Tuesday, April 28, 2015

何から教え、何から学ぶべきか?

■ 先に派手な山を知ってしまう不幸

以前読んだ本に『華絵、山に行く』という本がありました。

この華絵さんはモデルさんで、いわゆる帰国子女です。たまたま山道具屋で出会ったガイドさんに連れられて、雪の穂高などのアルパインにハイキングも自分で出来ない段階から行ってしまうのです。ヘルメットをかぶってマルチピッチが山デビュー。

そうすると、高尾山も自分だけでは登れない。人工壁にヘルメットを持って行ってしまう。

下から積みあげた人が到底行くことができないルート…雪の穂高など…に行って、”行ったことがある場所”が、”本人の判断力”、つまり”山力”と比して、非常に不つり合い、なのです。

 (行ったことがある場所) > (本人の判断力) 危険
 (行ったことがある場所) < (本人の判断力) 安全

要するに、自分で考えて登る山と対極にあるのです。それは、”見初められてしまった登山”と言ってもいいかもしれません。

 自分で考えて登る登山=グランドアップルート
 見初められて登る登山=ラッペルダウンルート

みたいな感じです。

非常に違和感を感じたのですが、いるのです、現実にもそういう人は。

セカンドで登ればルートファインディングはしないで済みます。クライミングについて回る心理的負担を除外されているため、クライミングに集中でき、結果セカンドで登り続ければ、楽にクライミングは上手になります。デメリットはリスクに無頓着なクライマーを作ること、です。

 ≪セカンドのメリット・デメリット≫
  クライミングにのみ集中できる
  リスクに気が付かない
  ルートファインディングに弱くなる

これは一般登山でも同じで、セカンドで歩くだけだった人は、歩きが強いです。先頭を歩いていると、慣れたルートでない限り、かならず要所要所で立ち止まって、ルート維持しないといけませんし、そろそろ〇〇が見えるはず、と思っているため、歩きも観察しながらになり、歩きだけに集中してもいられません。

■ 主体性のはく奪は登山者にとって親切か?

私が疑問なのは・・・この華絵さんみたいな成長の仕方は、育成のカリキュラムとして、

  必ずしも、相手にとって幸福ではないのではないか?

ということです。

その理由は、自ら成長する、ということが、人生においても、登山においても、人間の喜びの大部分を決定し、自己尊厳、自尊心のよりどころとなるもの、だからです。

手に入れたものが、本人の意思や努力ではなく、運で手に入れたもの、であると自信につながらないからです。

人は、「こうしなさい」と言われて、「はい」とできるようになったことよりも、「どうしたら、できるようになるのだろうか?」と考えて、「こうしたらどうか?ああしたらどうか?」と試行錯誤を経て、できるようになったことのほうが、より内実の濃い体験になる、自信になる、ということが言えます。

■ デザートとごはん?

それに、先にデザートを食べてしまってから、後からお母さんに「ご飯もたべなさい」と言われても、もうお腹いっぱいで食べたくないのではないでしょうか?

特にクライミングと読図の関係には、それを感じます。雪山と読図もです。

つまり、人(と言っても登山に無知な一般大衆ですが・・・)を感心させるような山と読図は、デザートとごはんの関係がありそうな気がします。

高難度フリーとロープワークにも、デザートとごはんの関係があるような???

■ 教えやすいことを教える傾向

昨今の山岳会でのカリキュラムは、(教わる側のメリット)より、(教える側の都合)が優先される場合が多く、フリークライミングは教える側には非常に楽なことなので、そういう意味でも、フリーの傾倒が強いことは、基本的には教える側の怠惰にのっとっているような気がしないでもありません。

長い前置きになりましたが、以上を前置きした上で、自ら学ぶ人のための 

 「どうしたら、アルパインに自分の力で行けるようになるのか?」

を考察します。 連れて行ってくれる相手がいる、という前提はなし、という意味です。 

もちろん、必要な助力は得ないといけません。が、主体性は、教える側ではなく、学ぶ側にある、という立場を貫きます。

■ 教科書はどう教えているか?

