Thursday, April 7, 2016

2年目のアイス 自前ルート

■残雪期 ジョウゴ沢から硫黄岳 初めての自前アルパイン

時間:金川の森4:30 美濃戸口6:00 美濃戸6:30 北沢林道終点7:25 鉱泉8:14 鉱泉出発8:50 F1 9:05 F2 9:13 乙女の滝出合い9:53 大滝終了10:20 トップアウト11:35 硫黄岳山頂 出発11:55 鉱泉12:30 出発 12:47 美濃戸中山前鞍部 13:17 行者小屋13:43 小滝14:32 美濃戸15:36 甲府17:00解散
 
1月、飯田山岳会のK房さんから、悲鳴にも似た山行の誘いが来た。山岳総合センターリーダー講習会の同期だ。複数の山岳会の合同アイスクライミングに誘ってくれたが、あいにく私のパートナーが見つからず不参加。それで「今度、御坂のクライミングに遊びにおいで~」と言っておいたが、御坂でも機会がなく、そのままになっていた。いつもアイスに連れて行ってくれるK村さんが凍傷になってしまい、ルートどころかゲレンデも不可能だ。それで、鈴木昇己ガイドの岩根アイスツリーに出かけた。「先輩が凍傷になっちゃって…」と事情を話すと、気の毒がってくれ、「もう帰るよ~、最後の一本だよ~」と日が暮れるまで登らせてくれた。11本登った。

K房さんによると、あちらの会も地域山岳会で御坂と似ており、アルパインに行くような山をしたい人は少なく、人材難だそうだ。行きたいルートに一緒に行く相手がおらず、講習会同期でもある、諏訪山岳会の新人と一緒に行こうとしたら、会から許可が出なかったそうだ。諏訪山岳会は、一回の地方山岳会とは違い、雑誌の岳人にバリエーションルートの登攀記録を出すような硬派な会で、遭対協の副隊長が指導している。そんなガチな会の新人でしっかり教育を受けている人とでも、一緒に山へ行けないのだ。飯田で山行許可を得るのは、そうした手続き的な困難が大きいらしい。それだけ新人に対して責任を感じている会で、大事に育てているということだ。見ず知らずの人との困難なルートには許可を出さないのだ。誰とどこへ行ってもOKの御坂とは厳しさが違う。それでもなんとか、2月末に互いに多少の無理をして、南沢小滝アイスクライミングにこぎつけた。ゲレンデだ。

ただ、この時も同行者が見つからず、結局二人だけで出かけた。2年ぶりの再会。互いにストレスが溜まっていたのか、朝6時に集合したのに、集合場所へは双方、約束の時間前に到着した。そのうえ、帰りは暗くなって月が出るまで遊んだ。ヘッデン下山ギリギリで叱られちゃう。この時は、ブナの会、相模アルパインクラブと一緒になり、合同クライミング会のごとく、互いのロープを貸し合い、クライミングの指導をしてもらった(笑)。ブナの会には知り合いがいる。友達の友達は友達だ(笑)。この時は一回リードフォローを練習し、懸垂で降りた。クライミング力が上のK房さんにセカンドの確保をしてもらい、トップを務めてもらう。支点回収は私で、懸垂は、体重が軽いほう、つまり私がバックアップを回収して降りる。

2週間後、小滝アイス2回目。この時は、S間さんが同行してくれ、初心者を入れて四名で出かけた。講習会のアイドルだったキリちゃん。アイスは初めて。ひさしぶりの再会だったこともあり、すごく楽しいクライミングだった。S間さんは、今冬の初アイスクライミングだったが、余裕のある登り。私はゲレンデのアイスクライミングが三連チャンだった。夏に偵察済みだった、小川山の唐沢の滝、ふとしたことでアイスでも登れると知り、出かけたら、非常にアルパインっぽいアイスで面白すぎた。ハマって、翌日も美濃戸口の滝へ行き、その滝は寝ていて易しかったので、擬似リードまで進んでいた。そこで、この日はK房さんに擬似リードまで進んでもらった。そのために30mロープを持っていった。S間さんも出来そうだったが、急かす必要はないので、この日は足慣らし。今回は行儀よく、15:30に下山完了した。

