Thursday, May 11, 2017

一般縦走からアルパインへのステップアップ

■ 楽しい時期

登山を愛する人たちは、特にトレーニングなく、山を楽しく登っているうちに、気がつけば体力がつき、少しずつステップアップして行く。

やっているうちに知らず知らずのうちに、次々とチャレンジを求めていくようになる。フローと呼ばれる状態に入るには、CSバランスが必要だからだ。楽しくあるためには、難易度をあげなくてはいけないのだ。

この時期は本当に楽しい。私も5年ほど前がその時期で、楽しかった。夫と登って、標高差1500mある、八ヶ岳の権現岳を日帰りで登れた時には達成感があった。積雪期権現には通っていたからだ。

夫はそこで終わりで、私はアルパインへ進んだ。

■ 分かっていないことが分かっていない時期

そのような時期…、まだアルパインをよく知らず、安定していない登山者の時期に、最も死者が多い。

良く踏まれた一般道の歩きやすさと、そうでないバリエーションルートの質的差の大きさをまだ本人がよく分かっておらず、一般ルートで培った自信を、バリエーションルートにそのまま持ち込みがちだからだ。

私の友人も涸沢岳西尾根の下山で一人亡くなっている。33歳の男性だった。ジャンダルムは難なく通過したのに。

ちゃんとしたアルパインと一般ルートの境界にある山は… 例えば、ジャンダルム、北鎌尾根、積雪期黒戸尾根、積雪期赤岳、鋸岳など…。そういう山は、自分で済ませてしまう人も多い。ロープの携帯は、念のため程度だからだ。逆に言えば、こういうのが自分で、できない人は、受け身過ぎ、技術不足、研究不足、理解不足が少しあるかもしれない。

さて、そのような段階に来た人は、次のステップとしては、アルパインクライミング(マルチピッチ)の初級ルートを目指すことになる。

その時にやるべきことを書いておく。この段階は、質の差が大きいので、若く強い男性であっても、しっかり時間を掛けて、一般登山者からアルパインクライマーにステップアップした方が良い、と思えるからだ。

男性の遭難で死者が多いのは20代である。要するに、体力の不足で死ぬのではなく、チャレンジが大きすぎて死ぬのである。

■ 2点支持を身に着けることがテーマ

このような登山者は、フリークライミングの2点支持を最初に身に着けることをテーマとするべきだ。

その人の元々の資質によりけりだが、1~3年程度、習得にかかるかもしれない。

 5.9では決して落ちない(=5級マスター) マスター=熟達者

を目指して、クライミングに精を出さないといけない。

一般に、クライミングを山から始めた人は、ボルジム上がりの人より、下手だ。ボルジム上がりの人は、ムーブそのものが楽しくてクライミングしている。山で始めた人は、ムーブを楽しんでいるのではなく、景色を楽しみ、その手段として、クライミングがあるのだから、最初はムーブが楽しいとは、なかなか思えない。

したがって、山から始めた人は、フリーの2点支持を身に着けるのに、結構、時間がかかることが多い。それを見越して、スタートしておくと、デビュー日が早くなる。

先輩の側からみると、クライミング力をあげておいてもらうと、最初に連れて行く初級アルパインルートの岩場(マルチピッチ)の選択肢に幅が広がる。

これは連れて行く人の都合だ。連れて行く先輩の側も楽しくないと、一緒に行きたくないわけなので。

支点が整備されたマルチピッチは、悟空スラブのように、5.5~5.6レベルから、あるが、そういうルートは、何のためにあるかと言うと、連れて行ってくれる先輩が見つからない人が、同じようなレベルの人と安全にマルチピッチを経験するためにある。そう言う人は少数派のため、この手のルートは、あまり登られていない。

この時期の人の定番の、安全な岩場(マルチピッチアルパイン)デビューの例:

定番コース :関東の例

1)トレーニング山行:
  3級、4級の易しい岩場(ゲレンデと呼ばれる)に通い、岩場慣れする。
  広沢寺、日和田レベル

2)プレ山行:
  三ッ峠詣でを行う マルチピッチの確認、ロープワークの熟達

3)本番

本番のロケーションは、人による・・・

例)春のもどり雪 =登攀力はそこそこあるが、しっかりした支点が必要な人
          易しいフリーのマルチ
  乾徳山旗立岩 = 決して落ちないクライミングができ、支点の見極めができる人
          
  前穂北尾根 =体力があり、長時間歩ける人で、誰であっても必ず最初はセカンド

  北穂池 = 読図の山とルートファインディングの山の違いを教えるための山
  
  太刀岡左岩稜 =体力はないが技術力が確かな人 アプローチほぼなし

  穂高屏風岩 = 体力も、登攀力もバッチリで、
          あたふたすることもない精神的安定感のある人

連れて行く相手の体力や時間のゆとり、登攀力を総合して、先輩は判断している。ので、基礎力の底上げを、後輩の側はしておいてくれると、先輩としては、見せてやれる景色の素晴らしさが格段に上がる。