とりあえず、とっかかりとして、菊池敏之さんの『最新クライミング』では、どのようなカリキュラムであるか、目次から考察することにします。

教える立場に立つと、教える順番がもっとも悩ましい点、という立場からです。

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最新クライミング目次

一部
ギア
 クライミングシューズ
 ハーネス
 ロープ
 カラビナ
 スリング
 ラッキング

ビレイ
 衝撃荷重とビレイの意味
 ビレイの方法
 ボディビレイ
 ビレイの失敗
 トップロープ

リード
 リードに臨むと言うこと
 リードの仕方
 支点 与えられた現実状況
 終了点をめぐる諸問題


マルチピッチ1
 ロープワークの手順とノウハウ
 ダブルロープ

マルチピッチ2
 ルートの外的危険要素
 ルートファインディング
 時間の観念
 マナーとエチケット

懸垂下降
 方法と手順
 下降中のトラブルと対処法

二部

クラック
 登り方
 ナチュラルプロテクション

人工登攀
 アブミでのクライミング
 人工支点
 ユマーリングと荷揚げ

アイスクライミング
 ギア
 シングルアックステクニック
 ダブルアックステクニック
 プロテクション

雪上技術
 雪上歩行
 スタカットビレイ
 コンティニュアスビレイ

脱出・救助
 宙吊りからの脱出
 搬送

ーーーーーーーーーーーーーー

大きく見ると、クラックやアイス、雪稜などの特殊な分野を除外して

ーーーーーーーーーーーーーー
 ビレイ
 ↓ 
 リード
 ↓
 マルチピッチ
 ↓
 懸垂下降
 ↓
 脱出・救助
ーーーーーーーーーーーーーー

となっていて、私が習った順とは、懸垂&脱出の位置が違います。

ーーーーーーーーーーーーーー
 懸垂下降
 ↓
 脱出・救助
 ↓
 ビレイ
 ↓
 マルチ
 ↓
 リード
 ↓
 ショートピッチ
ーーーーーーーーーーーーーー

の順です。 私の意見は懸垂下降が先が良いと思います。山岳総合センターのリーダー講習会も懸垂下降で始まりました。

■ 外国では?

外国の教科書での目次も確認してみます。

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Freedom of the hill より…

1部 アウトドアの基本
   はじめに
   服装と装備
   幕営と食料
   体調
   読図
   登山道外
   マナー
   山は助け合い

2部 クライミングの基本
   基本のクライミングシステム
   ビレイ
   ラッペル

3部 ロッククライミング
   アルパインロッククライミング
   岩でのプロテクション
   岩のリード
   エイドとビッグウォール

4部 雪、アイス、アルパインクライミング
   雪上歩行とクライミング
   氷河歩行とクレバスレスキュー
   アルパインアイス
   氷瀑とミックス
   遠征

5部 危急時対策
   リーダーシップ
   生き残るには
   ファーストエイド
   探索とレスキュー

6部 山の環境
   山の地理
   雪のサイクル
   山の天気
 ーーーーーーーーーーーーーーー

1部は、一般登山と言われる分野ですね。

ーーーーーーーーーーーーーー
 クライミングシステム理解
 ↓
 ビレイ
 ↓
 懸垂下降
 ↓
 アルパイン
 ↓
 プロテクション
 ↓
 リード
 ↓
 エイド
 ↓
 アイス
 ↓
 レスキュー
ーーーーーーーーーーーーーー

という順番になっています。 

私は分かってから動きたいタイプなので、クライミングシステムの理解が先なのは良いと思います。

セットも言われたままにするだけの、いきなりの懸垂だと怖かったです。

クライミングシステムを頭できちっと先に理解したいと講習会の間中、思っていました。

きっと、アルパインの初心者は誰もがそう思うのではないでしょうか?

この流れには賛同派です。いきなり現場に連れて行くのは無理がないでしょうか?私はクライミングシステムの理解がない以前は、ロープが交差してる!と下から言われて、メインロープを解いてしまう初心者でした(汗)。

私が成長したプロセス

ーーーーーーーーーーーーーー

1年目= 日帰り登山 + 入門雪山
 2年目= 小屋泊登山 + テント泊定着 + 初級雪山 
       + 体験レベル沢 + 体験レベルアイス + 体験レベル雪上テント泊
 3年目= テント泊縦走 + 初級アイスクライミングルート + リーダー講習会 + レスキュー
 4年目= 初級バリエーションルート(山岳会) + 合宿 + 人工壁
 5年目= フリー + 初級ルート
ーーーーーーーーーーーーーー

これは、なかなか良かったのではないか?と思います。

一般登山は、ガイドブックにあるレベル1の山から、ステップアップして、レベル5&雪山までです。途中に

 体験的アイス&沢

を入れています。入れておけばよかった・・・と後悔しているのは、体験的岩、です。その後、

 セルフビレイ&鎖場の通過
 懸垂下降&ムンター太ももがらみ

で、一般登山者時代を終了しています。

危急時を考えたら、セルフビレイが何か?鎖場を安全に通過するにはどうしたらいいか、と懸垂下降くらいは、一般登山者レベルでも完了していないと、リスクに備えたことになりません。 ここまで来れば、一般登山者としては終了と思います。