S間さん、K房さんのクライミングは安定感があり、私もバーチカル以外ならリードでき、バーチカルも長くなく、セカンドなら問題ないことが確認できた。互いの登攀力も大体が分かったし、このメンバーで、アイスの初級ルートがこなせる見通しがついた。S間さんとは、1月に金石沢から八幡尾根に上がって、ルートファインディングを摺合せしていた。K房さんとはゲレンデしか経験がないが、沢はルートは明瞭なことが多いので大丈夫だろう。リーダーシップ等も我ままな人はいないので問題なさそうだった。

そこで、1年ほど念頭にあったアルパインアイスのジョウゴ沢から硫黄登頂をやるかどうか、帰り際に二人に聞いてみたら、S間さん即答でOK。K房さんは、それを聞いて予定をやりくりしてくれた。このルートは、初心者でも遡行可能な、希少なアルパインアイスルート。滝が怖いと思ったら、すべての滝を巻くことができる。ヒロケンの『チャレンジ!アイスクライミング』(amazonで12241円!)に詳細がある。ルートは厳しいなと思えば、支流にいくつかある滝をゲレンデ使いして、遊んで帰ることもできる。『八ヶ岳研究(上)』には、無雪期に先輩から「自分たちだけで行ってきなさい」と指示されて出かけた記録があり、初心者同士が自分たちの力だけで解決する、最初の山にぴったりのルートのようだった。

思うに、初心者同士はどのようなルートに行ったらよいのか?そこのところが一番難しい。先輩からはそうした指導が欲しい。八ヶ岳なら『八ヶ岳研究』を読まねばならず、奥秩父なら原全教『奥秩父研究』を読むべきだ。そうした事前研究と私の一般ルートでの登山経験によると、八ヶ岳は雪が来るのが遅く、2月より3月が雪が最も多い。沢筋はだいぶ雪で埋まってしまう。それは春先には山の弱点となる。登りやすいということだからだ。そうした弱点となる時期は、どの程度の登攀力があるのか、自分でも判然としない初心者にとっては、都合が良い。

雪の状況はすべての沢筋のルートに対して言えることで、たとえば、アルパインアイスの初級ルート、峰の松目沢は、年内に登らないと、2月にはラッセルの山になってしまう。広河原沢は1月中旬まで。そうしたことをルートに出るようになってから、気にするようになった。そうでないとガッカリしてしまうから。ガッカリするだけなら良いが、思わぬリスクを背負い込むことになったら目も当てられない。たとえ”初心者向き”と題されているルートであっても、実質的な難易度は、時期と条件によるわけだから、”初心者向き”の言葉にほだされて、リスクを迂闊にも見過ごしてしまうかもしれない。

K房さんは、2月、阿弥陀中央稜などが悪天候で何度も山行が流れていた。気の毒だった。裏同心ルンゼと阿弥陀北陵は経験済み。私は敗退でも登山口までは行く。行って敗退原因を明らかにして帰る。それは初心者同士で行くメリットかもしれない。飯田は先輩がしっかりしているから、敗退経験を積めないのかもしれない。日々ロープに触って練習し、体力もあり、登攀もきれいで申し分ない、意欲も情熱もある人が、この時点で人工氷壁だのの、フリーに流れてしまってはもったいないと思った。

私もS間さんも、実はジョウゴ沢は行ったことがなかった。K房さんはジョウゴ沢F2でゲレンデの経験があった。取付までの案内役を頼める点も、このルートの良さだと思った。パーティを組むとき、何かしら役割があると私自身はホッとするから。K房さんも同じかどうかは、分からないが。ただ、案内といっても、そんなに難しい取付ではない。硫黄岳へ向かう登山道で、3つめの沢だ。そうは言っても、尾根と沢を読むことを知らない人にとっては、「3つめの沢」と言った時点でお手上げ。即席パーティではあるが、そういう部分でもまったく問題がない人材が揃っているのは奇跡に近い。

