Thursday, March 26, 2015

バリエーションに一緒に行くためのABC

■登山は危険

登山は危険な活動なので、ネットでちょっとした知り合いと「では一緒にいきましょう!」と言って出かけることができるのは、衆人監視の山まで、です。 で、

Vルートに一緒に行くには、どうすればいいか?

ですが…

結論を先に言えば、

  トップロープ ⇒ 山 ⇒ 確保・自己脱出 ⇒ 易しいマルチピッチ ⇒ 本気の山

という具合に段階を踏んで互いの安全確保について摺合せをして行きます。

■ 1)まずは安全確実なトップロープで互いの相性を確認

まずは、トップロープです。トップロープであれば、ゲレンデでも、人工壁でも、岩でもアイスでも何でもいいです。

トップロープのビレイができない人は、そもそもクライミングには、お呼びではありませんからね。

そもそも論ですが、いっしょにいて楽しくない人とは山には行けません

山で相手が「足イテ―よ!」と言って、歩く気がなくなったときにも、「どうぞ勝手に~」と一人で帰るわけにはいきません。「しょーがねーなー」とでも言いながらであっても、つきあってやる、寛大な気持ちになれる相手かどうか、が肝心かなめです(笑)。

人は何かしら失敗します。わたしなんてアイスクライミングに行ったのに、登山靴、忘れました(--;)。

失敗を許せる相手かどうか?は、個々人の色々な事情に寄ります。

相手が未来永劫、自分のパートナーになってくれるなら、貸し借りが清算される可能性が高いので、たいていは許せるものですが、そうでもないなら、腹も立ちます。

余談ですが、ずっと一緒にいる予定(山岳会など)では、「恥はかき捨て」や「裏切り」はできません。ですから良好な関係が築ける可能性は、一見さんより大きいです。

例えば、フェイスブックなどでは相手の住所は伏せられています。都合が悪くなると、ドロンすることができる。そのような、退路があれば、都合が悪くなれば、しーらないと逃げ切れるのです。

もしかすると、現代版完全犯罪だって可能かもしれません。信頼する前に相手がどれくらい自己開示しているか、確認すべきです。

会に黙って、内緒で山行するような人は、最初から攪乱因子です。

秘密と言うものは、どんな時も、後ろめたい気持ちから生まれるものです。奥さんに秘密の山行では、浮気相手を求めている、と思われても仕方ありません(笑)。

そうは言っても、昨今は気軽な時代で、フェイスブックのオトモダチに、住所氏名、年齢、血液型と山岳保険の有無を聞くのは、多少の勇気がいるものです。それに用心ばかりではどこへもたどり着けません。

そのような場合、一回目はそのような情報がなくても済む、衆人環視のゲレンデや人工壁はおススメです。これなら、たまたま現地でばったり会ったということにしてしまえばいいからです。

■ 2)普通の山行に行く

めでたくパーティ成立?!となった場合、ちゃんとした山には、一回行かなくてはなりません。

これは経験上、100%成功ではない山行が良いようです。ちょっとガッカリとか、ちょっと不足した要素がある山。雨だったり、転進だったり、重荷だったり、何かネガティブな要素があるのが良い。

山は良いときばかりではありません。

People are like tea bags, you know their quality when you put them into hot water.

人の真価は熱い湯に浸して分かる

つまり、その人の考え方というものは、山がピーカンで、何もかもが成功している時には、誰もが同じように、良い反応しか示さないので、わかりません。

「あーあ~」とか、「はぁ~」とか、「…(--;)」とか、「どうしましょう・・・?」・・・という状況の時に、人間性の真価が見えます。

ですから、ちょっとうまく行かない要素がある山行を一緒にいくのが良いです。

■ 3)心配対策にはプロセスを見せる

先輩は、後輩のことを色々と心配しています。 それは会社で上司が部下を監督するときと同じです。

先輩は後輩の意思決定プロセスのゆがみや間違いを正してやりたい、と思っていると思いますから、それを見せることが大事です。

良く言う、報・連・相 です。報告、連絡、相談、です。

信頼は勝ち得るもの。最初は、信頼のメモリゲージはゼロだと思うべきです。

先輩が「いってらっしゃーい」と言うのなら、それは実力の範囲内にある、安全な山ってことです。心配なら、「辞めろ」と言うか、頼んでもいないのに必ずついてきます。

この意思決定のプロセスを見せるのは、2)の普通の山に行くのと同じ時でいいでしょう。

■ 4)リード・フォローと懸垂下降

いよいよ、本気の山に一緒にいけそう、となったならば、確保と退路の確保です。

まずは相手の確保が確実にできることを確認しないといけません。安全に墜落経験を積むには、かぶった壁と確実な支点が必要です。

これは人工壁で調達できます。そして、現実の山にはトップロープはありませんから、リードしている相手を確実に確保する経験が必要です。

リードクライミングの確保は、普通に毎週クライミング練習していれば、特に難しいことではありません。

弛まず出す、引っ張らない、クライマーを良く見て、出してほしいときに出す。引かれる位置に立たない。クライマーに下から指示や注意を出す。

基礎の基礎ですが、トップロープしかしないと経験が積めません。ここがあやしかったら、毎週クライミングジムに通って、リードのビレイの練習をするしかありません。

確保ができても、退路が作れたことにはなりません。

懸垂下降は退路を断たないために絶対必要な技です。

ですから、本当を言えば、ロープワークを教わる時に、懸垂下降から練習するべきで、私は実際クライミングできないのに、「敗退の練習です」と言って、懸垂下降だけを先に教わりました。それは良いことだったと思います。