その後、

 リーダー講習会参加(1年のプログラム)

に参加しましたが、内容は

 山岳会の新人教育の代替え

です。なので、各山岳会は新人を大町の山岳総合センターのリーダー講習に送り込むべきと思います。もちろん、新人の負担で。それを

 入会条件にしてもいいくらい

かもしれません。

何しろ、現代は、縦のギブ&テイクは成立していない時代なので、教えても、その人は次の新人に教えることはしないでしょう。

ただし、リーダー講習のカリキュラムに私は不満でした。というのも、ビレイが何か?も知らない状態で、いきなり雪上のスタンディングアックスビレイで、おったまげたからです。クライミングシステムの理解は最初の方に必要です。

とりあえず、最初にクライミングシステムをきっちり最初に理解させて欲しかったです・・・机上で良いので。
そういう学習ソフトないですかねぇ・・・

アルパイン1年生でやったこと・・・

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  •  ロープワーク講習会 エイトノット、ムンター、クローブヒッチ、プルージック、宙吊り脱出
  •  雪上訓練 アイゼン歩行、滑落停止、確保、ビバーク
  •  危急時講習 スタカット、フィックスロープ、搬送、ビバーク
  •  救急救命 一般災害時
  •  救急救命 雪洞、搬送
  •  夏山机上講習 天気図、熱中症、低体温症
  •  冬山机上講習 天気図、低体温症、凍傷、計画立案
  •  沢講習 読図、装備、生活技術
  •  雪崩講習 雪崩れのメカニズム、ビーコン探索、搬送、雪洞堀り
  •  体験的初級ルート アイス、沢、岩
  •  スポーツクライミング ビレイ習得、リード
  •  外岩マルチピッチ 小川山、十二ヶ岳の岩場
  •  外岩ショートピッチ 小川山

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■ 私が教えるとしたら… 

一般登山はできることは分かっている場合、試案・・・

ーーーーーーーーーーーーーー
1)ハイキング、読図、簡易ハーネス

2)沢泊 読図、幕営、幕営適地を見つける

3)スポーツクライミング ビレイ&トップロープ

4)スポーツクライミング トップロープ&リード

5)公園 懸垂下降、ロープワーク

6)外岩 懸垂下降、マルチセカンド、トップロープ、リード

7)人工壁1 マルチリードフォロー、宙吊り脱出、エイド、自己脱出

8)読図山行 

9)外岩 易しいマルチ、セカンド、簡単リード、セカンドの確保

10)易しいルート 
ーーーーーーーーーーーーーー

抜け落ちるのは

 ・ルートが成立するメンバー構成の考え方
 ・適切なレベルのルート選択の仕方

です。 それはそのまま、初級ルートや、アルパイン1年生の遭難多発につながっています。

アルパインであるけれども、ギアが特殊な項目は、ギアの関係で一つの分野となっているので、別の戦略が必要かもしれません・・・ (クラック、エイド)

ただ、アイスや沢を一部の好きものがやる分野としてしまうと、アルパインの総合力も上がらないような気がします。積雪期をやらない一般登山者の視野が偏っているのと同じことに陥るような気がします。

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 アイス、岩

1年目: 体験講習 ギア借り物
2年目: 初級 トップロープで基本技術習得 
3年目: 擬似リード
4年目: リード
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ーーーーーーーーーーーーーー
 沢
1年目: 体験講習 ギア借り物
2年目: 一般登山と同じ 初級から徐々にステップアップ

ーーーーーーーーーーーーーー

納得いかないのは、岳連の沢講習の前座が、三つ峠岩講習だったこと。三つ峠のほうが、常時緊張を解くことが許されず、沢より難しいです。

基本的には 段階的ステップアップで、学ぶべきことをきちんと学び取って行けば、非常識登山者は出来上がらないはずです。

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タイプ      学ぶべきこと

無雪期
 ハイキング 天候、服装、靴、外的危険
 ↓
 一般登山  上記に加えて、プランニング、読図
 ↓
 日帰り登山 上記に加えて、コースタイム管理、コンパニオンシップ、リスク管理
 ↓
 小屋泊登山 上記に加えて、山時間の習得
 ↓
 テント泊登山 上記に加えて、重荷を背負うこと、食料計画
 ↓
 連泊テント泊縦走  上記に加えて、体調管理、隔絶された場所に長時間いることの危険