時期的に、3月は厳冬期の厳しさが緩み、2月ほどシビアな天候リスクが少ない。手袋を濡らして稜線へ出たり、パッキングが遅くて出発が遅れたり、食べるべきものを食べなかったり、体力の配分が上手く行かず、立ち往生したり、ロープワークのミスなど…のリスクが致命的な失敗…遭難…へつながる可能性は低い。日中でもマイナス20℃近くなり、風速も15mを越えるような厳冬期は、一般ルートであっても、ちょっとしたことが命取りになる可能性がある。

ジョウゴ沢は「登れないな」と感じれば、巻いても、敗退しても良いルートである点が保障されていた。転進先は南沢大滝のクライミングとした。そのため、ルート自体は、30mのダブルロープ2本でこなせるが、50mを2本持って上がった。南沢大滝が50m必要だからだ。

行こう!と決めてから一週間しか日がなかったが、自分たちだけで登るんだ!という期待以上に、「だいじょうぶだろうか…」という不安がもたげ、一旦は山行が流れるかに思えた。

行くかどうかは、連日気温をチェックして、前日に決定した。雪崩を避けるためだ。2、3日ほどプラスの暖かい日が続き、そのまま暖かいと、沢筋は危険だからだ。日中、ずっとマイナスの気温でないと。雪崩を懸念して、なんと飯田山岳会は、ビーコンを貸し出してくれた。雪崩が予想できるときは入らない方針なので、そこまではいらないと思ったが、それでも、会で共同装備として持っているのがすごい。飯田山岳会は、まだヒマラヤ登山が社会人山岳会で一般的でなかった頃、先駆的にヒマラヤを手掛けた会と聞いている。古い会で御坂より有名だ。御坂は富士山の遭難救助の貢献で、もう少し世の中に知られてもいいのにな、と思う。

雪崩れは、ビーコンを携帯して事故に遭ってから、なんとかすることより、事故に遭わないために何ができるか?が重要という立場だ。気象判断して雪崩リスクに近づかないこと、雪崩れ地形を避けること、現場で雪の安定度を観察することの3つ。それで意見交換をしたうえで、携帯した。S間さんは今回ビーコンを購入するという太っ腹具合。私もそれくらいゆとりがあればいいのだが…。結果、ビーコン、プローブ、ショベルを各自それぞれが携帯。余計な重さだ。これらがあるなら、本来この時期は上越だよな、と思った。雪洞泊の山行が組める。山行の中身は、全然違うようになるが、本来私がしたいのはむしろそちらのほうだ。豪雪のタカマタギが忘れられない。そのために2万5千円もする雪崩講習会に夫と二人で揃って出たくらいなのだ。今回のビーコン携帯は、雪崩リスクは低いので飯田への義理立てだ。厳しい会だから、気心の知れていない、他会の人と山へ行くとなると、説得材料がいるのだろう…。

集合時間は、朝早ければ早いほど雪が締って有利と思われ、一番遠くから来るS間さんに決めてもらった。遠い人の都合が優先が良いと思ったからだ。美濃戸口で6時前に集合して、一台に乗り合わせ、美濃戸へ。S間さんのランドクルーザーで林道を行く。ランクルはS間さん本人のように剛健だ。道は悪く、雪解けの轍が先週とはだいぶ異なる。だいぶ溶けているなぁ。先週はアイスバーンでタイヤが滑るのが心配だったのに。

美濃戸で支度し、北沢コースから鉱泉へ。林道終点から見る横岳の稜線は、黒々としており、木々にうっすら霧氷がかかり、不安が募った。稜線に明らかに雪がない。すれ違った人に聞いても、稜線には雪がないと言う。鉱泉到着は8:14.アイスキャンディはまだ健在。テントが多い。大勢の客を連れたガイドが、ビーコンチェックしている私たちを不思議そうな目で見ていた。ヘルメット&ハーネスは当然として、スノーバーにショベル、ビーコン、チェストハーネス、ヌンチャクにアイススクリュー、これが各自に、50mロープ2本…黄連谷だって登れそうないでたちだ。ロープは私が用意したが、二人が持ってくれた。