懸垂下降は失敗が許されないので、きっちりマスターしないといけません。人工壁だけでなく、実際の岩場や、山に出かけて行って必要もないのに懸垂下降してみるのも良いと思います。

上記の二つ、すなわち、リードのビレイと懸垂下降を同時に確認する良い手として、1回こっきりのリード・フォローがあります。

つまり人工壁やショートピッチの岩場で、1ピッチのゲレンデであっても、リードフォローで、セカンドも一緒に登り、懸垂で降りてくるのです。小さくてもマルチピッチと同じ手順を踏みます。

ギアのセットは同じです。高所だろうが、ヒマラヤだろうが、パタゴニアだろうが、城山だろうが同じです。

ただし、これは基本的な懸垂下降のセット出来る人のみです。10mくらいでも落ちたら死ぬかもしれませんから。 

基本的なセットが怪しい人は、まず、滑り台くらいの傾斜で、落ちても死なない高さでセットそのものを確認すべきです。初心者だと懸垂下降のセットがおかしい場合があります。当然ですが、初心者に懸垂下降させるときは、上と下に一名ずつ経験者の確認の目が必要です。

つまり、初心者1名教えるのに、先輩2名が必要です。でもセットだけの問題です。セットに自信があれば、ゲレンデからスタートで大丈夫です。

「懸垂下降は大丈夫ですか?」と聞かれたら、それは「誰か他の人がセットを確認してあげなくちゃ降りれませんか?(セットを間違う可能性がありますか?)」という意味です。

■ 5)自己脱出

これが完了したら、自己脱出をやります。ビレイヤーの自己脱出と、クライマーとして宙吊りになった場合の自己脱出。

これは、エイドクライミングと似ているので、単純に空中のプルージック登攀としても、楽しく練習できます。

私は被った壁にアブミを掛けて登るのより、いっそプルージックで登るほうが楽でした…

これは、ギアの使い方に習熟する良い機会になります。ついでに三分の一を作ったり、ホーリング(荷揚げ)をやってみたらどうでしょう?

■ 下地作りだけで5ステップ

ここまでしてやっと、一緒にVルートに行ける下地ができました。 

ココから先は、初級の支点が確実で易しいマルチピッチから、三つ峠通い、テント泊縦走での合宿、と通常のステップアップをして行けばいいわけです。

ここまで来るのに、かかる時間的投資は結構なものです。

ですから、パートナーをコロコロ替えるというのは、時間のロスがとても大きいものだ、ということが分かるでしょう。

逆に言えば、時間のロスを節約しようと思ったら、同じ人と行くのが一番だと言うことです。

まったくの初心者、ハイキングの山も知らない人を、Vルート仕様に育てようと思ったら、それは大変な負担です。

最初はもちろん、エイトノットも結べないから、ガイド登山のように、ラビットを結んで安環2枚で結んでやらないといけません。セカンドとは言ってもビレイも確実でないでしょうから、自分が絶対に落ちないところしかいけませんし、懸垂下降も監視する人がいなければ一人にはさせられませんから、ローワーダウンしかありません。連れて行っているのは自分ですから、完全にお客様仕様です。

徐々にクライミングの常識を学んでもらいつつ、行きたいという意思を固めてもらわないとけません。怖いから行きたくないと相手が言えば、その前の努力は水の泡です。

ですから、最初から、クライミングをしたい!と意思が固まっている新人は、それだけでありがたい存在です。

多少、気に入らないことがあっても、我慢して学んでくれるでしょう・・・お客様待遇ではないのですから。

余談ですが、こうした理由で、ガイド登山で育った人は損です。ガイドがお客様仕様で育てるので、やってもらって当然になり、やってもらっているという認識さえない人が多いです。感謝されない好意はやがては枯渇しますから、そういう入口で入ることは、登山界全体にとって、モンスター登山者を作ることになりこそすれ、自立した登山者をつくることにはつながりません。

あれ?最後は別の話題になってしまいましたが、レスキューを一緒にやらないと、Vルートには絶対に一緒にいけないっていう話でした。

11 comments:

  1. この記事、小冊子にして配布したら どうです? 税金で。

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    1. Damienさん、どうもです~ しかし、ホント、Vルート行くなら、レスキューで相手が何を知っているかくらいは知っておかないとですね。 沢のレスキューって、山よりもっと難しいみたい。

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  2. 「Vルート」=「バリエーションルート」 なんですよね?

