■ 大前提
確保について、今までの経験から本当に危険だなと思う…のは、一般に大前提を教えられていないため、のようだ。
大前提1)確保とは、
相手の命を預かること、です。
大前提2)確保ができないとクライミングには連れて行けない。
クライミングとは、クライマーとビレイヤーが互いに安全を守り合うものだから、です。
大前提3)スポーツクライミングの確保は、落下係数が0.2(要するに衝撃が軽い)で済むように計画されています。つまり、より安全ということです。ロープも人工壁用に太いものを使います。
いわゆる外岩=フリークライミングでは、落下係数2もあり得ます。ので、より危険であり、より高い確保技術が必要になります。
同様に、いわゆる、アルパインクライミングでは、さらに危険が増え、対応する力も別に必要です。したがって、別の種類のクライミングをする度に安全について再考する必要があります。
大前提4)確保理論を読みましょう。
ビレイ器とロープ径のマッチングは重要です。人工壁では頻繁な墜落が前提となっていること、距離が短いため、10.2mmから、9mm後半の径のロープが一般的で、施設によっては8.9mmのシングルロープは使用禁止となっているところもあるそうです。
このように人工壁であっても、ある程度知識のベースがなければ、安全にクライミングを行うことはできません。ちゃんと予習してきましょう。
■ スポーツクライミングでの確保
大前提: 制動手は死んでも離してはいけない。
確保器と制動側の
屈曲が、墜落を止める力の法則である。
1)登り始め 1ピン目を取る前の挙動
クライマーが登り始めたら、1ピン目を取る前までは、スポットをするのが通例です。1ピン目以前は、ノービレイと同じだからです。クライマーの真下に立ち、クライマーが墜落したら、着地を補助します。
しかし、スポットの仕方が問題です。大事なのは
頭の保護です。そのためには、頭が後ろにならないように、背中の部分を押してやったり、腰を誘導して、足から着地させるように、誘導します。
2)1ピン目~3ピン目
1ピン目を取った後、グランドさせたら、それはビレイヤーのビレイミスです。
1ピン目ではクライマーの真下に立つことはできません。しかし、ロープが出ていると、墜落を止めることができません。ので、妥協点として、壁際の1ピン目を避けた位置に立ちます。
1ピン目から3ピン目までは、決して気を緩めてはいけません。ロープは出しすぎてはいけないと言う意味です。墜落した場合にグランドする可能性が高いからです。
一般的に、1ピン目で落ちるようなクライミングをしてはいけないと言われています。3ピン目辺りまでは、絶対に落ちない自信があるようになってから、クライマー側もとりつくべきです。落ちて比較的安全なのは、それ以上だからです。
3)基本的に壁から離れない 妥協点を見出す
基本的に、1ピン目とビレイヤーまでの距離が離れれば離れるほど、オイラーの法則が働いて、ロープは出しにくくなります。
とはいえ、人工壁ではビレイヤーはセルフビレイを取っているわけではなく、前後に体を動かす自由があります。ビレイヤーが壁から離れるとクライマーが良く見えます。壁に近づくと、近づいた分ロープが出るので、ロープの繰り出しを素早くすることができます。
しかし、1ピン目からのロープの屈曲が90度になってしまうほどに壁から離れるのは離れすぎです。
人間のカラダは横に引かれる力には弱く、踏ん張れない可能性があります。踏ん張れなかった場合、1ピン目からビレイヤーまでのロープの長さ分、墜落でロープが出ることになり、かりにそれが地面までの距離よりも長かった場合、クライマーはグランドしてしまうことになります。
しかし、クライマーが見えないと、クイックドローにロープを掛ける繰り出し動作が見えず、ワカラナイ訳なので、繰り出しが遅いとロープを引っ張ってクライマーを引っ張り落とします。
と言う訳で、壁からどの程度の位置にいるか?というのは、その場その場で判断し、最適解は妥協点、であることが多いものです。その妥協点は、経験が増えれば増えるほど、多くの場合、多くの人が一致することが多いです。
体の小さい軽いビレイヤーはあまり下がることができない場合が多いです。
4)3ピン目以降から、終了点まで
クライマーの動作を邪魔しないよう、素早く繰り出します。テンションと言われたら、後ろに下がってテンションします。
