Wednesday, March 5, 2014

ポッと出の人が登山ガイドになるべきでない理由 ・・・ 山の世界を考える その3

今日は大荒れ予報で、予報通りじゃんじゃん雪が降っています。

こんなに雪が豊富な年なのに、雪山(雪稜)がなぜか充実していない今年… なんか物足りない。

まぁ甲斐駒にも行ったし、鳳凰三山では地蔵まで行ったし、贅沢を言ってはダメですね。

何しろ、今年は多雪の年なのに、アイスクライミング元年になっちゃいましたから…多雪の時はアイスには向いていませんね~ 滝、すぐ雪で埋まって短くなっちゃう。 でも、埋まったら埋まったで、怖くないのでリード練習には向いているかも(^^)?

■ 縦走のロープワークは、基本のスタカットより難しい

私は今ロープワークを身に着けようとしています。(だから師匠はアイスのルートに連れて行ってくれるわけです。)

ロープワークと言うのは、不思議な技術です。

というのは、登山の基礎である尾根歩き(=縦走)、その縦走で難所が出てきたときに、安全を確保するためのロープワークである

 ・フィックスロープ
 ・ショートローピング
 ・退路を断たないための懸垂下降

などの技術は、一般的なスタカットと比べ、むしろ難しい、のです。

 ・道具を使わないから
 ・支点が自然物だから

理由は、ロープワークを簡単確実に行うための、各種の器具、確保器やハーネスなどを使わないからです。あるもので何とかする。となると、普通の登山者はカラビナを持っていたら良いほうなのです。確保器を使わない懸垂の方が使う懸垂より難しいですし、フィックスロープを張るにしても、固定にスリングとカラビナを使うほうが、ただロープだけでフィックスロープを作るより簡単です。普通のハーネスを使う方が、スリングで簡易ハーネスを作るより楽なのは当然です。

ショートローピングなんて確保とは言えません。心理的な問題。

そして、支点が自然物です。立木や岩角、氷・雪などの自然物で支点を取るのは、整備されたゲレンデの埋め込みのアンカーで支点を取るより難しい…バックアップなどに、より念入りな配慮が要ります。

つまり、ロープワークとしては上級です。

というわけで、縦走は言うまでもなく登山の基礎なのに、その危険を担保するお助け紐的ロープワークは、単純なクライミングでのロープワークのその先にあるのです。

■ その先

で、その先が、どれくらい先かと言うとですね…これがうんと先です。というのは、

1)ゲレンデでのクライミングで基本的なロープワークを身に着ける (ノット、カラビナの扱い、ロープ操作)

2)外のルートに行って、基本のスタカットを身に着ける (支点、ロープがジャムりやすいこと、ロープの摩擦抵抗、振られる方向、複数の作業を一つにまとめる、バックアップ)

3)一通り信頼できる支点も作れ、ランニングの取り方も学んだら、より自然度の高いルートで習熟する (沢など)

4)やっとどんな状況でも確実にロープで安全を担保できるようになる

というわけです。

何年かかるんだ?

安全のためのロープワークなので、ルートはクライミングの難易度が高いところである必要はなく、自然度を徐々に上げていく必要があるだけですが、しかし、一般に、自然度が高いのと、ルートのクライミングの難易度は正比例です。

こういう事情ですから、ある程度クライミング歴が長く、クライミング力もあるしっかりしたクライマー以外の人が、ロープワーク習熟者であることはまずありません。(A0クライマーOK(笑)!)

しかし、クライマー歴が長いことはロープワーク習熟者の必要条件であっても十分条件ではない。

整備されたゲレンデ(つまり支点が整備され安全性が高く自然度は高くない)で、クライミング能力をどんどん向上させて行っても、ルートに出なければ、安全を担保するためのロープワークには習熟できません。支点を自分で作らないから仕方ないですね。

という訳で、クライマーだからって支点を確実に作れなければ、縦走路でピンチに陥った時に仲間を安全に通過させることはできない。

しかし、クライマーであることは(たとえA0クライマーでも・・・)、絶対的に必要なプロセス… というわけで、私の今シーズンの冬山は、アイス元年になったのです。

■ アイス元年

師匠がアイスのルートに誘ってくれるのは、懸垂下降を覚えさせるためです。懸垂下降は、自分でテキトーに尾根を歩いていて、進退窮まった時に退路を絶たれないための技です。まぁ登り返すつもりがあれば要りませんが。

