Monday, May 29, 2017

実力以上の山に行かないで

■ アルパインクライミングの進展はホワイトウォーター

ホワイトウォーターと言う言葉をご存知でしょうか?これは、昨今の先行き不透明な時勢を表現した言葉で、白濁した水のように、何が正解か分からない世界、という意味です。

ビジネスでも、国家の先行きでも、現在はかつての戦後70年のように、未来が明るく照らされて、何を目指しているのかが明確だった時代は終わり、どうやって成長して行くのか?いかに持続可能性を目指すのか?不透明な時代となっています。

そのような中で、正解を見出す力が問われている、という意味で、

(現代を生きる) ことと、(今の山の世界を生きる)、

ということは似ているかもしれません。

既存の仕組みが機能しない中、本格的がつく登山をスキルアップするのは、ホワイトウォーターの世界でビジネスをクリエイトしていくCEO並みの能力が必要かも?と思います。

■ ホワイトウォーターの世界で必要な技術

そうした世界で必要な技術は何か?

・小さな手数を増やす、
・効率性ではなく、効果性を求める

の2点なのだそうです。

これを登山に落とし込むと

 ・山岳会にも属すし、そうでない人とも行くし、山行チャネルを増やす
 ・その中で、効果があるもの(楽しいもの)を強化していく

です。

私にとっては、効果があったもの、つまり、私自身を幸福にしたもの…は、

 ・山岳イベント等で知り合いになった人と行く山
 ・レスキュー講習で知り合いになった人と行く山
 ・山の話で意気投合した人と行く山
 ・後輩と行く山
 ・師匠と行く山
 ・クライミングで知り合った人と行く山
 ・ブログで知り合いになった人と行く山

などです。そう言う人たちは、皆同じように、ホワイトウォーターの世界で、試行錯誤し、パートナーを模索しながら、苦労して山に登っていますので、共通の関心がある、という点があるかもしれません。

■ ゴールが見えない中、進む

ゴールが見えない中、手探りで進む、という感じは、ビジネスだけでなく、登山でも、特に顕著にあるのが現代ではないか?と思います。

色々な人に話を聞きましたが、みな一様に苦労しています。

私の”自信”の出所は、まさにこれです。まったく手探りの中で自分で考えて進んできたこと、それが自信へとつながっています。

そのために欠かさなかったことは、種まき、です。

頻繁に色々な人と知り合いになり、お互いに相手に対して、役立てる部分はないか、と話をし、また、自分の知り合いは知り合いを紹介をする、そんな活動を種まき、と呼んでいます。

■ 無欲

そこにあるのは、パートナーの取り合い(占有)ではなく、誰しもが登りたいのだから、できるだけ多くの人が多くの人と登れたらいいのでは…という分かち合いの精神です。

ひと時代前の人は、それがない人が多いように思います。俺のモノだ!と独占したがるパートナーというのは、自分のことだけを考えているのかなぁと思ったりもしますが…。言葉の定義が占有という意味なのかもしれませんよね。私は、時間がある人が時間があった人をビレイすればいいのではないか?と思うのですが…。もちろん、かわりばんこで。

ただし、この前提は、ビレイが確実ということです。ビレイが確実でないクライマーは、いくらクライミングが上手でも、誰でもお断りですが…、ただそういう人は誰からも誘われなくなるので、たぶん、クライミングも上手になる機会がないかもしれません。

■ 地頭力

私が登山において学んだことは、逆さにして考える、ということです。

”…ということは、どういうことか?”という思考法です。

これは、ホンネと建前が大きく異なる日本の登山の世界では、特に顕著に必要になる能力かもしれません。

Y先輩が山行の誘いをメーリングリストに流しても誰も乗りません。(…ということは、どういうことか?)と考えると、Y先輩は実力以上の自分に登れない山ばかりを提案しているということです。

後輩君が行きたいと言ってきたルートは、私がすでにパートナーや師匠と行った山行ばかりでした…つまり、私にとっては復習山行です。(…ということは、どういうことか?)と考えると、彼はセカンドで連れて行ってほしいと考えている、ということを意味しています。

私が先輩に一緒に行ってほしいと頼むルートは、私のリードでビレイヤーで付いて来てもらうルートばかりです。(…ということは)、私はチャレンジの”保険”としての先輩を求めているということを意味するのです。

