Monday, April 24, 2017

黒戸尾根滑落事故について

■ 滑落死亡事故

黒戸尾根で、滑落事故が起きました。落ちられた方は亡くなられたそうです。心よりご冥福をお祈りいたします。

黒尾根七丈小屋のブログ

このような滑落事故の話を聞くと、複雑な思いに駆られます。私は黒戸尾根は厳冬期に単独で済ませているからです。

■ 落ちたらまず助からない危険個所がある

  落ちたらまず助からない危険個所がある

ということ…山一年生の初心者の時から知っていました。理由は、その山に行く前に

  遭難事例

を調べるからです(余談ですが、八ヶ岳赤岳もそのような山です)

だから、

心・技・体・知・経と総合的に見て、甲斐駒に単独で登るに十分な山の技術が身に付いた、

と感じることができるようになってから行きました。…6年かかりました。

■ 山では心と体だけではだめ

実は、登山2年目で厳冬期甲斐駒の誘いが来ました。当時、ピッケルの使い方を教えてくださいと門をたたいたガイドからの誘いでした。実は少々驚きました。

驚いた理由は、積雪期甲斐駒は、登山歴2年目の人が行くべき山ではない…と初心者の私にも思われたからです。経験が足りず、心・技・体・知・経のうち、心と体しか、まだないでしょう。

  山では心と体だけではだめなんです。

ただ思うのは、縦走だけでクライミングを知らない一般登山者にとっては、その山に登るには、どんなスキルセットが必要なのか?の見極め(山のリスクの因数分解)が、もっとも難しいのは、縦走からアルパインへステップアップする黒戸尾根あたりの難易度のところ、ではないでしょうか?

■ ”初心者同行の場合、ロープを携帯のこと”という但し書きの心理的障害

このようなルートは、難易度的に「初心者同行の場合、ロープを携帯すること」と但し書きが書かれたルート

です。例えば、厳冬期の赤岳もそうですし、南八ヶ岳の厳冬期の縦走路もそうです。

余談ですが、厳冬期の南八つ縦走や阿弥陀南稜にチャレンジするのに、「度胸の問題ですね!」と言ってきた人がいました。度胸の出番は、初歩的な登攀とロープを出すスキルを身に着けた後です。この方は、山経験年数や体力では、私の数段上を行っています。そのような人ですら、アルパインを知らないと、山の危険を正確にカウントすることが難しく、度胸の問題にしてしまうのです。一か八かの賭けに敗れたら、死んでしまいます。

私の想像ですが…偏見交じりかもしれませんが、「初心者同行の場合…」と言われたとき、その”初心者”に自分を含ませることは、一般縦走で自信をつけている登山歴〇十年の山男のみなさんには心理的に難しいのではないでしょうか?

しかし、きちんと易しい岩場での岩トレからクライミングをして、”本格的な登山”、いわゆるアルパインクライミングをする前は、紀元前みたいなもので、何年、縦走路に通っていても、アルパインでは”初心者”です。ロープが出る山とロープが出ない山では、危険の質が桁ハズレに違うからです。

落ちたらまず助からない 

そこが差です。そのちょうど境目にある山が、「初心者同行の場合…」と書かれているルートで、こうしたルートでの登山者のまず第一の課題は、

その山に登るためにどのような山スキルが必要か?を正確に因数分解して、それに備えることができるかどうか?

ではないでしょうか?

■ 登山歴40年でもザイルは持ちます

これは私の登山歴40年の師匠のコメントです…

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たぶんザイル無しでの行動ですね。

7mm50mか懸垂だけならケプラー4.5mmでも問題ない。120センチのシュリングをパーパスリングにして安全環付きカラビナあれば、ちょっとした空中懸垂でもできますよ。大峰、大台の沢の単独では必携でした。

それとルートの危険性熟知している小屋主、そのあたりの指摘していたのでしょうか?
まあ、確かに指摘は難しいですけど、小屋主ならして欲しいと思います。やっていたのかもね。
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私自身は、単独でも8.5㎜×20を持って行きました。登りでは要らなくても(登るほうが簡単なことが多い)、下りでは必要になる可能性がある、と思ったからです。

クライミングを経験していれば、登るほうが簡単で降りる方が同じ個所でもより難しい、ということは、クライミング一回目の初心者でも、すぐに理解できます。

■ 登山では地頭力が必要

その山に登るには、自分にどのようなスキルが必要か?理解するためには、地頭力が必要です。

登山2年目で誘われると言うこと… それはどんな意味があるでしょうか?

黒戸尾根は標高差が2200mもあって、体力の山と世間では思われています(=体力自慢する人が多い)。ですが、登山2年目程度の、40代女性の体力でも歩けるだろうとガイドから思われているような山です…うーん?体力的には、簡単って意味では?

つまり、アルパインで必要になる最低限、下限の体力が必要って意味です。黒戸尾根で、へばってしまうようでは、アルパインへ進まないほうが安全です。

その程度の体力しか要らない黒戸尾根でも、何人も人が死んでいます…。それってどういう意味でしょう? 

私の知り合いでも、若いときに黒戸尾根で滑落した、という話を聞いています。日本山岳会会員の方で、若いときは昭和山岳会にいたそうです。そんな山男が、ですよ? 滑落というのは、体力の問題ではなくて、巧緻性、スキルの問題…なんではないでしょうか?