積雪期

 雪山ハイキング 寒さへの対処法、ウエア、リスク認知(ホワイトアウト、凍傷)
 ↓
 雪山日帰り 
  ↓
 雪山小屋泊
  ↓
 雪山テント泊(残雪期)
 ↓
 雪山テント泊 (厳冬期)
 ↓
 雪山テント泊連泊(残雪期)
 ↓
 雪山テント泊連泊(厳冬期)

ーーーーーーーーーーーーーー

というような具合です。 外的危険は、ハイキングであっても同じです。ですから、無理をし続けて遭難するケースは、ハイキング時代に学ぶべき、引き際を学びそこなった結果とも言えます。

レベルを付けるのは、誤解を招く危険がありますが、敢えて、誤解を恐れずにやってみると・・・

ーーーーーーーーーーーーーー
 無雪期
 レベル1 ハイキングレベル アウトドアの外的危険が分かる
 レベル2 日帰りレベル    5~6kgの装備を背負って、12~20km歩ける
 レベル3 小屋泊レベル    7~8kgの装備 + 一日8時間歩ける 
 レベル4 テント泊レベル   12kg + 一日10時間
 レベル5 テント泊縦走レベル 15kg以上 

 積雪期
 レベル1 ハイキングレベル 外的危険が分かる リスクが分かる
 レベル2 日帰りレベル    
 レベル3 小屋泊レベル
 レベル4 残雪期テント泊レベル
 レベル5 残雪期テント泊縦走レベル
 レベル6 厳冬期テント泊縦走レベル

ーーーーーーーーーーーーーー

季節は、暖かい時期から、厳冬期へじりじりにじり寄りますが、初級の雪のスタートは残雪期です。

ーーーーーーーーーーーーーー

 レベル1 一般登山者レベル
 レベル2 一般登山者リーダーレベル (簡易ハーネス、フリクションノットレベル)
 レベル3 アルパイン 連れて行かれるレベル (指示されれば動ける、指示が必要)
 レベル4 アルパイン メンバーレベル (支持されなくても動ける、貢献ができる)
 レベル5 アルパイン パートナーレベル (1対1で対等のクライミングが行える)
 レベル6 アルパイン リーダーレベル (リーダーとしてメンバーの配置、
                          役割分担が行え、適切な進退の判断が行える)
 レベル7 アルパイン ガイドレベル (リーダーとして、レベル1一般登山者レベルの人を
                         連れてアルパインルートに行くことができる)
ーーーーーーーーーーーーーー

連れて行く側の負担も、連れて行く相手のレベルによって違います。相手が、

 (自然そのものの初心者)>(登山の初心者)>(雪の初心者)>(アルパインの初心者)

という順で大変です。 つまり着なくてはならない物を着なかったりするわけですから。

さて、ここまで来たものの、結論は見えません。

  どのような順番で、成長するのがもっともよいのでしょうか・・・

  アルパインを目指す人は、何からどのように学んだらよいのでしょうか?

分かっていることは、NONOです。死なないためには

 トップロープ三昧は万年セカンドを作りあげ、
 登攀力(攻撃力)より、ロープワーク(防御力)が重要
 登攀力より、山の外的危険の判断力が重要
 連れて行かれる人は、ルート難易度が上がっても、外的危険に無知なままになってしまい、
 単独リスクがさらに上がる

ということです。


4 comments:

  1. 山ヤさんじゃないので「そんなの関係ねぇっ」って言われるかもしんないですけど
    ワタシの場合は ざっくり↓です。

    小5の耐寒登山→(blank)→屋久島宮之浦岳(単独山中2泊)→(blank)→台高縦走(山中2泊)→(blank)→モンベルのクライミングスクール(室内4回と最後、軽い外岩1回)→(blank)→立山 山ボード(単独)→岩講習1日→日帰り沢登り のべ2日→連れてってもらうんじゃない沢登り(週1 約1年)→沢搬出訓練→沢登りメインの山岳会に入会→日赤講習→雪崩講習→雪あればボード(ゲレンデor山)、雪なければ沢登り。→ベトナムに住んだり、子供が出来たり、単身赴任でブランクあり。→去年から月2回ぐらいずつ。

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    1. Damienさんみたいな人は、ほっといたらいい系ですかねぇ・・・ あーそういう話だと私もほっといたらいい系ですよねぇ・・

      先にやっておいたら良かったな~ というのは、ジャンピング以外にあるんでしょうか?

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    2. ココに書いてあることとジャンピング以外では、アブミかけかえによるエイドクライミングぐらいかなー。

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    3. エイドは去年、体験的経験をしたので、今年は初級をマスターしないとです。

      Damienさんの連れてってもらうんじゃない沢登り(週1 約1年) を今年は私はやったらいい感じです。

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