この本は、登山入門者にとっても良い内容だった。
いつも、登山者に足りていないのは、体力でも技術でもなくて、”基礎知識”=机上講習、ではないか?と思っている。
それは山小屋でバイトした時に端を発する。あまりにも何も知らない、まっさらな状態で、山に行きすぎていないか、と思うのは
・山にペットボトル一本で来たり
・ジーパンで来たり
・天気を見ていなかったり
・地図をもっていなかったり
・私にも登れるでしょうか?と聞いてきたり
する等の事例をあまりにも、たくさん山小屋で見てしまったから。
指摘すると、そういう人は「あの人もジーパンだよ」と山小屋の人がジーパンでいるのを指摘したりもする・・・けれど、山小屋は安全地帯で、雨に濡れて風にさらされ稜線に滞在しないといけない羽目に陥ることはない。
5時間歩くのに、水無しで歩くことも可能だと思う。というか、5時間程度、水を飲まないで過ごせない人がいるだろうか?誰だって5時間くらいなら断水できる。
けれど、5時間中に、脱水が起っていることは事実以上の何物でもなく、体重50kgの人が5時間歩いたときに必要とする水は、公式で求められ、50×5×5=1000ミリリットルだ。だから、それは遅かれ、早かれ、補わないといけない。
その補わないといけないポイントで、山小屋も水場もなかったら、どうするんだろう???
「山小屋があるからいいもん!」と返事をする人は、まだいい。山小屋があると知っている時点で、予習は出来ている。
そうではなく、「行って見たら山小屋があったよ~!良かった~!こんなところにも山小屋あるんだね~!」などとと発言している人は、大きな賭けに出ている=遭難予備軍であることを認識していない。
登山は賭け事ではない。とすれば、事前の知識は必要だ。賭け事にしなくて良いことを掛けにしている。
今、中高年を魅了しているのは、登山の賭け事というアスペクトではないかと思う。少なくとも、その疑いはある。そうだとしたら、山の遭難は減らないだろう。ギャンブルの掛け金を吊り上げるのが喜びの源泉になっているからだ。
確かに登山には未知の発見という喜びがあり、私も安全が担保されている、という場合には、あまり調べないで行くという、贅沢を自分に許すこともある。(例:ベテランがすでに行ったことがある場所に連れて行ってくれる時)
例え、調べに調べても、すべてを事前に知り尽くすことは不可能だし、特に危険個所について、登れるか登れないかの判断は、行ったことがある人でないと難しい。
さらに言えば、個別の山について、それぞれごとに調べ尽くす必要もないわけなので、そこで、”基礎知識”、つまりおおよそ一般的な登山に必要な共通の知識を抽出したものを知っておけばよい、ということになる。
どんな山にも応用できる、最低限の知識は何か?
ということが、具体的に分かるのが この『安全登山の基礎知識』だった。
以下は、当方にとって役立つと感じた最初の行動のところのまとめ。
■ 備忘録
・自然回帰 = 人間の本能的な欲求、リスク低減、謙虚さを学ぶ機会
・メンバー間で実力差があるのは当たり前。(実力の中身=体力、技量、性格)
・実力差の克服法 1)事前の練習登山 2)アドバイス 3)指導
・事前ミーティング = 情報を共有する
・役割分担
リーダー = 行動
サブリーダー = 行動
装備係り
食料係り
・メンバーの役割とは? 1)主体的に取り組むこと 2)自分の役割を積極的に発見すること
・行く山の選択ポイント 標高差、距離、日数、標高、季節、天候、難所の有無
・行動計画は、積み重ねから割り出す
■ 考察
役割について。
単独の場合、役割分担はなく、すべての役割を一人が担当する。
一方、山岳会で複数の人と登る場合、明示的には、役割が与えられていないことがほとんどであることに気が付いた。
リーダーは明確であっても、装備担当者がいることはまずない。レインウェアを持ってきていない人がそのまま山行に参加しても、いざ必要になるまで、忘れたことに気が付かれることがない。
明示的に、というのは、暗黙的に役割が与えられていることはよくあり、例えば、力持ちの人にはテントを持つ役とか、食事を持つ役、水持ち役が与えらえることが多いし、クライミング力がある人には、突破担当が振られるし、車が上等の人には運転が振られる。
ある一つの役割に、”新人”という役割があると思う。その”新人”と言う役割に求められるのは、なんだろうか。それは会によってそれぞれ違うのかもしれないが、どんな場合にも言えるのは、
頑張る
のが役目だということだ。
次の入会者がないと、”新人君”は、”ずっと新人君”で固定化してしまう。・・・すると、役割のヒエラルキーを上がって行かない=知識が身につかない、ことになるかもしれない。
メンバーの役割という面で、自分の役割を積極的に見出すこと、という点だが、役割がない場合は、ゲストということで、ゲスト待遇=仲間ではない、ということかもしれない。
以前、ゲストで参加している山行で、ほんの少しの共同装備を割り振られたことがあったが、協力的な相手か様子を見るということなのだろう。
この時は、共同装備の負担がなかったので、お酒を一瓶と柿の種を持って行ったら、とても褒められた。お酒自体よりも、積極的に役割を担おうとしていることが、仲間に入れてくださいという姿勢を表していたからだと思う。
私も同行者はゲストとして遇すことにしていて、何かを持ってもらいたいと思って、山行に誘うことはない。
■追加役割
他にどのような役割があるだろうか?
読図
天気
記録
突破
歩荷
救護
給水
運転
”新人”はれっきとした役割である。男性主体のチームでは、女性には、”華”の役が回ってくる。
”きれいどころ”役をしている人はウエアが、ことさら女性らしさを強調したもの(ピンクなど)を着ているので、すぐ分かる。写真もその人を中心に納めている。山岳会だと、新規入会者にPRする目的のモデルということもある。
そういう意味の”キャラ的役割”では、バテ役というのも、固定しがちな役割なので、気を付けたほうがいいかもしれない。末っ子タイプに多いのかもしれない。
”いけいけ”の役割と”慎重派”の役割分担もあり、全員がイケイケ派だと、突っ込んで行って下りれなくなり、いわゆる”セミ”になってしまう。
家の中にお父さんとお母さんがいるように、誰かが「嫌がられ役」を引き受けなくてはならないが、大抵は、イケイケ派がグループ内では評価が良く、怖い役や引締め役はババ引きである。
しかし、山行の前も、山行の途中も、「このままではあぶないよ」と言いにくいことを言ってくれる人が真の友ではないだろうか?
リーダーにはご機嫌取りではなく、「時には叱ってくれる人」がふさわしいのではないかと思う。