山の人の間では、そういうことをきちんと言葉では表現せず、曖昧にしておく習慣が根強いようです。

それが登山における真のリーダーが誰か?ということがあいまいになったり、山行のテーマがぼけて、何のために山に行っているのか分からないような山になったり、という結果を生むこともあるようです。

つまり、山行の意図、が良く分からない、ということがあるのですね。逆に言えば、これがきちんと表現できるリーダーが良きリーダーと言えるのかもしれません。

山行には大体種類があります…

・顔合わせ山行 安全の為お互いの実力を確かめ合う山行
・トレーニング山行 いわゆるゲレンデや歩荷山行、人工壁での登攀力の習得 
・プレ山行  本番の前にすり合わせ 穂高前の三つ峠など
・本番    目標ルートを頑張る
・親睦    会山行などでは、互いに良きパートナーを見つける
・講習会   レベルの平準化
・レスキュー 一緒に行く人とやらないと意味がないので、一緒にやりましょうと言われたら将来のパートナー候補

■ ぺてらん

登山の意図、ということですが、自称ベテランのことをペテランと言うのだと、最近教わりました。

ペテランの方が最も恐れるのは、ベテランではなく、ペテランだと分かってしまう…つまり、バレることです。ばれた場合の恨みは、恐ろしく長引くものです(笑)。

ペテランだとバレるもっとも大きな理由は、実力以上の山を企画すること、です。

本当のベテランは、常に実力にゆとりがある山行を行います。後輩をセカンドで連れて行くのなら、なおさら、大きなゆとりが必要です。

さらに言えば、山行計画で、手抜きがありません。

さらに言えば、山行計画が非常に的を得ており、持ち物、その他等の指示が簡潔です。

初心者にとって難しいのは、(簡潔)と(手抜き)の見極めです。

■ 無謀な初心者

アルパインに入門したころの人は、一般登山で培った自信をアルパインにも持ち込みますが、桁違いの能力が必要になるため、その差が認識できる程度の経験量を貯めるまでの間に実力以上の山に行ってしまい、亡くなってしまう人が多いです。

アルパインの死者で多いのは、男性20~30代、です。

■ 本格的がつく登山、つかない登山

日本では、登山は、海外とは異なり、

1)”本格的”という形容詞がつく登山



2)ハイキング

が、山の中に混在しています。

■本格的がつく登山とつかない登山の違い

 ”本格的がつく登山”           つかない登山
体力トレーニングが必要           不必要
技術トレーニングが必要           不必要
知識が必要                 不必要
経験が必要                 不必要
情熱が必要                 不必要

その差が無知により分からないため、という理由での遭難は、無知が有知になれば(そんな言葉があるかどうか分かりませんが)、解消するハズです。

ここでも、心・技・体・知・経がバランスよく成長すること、その輪の大きさに合わせて、登山者が登る山を選ぶこと、が大事です。

■ 登山者側のレベル低下

しかしながら、昨今の遭難の大きな部分を占めているのは、本来、特殊なトレーニングや一般常識程度の知識で安全に登山することが可能であった2)のハイキングのレベルにおいても起こっており、その主たる原因は、

登山者側の一般常識不足



一般的とされている体力にも満たない体力不足、

です。つまり、ひとつの山というものが要求してくる体力なり、一般常識なりが一定であることに対し、その対象に向かう側の人間の能力が下がってくると、遭難は増えます。

もちろん、登山者の絶対数が増えれば、遭難数の絶対数も増え、割合としては変わらないわけですが、昨今の山ブームでの登山者数は、何十年か前の登山ブームの時と比較して非常に小さいそうです。

実は、往年と比べて登山者は減っているので、それで、山小屋の経営が立ち行かなくなる、などの事象も起きています。

登山者の絶対数がそう大きくない、増えていないというのであれば、考えられることとすれば、レベル低下がもっとも大きな要因となります。

私が山を始めて以来、毎年、遭難者数過去最高とニュースで言っていますが、それは毎年登山者のレベルが継続して低下している、という意味なのかもしれません。

結局は 実力以上の山に向かっている、ということになります。

■ 実力以上の山に行かない

さて、一般登山の遭難は、さておき、このサイトで追及しているアルパインクライミングでは、遭難というのは、

実力以上の山に行ったこと

が、最も大きな原因です。アルパインクライミングへ進むような人は、山の初歩的なことはすでに理解しており、自分の安全は自分でコントロールできるだけの知力、適正なCSバランスを発見するだけの知力があることが前提だからです。

