Monday, February 5, 2024

【文字起こし】黒田論文を文字起こし

以下引用 太字 当方

https://www.jpnsport.go.jp/tozanken/Portals/0/images/contents/syusai/2021/tozankensyu36/2-7.pdf

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 クライミングをこれからも楽しむために

ボルトは、クライミングにおける妥協点。とは、

言い得て妙な良き表現だと思える。

ボルトが、 クライミングの世界に登場してから、

多くの議論を経て、現在にいたっている経緯は今更

述べる必要も無いだろうが、それを知らずに、ボル

トの問題に関わるのも浅慮のもと。 将来を見据える

ためには、過去を経緯を学ぶことはどのような分野

にも共通することであろう。 故に過去の文献もしっ

かり読み込むことが、とても大事。

現在、クライミングは徐々にではありますが、世

間一般に認知されるようになってきましたが、登山

からクライミングのエッセンスが独り立ちし、

の分野となった頃は、全く認知されず、 現在よりア

ンダーグラウンドに属する行いであった。 それゆえ、

社会的には許されるはずもない他人の私有地などに

無断で入り込み岩場を開拓していくことも往々にし

て行われていた。また、場合によっては信仰の対象

であったり、学術的に貴重なものにもである。 後に

続くクライマーに負の遺産を残さないためにも、

実な過去を清算すべき時期に来ているのかもしれな

い。

クライミングという行為に対し、岩場とルートが

必要なインフラであると考えるならば、 維持管理を

可能とする乏しい財源や人的資源を有効に使用して

行かざるを得ないのは自明の理。過去には、許可さ

れていない岩場で、善意をもって岩場の整備を行っ

たために刑事事件に発展した例もあることを考える

と、地権者の許可などが明確に取れた岩場以外で整

備を行うことは、 社会人としてのリスクを覚悟せざ

るを得ず、二の足を踏むのが現状である。 故に、ちゃ

んと許可関係の折衝をつめた後に、整備をおこなう

のが、妥当であるし、作業する個人に作業以外の法

的、社会的リスクを負わすべきでは無いだろう。最

早、アンダーグラウンドな遊びだと言って社会に甘

える時代は終わりを告げつつあるのだろう。

そのため、現実には、 作業する人間より、 地権者

や行政と上手く交渉が出来る人材や組織が重要であ

る。資材代だけで無く、交渉、作業する人間の交通

費、日当、宿泊代などの経費、保険、賠償保険など

を効率的に集めるのも、やはり組織だって行う方が

有利であろう。また、事故やトラブルで作業する個

人が賠償や訴追の対象にならないよう法人が主催し

て行うことも検討すべき事柄である。

クライマーは、概ね合理主義者が多いようで、使

用されているボルトは、その時代ごとに強度とコス

トのバランスを鑑み、最善と思われるものが投入さ

れていることが多い。 試行錯誤の段階であったため、

現在の視点から見ると不十分なものが多いのは確か

であるが、それは仕方ないことである。その時点で

最善のものを使うという点は整備する時にも当ては

まる考え方であり、ボルトの弱さや不確実性にロマ

ンを求めるのは不合理というものであろう。初登者

達もそのボルトが弱いから、その資材を選択したわ

けでは無いのだから。