素早い繰り出しのためには、確保器とロープの径がマッチしている必要があります。スポーツクライミング(=人工壁)で使うロープはふと目が多いこと、セカンドの確保機能は必要ないことから、私は、スタンダードなバケツ型ATCを使っています。ルベルソ4は細い径のロープ=ダブルロープ向けです。
グリグリは使用禁止のクライミングジムもあるくらいです。持っていますが、使用したことがないので、出番がありません。
5)終了点にて
終了点ではクライマーは、終了点にロープを掛けます(2点)。その動作にしばらく時間がかかりますが、その後はテンションと言うはずです。ビレイヤーは、それに備えておきます。つまり、すぐ後ろに下がるつもりでいる、ということです。したがって、これ以上、下がれないほど後ろに下がっている位置だったら、ダメってことです。
ロープのたるみがあれば取っておきます。
6)ローワーダウン
ローワーダウンでは、スキルがうかがえます。上手なローワーダウンには、よどみがありません。ローワーダウンでは、少しずつ、前に歩いて、1ピン目とビレイヤーの間のロープの屈折を取ります。屈曲が大きいと摩擦抵抗が大きく、ロープの痛みも激しく、流れづらいからです。
とはいえ、流れ過ぎも良くないですので、一定のスピードでうまく流れるような、自分にとって最適の状態を発見するという慣れが必要です。
ローワーダウンでは体重差により、ビレイのスタイルも変わります。体重がクライマーより重ければ、前に引かれコントロール不能になるリスクは非常に小さいですが、逆に、体重が軽ければ、そのリスクに備えておかなくてはなりません。自分よりも重いクライマーをビレイする場合は、足を前の壁に突っ張るなど、前に引かれた場合の対応をあらかじめ考えておく必要があります。
また、一般的に
ローワーダウンは両手で制動側のロープを握ります。制動していない上のロープに手があっても仕方ないです。空いた手をどうするかということですが、片手でも十分制動できるのが一般的な男性ですので、その手はどう使っても良いです。一般的には、両手制動側のロープを持てば、さらに制動がかけやすくなるというわけです。
ローワーダウンでいったん、ロープがするすると流れたら、それを止めるのは至難の業です。手が
ロープバーンして、焼けどしてしまいます。したがって、
ビレイグローブは必携とすべきです。特に初心者の場合は、ロープを流してしまう確率が高いため、グローブは必携です。
ロープが流れてしまうミスについては、
コミュニケーションのミスが大きいです。テンションと言われたら、テンションしますが、下のビレイヤーに声が聞こえていない場合も想定し、確実にテンションを感じてから、クライマーは体重を預けるべきです。ビレイヤーは、終了点間際での
よそ見は厳禁です。
避けるべきビレイのまとめ
・だらりんビレイ
・パツパツビレイ
・よそ見ビレイ
・制動手を離しているビレイ
・ロープの径と確保器の相性が悪いビレイ
・壁から離れすぎたビレイ
・ビレイグロープなしのビレイ
・注意力散漫なビレイ
・テンションと言われたときのテンションが遅いビレイ
・ローワーダウンがスムーズでないビレイ
■ 確保器の保持の仕方
確保器は、ロープが入る側、制動手の側の屈曲で、制動しています。確保器の
取扱説明書にその旨書いてあります。
一番大事なことは、その点をよく理解しておくことです。
角度、が重要なのです。これはオイラーの法則、という力学法則です。難しいサイン、コサインの数式が出てきますが、大事なことは数式の理解ではなく、
確保器の屈曲がすべて
というポイントがしっかり理解できているかどうか?です。確保器を上下反対でセットしている人がたまにいます。
もし、その人が「このロープは太いから、制動が効きすぎて確保づらいな、ロープが出しづらいから、摩擦を減らそう」と思って、上下反対にセットしたなら、それは正解です。
しかし、クライミングの安全はビレイヤーとクライマーの相互で守るもの、という原則から、確保者は、確保器を上下反対にセットしたことをクライマーに告げ、了承を得るでしょう。
そうではなくて、ただ単純に確保器が上下反対だった場合は、ただのセットミスです。制動力は少なくなっていますから、「確保器が上下反対ですよ」とクライマー側は指摘してやらなくてはなりません。
■ 反転防止機能つきカラビナ
カラビナの基礎知識ですが、一般的に、メジャーアクシスで使うとカラビナの強度は22kNまで耐えれるように作られていますが、マイナーアクシスで使うと、たったの7kNです。ですので、カラビナが反転して、マイナーアクシスに力がかかると危険です。
