Thursday, March 21, 2013

読了 『奥秩父 山、谷、峠そして人』



実はもう2週間も前に読み終わった本なのですが…大変面白い本でした。

「この10年で登山者は変わった…」とか 「昔は違ったなぁ」とか「山も変わった…」
と良く聞きます。

その懐古的なつぶやきには、ニュアンス的に「前のほうが今より良かった」的なものがあるのですが…以前の山がどうで、今がどう変わったのか?それを具体的に教えてくれる書物はほとんどありません。

この山田哲哉さんの本は、40年前、現在55才の現役ガイドである山田さんがまだ少年だったころの山と、今の山が、山そのもの、と山を取り巻く社会状況も含めて、どう変わったかが、そこ、ここにちりばめてある本です。 その変化が面白いです。

全体を通じて、やはり一番大きな変化は林道です。

40年前は山仕事と言えば、本当に林業だったり、炭焼きだったり、猟師だったりしたわけですが
今は山仕事と言えば、補助金で行う土木建築、つまり林道作りや砂防づくりです。

砂防がなぜ必要になるか?というと、林道があるからです。土砂が流れてもそこに人がいなければ
災害でないのと同じ理屈で、沢が多少その経路を変えたり、自然現象において造形を変えたりしてもその下に林道がなければ、そこに土砂が流入しなければ別に何の問題でもないので…結局林道が、あるがために砂防が作られる。しかし、林道を実際に使っているのは…ほとんど鹿さん、という
結末のようですね。

登山をしていても、林道が積極的に使われている現場に立ち会うことはめったにありませんが、土砂で崩落した林道壁をメンテナンスしているのは時々見かけます。不思議なんです。

なんのためにお金をかけてメンテナンスしているのだろうと…。きっとメンテナンスすること自体が
目的なんではないかと。

ちょっと話がずれましたが、この本は、この40年間山を見続けてきた人の目線が分かります。

もう一つ新鮮だったのは です。

山、谷、峠、人… もちろん、山はピークのことです。山登りしていてピークを知らない人は居ませんから、ピークが一つの項目になるのは当然です。 谷はピークの反対。対になるもの。

山があれば谷があり、尾根があれば、沢があるのが当然ですから、山登りを初めて初心者の域を脱し始めると、人は沢、つまり谷に興味を持ち始めるのが普通です。

人についても、山では人と人のつながりが平地より密ですから、山を語る中で人というのが重要な
キーワードになるというのは、ある意味当然のような気がします。

でも、峠…峠について盲点でした。 

峠というのは、山間の盆地Aから平野または、盆地Bへ到達するためにもっとも合理的に(楽に)たどれる道、という意味です。

つまり、峠とは”結束点”なのです! だから、峠を考えるときには、どことどこがつながれているのか?それを想起しないといけません。

もちろん、峠によっては十字路のように、交差している場合もありますから、つながれている地域は2点とは限りません。 都会なら、さしづめ、2線3駅使えます、みたいな大きな駅のほうが地価が高い、みたいな感覚ですね。

そして、今のようにモータリゼーションが世間を席巻する前までは、峠というのは交通の要所なのですよね。

言われてみれば当然なのですが、分かってはいても実感が持てないのが、生まれたときから車があり、電車があるのが当然の現代人です。

今年は笹子トンネルが崩落して一時甲府方面へはとても物流が流れづらい時期がありました。

今の時代でもそうしたことが起こりうるワケなので、物資の輸送が徒歩だったり馬だったりした時代
峠がどれほど重要な地位を与えられていたか…、それを思うと今の峠の廃れ具合にはひときわ思うところがあるのだそうです。

この本を読んで、十文字峠はぜひ歩いてみたいと思いました。甲武信岳の向こう側です。

ちなみに奥秩父の本では原全教さんや田部重治さんも有名です。合わせて読むと奥秩父マニアになれること間違いなし!


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