『岳人備忘録』に出ている方だ。(つまり、ちゃんとした岳人)
でも、〇〇峰初登、とかそういう経歴を連ねているわけではなく、アルパインの自己顕示欲の世界から一歩退いた経歴は、ヒマラヤやパタゴニアなどの、一歩間違えば、死ぬようなアルパインクライミングばかりが、登山価値じゃない、と考えさせてくれる。
素晴らしい先例だと思う。
そのため、一つの山ヤとしての在り方の提示だなぁといつも思う。
そういう山ヤさんからは、山に対する思想を学びたいと思う。
■ 段階を経た山登り
この本に、段階を経た山登りという項がある。
第一が、山の発見
第二が、その山の調査と偵察。
第三が、その山のうち、もっともやさしいルートからの初登頂。
第四が、バリエーションルートからの登頂。
これをエベレストに当てはめると
第一段階 1853年、ピーク15が世界の最高峰であると判明
第二段階 1921年、偵察
第三段階 1924年、もっとも易しいルートからの試みが始まり、1953年初登頂
第四段階 1962年、南西稜からの登頂。66年、南壁からの登頂。
解説に谷川を例にとれば、とあげてありますが、最初から、一ノ倉沢など、まったく無謀極まりない、と書いてあります。
でも、山岳会は、普通にいきなり連れて行くと思いますけど…(笑)。
私は、谷川に関しては、”馬蹄形をやってから…”と言われましたが。
普通の日本の山においては、沢や雪は、バリエーションルートに数えるべきだそうです。
■ 例: 西黒尾根を登ったら、もう一の倉沢を登れるか?
Noです。沢登りや岩登りは、普通の一般道をたどるのとまた違った技術を必要とします、とあります。
それには
・他の地域でよいから、易しい岩場や沢で、よいリーダーについて技術を基礎から学んでいく
例:丹沢の沢を一通り終わってから、谷川岳の沢に進んだ
■ 雪のある山
雪の山も同様で、
・これまで雪のない季節に登ったことがある山を選ぶ
・中級山岳以下の山を冬山の第一歩に選ぶ
が大事です。
例:奥秩父なら雲取山
どの山域にも必ず入門に良い山というのがあるはずで、そういうモノから手を付けていく
■ 山の公式
面白い公式が提案されています。
山(コース) × 季節(天候)÷ 登山者の能力 = 1以下または1以上
答えが、1以上か、1以下か?
この公式で、
1以上であれば、困難な山登り、
1以下であれば、安全圏内の山登り。
いつも安全ばかりでは、冒険がなくて面白くない、というのはその通りです。
しかも、困難な局面に立ち会ったほうが、力が伸びます。
私は、読図に関しては、あんまり要らないと思っていましたが、谷川方面の山で、6人でラッセルしたトレースが40分後の下山には消えてなくなっているのを見て、”これはまじめに勉強しないとマズイ!”と、認識を新たにしました。それまで八ヶ岳でしか雪をしていなかったため、自分のトレースをたどって、いつでも帰れると思っていたのです…。
このヒヤリハットがなかったら、3年もかけて読図をマスターしようとは思わなかったでしょう…。
■ 背伸びの山
私は背伸びの山が必要ないとは思いません…
例えば、私はアイスは、師匠に連れられてですが、いきなり、初年度に広河原沢左俣でルートデビューしています。しかも、1ピッチだけですが、リードしセカンドの確保も経験しています…これは、もちろん、師匠が自分は楽々登れるところを、やってみてごらん、とやらせてくれた感じです。
が、この経験が強烈で、自分でもトップで登れるようになりたい!ということで、その後の、”小滝20本ノックで登る会”みたいな、ゲレンデをいっぱい登りこんで、絶対落ちない技術を身に着ける、という情熱の源泉となりました。
ですから、背伸びの山でも、”そこから何を得てくるか?”ということがはっきりしていたら、いいと思うのです。
雪の山だって、GWの北八つで溶けかけた雪の山を6本爪のアイゼンで歩いただけで、その秋に西穂独評で雪の山に登っていますから、これが間を飛ばした山でない、と誰が言えるでしょう(笑)???
