■ メンターを持ちましょう
最近、ビジネス界でもよく聞くメンターと言う言葉ですが、日本語に訳すと、師匠が最も近いと思われます。
師弟制度というのは、英語ではアパレンティスシップと言います。
登山というのは、伝統的に師弟制度で技術継承されてきた世界のようです。ただ、日本はいわゆる行間を読むという、ハイコンテキスト文化の為、”師弟関係”とハッキリと断わることなく、なんとなく、「〇〇さんに憧れて山をやっています」とか、「〇〇さんみたいな山ヤになりたい」とか、そう言う感じです。
登山の成否は、師匠が得られるかどうか?に大きく依存します。また山はとても危険が大きいので、一緒に行く、仲間が得られるかどうか?ということにも、依存します。
■ メンターをどこで見つけるか?
メンターの筆頭は、先輩です。先輩は山岳会で見つけます。一般にジムクライミングなどでは、見つけづらいです。たまに、ジムのオーナーなどが、才能があるクライマーを発掘する、ということはありますが、かなり例外中の例外でしょう。
私はアイスクライミングをしていて、後輩の側が私を見つけてくれたことがあります。
■ 師匠が弟子を選ぶ
一般的には、先輩の側、師匠の側が、弟子となる人を選びます。教える側の負担の方が大きく、将来のパートナーとして成立してもらうために時間的投資が必要だからです。
知識の大小、経験値の大小、で、年齢にかかわらず、どちらが先輩で、どちらが後輩かということは、しばらく一緒にいれば、自然と決定されるものです。
この認識に差がある場合、意思決定において、問題の根を残すことになります。
例えば、先輩が悪天候で敗退を決めたとき、悪天候の怖さを知らない後輩であれば、もっと行けるのにと不満を残す可能性があります。
あるいは、いっしょにクライミングに行っても、登りたい課題が違ったりしても、たのしくないかもしれません。
その場合は、一対一では行かず、グループでの行動が無難です。山では、リーダーシップに乱れがないことや統率に統一性があることが、安全管理の第一の条件だからです。
■ 心・技・体・知・経のバランス
一般的に言って、心・技・体・知・経の総和が、その登山者の実力となりますが、体力に優れる人は、体力一点主義と登山界で呼ばれる自信過剰に陥っている可能性が高く、そうした場合、例えば事前の計画書作成スキルやロープワークなどの出来て当然の技術を軽視している場合があります。
体力があれば、多少の悪天候でも乗り切れると言う思いが、脇の甘さにつながるからです。そのような志向がある場合、山への奢りとなって、例えばレインウェアを着るタイミングを逃す、などの判断の失敗へつながる可能性があります。
レインウェアを出すタイミング同様、ロープを出すタイミング、アイゼンを出すタイミングも、同じような失敗につながりやすいです。
そうしたタイミング系の事柄は、個人差によるばらつきも大きく、単純に単独で登っていても学べないかもしれません。つまり、個人では自分と自然との対話は出来ても、他の人がどのようなタイミングで弱くなるか、寒く感じるか?などという知識は増えないのです。
このような他者への配慮ということも、山岳会に入り優れたリーダーと山行することで、そのリーダーの行いから学ぶことができます。
優れたリーダーは、メンバーに対する配慮が行き届き、メンバー本人が自覚していなくても、唇が真っ青であれば、ウエアを調整するように指示したりします。
■ 登っていい山と行けない山 リスク回避行動がとれるかどうか?
山のリスクを認識して、そのリスクに備えられるのであれば、どんな山に登っても良いのです。
が、リスクに備えられないのであれば、それは実力以上の山です。
ゴールデンウィークの仙丈ヶ岳へ登りました。GWの仙丈と言えば、まだ当然ながら雪山です。が、歩きやすい時期ではあります。
が、GWの気象遭難も多く、GWの雪山登山の主たるリスクと言えば、お天気が突然真冬に逆戻りすること、です。
仙丈ヶ岳はのっぺりしたなだらかな山容ですから、リスクは登攀の困難さではなく、ホワイトアウトによるルートロスです。見えなくなると、のっぺりした山はそうでない山よりルートファインディングが難しいのです。
私が数年前に夫と仙丈ヶ岳に登った時、夫はこれらのリスクを理解していなかったため、ホワイトアウトが予想されるガスが小仙丈あたりで、出てきたとき、リスク回避行動がとれませんでした。
この場合、リスク回避行動と言うのは、走って尾根を降りれると言うことです。ガスに巻かれて道が分からなくなるより先に、道迷いせず降りれなくてはなりません。間に合わずダメだったら、そこにガスが晴れるまでビバークしなくてはならなくなります。ビバークする技術がなければ、ひどい目に遭うことになります。
山では時に、不作為にも、夜になってしまったり、怪我のために下山が遅くなったり、と色々なアクシデントに見舞われます。霧に巻かれてルートロスもそうでしょう。
そのような場合に備えがあり、リスク回避行動がとれるかどうか?それが、その山に行って良いかどうか、ということの判断を分けるのではないか、と私自身は単独行の経験から考えています。
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