ただ、地味な努力であるので、アルパインクライミングがどんなことか?を理解する前から、そんなトレーニングに励むのは、強い意志の力が必要になる。ヤル気ってことだ。そこが、新人が試される点だ。

山のために、特別にトレーニングを自ら進んでする意思があるか、ないか?が、資格試験となる。

そうでない人は、ステップアップ自体をすべきではない。

■ フリークライミングの位置づけ

フリーをやらないと高度なアルパインには行けない。フリーを飛ばして、行ってしまう人もいるが、そうすると、大きな賭けになってしまう。

フリークライミング的な2点支持の習得は、私の場合で、約3年くらいかかった。これは普通の速度のようだ。知りあいの、山岳会の会長レベルのしっかりした山ヤで、自分専属に女性パートナーを育てた人がいるが、丸三年、オールセカンドで、マルチピッチに連れて歩いたそうである。ザックすら、本人の分を担いでやって、だそうだ。このことが示すのは、下積みがゼロでのスタートの場合は、3年はセカンドオンリー、というくらいの習得期間が必要、ということだ。

大人の場合、遅く始めれば始めるほど、2点支持の習得には、時間が余計にかかる、と見て良い。

2点支持の習得は、自転車に乗れるようになる系の習得なので、誰であっても、23歳でスタートするよりは、33歳でスタートした方が習得に時間がかかり、33歳よりも、43歳のほうが時間がかかる。

が、逆に若いからと言って、3年が3か月にちぢまったりはしないようだ。実は、去年、大学生をパートナーに持ち、観察して分かった。おそらく、頻度がむしろ、重要だからだろう。1ヶ月に一回クライミングするような頻度だと、その度にムーブを忘れてしまうので、まったく習得ゼロと同じレベルに毎回リセットされてしまうようだ。

2点支持の習得は、すでに習得している人が見れば、一目で分かる。私も分かるようになった。当然だが、習得していない人が見ても、できているか、どうか分からない。

一般に、縦走上がりの人は、体力を歩荷力と踏破距離で測っているが、登攀へ進むと、体重を落とし、余分な贅肉を剥ぎ取り、体幹、肩、指などの上半身筋力をアップする必要がある。

縦走で培った物差しでは、登攀の実力は計れない、ってことだ。心を入れ替えて精進すべし。

筋力アップには時間がかかるので、のんびりスタートしていれば、チャンスが巡ってきたときに、チャンスを逃さずに済む。

目指すべきは、”歩けて登れるクライマー”で、両方の両立は非常に難しい。が、一般にアルパインクライマーは、それを実現している。

若い男性クライマーでアルパインを目指す人は、自分の目指すクライマーがたどった経歴を調べ、参考にするとよい。必要な体力がどのようなものであるか?は、今の時代だと、『Training for the New Alpinism: A Manual for the Climber As Athlete 』が参考にはなる。(いきなり、世界の最高レベルの話だが)

■ ライフスタイル

というわけで、アルパインを志向する人たちの生活スタイルは似てくる。

週1~2回は、ジムに通い、週末は、パートナーの有無次第で、岩場か山でトレーニングという生活 に収束してくる。

逆に言えば、そういうトレーニング主体の生活をしないまま、アルパインへステップアップするのは、危険が大きい。

トレーニングと言うと楽しくなさそうだが、こういう時期に山岳会に仲間がいると、楽しくトレーニング生活を送れると思う。

山岳会では、このような環境を提供していない場合もあり、その場合は、大抵の人はジム通いから、アルパインクライミングを捨て、フリークライミングに転進することになる(笑)。こうしてアルパイン人種は減るわけだが…

これが現代で起こっていることの大筋だ、と理解するのに、そう時間はかからない。

結果的に、登れても歩けない人か、歩けても登れない人しか、いなくなるんだな~なるほど、と理解が進む。

才能がある人が目指すべきは、歩けて登れるクライマー、だ。 

登れて歩けるためには、2週間に一回の山歩きを端折るわけにもいかず、そうなると、

 2週間に一回程度の山歩き (現状維持)
  +
 週1~2のクライミングジム通い 
  +
 週1で願わくば岩

という生活になり、トレーニングで忙しくなってしまう…

アルパインでは、大体、体格的には、中肉中背&筋肉質のタイプ が適しているようだ。
フリーで強いクライマーは、長身やせ型と大体決まっているが、要するに体脂肪は敵だ。

アルパインには、思考力、知的な理解力、も必要となる。そうでないとリスクが感知できない。山野井さんは、人より1m大きく雪屁を避けると書いてあった。








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