現在の視点で考えるに、過去に打たれた多くのボ

ルトは新品の状態でさえ、強度的に基準を満たして

いなかった。また、ハンガーもカラビナとの相性や

干渉を考慮に入れたものではなかった。その時点で、

もはや交換の必要性を検討すべきものである。 その

ようなものが、古い物は80年代90年代のものである

から、すでに40年近い年月を経ているのである。 交

換の必要性は、年々、日に日に増しているのは、自

明である。

また、初登者が打つボルトは、 自分、もしくは自

分達がトライする為のものであり、 整備のために打

つボルトは自分達以外のクライマーの為という点も

重要なポイントである。 公共のために整備するので

あれば、その時点でのクライミングの常識に基づい

て最善の手段を選択する義務を負うことになります。

つまり、時代の変化についていくため、不断の努力

が必要である。 資材は強度だけで無く、耐久性につ

いてもよく考える必要がある。長持ちする素材を使っ

た資材はコストがかかる傾向にあるのは確かである。

しかし、整備作業が危険であること、 作業には交通

費や人件費、保険代、消耗品代等の諸経費が必要で

あること、経費は将来的に値上がりする可能性が高

いことを考慮すると可能な限り良いもので整備する

方が、トータルでコストは抑えられるはずである。

また、耐久性に劣る資材で整備すると、短い期間で

何回もボルトを打つために、岩がボルトの残骸だら

けになってしまい、 とても汚くなり哀しい結果とな

る。景観と良いクリップ位置を維持する意味でも、

耐久性は重要なポイントと言えるだろう。

ボルトを使ったクライミングの歴史はそれほど長

くなく、現在もボルトの耐久性については実地での

検証を行っていると考えることが出来る。その過程

で、かっては過小評価、 もしくは考慮していなかっ

た脆弱性を、クライマー共通の知識として持つこと

が出来るようになってきた。

かって沢山使われたペツル製のスチール・カット

アンカー+ステンレスのM8雄ネジ+アルミハンガー

の組み合わせなどは、典型的な異種金属接触腐食(ガ

ルバニック腐食)の条件を生み出している。 カット

アンカーのように埋め込まれたアンカーは外から確

認しづらいため、 アンカーだけスチールでハンガー

などがステンレスのため、 気づ

かないうちに腐食し果てている

ことも多発している。 結果とし

ては、複数の金属を組み合わせ

て施工することは避けなければ

いけないと言う教訓を得ること

が出来た。とくに、気温が高く、

塩分の影響を受けやすい場所、

特に石灰岩(電解質が溶解して

しまうので)では、禁忌事項だ

と言える。 また、 善意によって

手製のハンガーや古い鉄ハンガー

をステンレス製の新しいハンガー

に交換してしまったが為に、目

に付かぬアンカー部分の腐食を

進行させてしまった事例も多く

見られる。(写真: 外からは分か

らないが内側のアンカーは腐っ

ている。)

単純に径についても、 リングやRCCのような細い

ものでは、強度的に弱いことは、かなり早い段階で

周知の知識となった。 現在では、 M10を最低のもの

とし、岩質によってはM12のボルトが使用されてい

る。深さもドリル穴の径の5倍以上もしくはケミカ

ルボルトであれば70mm以上のものを使い、岩質によっ

てはより長い物を使用する。 ハンガーの形状ととも

UIAAのスタンダードが存在するので、 其方に準拠

したものを最低用意するのが良いだろう。(図参照)