さて、がっつりフル装備でジョウゴ沢に向かう。3つめの沢で、登山道を離れ、ロープを越える。踏み跡もあり、迷う箇所はない。途中でK房さんが「違ったかも」なんて言う。御坂隊は二人とも「大丈夫だから」と歩を進める。数分でF1到着。F1は知らないと、気が付かないと聞いていたが、なるほど。アックスはいらないな…。すっかり溶けて、黒々とした岩が見えていた。ここまでくれば取付が間違っていないことは確かだ。

3分でF2に到着。本日の核心一つ目。そこでびっくり!氷がない…。「あらー」と思わず声を上げた。2週間前に小滝で会った、相模ACが前の週にジョウゴ沢でアイスクライミングしており、情報をもらっていた。その最新情報によると、F2は雪でつながっておらず、アイスが出ていた、スクリュー2本必要、だった。今、F2の氷は、見るも無残な有様だ。氷瀑は半分以上崩壊していた。一つ目の核心は存在しなかった。どうみても危なくて、氷瀑は登れないので、誰も何も言わず、左側の雪交じりの草付を巻く。ロープが出ていた。これくらいの傾斜は、S間さんと金石沢で突破した大滝の巻きより易しい。金石沢大滝とこのF2では、ここの方がリスクが少ない。金石沢みたいな僻地の無名沢で負傷したら、お互いだけが頼りだからだ。それに厳冬期だった。滝の落ち口辺りは左からの尾根の末端でガレていた。

それにしても、たったの数日のプラスの気温で、ここまで一気に氷瀑消失とは!S間さんいわく、「山だからね~」。確かに。そう、山だから来てみないと分からないのだ。例年3月下旬~4月の第1週目は、八ヶ岳に来ている。去年はこの時期、御坂と地獄谷へ来たが、十分雪があった。昨年の同時期のジョウゴ沢は立派な氷瀑だった。

F2を超えると、まっ白な広い河原が広がっていた。明るく、気分の良い、巨大な日向の雪原だった。カール地形と言ってもいいのだろうか?そこから見る大同心がすごく立派だ。左側の尾根も登れそうに見える。横岳のバリエーションは、裏同心も今の私には行けそうにない。ハングがあるのはダメだ。白い河原の底から、硫黄岳の奥に大快晴の濃紺の青空。ザックをおろし、皆サングラスを取り出す。このままでは、まぶしくて雪目になりそうだ。大展望に感動。

横岳の稜線の雪はだいぶ消えている。例年、東面の地獄谷は今が適期なのに。うーん、日当たりの差だろうか?もともと硫黄岳は、風の山で知られるので、風で雪が余りつかないのかもしれない。雪面には雪割れも雪しわもない。雪崩れの予兆は全くと言っていいほどなく、右の側面の尾根に小さな表層雪崩の痕跡、あとは古い雪ロールが溶けて再凍結しているのが一個あるだけだった。

進んでいくと、ミニゴルジュが出てくる。日陰になり、少し冷える。今日は暑かったり、寒かったり忙しい。さっき脱いだのに。

さらに進んでいくと、奥に氷瀑が見えた。近づくとつららは下までつながっておらず、これはこれで難しい?ハングのクライミングを強いられそうな、半溶けのつらら状氷瀑だった。これを右股出会いと思っていたら、後で確認したら、これが乙女の滝だった。あまりにあっという間に、河原は通り過ぎて、かの有名なジョウゴ沢のゴルジュを抜けてしまったのだ。

目と鼻の先の、左手に小さなクラゲアイスが見えた。柔らかそう。その尾根の奥に先行パーティが小さく見えた。あの人たちも頑張ってるね、とS間さん。奥にナイアガラの滝がある沢筋だろう。