で、私はまだ支点は自分で作らせてもらえません。トップで降りるのもさせてもらえません。何しろ、何か不測のことが起こった場合、途中停止などしないといけないですし、もし下の足場が良いところまで行くのに、ロープが足りなかったら? 頭真っ白です(笑)。懸垂下降はもっとも事故が多いのですし。 

私は小柄で、体重が軽いので、懸垂下降の支点が確実かどうかをチェックするのは、体重が重い側の人、となると、私はパーティで登っている限り、懸垂では最後の懸垂下降者になりそうです。

■ 安っぽくなったガイド資格

私が主張したいのは、登山ガイドになる人たちのことです。

ただツアー添乗員のように、人を一般道の山に連れて行っている経験だけの、ぽっと出の人が登山ガイドになるのは私は大反対です。

理由は登山ガイドで必要になる安全を担保するためのロープワークは、登攀ガイドのその先にあるからです。

(知らない人のために補足すると、ガイドにはランクがあり、自然ガイド、登山ガイド、山岳ガイド、登攀ガイド、国際ガイドとなっています。登山ガイドはランクの低いガイド資格で、非一般道はルート案内できません。したがって基本的には、ロープワークが必要な山が含まれるはずがありません。仮に必要になったとしたら、それはすでにお客さんが登山道から落ちた、というシチュエーションである可能性が高く、それでは、すでにレスキューの類に入り、フィックスロープが張れる程度のことではどうにもなりません。)

巷では、ガイドの社会的地位が低い、ということが叫ばれたりしています。が、ポッとでの人が登山ガイドになることこそが、ガイドの社会的地位の低下を招いています。

山岳部出身でもなく、山岳会出身ですらなく、登山歴も10年満たず、ただ山道具屋で働いています、というだけの人を登山ガイドに育成している様子をみると、これは自ら社会的地位をおとしめているとしか言えません。

登山ガイドなんて誰でもできるんじゃん・・・ どうりで良く誘われるはずです。しかし、そんな安っぽい資格、なんでわざわざお金を払って取りたいのでしょう?

一般道を連れて歩くなんて、ガイド資格がなくても立派にやっている人はたくさんいます。むしろそうした人の方が、バテないペース配分に詳しかったり、山小屋でのマナーを指導したりして、リーダーシップ満点で、事故を起こさず信頼できる。

逆にガイド資格があっても全然ダメな人は一杯います。そりゃ駄目なのが当然で、山岳会にいたこともなければ、重い歩荷をして苦労したこともなく、ルートを経験したこともなく、いわゆる岳人の基礎行程を知らないわけですから、お客がマナー違反をしても、登山のイロハなんて伝えられるわけがありません。その人たちの狙いは客のポケット、つまりお金だけだからです。お金が欲しい相手に、厳しいことが言えるはずがない。

何しろ、登山ガイドであっても、日給はガイド規定で3万円です。しかし、そのようなポッと出の登山ガイドに、3万円に値する技術がありますかね? 無いでしょう。スタカットも知らず、自分で支点を作ったこともなく、ただ金魚の糞のように後ろをついて歩くだけの登山が登山だと思っている人たちの先頭に立って歩いた経験だけでは…

ちなみに、一般道にハイキング初心者を連れて歩くのは、山岳会では2年目くらいの新人の役目です。先輩に教えてもらったことを復習がてらってわけです。

良い子の登山者の皆さんは、ゆめゆめ、そのようなポッとでの登山ガイドに、貴重な虎の子をお支払いにならないよう・・・金魚の糞ガイドツアーに参加なさらぬように… 完全にお金の無駄です。

金魚の糞の一列歩行は ”なんちゃって登山”です。 

最も大事なのは、自分で山行を計画し、何キロ歩くのか、標高差は何百メートルなのか、お天気はどうなのか、リスクは何かを考え、判断し、リスクに対する判断力を磨くことです。

その道が歩けるか歩けないか?は自分で判断しましょう。

行って見て歩けなかったら帰ればいいのです。それはある意味、安易に得た山頂より、貴重な体験です。

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