■ 経験値を積むことができない
師匠は、初めの頃、新人が、アルパインではなく、フリーに傾注するのではというので、私が人工壁に行くのを嫌がっていた・・・。その気持ちはよく分かる。
・・・のだが・・・、残念ながら、アルパインへ行きながら経験値と登攀力を同時に高めつつ、成長するという戦略は、今の社会状況では成立困難だ。
ともかく、パートナーを得るのが昨今の山岳会は高齢化しすぎていて、むずかしい。
社会から隔絶された環境という、隔絶リスクを高齢になると取ることができない。
アルパインルートは、登攀そのものの困難度としては易しくても、隔絶リスクが高いから、高齢になると行くことができない。
昨今の登山人口は増えてはいるが、その大部分は65歳以上で定年退職してから初めて山を始める登山者である・・・という社会状況がある。
年を取ったらフリークライミングをするのが、アプローチも近く、良いと思う。
若い人にとっては、まだ山に行ける体力がある先輩格の岳人と本番のアルパインクライミングに行って経験を積む、ということができづらく、経験不足を甘受してアルパインに行かなくては、アルパインクライミングそのものの経験値を積み上げることができない。
■ 努力しても謙虚でも、経験不足に陥る、その傍証
日々アルパインクライミングの山に登り、安全には深く配慮しても、無知による遭難を回避することはできない。
例えば、今年は八ヶ岳では40cm程度の新雪があった時、阿弥陀南稜で雪崩遭難が起きた。事故者はガイドパーティだ。しかも、優秀で有名なガイドさんだ。
ガイドパーティと言うのは、ガイドが一切の責任を負うため、一般の山岳会に輪を掛けた安全マージンの厚さだ。たとえば、前穂北尾根では5.6のコルからロープを出すそうだ。山岳会では、いくらなんでもそんなカンタンなところでは、ロープを出さない。ロープを出すのは、3峰から。つまり級でいうと、3級から。
そして、ガイドさんというのは、頻度から言って、一般山岳会よりも多くの数のアルパインの山行経験がある。
その経験値と安全マージンをもってしても、防げなかった雪崩遭難、死者1名。
阿弥陀南陵と言えば、山の世界では、初心者コースに毛が生えた程度のものとされており、困難なルートとは認識されていないので、まさにベテランであれば、過信してしまいそうな、その程度、のルートだ。
・・・ということは、これが山岳会での実施であれば、
・より少ない経験値と、
・より少ない安全マージンと、
・より高くつのったプライドと、
・顧客への責任というブレーキ不在、
という条件で臨まねばならず、これが安全に向けて、どう作用するか?というと、決してプラスに作用するわけではないだろうことぐらい、すぐ分かることだろう。
■ 50代の男性は二極化
私の周囲には、50代のアルパイン初心者の人もいる。男性が多い。
この人たちは、2極化している。
危ない人と本格的なアルパインへ踏み入れた人と・・・。あぶない人は本当に危ない。本人があぶないだけでなく、周囲を死のリスクに引きこんでいて、その自覚がない。
危なくない人もいるが、それでも、経験がないままに山に行っているということは否めないかもしれない。経験を積んでいる途中で死んでしまうかもしれない、ということは除外できない。
こういう方たちにこそ、ベテランの経験によるアドバイスが必要なのではないかと思うのだが、50代の初心者と60代のベテランはソリが悪いような気がするのはなぜだろう???
■ スポーツクライミングのニーズ
正直言うと、人工壁はあまり好きではないのだが、現代では、アルパインをやる人にも、人工壁でのスポーツクライミングは必要なようだ。
ともかくビレイはスポーツクライミングでしか習得できない。
ビレイが習得できていないまま、フリークライミングへ進むことはないし、フリーが分かっていないで、アルパインへ行くのも無理があるような気がする。
落ちなければいい、の価値観から転換しない限り、ロープをきちんと使えるようになろう、支点の強度を調べよう、というような気持ちになることはないだろうからだ。
前にベテランがリードした時、ハーケンがスカスカでビックリした。効いていない中間支点を取っても、取っていないのと同じだ。だから、そこは結局フリーソロしたのと同じだ。
そのようなクライミングはしてはいけないのだが、分かっていてもそうなるのであれば、分かっていないままに、アルパインスタイルへ突き進み、進退窮まって落ちる、ということになれば、事故に確実につながる。
それは予想のコースであって、予想外の不運による事故とは違う。たとえば、落石のような。
回避できる事故を回避しない遭難
回避できる事故を回避して、その結果の遭難
の二つは質に大きな違いがある。
回避できる事故を回避しない遭難に巻き込まれないためにはどうすればいいか?登攀力をあげておくしかない、ということで、フリークライミングは私の場合、自己防衛の結果である。
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