阿弥陀北稜の単独は、静かなる勝利だった。
12の力をつけて登る8の山だったからだ。登れて当然なので、チャレンジではなく、ほとんど復習山行に近く、さっさと片付けておこうという感じだった。
行くときが来たのも、おのずから分かった。だから、何の恐怖も緊張もなかった。
■ ギリギリとアルピニズム
アルピニズムには、自分の限界を押し上げる、という要素がある。
でも、単独行では、ギリギリはない。仲間と行く場合に許される安全マージンの厚みが1だとすると、単独では、3必要だ。倍ではまだ足りない。
さらに年齢や性別を考慮して、安全マージンを決める。
高齢者には、若者よりも大きな安全マージンが必要だ。
女性には、男性よりも大きな安全マージンが必要だ。
なので、女性の、中高年者の単独行の場合、若い男性の単独行者よりも、大きな安全マージンが必要になる。
イメージ:
若い男性のグループ山行に必要な安全マージン 1
若くない男性のグループ参考に必要な安全マージン 2 (年齢係数で2倍)
若い男性の単独行に必要な安全マージン 3 (単独行係数で3倍)
若くない男性の単独行に必要な安全マージン 6 (年齢係数 × 単独行係数)
若い女性のグループ山行に必要な安全マージン 2 (性差係数で2倍)
若くない女性の、単独行に必要な安全マージン 12 (年齢係数×性差係数×単独行係数)
つまり、山では、女性、高齢者は、弱者グループに入る。
一方、判断力と言う意味では、一般的傾向にすぎず、本人の知能知数の係数が大きいが
若い人< 若くない人
男性 < 女性
であり、実際、もっとも遭難者として多いのは、
高齢男性の単独行
若年男性の単独行
であり、遭難者率が少ないのは、40代女性、50代男性である。これは、知的な判断力と体力のもっともバランスしている年齢が、女性に40代、男性に50代にあるためであろう。
20代男性は、判断力の稚拙さにおいて、リスクグループである。
平たく言うと、20代男性は、一般的に、50代男性よりも、判断力の信頼性に欠ける。
私は、40代、中高年の女性登山者なので、安全マージンは最大に必要であり、若い男性は安全マージン1で行ける山に、理論イメージでは、12のマージンを取って行かなくてはならない。
しかし、そうすれば行けるということだ。
誰も彼もが、同じスタイルで山をしなくてはならない、という訳ではない。
■ スタイル
今回、大学山岳部の三人組が赤岳主稜をやっており、赤岳山頂、行者小屋前、南沢の下山、で一緒になった。
彼らは、80リットルくらいありそうなザックを背負っており、意気揚々と歩いていた。靴はみなおそろいのプラブーツ。部活のおさがりだろうか、一番安いからだろうか。
きっと赤岳主稜ということだから、きっと、初心者同士で、ワクワクしながら挑んだ初のバリエーション、などという位置づけだろう。
帰りに南沢で、「どちらまで」と聞かれたので、「阿弥陀北稜」と答えたら、主将と思しき彼の顔が曇った・・・
気持ちは分かる。 自分たちのやった山が小さくなってしまったように感じたのだ。
でも、私は、何キロもある荷を担いでいない。スピード重視で軽量化した。
私には彼らの重装備スタイルでは、主稜も北稜もない。そんな荷を担がなくてはならないのなら、登れなくなってしまう。
練習の山のときは・・・たとえば、南沢のアイスの時など・・・できるだけ重い荷を担ぐようにしているが・・・本番でわざわざ重くするっていうのは、ない。
軽く、早く・・・こういうスタイルしか、今後もおそらくできないだろう。それにあったルートを選んで行かないといけないのだろう。
長さのある、体力勝負のルートではなく・・・
そして、普通の若い男性が、安全マージン1で挑む山に、安全マージン12ができるまで、時間を掛けて、地道に実力を蓄積して、挑んで行かなくてはならないのだろう。
大きな安全マージンが必要になることは、時間がかかるが悪いことではない。
時間なら、たくさんあるのだから(笑)。
12の力をつけて、8の山に登る。静かな、安定した勝利だった。誰のものでもなく、私の完全に個人の勝利だと感じた。
今回最も満足感を覚えたのは、自分の足跡を見たとき |
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