それを防止するために反転防止用のカラビナが販売されています。こうしたカラビナを特に経験が浅く、コントロールの悪い初心者ほど使うべきです。
■ 安全環
ロープと体を結ぶカラビナには、安全環付を使うと言うのが基本であるため、ビレイ器をぶら下げているカラビナも、安全環付を使います。大事なのは、
・安全環がしっかり閉まっていること。
・ロープと干渉していないこと。
です。ロープと干渉するようなセットはセットが間違っています。また安全環付のカラビナにはいくつか種類があります。オートロックは便利ですが、雪では使えません。また動作に慣れや指の力が必要です。
ちなみにスクリュー式の安全環付カラビナが基本形ですが、スクリューをきつくしめすぎる必要もなく、最後に一回しは不要です。きつく締めすぎると解除が難しくなります。
解除しづらいと余分な時間が喰うことになります。
■ アンザイレン
アンザイレンは基本的にエイトノットで、末端処理を行います。変形ブーリンで登る人は、ほぼいなくなりました。エイトノットをほどきやすくするために、末端を戻すのは、NGです。
アンザイレンはタイインループに行いますが、エイトノットが結べない人が増えた現代では、ガイドさんのクライミング講習会では、既にラビットノットで結ばれたロープの末端に、安全環付カラビナが2枚ぶら下がっていることが多いです。その場合、ビレイループに掛けても大きな問題はありません。しかし、これは、あくまでエイトノットを覚えていない人のための処置です。
アンザイレンのベストプラクティスは、エイトノット+末端処理をタイインループに結ぶことです。
■ パートナーチェック
クライマーとビレイヤーは登りだす前にパートナーチェックを行います。これは双方が安全を確認しあい、互いに互いの安全を守り合うためです。
一般的傾向として、往年のクライマーになるほど、パートナーチェックはおろそかになっていく傾向があります。理由は、1ピン目をかける前までは、ビレイがあっても、なくても一緒だからです。つまり、1ピン目を掛けるまでで落ちてもクライマーの責任、1ピン目かけるまでの時間で、ビレイヤーは確保器をセットしてくださいね、というわけです。
往年のクライマーは、往年だけに、今更やり方を変えるのは難しいですから、その意図は汲んで、こちらは、それだけしっかりと安環を締め、確保してあげましょう。
一般に人間は、自分の安全管理はおろそかだが、相手の安全には、より大きな心配をするもののようです。
自分の安全管理がおろそかな人には、より多く観察や注意を向けてあげる必要があります。
■ 1ピン目を掛ける前のロープ長
1ピン目を掛ける前にどれだけロープを出しているか?それは、(ビレイヤーから1ピン目まで)とちょうど同じくらいの量を出しておくのです。
したがって、1ピン目は人工壁では、一歩か2歩上がって(登って)、クイックドローにロープセットくらいの距離ですから、2m~2.5mくらいでしょう。これが短すぎるとと、繰り出さねばならないし、3mも出していて長すぎると、手繰らねばならないし、ちょうど良い量を確保器にセットしているか?どうか?と言う点も、慣れがうかがえる部分です。
慣れていないクライマーなら、用心の量を多めにしないといけません。こうした動作を見ても、慣れが重要だということが分かります。余談ですが、慣れということは、自動思考、ということですので、慣れている人にどうしてこうするのか?と質問しても、答えがすぐには出てこない場合が多々あります。
■ その他危険行為
ビレイ器の持ち方が間違っている場合がある。親指が自分側を向く=肘が上がっているような制動手の保持は、ビレイヤーの手の皮膚が確保器に巻き込まれる可能性がある。
また、テンションの時にロープにかがみこむように座る(ロープに自分の頭が近づく)と、頸動脈をロープがこすれてしまう位置関係となり、ローワーダウンの擦過で、頸動脈を切る、と言う可能性もある。
髪の毛等をロープに巻き込んでしまうと、頭皮が剥がれる大けがになると、『生と死の分岐点』には書いてある。
■ クライミング
初対面の人とのクライミングでは、相手のビレイを信用しないようにするのがクライマーの暗黙の了解です。
したがって、クライマーはビレイしてもらう人に指示を明瞭に出さねばなりません。
またリスクが大きいため、安全マージンは大目に採って、絶対に墜ちることのない課題を選んで登ります。
1)パートナーチェック
相手の安全環が締っているか、よく見る。確保器が上下反対にセットされていないか?
