Saturday, February 7, 2026

アラスカの道路から学べ。日本の公共性と事業性の両立

■アラスカの道路問題

アラスカ州アンカレッジ近郊の重要なクライミングエリアが、道路拡張プロジェクトによって消失の危機に瀕しています。

1. 概要

アラスカ州交通局(DOT&PF)が計画している「より安全なスワード・ハイウェイ(Safer Seward Highway)」プロジェクトにより、アンカレッジ近郊にある約350のクライミングルートのうち、約52%が永久に失われ、残りのルートもアクセスが困難になる可能性があります。

2. 背景とプロジェクトの目的

  • 道路の危険性: スワード・ハイウェイは事故や落石が非常に多く、過去20年で1億ドルを投じて改善を試みてきましたが、依然として重大事故が絶えないため、大規模な道路の再編・拡幅が計画されました。

  • クライミングの重要性: 標的となっているエリアは、アンカレッジから車ですぐの場所にあり、仕事帰りや学校帰りに行ける「日常の岩場」として地元コミュニティに深く根付いています。

3. 主な影響

  • ルートの破壊: 「Weeping Wall」や「Bermuda Triangle」など、初心者から上級者まで親しまれている多くのアイス/ロッククライミングルートが爆破・整地の対象となっています。

  • アクセスの喪失: 道路が拡幅されることで、これまで利用していた未舗装の駐車スペースや岩場への踏み跡が消滅し、安全に岩場へ近づくことができなくなる恐れがあります。

4. クライマー側の反応と主張

  • 組織的な動き: 南中央アラスカ・クライマーズ連合(CASA)やアクセス・ファンド(Access Fund)は、プロジェクト自体に反対しているわけではなく、**「クライミングへのアクセスを設計段階で考慮してほしい」**と訴えています。

  • 具体的な要望: 駐車場の確保、安全な横断歩道やアプローチ道の整備など、道路の安全性向上とアクティビティの共存を求めています。

5. 今後の流れ

  • パブリックコメント: 現在、環境アセスメントの草案に対する公聴期間中で、2026年2月27日まで意見を募集しています。

  • 重要性: この段階で意見を出さない限り、後の設計変更や異議申し立てが困難になるため、団体はクライマーに対して声を上げるよう呼びかけています。

結論として、この問題は単に「岩がなくなる」ことだけでなく、アラスカのクライミング文化を支える「日常的なアウトドアへの入り口」が失われるかどうかの瀬戸際にあるといえます。

■公共事業がレジャーより優先されるのは当然

行政や一般市民の視点に立てば、「人命に関わる道路の安全性」と「個人の趣味であるクライミング」を天秤にかければ、公共工事が優先されるのは当然の帰結と言えます。

特にこのスワード・ハイウェイは、アラスカ南部を結ぶ唯一の幹線道路であり、事故率の高さも深刻な問題です。

ただ、この議論の核心は「どちらが大事か」という二者択一ではなく、「公共工事のプロセスに、既存の利用者の利便性をどう組み込むか」という点にあります。クライマー側が主張している主なポイントを整理すると、以下のようになります。

1. 「反対」ではなく「共存」の模索

クライマー団体(CASAなど)もプロジェクト自体を止めるよう求めているわけではありません。彼らが求めているのは、**「どうせ工事をするなら、クライミングエリアへの安全なアクセス(駐車場やトレイル)も設計に含めてほしい」**という点です。

2. 公共の利益としての「レクリエーション」

アメリカ(特にアラスカ)では、アウトドア活動は単なる「余暇」を超え、地域経済(観光業)や住民の健康、さらにはその土地の文化的価値の一部と見なされる傾向があります。

  • 公共工事において、環境や野生動物、歴史的遺産を守るのと同様に、「長年利用されてきたレクリエーション資源」を守ることも、行政の責務(NEPAなどの法律に基づく)に含まれています。

3. 安全性のパラドックス

もし対策を講じずにルートだけが残った場合、クライマーが無理な場所に車を停めたり、危険な斜面を登って岩場へ向かったりすることで、逆に道路の安全性が損なわれる可能性があります。そのため、「最初から安全なアクセスを設計に組み込む方が、結果として道路全体の安全に繋がる」という論理です。


結論

「公共の安全が最優先」という大前提は揺らぎませんが、**「安全な道路を作るプロセスで、そこにあるコミュニティの資産を完全に壊すのか、それとも工夫して残すのか」**という、インフラ整備の「質」が問われているといえます。