山で生き残る秘訣は?とベテランに問うと、かならず

弱気

と返ってきます。つまり、自信過剰で実力以上のルートに行ってしまうことがほとんどの遭難原因なのです。

つまり、安全登山のキモは…

実力以上の山に行かない

ということです。

■ 言うは安し、行うは難し

しかし、実力以上の山に行かなければ、実力は上がりません。そこが難しいところです。

また文化的な難しさもあります。風潮ということです。

本格的と言う形容詞がつかない、一般登山をしている一般登山者は、実力以上の山が死に直結するということを理解していませんし、基本的には、という但し書きつきですが…一般ルートでは、そのような覚悟や決意が必要な山というのは、基本的には存在しません。

この場合の、”基本的には”、というのは、季節や雪の有無、高所恐怖症の有無、冷静さなどの性格の要因も入るためです。

北アの岩稜帯を縦走して分かったことですが、ごく普通の街の中でも、きちんとふらつかないで歩けないような、歩行力のたどたどしい方が北アの鎖場に来ています。山はタダでも危険な所ですので、健康体と言えない体で臨めば、危険窮まりないのは当然です。そう言う例は例外的と思えましたが、昨今は例外とは言えないほどに増加しているようです。

本格的がつく山には、体力・技術ともにトレーニングが必要です。ジャンダルムや北鎌尾根は、一般ルートとバリエーションの間にあるような場所ですが、その程度、つまりアルパインで初級程度でも、一般ルートとしては最上級ですので、年齢等を考慮すれば、トレーニングが必要になる人が出て来ても不思議ではありません。

例えば、敏捷性が衰えるような年代に属す人たちです。

■ 先行きが見えない中で持続的に成長する

ホワイトウォーターというような先行きが見えない中で持続的に成長するには、下界でも、継続的に取り組めるトレーニングが必要です。

私が思うには、そのようなトレーニングの場にこそ、仲間づくりが必要です。

山という本番よりも、退屈で投げ出してしまいたくなる下界でのトレーニング…仲間がいれば、その退屈さもしのぎようがある、というものです。

トレーニングを共有していれば、目標とする山がそれぞれでも、互いに互いの成長をサポートし合うことができますし、実力差についても明瞭で、Aさんが行ったから、私も行きたい、というような、実力に基づかない、ないものねだりの要求も収まるかもしれません。

リーダーが、実力以上の山にメンバーを連れて行ってしまう理由の最大は、このような理不尽な要求にノーと言いづらい、という風潮にあります。

このブログを一時閉鎖した理由の一つに、私が行ったルートに自分も連れて行け、と主張する人が出てきたことがありました…。

私の実力は大変過小評価されているようで、私程度が行ったところは、努力なしでも行ける、と多くの人が考えるから、のようです。

アイス歴4年の人と1年未満の人が行っていいところと行って良くないところは、当然違いがあるはずです。

そのことから反省したのは、ここにあまり苦労話を書かなかったことです…。私はあまり、苦労したことにフォーカスしない性格なので、努力なしで達成していることのように読めてしまったのかもしれません…。その点は反省しています。今後は、できるだけ正確な描写をと思いますが…。