さらに上がっていくと、左へ屈曲する。ちょっと地面が危ない。アイススケートができそうな、ツルツルのアイス平坦面。しかし、ほんのちょっとで終わる。さらに行くと、どん詰まりに、これも溶けかけた悪い氷瀑があった。F2と同じく溶けているのが危ない、という感じ。だが、直登する。誰も躊躇なし。巻くなんて発想はなかった。S間さんがトップで超える。上から、「ちょっと悪いからロープ出そうか」と言ってきた。私が取り付いてみると、”すごい用心”で切り抜けられそうだった。一瞬の悪場なら、出さない方が早いし、核心部でモタモタするより安全だ。「S間さん、あたし、いけそう」と返事する。何しろこのパーティ編成では弱点は私だ。

こういうケースで、Kさんならなんと言うだろうか。セカンドが取り付く前にトップがロープを出せと言うだろうか?前回のスヤマ尾根の沢のへつりでは、せっかくみんながロープを出そうとしているのに、えいやっ!と徒渉したら怒られたっけな…そんなことを思いつつ、今回、初のアックスを振るう。ここまでの行程では、アックスは強い傾斜であっても、ダガーポジションだけだった。

S間さんが通った岩のラインは、段々にはなっているが、岩の上のブラックアイスで怖そうだった。ので、私はそのままアックスで急斜面を直上した。この雪質は大丈夫だという確信があった。慎重に、滝の落ち口の雪にアックスを効かせて登る。雪の下のアイスに刺さった感じがあり、そのアイスは崩壊までは行かないようだ。一番の核心は、アイス崩壊して滝つぼドボンだなと思った。今冬は、なぜか濡れるリスクが付きまとう。スヤマ尾根も徒渉での濡れがリスクだったし、近郊のアイスもアプローチの徒渉が核心、金石沢もそうだった。ジョウゴ沢でとどめ。

ここを超えると、あとはしっかりした雪質の雪の急斜面をアイゼンのフロントポインティングで登る。今日は雪のコンディションが良く、アイゼンが良く効く固い雪質だ。雨後の雪と同じ。S間さんと二人で平坦部へ行き、後続のK房さんを待つため、振り返ると、阿弥陀の姿がすごかった。滝の落ち口のど真ん中に阿弥陀がデーンと!K房さんのウエアがきれいな色で、クライミングしている姿が阿弥陀にものすごく映えた。彼は用心深い性格らしく、私はシングルアックスで登ったのに、ダブルアックスを出していた。上がったら皆で記念撮影。

さて、と山頂方向を見る。しかし、ここから上には大平原しかない。「えっ?今のが大滝?!」と思わずS間さんに聞いていた。みんな初見なのに(笑)。あっという間の核心部だった。本日の核心はF2と大滝だったのに。あら~っ!もう終わり?!あまりに簡単で、25mとは感じられず、もっと短かく感じた。そのため、もっと上に大滝があるのかと思ったのだった…。去年、友人がこのルートを通った時、4m滑落し、同行者がショックを受けていたが、そんな箇所はどこにも感じられなかった。一体どこだったのだろう?

今いる場所は、ジョウゴの口の底だった。仮に雪崩があったら、雪が集中して逃げ場がない。今日は固く閉まった雪で、雪崩の懸念は感じられなかった。硫黄岳の西面は、ものすごく大きな日向の開口部、という感じだった。

後は硫黄山頂まで、急な雪原を詰めるだけだ。硫黄岳の爆裂火口の反対側って、こうなっていたのか。広い雪原だな~。ここは夏はお花畑になるのだろうか?ちょうど滑落停止訓練するのに良さそうな急斜面が続く。だが、時間は10時半で、日当たりが非常に良いため、雪が緩くなってきている筋があった。雪面はしっかりしているが、アイゼンサクサクのところと、シャーベット状雪の筋が混在している。ズボっとなると、脱出に時間がかかる。最初はトップのS間さんだけが被害者だったが、トップと全く同じところを踏むような人はいないパーティなので、次に私がズボッとハマり、終にK房さんもズボっとハマって、これは、ヘトヘトにされそうだと共通理解する。なんだか稜線は遠い。概念図ではすぐなのに。

濃紺の空に白い雪原。山頂方面は、白と青のツートンカラーでシンプルだが、後方を振り返ると、赤岳から阿弥陀、それに横岳の西面の幾筋もの尾根が、技巧を凝らした絵のようで、すごく対象的な眺めだった。