    コメントへの返信中の「レスキュー」は「セルフレスキュー」ってことですかね?

    「沢のレスキュー」って「沢からのケガ人の搬出」の意味やないですよね?

    沢登りに行くなら、たとえ、それが、ガイド本に「楽勝でっせ」って書いてあっても
    ジャンピングでボルト打てて、ハーケンを打てるようになってから行け、
    できないなら、沢で練習しろってのがアタクシの持論です。
    単なる河原歩きなら不要でしょうけど。

    そうゆう意味で言うと、「難しい沢のレスキュー」ってのは存在しないんちゃうかなって思います。
    道具と体力が解決してくれます。
    立木や植生、土質、岩質などについては やってく中で おいおい勉強していくってのが
    理想的じゃないですかねー。

    岩登りは殆どしませんけど
    宙吊りからの脱出、ロープ登高、懸垂下降などなどは
    沢登りを始めて、必要性を感じたので、始めた年か次の年ぐらいに
    よく一緒に行ってた仲間内で練習をしました。

    日赤の3日間の救急救命講習は受けたことありますけど もう10年前の話かも。

    Kinnyさんを見習って、防御的ノウハウの練習は定期的にやらないとな と思てたとこですゎ。

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    1. ですね!私も今年もまた宙吊り登り返しの練習とかしたいですもん。去年は会の先輩が自分の道具の紹介がてら、アブミの使い方を教えがてら、やってくれました。久しぶりですからね~。去年は11月の小川山が最後の岩だったので、また岩シーズン開幕となると、やっておきたいところです・・・

      沢のレスキューはセルフレスキューですよ~ 師匠の会がTVに紹介されていました。しかし、沢で何か起こるとヘリが来るのは山よりもっと大変そうですから、沢では絶対に怪我しないようにしないと!

      当分、登攀的な沢は行かないですが、山梨の沢って、面白いのは、みんな登攀系の沢が多いので、丹沢通いになるかもしれません・・・易しい沢はあちら方面みたいなので。

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    2. 山梨の沢も丹沢も全く分かりませんが
      なんでもないような「易しい」沢でも怪我したり、死んだりしてる人は居るので
      全くの余計な お世話でしょーけど、
      滑ったらヤバいところでは、自分の足の置き場、支持のために どこかを手で掴むなら その持つ箇所(石、岩、枝、笹等が耐えうるか等々)お気をつけ下さいませ。

      それから、ひつこいようですが
      ボルトもハーケンも「敗退のテク」として有効です。
      何も「登攀的」な沢に行かずとも。

      お邪魔しました。

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    3. おいおいですね~ Damienさんも、岩も知らない、沢も知らないで、ジャンピングだけ知っていたことはないと思うので(笑)。必要を感じるようにおそらくなるでしょう。

      必要を感じるようにならない人は”連れて行ってもらっている人”、なんだろうな~

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    4. ”「Damienさんも…だけ知っていたことはない」、だから、私も。”
      というのはリスクに対する姿勢としてはイマイチだと考えますが、
      でも、まぁ「必要は発明の母」ですし、必要性に納得がいかない状態で 何かヤっても心にも身にもつきませんもんね。そりゃそうです。
      このブログのコメント欄だけで必要性を伝えようとすること自体、どだい無理な話というか、迷惑な話です。
      ですし、必要にならない可能性も結構高いでしょうですしね。

      ほんと、お邪魔しました。すみませんでした。

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    5. いや、心配はありがたいですよ~!!

      ただジャンピングって機械自体も、いまどき手に入らないですし、ハーケンと並びそういうものがかなり古臭い技術になってしまって、会の先輩だってジャンピングなんて知っている人いるのかなぁ?くらいな感じです。

      師匠は当然知っているので、おそらく必要を感じたら教えてくれるでしょう。今のところ、まだ、ウォーターウォーキングレベルですから。

      また、私は”無理をしない”という選択肢を取る登山者です。ズミ沢では私が巻くと判断した滝を70歳の女性の先輩が登れるから行こう!と言って登っています。実際にお会いしていないと、その辺の判断での、困難度は分かりづらいですよね。前穂北尾根の5,6のコルでは出さないが、3峰では出す、と言っても、Damienさん、ワカラナイだろうしな。

      これから先、コメントの受け入れ基準を変えます。これはDamienさんのせいではないですからね! これからも、バンバン有益なコメントしてくださいね!

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    6. ジャンピングね、ネット通販で売ってるんですわぁ、これがまた。ほいでわまた。

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    7. おお~!そうなんですね。先日、芦安の資料館で、初めて見ました。これがジャンピングだよ~って教えてもらったところです(笑)。 

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    8. http://item.rakuten.co.jp/icisp/4515785030341mo/

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