■ 山には、下積みがたくさん必要です

このブログは、本当に登山経験ゼロからの、いわゆる山ガールと呼ばれていたような人が、アルパインクライミングに進むまでの経緯を紹介してはいます。

…それは真実ですが、そのプロセスで、いわゆる無謀な試み…準備不足などの…は、ありません。また2年目程度の時から、誰も私を山ガールとは呼ばなくなりました。

また、単独行で山をスタートしているように、最初のスタート地点から、単独、北岳レベル、積雪期レベルからのスタートです。

ガイド山行も最初の入り口でお世話になる程度で、どうすればいいか分かった後は、自前の山行での経験を地道に積んでいます。

何より、年間山行日数が、一般の方とは全く違います。年の3分の1は山です。

なので、良い子はマネしないでください、ということになりますが、ぜひ、マネをしていただきたいのです。

それは、山行ではなくて、無謀なことをしないとか、準備に余念なく、その山に必要な資質は何か?核心は何か?と考えることに余念がない、というようなことをです。

もし、私が行った山にトレーニングや準備、十分な装備無しに行こうとする人がいるならば、やはり無謀ではないかと思います。

こちらに積雪期の登山が初めてで、正月の富士山に挑もうとした初心者の方にガイドの方が答えていますが、このような登山者との対極に私はいます。

この方は、毎年何人も人が亡くなっている冬富士のニュースを知らないのかな?どういう理由で、まるで、ハイキングにでも行くように元旦に富士山に行こうと思ってしまうのか、私には理解不能です。遭難した知人がいましたが、遺体が出てくるまでに、半年かかりました。

■ プロセス

ちなみに、今回の心の旅、インスボンへのプロセスを振り返ると… これは大体同じ時期に、この数年間、どう過ごしてきたか?ということですが…

2017 インスボンでフリー
2016 ロゲイニングの大会出席
2015  沢に初心者の友達を連れて行く
2014 小瀬クライミングウォールで練習 & 山についてあれこれ考えを深める
   https://stps2snwmt.blogspot.jp/2014/05/blog-post_7168.html
   https://stps2snwmt.blogspot.jp/2014/05/blog-post_28.html
2013 GWの穂高に憧れ → この段階で行って遭難する人多数
2012 単独行(加藤文太郎)を読み終わる&河原でテント泊の練習

という軌跡をたどっています。振り返って歩みが遅いようでも、着実で順調な成長のように思います。

■トレーニング歴

参考までの当方のトレーニング歴をあげておきます… 肉体のトレーニングはもとより、山では知力も相当に重要な地位を占めるような気がしますので、学歴主義者ではありませんが、学歴も紹介しておきます。

熊本高校卒業
国立大阪外国語大学卒業(現・大阪大学) 
アメリカサンフランシスコ 単独渡米 2年 
帰国後TOEIC 925取得
2000年 創造社ホームページ制作コース終了
2005年 大阪編集教室ライターコース終了
2007年 社会人大学院グロービスにてクリティカルシンキング・マーケティング終了 クリシンMVP受賞、マーケティングは評点A
2011年 IYC ハタヨガ初級認定講師
2013年 長野県山岳総合センターリーダーコース 受講
2014年 無名山塾 雪上訓練
2014年 ロープワーク講習会 主催
2014年 第21回関東ブロック 「雪崩事故を防ぐための講習会」 
2013年 日赤救急救命講習
2013年 雪山のリスクマネジメント
2015年 東京都都岳連 岩場のレスキュー講習
2016年 日赤救急救命講習
2016年 キャンプインストラクター資格取得
2016年 上高地自然ガイド講習終了
2016年 レスキュー講習会 主催


1 comment:

  1. 一通り、ブログ拝見させていただきました。
    感想とさせていただきます。

    クライミング行為及び山岳遭難における滑落・低体温症・雪崩・道迷い等による重軽症・死亡等の数字を見るにつけ、ガイド職・クライマーは業務独占資格ならびに名称独占資格とし、装備品の購入・使用については有資格者のみ可とし、購入にあたっては資格証の提示を求め、使用においては無資格者は有資格者の指導・同伴のもと限定的に使用を可とすると改めるべきなのではないでしょうか?

    クライミングが限定的にオリンピックの競技種目に加わりました。限定的にスポーツとして認知・興隆を認められました。今後我が国でも青少年にスポーツとして認知・興隆が進むでしょう。

    「アルパインクライミング」

    魅惑的な響きです。国内外ヒマヤランクライマーはヒマヤラクライミングのグレード化の無意味さを語っています。スポーツとしてのクライミングと山岳地帯におけるクライミング。

    アルパインクライミングとは何か?

    ご自分の家族や友人、お子様のためにも真剣な議論が論を待たれません。今後世論が高まり注目を集めるテーマとしてもこちらブログにおいては閲覧者共々語りあっていただきたいものです。

    長くなりましたが感想とかえさせていただきました。今後ともお体を大切にご自愛下さい。

    山男

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