2)落ちないルート選択と確実な登攀
クライマーは自分が決して落ちないルートを選んで登る。3ピン目を掛けるまでは、ビレイヤーの立ち位置を見て、その人のビレイ慣れ度合いを観察する。遠い=慣れていない。近くに寄ってもらうように指示する。たるみが大きい、たるみを取ってもらう。
確実な登攀とは、
1)逆クリップしない
2)ロープを足に掛けない
3)zクリップしない
4)落ちそうな場合は、「落ちるかも」と声をかけ、予告できる、
5)
手繰り落ちはもっとも危険
ことです。
3)声掛け
クイックドローにロープを掛ける場合は、繰り出し動作を指示するため、「ロープ」と声を出す。
4)テンション 即時応答性
落ちても安全だと思える高さに来たら、一度テンションを掛けてもらう。テンションの素早さは、落ちた場合の、即時応答性、に直結する。
5)お試し墜落
お試し墜落は、比較的安全である人工壁でも、その人のビレイがある程度信用できると分かった後です。わざと落ちます。
その場合は、落ちても大丈夫と思える場所、空中、あるいは、終了点近くの高い位置、などです。落ちるかもと声を掛けます。
落ちて相手のスキルを確認するわけですから、大きな賭けになります。
一般的になれているビレイヤーの場合は、何も言わなくても、クライマーが落ちそうな具合かどうか、よく見て分かるものです。クライマーが登攀力のギリギリに近づいていそうであれば、ロープのたるみを最小限にして、墜落に備えています。
5)終了点
終了点まで来たら、アンカーにロープを掛けますが、下のロープを持ってから、「テンション」と声を掛けます。下のロープを持つのは墜落防止です。テンションが遅いビレイヤーが、テンションする前に体重を預けてしまうと、ロープが流れます。一旦流れたロープを止めるのは、至難の業です。
6)ローワーダウン
ローワーダウンしてください、と声をかけ、ローワーダウンを開始してもらいますが、この動作も初心者のビレイヤーの場合、クライマーが降りてくる真下に居たりします。クライマーはロープにぶら下がっていて、何もできませんので、ビレイヤー側に、下りてくるときにぶつからない個所に移動するように指示を出します。通常、壁のそばです。
7)着地と解除
ローワーダウンの着地も怪我が多いです。着地ではゆっくりと、確実に着地させてくるかどうか?を見ます。ロープを出さないとエイトノットがほどけませんが、出す時にテンションが抜けて、転ぶこともありますので、出す時は、「出しますよ」と通常ビレイヤーが言うはずですが、言わない場合は、クライマー側はしゃがんだり、自分でロープを引いて、たるみを作り、「解除」と言います。ビレイを解除してください、という意味です。
■ 安全は互いに守り合うもの
以上が人工壁での安全を守りながら登る場合の基礎的な知識です。
しかし、一般に、日本の人は、相手が分かっているもの、という前提で登り、クライマー側が、「ロープ」としたのビレイヤーに声掛けするのは、外国的な習慣のようです。
ラオスでは、ほとんどの人が初めてのビレイヤーと組むため、このように互いに安全を守り合う、と言う姿勢で、互いに協力し合うことがごく普通の行われていました。
■ 皆がしているから安全、は認知の誤り
人工壁では後ろに下がりすぎて、1ピン目のロープの屈曲が90度くらいになってしまっている人たちも多いです。
そう言う人たちをたくさん見てしまうと、それが正しいと感じてしまうかもしれません。
が、皆がしていることだから、やってもいいことだという思考回路は、日本人独特のリスクかもしれません。
■ 安全とは何か?今落ちたらどうなるか?
大事なことは、思考停止せず、
今落ちたらどうなるか?
それを常に考えていることです。人工壁はその考え方が身についているかどうか、それを比較的安全に観察する場となっています。
また、上記は、落下係数が0.2になるように計算された人工の壁での安全管理の話です。自然岩になれば、落下係数はもとより、ビレイエリアも不安定なことが多く、マルチピッチになれば、ビレイはほぼハンギングとなります。つまり後ろに下がるなどできないことが多いです。
ので、上記は基本中の基本で、これらをマスターする以前に、より危険が大きい場所に出かけてしまうと、よりリスクが高くなる、というのは、理解できると思います。
ちなみに、現在の日本での山行形態で、もっともリスクが大きいのは、沢山行です。
安全な順に スポーツクライミング>外岩クラッギング>外岩マルチ>高山でのマルチピッチ(アルパイン)>沢となっています。