Wednesday, June 8, 2016

反省の多い沢山行

これはかつての会山行記録だが、必要がでてきたので、再録。

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■反省の多い沢 ヒヤリハットが武勇伝になっていないか?

この沢はヒルの巣窟で有名だ。北面の沢でゴルジュ。昼でも暗く、雨の日は寒い。遡行してみると、直登が多い沢で初心者も大満足、というガイドブックのふれこみは、なるほど、と言う感じだった。易しい滝の直登が続く。シャワークライミングだ。ずぶぬれで楽しい。雨のち曇りで寒い日だったので、薄着のKさんとI川さんは寒そうだった。

この沢の核心部は、ゴルジュF9から先だ。計画担当者がよこしてきたガイドブックにそう書いてあった。F9、25mほどのトイ状滝でスタート。ここは樋で、水流の中は段々になっていたが、上部ではステミングが必要だった。「初心者同行の場合はロープを出せ」とそのガイドブックには書いてあった。つまり、この滝では安全管理のためにロープを出す。そうでなければ、15mの人工壁は、5.7ならロープはイラナイことになってしまう。"初心者同行の場合は"と書いてあるケースは、大抵の場合、不意のスリップに備えろ、という意味だ。初心者は良く落ちる。それは登攀力の問題ではなく、沢靴のフリクションをまだ完全に分かっていないからだ。今回は沢の完全初心者は2名だった。ちなみに私自身も、まだ初心者の域を出ない。講習会を合わせ、沢山行は10回を越えた程度だ。

しかし、その易しいF9で、問題発生。沢初心者のトップがフリーソロして、ザイルをザックに入れて上がってしまったのだ。ザイルを出すか?出さないか?の判断をするタイミングは滝下だということを、まだ理解していない初心者であることが露呈した格好だ。

行ってしまった後で「しまったなあ…」と思ったが、もう遅かった。ザイルの要・不要を判断するのが、滝を登る前だということや、後続の確保について、まだ理解していない人だということは、前に一緒に行った別の山行で、薄々分かっていたのに、うっかり行かせてしまった。そこで、リーダーのKさんにセカンドで登るよう依頼した(私がセカンドだったが怖くて登れない)。

トップは、F9を上り詰めて、ザイルを投げようとしていたが、25mトイは寝ている。つまり、距離がある。つまり、投げても届かない。そんなことは、下から見ればすぐわかることだ。

このような場合、普通は登ってから投げるということはない。そのやり方で良く出すのは、お助け紐。一歩とか二歩の悪場を後続が効率よく切り抜けるのに出す、という話だ。

F9は登攀は易しいが高く、そういう場所ではない。セカンドで登ったベテラン、Kさんによると、ハーケンの中間支点が途中にあったそうだ。リードされているということだ。

そういうわけでザックに入れて行ってしまったトップは、上からザイルを投げているが、一向に届かない。「ロープが来ないんだけど~」とセカンドのKさんもが業を煮やし、フリーソロで登ってしまった。何やってんだ!という訳だ。なかなかロープは滝下まで降りてこない。

結果的に、私は3番だったのだが、「仕方ないな~」と思い、ロープ末端を引っ張って滝下に降ろそう、そう思って、4、5m登った。ロープに手が届くところが、4~5m上だったので、その程度の高さなら…と思ったからだ。ところが、ロープを引いて降ろそうとすると、引っ張る!何をやっているんだ?!「ひっぱるなー!」と叫ぶが、トップはニコニコしていて、何も分かっていないようだ。「もう一体何やってんの!」と腹が立つが、Kさんが登り切って、その状態を解消してくれたようだ。ロープは引かれなくなった。が、それでも、ロープは十分滝下までは降りていなかった。

ザイルが十分な長さ降りてこなかったので、その場から降りることもできない。仕方ないので、その場所でタイブロックをセットした。後続のI川さんも同じ。その間にも、下にラストはアンザイレンするように叫ぶ。が、滝の音で声が届かない。I川さんと私は、タイブロックで登ることになっており、下で登攀方法を確認した。その様子や会話を聞けば、登攀の方式は、自動的にアセンダー方式であると理解できるが、今回はラストは初心者(3年目)だった。

ロープが降りてきてから、教えればよいと思っていたが、ロープ末端を求めて、上に来てしまい、しかも、もう下りれない。これもしまったな…と思った。私がラストで行っておけば、問題がなかったが、時すでに遅し・・・。ただ順序的には、アセンダー方式の登攀では、ラストがもっとも安全なポジションになる。だから順序は間違っていない。ただそれは普通にアンザイレンしてくれている状態での話。

セットしながら、「ラストはエイトノットでアンザイレンして~」と何度か叫んだが、滝の中にいる状態なので、声がかき消され、聞こえないらしい。声が届かないというのは、沢では普通のことだ。だから意思疎通は、声が聞こえる場所で、つまり滝の下で済ませておくことが大事だ。