滑落の危険があれば、巧緻性(技術)だけでなく、

 コンディション

も問題になります。アイゼンは効くときと効かないときがあることくらい、誰でも知っているでしょう。ベルグラだったり、腐っているとアイゼン効かない。岩が露出しているような時期では、アイゼン歩行よりも、岩をアイゼンのつま先で登るアイゼントレという岩トレが前提でしょう。

だから、黒戸尾根は一般に認識されているように、体力さえあれば行けるという山ではなく、充分なアイゼンでの登高技術をもち、危険認知して、しかもプレ山行としてアイゼントレが前提になる山、なのではないでしょうか…

≪積雪期甲斐駒に必要と思われる要素≫

1)標高差2200mを標準コースタイムで歩き切れる体力 …体力
2)アイゼンでの歩行スキル        …技術
3)危険個所を認知する認知力        …知
4)プレ山行として、岩場のアイゼントレ   …経験

心・技・体・知・経のバランスが安全性を高めると言われていますが、体力だけの印象を与えるのが黒戸尾根の特徴と言えるかもしれません。

憧れのルートであるだけに、体力以外の要素も十分身に着けて出かけるべきと思います。

■ 実力未満で登るリスクは…おごりでは?

私が、甲斐駒単独で登った時、ガイドさんが連れていた登山者がいました。驚くほど歩きが遅かったです…。もちろん、ガイドさんが気にして、先頭を譲ってくれたというのがあると思いますが。

ガイド登山だと、上記の4つの要素のうち、3)~4)を端折ることができます。ガイドさんが危険だな、と判断したら、ロープを出してくれるからです。

私はそうした背伸びの山が不要とは思いません。経験しないと、どういう要素がその山に登ることに必要か?ということに想像力が及ばないからです。が、経験したら、経験から何を学び取るか?ということが大事。学ばないで、成果だけをもらってしまう人が多いという結果がおごりにつながることになると、危険な登山者を育ててしまいます。右も左も分からない状態で行ってしまい、その経験から、何も学ばなければ、奢りになるでしょう。

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努力して結果が出ると、自信になる。
努力せず結果が出ると、傲りになる。
努力せず結果も出ないと、後悔が残る。
努力して結果が出ないとしても、経験が残る。
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昨今のガイド登山や山岳会での登山は、山の良さを多くの人に広めた功績は偉大ですが、

”努力せず、結果を得てしまい、奢りになった大量の登山者”

を量産してしまった罪があるかもしれません。(もちろん、滑落して亡くなられた方がそのような人だったと言う意味ではありません)

■ 私の経験

真砂尾根に行った時… 私がちょっと嫌だな、と思うトラバースがあったのです。雪がぐさぐさでアイゼン効かなさそう…しかも、苦手の左側側面のトラバース…(汗)でも、そこは落ちても4mくらいで、下で止まるだろうなということが見て取れました。

ちょっと嫌だったので、先輩に「ロープを出して」と言おうかな…とも思いましたが、言わずトライ。やっぱり落ちてしまいました…。

が、やっぱり思った通りのところにストンと着地。

私的には、やっぱりなーと思いました。

そこは、一歩が遠ければ、私が踏んだところ、踏まないで飛ばして、みんなは歩けるのです。小さいと損なんです。大股にするとバランスもパワーも余計必要です。

(余談ですが、だから、体格が小さい人は、そうでない人以上にパワー、バランス、技術を身に着ける必要があります。より困難なんです。)

しかし、この件で、私の危険認知は大体合っていると思い、自信になりました。ここは上手に歩けるスキルの方を身に着けました。が、落ちても4mというような場所でなければ、スキルを身に着けた後でも、「ロープ出して」と言うと思います。

■ 黒戸尾根の危険個所

黒戸尾根の剣の岩のルンゼのところは、結構、有名な危険個所です。

黒戸尾根は他にも何か所か核心がありますが、大抵、が出ています。積雪期の中でも、残雪期は雪で埋もれて鎖が見えなくなっていますから、特に危険個所を無雪期にあらかじめ経験して、認知している人の時期かもしれません。

鎖が出ている箇所は、高所恐怖症の人には無理だろうと思える露出間の高いところです。日常的にクライミングをやっていない人には、上り下りの安全性も、ちょっと不確かかもしれないと思います。

しかし、たった1か所、2か所の危険個所のためにクライミングジムに通おうと思う山ヤは稀です。が、甲斐駒以上の山に行くつもりであれば、より安全を期待するなら、そのような登山者になった方が良いと思います。

8合目から上の台地は、風でトレースがかき消されたり、ホワイトアウトししまうと、ルートファインディングのミスで帰れなくなったり、身動きとれなくなったりする遭難も起きています。

地形を見れば想像がつくのが普通なので、登るときに、帰りがどういう具合か、想像してから、帰れなくなる要素がないか?検証して、進退を決める必要があります。

山では退路を断たれる行動を基本的にしてはいけないということをまだ知らなかったり、知っていても、登れるから登ってしまう…というような人は、一か八かになってしまうと思います。山の一か八かは、大抵、勝てますが、それだけだといつか掛けに負けます。

■ 時期

GWは、なぜか雪山初心者向けとされています。不思議です。(山雑誌の悪影響か?)

雪の少ない厳冬期より、雪が多く雪崩のリスクもあるし、寒さは緩んでいても、突然真冬に戻ることがあるので、脇の甘さが致命傷になることもあるのに…。 

厳冬期と残雪期のリスクの違い、登山道の路面状況の違いなども、よくよく分かってから出かけて欲しいなと思います。

安全な登山を楽しむために、今の自分に何が必要か?その因数分解が必要です。

そうした山の因数分解を怠らず、楽しく山に登る人が増え、本来の山の姿に戻ること…それが亡くなられた岳人たちへの一番のはなむけではないか?そんなことを考えながら、書きました。



















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