリスクとは、基本的には上記5点がないことである (滑落などはどこででも起こりうる)
・初歩的ピークハントは退路を理解するためにある
・縦走は、エリア内の安全圏を把握するためにある



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