ラストは、3年目の人だが、まだクライミングシステムを分かっていないので、アンザイレンして、3、4番が登りきったところで、やっと自分の登る番が来る、ということが分かっていないだろう…だが、クライムダウンして教えるには、ザイルが十分な長さ降りていない。今降りるとロープ無しのクライムダウンになる。そこはロープ無で降りるには、危険が大きすぎるところだった。仕方がない。

セカンドでKさんに行ってもらって良かった。トップは多人数での登攀方法を分かっていないのではないか…という予想は、的中していた。25mのF9トイの2段目は内面登攀で、少しいやらしいところがあった。後で読んだ記録によると、25歳の若い男性が、ここでどうしてよいか分からなくなり、フリーズしている。そのパーティの後続の40歳の男性は、どういうわけか、手だけで足ブラになってしまったそうだ。沢でフリーみたいに、手で登る登攀なんてありえない。非常に危険だ。

もちろん、こうした記録は後で知ったことで、この時は、私は初見だから、何も知らない。ただこの滝で自分とパーティが好ましくない状況に陥っているということは分かっていた。私はタイブロックを使ってプルージック登攀しているのに、末端のザイルが適度に引かれていないせいで、両手を開けてロープを張り、タイブロックを移動させなければならなかった。そのため、不必要に登攀の難易度を高くしてしまっていた。

2段目は立っていて、ずぶぬれ。スタンスは見えない。後続のI川さんも同じ目に遭っていた。フリーソロするより、大変になっている(汗)。I川さんは御年71歳の今でも、5.10Aをオンサイトする能力がある。私より登攀力は上だ。私は、最近小川山で半身が入る程度のクラックやってきた…その時は、大変すぎて、びっくりしたのだが、今、謎が解けた。神様はこのような登攀に備えさせようとしたに違いない。登攀は難しくないとはいえ、両手を空けないといけなかったからだ。

しかも、上がってみたら、立木に支点を取ってあるだけで、バックアップなし。まぁ、しっかりした立木だったし、Kさんは、すでに登り始めている後続のために、焦って急いで支点を作ったと思うので、仕方がない。が、上に二人もいるのだから、手が空いているほうが気を効かせ、スリングでバックアップを取るくらい出来たはずだ。

つまり、この登攀は、安全管理不在。後続への思いやり不在。実際フリーソロより、フォローの登攀が大変になっている。

ラストは、心配した通り、アンザイレンしないで登ってきた。それもI川さんにツメツメで。上が墜ちたら、自分も巻き込まれて、墜ちてしまうことを分かっているのだろうか?しかも、上の人はスリップしても、ロープでつながっているから、墜ちても大した距離は落ちれないが、アンザイレンしていないと、25m下の滝下まで落ちれてしまう。とはいっても、その場では、もう時すでに遅く、フリーソロするのが両手が使えて一番安全、という状況だった。両手があけれるということは、これはアンザイレンしてくれても同じだ。

このF9の登攀は完全に失態だ。単純に誰にもスリップが起らなかったことがラッキーだったに過ぎない。3人はフリーソロしたから、スリップしたら大怪我を免れない。私とI川さんは登攀グレード、ワンランクアップだった。

次のF10は立っている滝だった。すると、トップがまたしても同じことを繰り返す。前のF9の経験から何も学んでいないらしい。またしても、ザイルなしで取り付いて、しかも2手目くらいで墜ちている。

さすがに今回は、いつも柔和なKさんも異議申し立てをしていた。もっとしっかり叱ってやってほしい。本人のためにならないだけでなく、周りにも迷惑だ。こんな一か八か登山は、遭難がほとんどないことを誇る、当会にはふさわしくない。

この山行では、判断そのものを欠いていた。こんな行き当たりばったりの、危なっかしいクライミングには、付き合っていられない。F10は立っているので、一目見て、さっさと巻くことに私は自分で決定した。男性たちは登りたいらしい。が、どう見ても水量が多く、短いが、立っていてホールドが見えない。トップロープだろう。リードはないなと、一目でわかる滝だった。だから、I川さんが上がってくるときに、「ロープを持って行ってほしかったら、持って行ってあげるよ」と、下に声を掛けてもらった。しかし、下では意見を交換中らしく、聞く耳もたず。待っていられず、私とI川さんは上がってしまった。男性同士で決めればよい。しかし、パーティ行動は、最も弱い者に合わせるという基本原則はどうなったんだ?

Kさんがリードすることになったように見えた。しかし、下の二人のビレイでは、大丈夫だろうか?との不安がぬぐえない。この不安は根拠のない不安ではない。人工壁だが、リードでビレイしてもらった時に、ロープの繰り出しが遅く、私はひっぱり落とされそうになったことがあった。その後、もう一度、彼のビレイでリードしようとしたら、固辞されたため、彼のビレイで再度リードクライミングしたことはない。あれ以降、ビレイ経験を積んだのかどうか?の確認は取れていない。もう一人は、まだクライミング経験が浅く、外岩でのリードの墜落を止めた経験があるか不明だ。一般常識として、そのような不確実なビレイの元では、クライマーは、普通に登れるところも登れなくなるだろう。