一瞬、敗退して、同沢下降もいいなと思った。今回一回も出していないロープを出す練習になるからだ。せっかく持ってあがったので、もったいない。下降に懸垂下降は必要そうだし、この斜面の下りは、スタンディングアックスビレイが必要そうだ。でも、ピッケルではなくアイスアックスだから、ちょっとやりづらいな。懸垂下降は、他に手段がないときの最後の手段とされているものだし…。

アルパインの基本は、未知のルートをたどって山頂を詰める、ということ。山頂を大事にする方が、覚えたばっかりの技術を使いたいから使う、ということより大事だ。何のための技術か?というと登るためだからだ。

それぞれが、ズボっ!を何度かやって、これは雪ではなくて、土があるほうがよさそうだということに意見がまとまり、土交じりのハイ松の上を行く。途中で赤岩の頭側に、S間さんがもう一度雪渓を渡ろうと試みたが、無駄な試みに終わりそうで、K房さんが制止する。なんとなく雪面が、ズボッ!へ達すること必至のように見受けられた。それでハイ松には悪いが、雪に埋もれたハイ松と巨岩交じりの尾根を直上する。ハイ松の良い香りが漂う。地図読みと言うかルートファインディング。このルートファインディングはあまり神経質にならなくて良い。というのも、とにかく上がれば、硫黄岳の広い山頂のどこかには達する。右に行くと横岳寄りになってしまって、下山の歩く量が増えるので、どちらかというと、左寄りが後が楽だ。ただ最後は、地図ではぐるりと毛虫マークなので、一番弱い私が登れないようなハングとか、いやらしい岩壁があると、弱点を探して、岩マークを右往左往しないといけなくなる。大丈夫かなぁ…。雪でつながっていれば楽勝なのだが。

岩だけになってきたところでアイゼンを外す。私はアックスもしまって、両手を空けることにした。岩だからだ。S間さんトップ、わたしセカンド、ラストがK房さん。S間さんがゾンデ棒役を買って出てくれている形だ。大きな巨岩の陰で、真っ白い破片が一杯落ちているなと思ったら、それは岩についたエビのしっぽが剥がれ落ちたものだった。ホントについ最近まで冬だったのに違いない。今日は風もなく日向は暑いくらいだが。

さらに行くと、穂高によくあるようなザレ。後ろのK房さんに私の落石が行かないかと気にしたら、すぐ後ろにピタッとついていた。分かってますね。落石注意地帯は、離れるか、至近距離か、どちらかしかない。落としはしなかったが安心した。

最後は運良く、腰高くらいの岩をマントリングで乗り越えたら終わり。「もうちょっと足が長かったら楽だな~」とは思ったが、スリングを出してもらわないで、超えれて良かった。これがあと倍の高さあったら、S間さんに引き上げてもらうしかない。上り詰めると、そこは硫黄岳の平坦で分かりにくい山頂のど真ん中だった。どんぴしゃり!会心?のルートファインディング!直上しただけ!後でGPSで軌跡を確認したら、谷から尾根へ気持ち良いラインを描いていた。素晴らしい!今年は谷を遡行して山頂へという山が楽しめそうだ。

山頂へ出ると風が強く、天狗岳と奥の蓼科山の雪解けの黒い山頂が見えた。夏沢峠から下に本沢温泉の建物が見える。春らしく、空は、もうだいぶ霞み、早くもガスが上がっていた。予報は午後から下り坂で、明日明後日くらいには次の低気圧がもう来ている。

景色は山頂より背景の方が凄かった。S間さんが差し出した手に二人が同時に手を出す。握手が終わると赤岳や阿弥陀を背景に各々ポーズを取り合う。来年はS間さんと中央稜と北陵をしたいな。会山行は南陵がいいな。

後はサクッと降りるだけだ。一般道には頭の切り替えが必要だった。これまで地形しか見ていないで歩いてきたから、最初の出だしで、一瞬尾根通しに行こうとしてしまった(笑)。一般道に出たら、歩き方を変えて、トレースを追うこと。再びアイゼンを付けて、赤岩の頭から鉱泉へ。