きっと、”丹沢くらい、終わってから行ってくれよな~”、と、ベテランが当時の私たちを見たら、思うかもしれません。
ちなみに私は丹沢は全く興味がなかったので、丹沢大好き人間の師匠を得るまでは、丹沢の雪山は一回も経験したことがありませんでした。
■ 雪のステップアップ時に考えていたこと
雪は、自分たちで考えて、その後はこのように進みました。
1.鷲ヶ峰(ヒュッテがあり、木道を歩くだけの場所。ただし寒さはー25度)
2.北横岳 (ロープウェーがあり45分でメルヘン。-25度)
3.天狗岳 (小屋があり、小屋まで2時間。小屋からピストン1時間。-25度)
これを4~5回
この間、同じ山域で縦走し、距離を長くする
4.権現岳 (標高差1500mで大きい) 何度もチャレンジ
と繰り返してから、
5.連れられて行く ツルネ東稜~川俣尾根 (バリエーションデビュー)
としました。これは、初の本格的な山です。一方、自分で行く山は、
6.鳳凰三山(長い)& 金峰山(小屋がない、大きい)
7.赤岳 (アイゼンワーク、小さいが難しい)& 谷川岳で講習(豪雪、雪崩知識)
として、体力と技術をアップしました。リスクもより大きくしていっています。
8.連れられていく 広河原沢左俣&阿弥陀中央稜
9.ジョーゴ沢から硫黄 (自前でバリエーションに行き、成果を確認する)
10.アイスクライミングゲレンデ 何回も何回も行く
11.峰ノ松目沢(アイスルート、初リード)
甲斐駒黒戸尾根(単独)
大同心稜から横岳縦走 (体力)
12.阿弥陀北稜 (バリエーション、単独)
より困難なアイスクライミングへ
という具合に勧めました。1月~3月までの厳冬期の山です。
1シーズン目 雪山10回
2シーズン目 13回
3シーズン目 16回
4シーズン目 26回
5シーズン目 17回 春山1回
6シーズン目 14回
7シーズン目 35回(ほぼアイス)
■ 情熱育成期 1シーズン目 量的には雪山10回
1.鷲ヶ峰は、カメラマンがわんさか来るような美しい雪の山ですが、ただの丘です。スノーシューでハイキングに出るような場所ですが、寒いので、かなり寒冷に対する学習になります。安全圏も近いというか車で横づけですし…それで、雪の美しさを知るために行っていました。
■ 経験育成期 1~3月まで毎週通う
2.北横~天狗岳 時代とというのは、完全に雪慣れのためです。装備もそろえている途中だし、スノーシューがいい時、つぼ足がいい時、アイゼンがいるとき、の使い分けもわかっていないので、周囲の登山者を見て、学習しつつ登りました。このやり方だと間違っている人を見て、正解だと思う可能性もあるので、効率は悪いです。北横岳では、スノーシューのほうが登りづらいです(笑)。
■ 体力育成期 1~3月毎週通う
4.権現は、標高差が1500mもあり、体力をあげていく段階です。小屋もないので、山慣れしている人しかこないし、何度も通ってやっと登れました。
■ 情熱育成期
5.ツルネ東稜~川俣尾根は、ロープも出るし、読図も必要という、本格的な山ですが、避難小屋泊なので、少し下駄を履いています。このころは、まだ夏用シュラフしかないのに、-20度近い山に寝泊まりするというので、結構ビビりながら参加し、大丈夫だったという経験値を蓄積する山でした。チャレンジの山です。
連れて行ってもらう山行ですが、この経験で、さらにステップアップしたいかどうかの石固めになります。懲りる人は懲りる。
■ 知識育成期 晴耕雨読で、ほぼフルタイムで勉強
この経験で、アイゼン歩行、雪上訓練、雪崩関連知識、多雪の山に対する慣れ、わかんがいるようなラッセルの山に対する慣れ、どのくらいの体力が必要か?など、知る必要がある事柄が出そろったので、その後は、より困難な山に対する知識を武装しなくてはならないということに納得し、登山学校や山岳会を模索し、講習会に出て、知識武装を始めました。
雪崩の講習会や、雪上訓練です。技術や知識は、それに特化して、集中して覚えるほうが良いと思います。
このころホワイトアウトしたら、どうするか?とか、雪崩に遭わないためには?とか、まさかのための保険になるような知識を蓄積しました。
かなり読書もしたと思います。
一方、体力を落とさないために、危険は少ないが、体力の必要なロングルートを冬季には歩いていました。
また、わかんが必要な山も、この時期デビューしました。わかんは、わかんの技術がいります。ちょうどいいことに地元で、自衛隊が出動するほどの、大雪で楽しくラッセルできた(笑)。
■ スキル習得期 毎週ゲレンデ通い
そのあとは、登攀技術を磨く段階でした。ので、一度ルート経験した後は、前述のとおり、登攀技術を得るためにゲレンデに足蹴しく通いました。足蹴しく…というのは、1シーズン30回みたいな感じです。
初級のルートは済ませて、楽しく登り、登攀のグレードを、4級から5、6級へと上げて行きました。もう、最も困難なグレード6級も登れます。
■ 次は???
次は? 次は大きくしていく。
その次は、より困難にしていく。
…というのが来るはずですが、まだ取り組んでいません。(取り組む段階に進むか不明)
というのは、アイスは一通り終わって、今フリークライミングに差し戻し請求?って感じだからです。
アイスで冬山でリスクをとる山登りをする以前に、フリーの基礎力とか、あとは、もう少し体力増強が必要そうというわけです。
で、今いるところ、はそういう段階です。
なので、もう冬山はひと段落はしている感じではありますが…。
大体、同じことを、沢バージョン、岩バージョン、でやっています。
多分、山ヤさんだったら、だれでも同じような思考回路で、自分の成長戦略を組み立てていると思うのですが…。
大事なことは、
心、技、体、知、経 と何を目標にしているのか意識的であること、
ではないかと思います。
金石沢F2 |
ミクロトワンソン |
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