少しでもリードクライマーの助けにするため、I川さんと滝上に上がってから、二人分のスリングを全部合わせてフィックスを作った。滝の落ち口は大変なことが多いからだ。

帰ってから調べて分かったことだが、ここの落ち口では、30代の男性がセミになっていた。つまり、動けなくなり(登れなくなり)、上からザイルを投げてもらっていた。また、ネットに事故例が上がっていた。頭骨、腰椎突起の骨折と、右足靭帯の損傷で全治二か月。年に1、2回、遭難騒ぎを起こしている滝だった。ガイドブックには、”ゴルジュ上部を塞ぐ美滝。直登は少し難しい。不安なら左側から小さく巻ける”としか書かれていない。実際は”少し難しい”どころではない。遭難事故まで起っているのだ。慣れない人は、落ち口でホールドが見つけられないようだ。少なくとも、初心者がフリーソロで行くところではない。そんなことは事故情報を知らなくても見れば分かる。

結局、しばらくたって男性たちも巻いてきた。懸命な判断だと思う。その後は、垂直に立った滝F11が出てきたが、問答無用で巻き決定。この滝はガイドブックにも、落ち口がきわめて難しいと書いてある。ただトップロープにすれば、岩は段々になっていて、足で登れそうだった。

今回の沢は、失敗の記録だ。沢は、尾根や岩のゲレンデより危険が大きい。遭難した場合、岩場のゲレンデは安全圏に近く、救急車が来れる。北アの尾根なら、即ヘリでピックアップされる可能性が高い。しかし、沢にはそうした救助は、期待しづらい。まず尾根より圧倒的に携帯電話がつながらない。また、携帯が入るところまで尾根を登って救助を呼んだとしても、事故者が沢の中では、ヘリでピックアップできない。尾根まで担ぎ上げなければならないが、それができるのか?体が大きい人は、自分が事故を起こしたとき、周囲の人への負担が大きいことを自覚しておいてほしい。75kg以上の人はクライミング山行はお断りと、あの山田哲哉ガイドさえ、HPに明記しているくらいだ。その理由はレスキューできないためだ。軽い人より、重い人のほうが、レスキューになった場合、より困難なのは、道理でしかない。たとえ軽くて、担ぎ上げられる体重の人であっても、人間一人を尾根まで担いで上がるのは大変だ。日本では夜間救援は行われない。そのため、一旦遭難となると、ビバークになってしまうことが沢では多い。事故記録では実際そうなっていた。

当会は、今のとこKさん、Nさん、KWさんを除いて全員が初心者だ。ロープを出す練習は、登攀が易しいところからスタートするほかない。易しい箇所で出せないロープが、より難しい箇所で出せるはずないからだ。

登攀方式は、沢には、大体3つある。1)普通のリードフォローの確保をしては、ロープを投げるを繰り返す。2)ピストン方式。3)アセンダー方式。どの方式で登るか、あらかじめ、滝下で相談してから、登り始める。これが大事な点だ。メンバーは、複数いるのだから、きちんと全員が理解していないといけない。1)は2名ならいいが人数が多い場合、時間がかかり、傾斜が寝ている滝では、投げても当然、引っかかる。垂直にのみ有効。2)は1)を改善したもので、ロープが2本必要。今回はロープは一本しか持ってきていない。3)は落ちて降られたときに、水流に停滞すると窒息死の危険がある。水流の中の登攀には向かない。今回のF9は登攀は易しく、テンションの必要はないので、3)で良かった。(出典:『沢登り 入門&ガイド』トマの風)

今回のようなヒヤリハットを決して武勇伝にしてはいけない。安全管理とクライミング能力は別個の能力であり、安全管理不在のクライミングは無謀でしかないことを肝に銘じるべきだ。

山岳会は、無料の登山学校ではない。会員一人一人自らが主体的に学ぶという姿勢がなく、”教えてくれない”では、話にならない。主体的な学びとは失敗から学ぶことだ。つまり、今回の事例をきっちり自分の反省として取り込んでいくことが山岳会による教育の実態だ。沢登りの本を一冊読んでいるくらいは仲間を危険に陥れないための、一人一人の最低限のマナーであり、まして自分が計画担当の場合は特にそうだ。山は危険である、というところからスタートし、自分の命にも相手の命にも責任感を強く持ってほしい。

余談かもしれないが、今回は計画段階で、”ザイル不要”という情報が流れた。それは別のガイドブックの記載であり、計画担当者の提示したルートガイドでは、30mザイルの携帯は”基本装備”に含まれていた。沢の講習会など正式な教育的山行を受講していない人に対しては、計画段階から先輩のきっちりした監視の目を入れてほしい。メンバーシップを発揮したくないと言っているのではなく、入会2年目の私のような新人よりも、ベテランの方がよりそうしたチェックの目が的確で合って当然だと思うからだ。しかもどちらが言うほうが信頼性があるだろうか?

最後になったが、この失敗を教訓とし、今後のさらなる向上に生かしてほしいというのが、この文章の目的だ。

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参考サイト
http://www.asahi-net.or.jp/~bq9t-tkhm/sawanoboriki_reply.html
http://www.asahi-net.or.jp/~bq9t-tkhm/sawanoboriki.html

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