鉱泉でひと息入れても、まだ12時半だった。K房さんがなぜかパッキングを解きはじめた。出てくること、出てくること!支点用のスリング類が一杯。それもナイロンだから重い。あら~!重かっただろうな~!それで帰りはロープは私が持つことにした。まだ時間が早いので、南沢へ偵察に向かう。4月に入っても、今年最後の大滝が登れるか、ジョウゴ沢の溶け具合を見て、なんだか心配になったのだ。

途中、美濃戸中山への登りで、空腹に気が付いた。今日はちょっと登りがツライんだな。そう言うと、みんな待ってくれた。栄養羹とかクッキーを分けてもらう。どうしたのかなぁ。今日は登り調子が出ないなぁ。朝からそんな調子だった。下りはいつもと同じなんだけどなぁ。美濃戸中山のところで、登攀具を担いだ人にすれ違ったので、どこへ行くのか聞いたら、大同心だった。大滝かな?「そちらは?」「もう一本やってきたの。ジョウゴ沢」「氷ありましたか?」「無かったですよ~!それで、今から南沢に行くの」「なるほど~大変ですね~」という会話を交わした。話が早くて楽だ。

行者小屋前に13:45.トナカイのぬいぐるみの帽子をかぶったお兄さんがいた。楽しそうだ。小滝には14:30到着。すでにアックスの跡で、段々になっていた。もう帰ってしまった後で誰もいなかった。もの寂しげな空気が漂っていた。K房さんは、まだアイスを登る余力がありそうで、登りたそうにしていた。私は今日はなんとなく馬力が不足した感があるので、「トップロープ張ってくれたらビレイするよ」と言う。S間さんは「俺もビレイならしてあげるよ」と言いながら、靴を脱いで足をチェックしていた。うっ血したらしい。御坂二人が”今日は満足”モードなので、K房さんも結局登らず、そのまま小滝で一服して美濃戸に下る。一週間前と違って、登山道は歩きやすく、アイゼンもいらない感じだった。下りは通常通りで問題なく、美濃戸に到着。15時半解散。ゆとりを残した良い山だった。

温泉に行こうと提案したら、なんと二人はタオルを持ってきていなかった(笑)。私も別に入らなくてもいいので、では、と即時解散。御坂では、山では反省会と称して温泉へ行くことが多い。以前、別の会でリーダーが「今日の山行で、質問は何かないかい?」と聞いてくれて、次々と新人から質問が上がっていて、それはすごく役立った。飯田山岳会は反省会はやらないのだそうで、「へぇ、参考になるね」と言っていた。S間さんと一路、甲府へ。高速であっという間に付き、金川の森17時前に解散。良い子な山。なんと夕飯の買い物をする余裕さえあった。

反省点としては、氷瀑がジョウゴ沢ではもう消えてなくなっていたので、小滝に立ち寄ったが、クライミングするなら、たとえ千円払っても、鉱泉で登れば、時間が節約できて良かったのかもしれない。南沢まで歩くのに遠回りしたのに、結局登らなかった。なんか損したかな?12時半の時点なら、まだクライミングする余力があったような気がする。でも無料で登れる滝を知っている時にお金を払う気には、なかなかなれないものだ(笑)。逆に本チャンルートの練習としては、下山も充分負荷がかかった方が良いので、別ルートで降りるのは良かったと思う。

今回は、ロープは出なかったが、それは結果論でしかない。3人とも初見のルートを、ちゃんと荷物を担いで登り、アプローチも下山もこなした。先輩に連れて行ってもらう山でも、単なるゲレンデでもない。行程はちょうど良く、重さもこのくらいは担がないと、軽すぎてトレーニングにならない。皆で、次回は沢行きたいね!とか、城山でマルチだね!とか、縦走もしたいね!とか言いあった。夢が広がる山だった。山岳会に所属して1年…、去年は川俣尾根から権現、今年はジョウゴ沢。歩みはゆっくりだが着実だ。

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