海浜エリアでは、さすがに使用された頻度は低い

ものの、メッキをしたスチール素材のボルト、ハン

ガーも内陸部の岩場で沢山使用されてきた。塩分の

影響が無ければ問題が無いだろうという判断だと思

われる。現実には、使用に伴いカラビナやロープと

のスレで、耐食皮膜に穴が出来るため、 そこを起点

に腐食が進行してしまうことになる。 また、岩質、

とくに火山灰が固まったような金属や硫黄などを含

んだ岩では、岩自体からの影響を受けて、早い段階

で腐食が進み、強度を維持できない。結論としては、

素材は最低ステンレスである。 外部環境の影響が強

い場所では、 PLX、 HCRなどと記載されている耐食

性の強いグレードのステンレスの使用が求められ

る注1。タイやケイマンブラックのような気温が高く、

塩分の影響を強く受ける石灰岩の岩場では、ハイグ

レードなステンレスですらすぐに腐食してしまうた

め、チタンのケミカルボルトのみ使用されている

リアもあるので、日本でも採用を研究、検討しても

良いと思われる。

海岸近くの塩分をはじめ、酸性雨や石灰岩からの

染みだしなどの環境に曝されたステンレスに、長い

時間引っ張り応力が維持されたり、加工時の溶接な

どによる内部応力が残存していることで引き起こさ

れる応力腐食割れも、昔はそれほど考慮されてこな

かったものだ。とてもレアなケースかもしれないが、

気温の高い石灰岩のシークリフでは、ラッペルリン

グすらも応力腐食割れのために割れることが報告さ

れている。このような環境下では、チタン製のケミ

カルボルトを検討すべきなのかもしれない。

構造的に不利になりやすく、見えない部分で腐食

が進みやすいカットアンカーは、使用された年代を

考えると、できるだけ早く打ち替えた方が良い。ま

た、かっては大量に使用されたオールアンカーも、

腐食はじめ不具合が多いアンカーである。これらは、

整備用に用いられるはない。 後述するグージョンタ

イプを含め、拡張式のボルトは、岩に常に圧力をか

け続けるため、岩の方が痩せてしまうことがあり、

増し締めの出来ない前述の二つのタイプでは、長い

年月強度を維持することが出来ないことが過去の経

験から分かってきた。 単純にボルトの種類だけで無

く、打ち込まれている岩との相性もよく観察するこ

とが大切である。風化が進んでいる花崗岩や柔らか

い岩などでは、 想像以上に早く効かなくなることが

報告されている。

現状整備で用いられているボルトは、 主に2種類

である。 ステンレス製のグージョンタイプとケミカ

ルボルト。前者は、施工が早く、コストもかからな

い。後者は、コスト的に不利で、 施工が難しいが、

ボルト位置に融通が利き、環境からの影響を受けに

くく、岩に負荷をかけることも少なく、長寿命な傾

向にある。 グージョンタイプは常にナットのトルク

管理が求められるため、ガイドや意識の高いローカ

ルが存在しないエリアでは、緩んでしまっている

とが多くなってしまう点も問題となる。 簡単なこと

のように思えるが、5.13~14を登るクライマーでさ

え、ハンガーが回っているだけの状態で、 ナットを

締めることが思いつかず、 対応を求めることがある

のが実情である。 登る力と、登る環境を維持する力

は別物と考えた方が良い。 でも、出来れば比例して

欲しいなと言う願望も、多くのものが持っているこ

とであろう。同様にレスキューやファーストエイド

と言った野外活動に必須な技術も、登る技量とは無

関係である。学ぶ機会や意志がなければ、 身につく

はずが無いのが現実である。

本来は、そのルートにトライしたいクライマーが

ボルトに不安がある時に、初登者やローカルに仁義

を切って、ボルトを打ち替えるのがクライミングの

スタイルであるが、 事故が起きれば、エリア閉鎖に

繋がることの多い日本で、理想を追い求めても得る

ものは少ない。 であれば、次善の策として、予防的

に整備するのも一つの考え方で、現実的な落とし所

では無いだろうか?

作業は、通常のクライミングより危険を伴う。終

了点にぶら下がって作業を行うことが多いので、

当に既存のボルトが駄目になる前に行わないと本当

に危険である。 クライミングの伝統的な倫理と現実

的なバランス感覚が求められる作業であるので、色々

なエリア、スタイルのクライミング経験が求められ、

実際の作業面ではフリークライミング能力だけで無

く、エイド技術、トラッドクライミングのプロテク

ション技術が必須となる。

クライミングは、登山の一手段から発展し、今で

は色々な種類で分類されるようになりました。その

中で、それぞれの倫理、スタイルが確立されてきて

おりますので、それぞれを尊重していくことはとて

も大事です。また、 過去のスタイルに拘泥するあま

り、将来的により良くなっていく可能性があるのに

それを閉じてしまうの物勿体ない話。 歴史の流れを

みて、次代のクライマーが成長、活躍できる岩場を

保ち、先人が残した時より、より良きものを後輩に

伝えていくのが、 今の時代に岩場を預かっているク

ライマーの義務でもあると思われます。 ボルトラダー

のような、もう時代に合わないものは、 あえて更新

せず朽ちるに任せ、岩場を次の世代の為に空けてあ

げるのも、そろそろ検討する頃合いであろう。

個人的には、クライミングはやはりオンサイトが楽

しいと思っている。ボルトプロテクションの岩場で

は、何処に行っても、ボルトに不安を感じず、トラ

イ出来るようになれば良いと思っています。 それは、

知らないから怖くないでは無く、現物を見て、確認

して大丈夫と判断できるものであって欲しいですね。

ボルトは、ボルトプロテクションのクライミングに

おける必須のインフラ。 次世代に大切な価値や倫理

を継承し、行為を世代を超えて継続していくために、

その場であるクライミングエリアを維持するのは、

今登っている全ての人の責任ではないだろうか?

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